AIR_7(エア・アンダーセブン)

第三話:神の使いとレアアイテムと国崎往人

 前回のあらすじ。
 バンダナ娘とナンチャッテ犬が仲間になった!(ちげえ)
「……ドラク(自主規制)?」
 まだ出てくるな。


 夏の朝は早い。そのまだ涼しい夜の空気を含んだ朝、ひとりの少女が駆けていた。まだ幼い、長い髪をふたつに結った少女である。
 少女は一生懸命に駆ける。バス停の方から堤防を曲がり、商店街の方へと向かう。と、少女の目に奇妙な絵が見えた。一軒の家の壁にでかでかと描いてある。それは今まで少女が見たこともない奇妙なシンボルであった。
「うにゅ!」
 少女は急停止をかけ、そのシンボルとにらみ合う。
「むむむむむ〜」
 徐々に涼気が退いていく。そして陽光の量が、増えていく。
「むむむむむ、むむむむむ〜」
 ポク、ポク、ポク、ポク、ポク、ポク、チーン。
「美凪〜!」
 少女は再び、ほのかに涼気の残る町を駆けだした。

「居候〜!」
 最早神尾家の朝は、晴子の一声で始まることが多い。しかし今朝は珍しいことに、家の外から怒鳴り声が聞こえたのである。仕方ないので、観鈴を伴って国崎往人は家を出た。
「往来でやるな。ご近所に迷惑だろ」
「じゃかしい!屋根の次は塀か!」
「なんの話だ」
 怪訝そうな顔をして首を傾げる国崎往人に、牛乳瓶片手の晴子はビシッと塀を指さす。
「これはなんや!」
 そこにはその……あまりネットには載せられない生活廃棄物がでかでかと落書きされていた(生理的廃棄物とも言うか)。
「これは……見事だ」
「アホ!」
「では……見事な大きさだ」
「ドアホ!」
「――まあ、少なくとも俺は描かんぞ。こんなもん」
「……さよか」
「大きなソフトクリーム……」
 と、観鈴。
「アホウ、そんなん描くやつおるか!」
 即座に母親に突っ込まれる。
「じゃあ、往人さん。これ何?」
「あーこれはだな、その、なにだ」
 観鈴は本当に解らないらしい。はっきり言って、説明に困る国崎往人である。
「おはよーだよぉって、すごい落書きだねぇ」
「ぴこー」
 そこへ、佳乃とポテトがやってきた。
「なにしに来た、佳乃」
「迎えに来たんだよぉ。それにお姉ちゃんが逃げるかもしれんから見張っていろって」
「あンの医者……って佳乃、お前に家の住所教えたっけか?」
「ポテトが知っていたよぉ」
「そういや、そうだな」
「この前の珍獣やん」
 ポテトを指さす晴子。
「ああ、霧島診療所の実験動物なんだと」
「チュパカブラかいな?」
「よく知ってるな」
 知らない人は近くにいるブラックメンに訊いてほしい。
「ぴこぴこぉ……」
「そうなのぉ?」
「違うって、言ってるみたい」
「観鈴……お前……」
「?」
 どうも佳乃だけでなく観鈴もポテトと会話できるようである。
「で、どないすんねん。塀換えるんゼロが四ついるで」
「いや、大丈夫だ。白いクレヨンで描いてあるからな、これ」
 落書きに近づいて、色々調べていた国崎往人はそう言った。
「クレヨン?」
「ああ、ペンキとかじゃねぇ。簡単とはいかないが、水洗いで落ちるだろ」
「ほ、塀の修理代は出さんでええみたいやな」
「問題は誰が描いたかだ」
「子供かなぁ?」
「いや、子供じゃここまで大きく描けんし、背が足りない」
 落書きは、塀の上半分を占めているのである。
「じゃあ、大人の人?」
「そう言うことだ。ったく迷惑な」
 両手を組んで、ため息をつく。
「で、誰が落とすのぉ?」
「俺はこれからバイト」
「わたしは、補習……」
「うちはこれから仕事や」
「あたしとポテトは飼育委員だよぉ!」
「ぴこぴこ」
「ポテトもか」
「ポテトもだよぉ。往人君送ったら、ふたりでまっすぐ学校!」
 道理で、佳乃も制服だったわけである。その佳乃に晴子が訊く。
「一応、聞いとくわ。昨日の晩あたり、ここら辺に変なやつおらへんかったか?」
「見てないし、ここに来るのは初めてだよぉ」
「せやったな」
「ポテトはどうだ?いつもここら辺歩き回ってるだろ」
「そうだねぇ。ポテト〜」
 足元を見る。いない。
「あれ、ポテトぉ〜」
「ぴこぴこ〜」
 遠くでポテトの声が聞こえる。その方を見ると、さっきまで佳乃のすぐ側にいたポテトが、いつの間にか路地の角に居た。
「そろそろ急がないと遅刻って事だな。行くぞ、観鈴、佳乃」
「うん」
「行くよぉ」
 どやどやと神尾家の門前を去る三人と一匹。晴子は黙って見送る。
「さて、うちも仕事……」
 はたと、落書きを見る。消えているわけがない。
「しもた!逃げられた!」
 もう遅かった。

 午前は診療所でバイト、午後は観鈴と佳乃(+ポテト)を連れて本業である人形劇。これが最近の国崎往人の生活であった。最初は契約時にあった一日中の日もあったのだが、客が少ないため、毎日このスケジュールになったのである。
「来ないね、往人さん」
「言うな。悲しくなる」
 観鈴の好きな『どろり濃厚』が置いてある、雑貨屋武田商店の前。少し影になっているところで国崎往人と観鈴が並んで座っていた。彼らの目の前には肘を突いてだらりと寝そべっている人形。あまりにも客がこないので、その態勢で固定させているのである。
 ちなみに佳乃は、少し離れた場所でポテトと遊んでいた。
「大丈夫大丈夫」
「……その自信にはあやかりたいな」
「ぶいっ!」
「ってもな。もうちょい子供とかがいそうな場所探した方がいいな」
「うーん……」
「あるよぉ!」
 いつの間にか戻ってきた佳乃が話に割り込んでくる。
「あのね、廃線になった駅の前、ちょっとした広場なんだけど、最近賑やかなんだってぇ」
「ほぅ」
「行ってみるぅ?」
「行ってみるか」
「行ってみよ、往人さん」

 午後とはいえ、いや、午後だからこそ、日差しは強い。後数刻で夕方が迫り、気温が落ちていくとは思えない永遠に続きそうな酷暑の中、三人(と一匹)は立ちつくしていた。
「……だーれもいやしねぇじゃねえか」
「あれぇ?」
「あれぇ?じゃねえよ……」
 駅前の広場には誰もいなかった。手ですくい取れそうな強い陽光しかない。
「我がライバル、武田商店の前の方がまだ人がいそうだぞ……」
「あ、往人さん!」
 観鈴が指さす。
「ん?」
「ああーっ!」
「ぴこー!」
 虹色に光る、透明な球が三人の目の前をふわふわと通り過ぎた。シャボン玉である。ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ……。
「居るのか。人が」
「そうみたい」
「駅の方だよぉ」
「ぴこぴこ」
 ぞろぞろと駅の方へと行ってみる。といっても大した距離はなかった。
「小綺麗な駅だな。廃線された駅なんだろ?」
「誰かが、掃除しているみたい」
 埃一つ無いベンチを指さす観鈴。
「ふうん」
 シャボン玉は、駅の中から飛んできたように見えた。国崎往人が先頭になって、そっと構内に入る。
「何だ、誰もいない――?」
 直後であった。三人(と一匹)の後ろに、人の気配が唐突に現れる。
「――!」
 そう言った関係に敏感な国崎往人が誰より速く振り返ると。
「ドーーラーー……」
 けったいな声を上げながら、けったいなお面をかぶった少女が居た。

 少し暗い駅の構内で、全員その場を動けずにいた。あまりのことに、国崎往人達は動けず、目の前のお面少女は、変なポーズのまま固まっている。
「何だ、それは」
 数分経って、どうにか絞り出すような声で訊く国崎往人。
「……ドラゾンビ」
 参照、『ドラ○もんの○太の日本誕生』。
「あ、その声……遠野さん?」
「……ぴんぽん……です。神尾さん……」
 少女はお面を取った。儚げな眼差しの少女の顔が露になる。
「知り合いか?観鈴」
「うん、クラスメートの遠野美凪さん」
「……遠野と呼んでください……」
 折り目正しく、深々と挨拶をする遠野美凪。
「俺は、国崎往人だ」
「……国崎住人?」
「往人!点がひとつ足らん!」
「……何でわかりました?」
「聞けば一発でわかる!」
「……そうでした……残念」
 これが漢字のマジックって言うんですね〜。で、よくある誤植の一例で〜す(お前誰だ)。
「こんにちは、遠野さん」
 あまり話したことがないのか、少し緊張気味に観鈴が挨拶をする。
「……こんにち……あ……でも……」
 挨拶を返そうとした美凪だが、途中で急に一人呟き始めた。
「……やはりアレだけは言わないと……読者の方々のためにも……」
「往人さん、どうしよう」
「様子をみてよう……」
 実は少し退いていたりする国崎往人。やがて、何かが決まったらしく、美凪は俯いていた顔を上げる。
「……おはこんばんちわ……」
「おはこんばんちわぁ!」
「ぴこぴこぉ!」
 氷点下4度の世界に叩き込まれた国崎往人と観鈴に対し、佳乃とポテトが元気に答えた。
「………………」
 美凪は、元気に返答があったのに少し俯いている。
「ど、どうした?」
「……ツッコミが、欲しかったです……」
「なんでやねん」
 きわめて冷めた声で突っ込む国崎往人。
「霧島佳乃だよぉ。かのりんって呼んでねぇ」
「……えみりゅ(自主規制)?……」
「やめい」
「その場合、私はお杉……」
「マジでやめとけ。あっちと俺達じゃ芸風が合わん。それとそれは違うと思うぞ」
「そうですか……」
 残念そうに俯く。しばらくして顔を上げると、彼女は佳乃の顔を見ながら聞いてきた。
「……それでは、かのんはダメですか?」
「ベストだよぉ!」
「絶対、駄目だあ!」
 うーがーと吠える国崎往人。
「で、こっちがポテト」
「ぴこぴこ」
「……ぴこぴこ……」
 美凪はポテトの言葉(?)で挨拶をする。
「で、遠野――でいいんだな。何でこんなとこに居るんだ?」
「……ここが私のベストプレイスなので……」
「――そうか」
「……はい……」
 国崎往人は心の中で決めた。ポテトがポテトであるように、遠野は遠野である、と。
「……国崎さん達は?」
「ああ、俺達は最近ここがにぎやかだからってんで、ちょっとな。ま、人がいないとこ見るとガセだったみたいだが……」
「ガセじゃないよぉ」
 佳乃が文句を言う。すると美凪は何かに気づいたかのように呟いた。
「……それはきっと……」
「ん?」
 その直後であった。
「あ」
 観鈴が声を上げた。観鈴から見て、国崎往人の頭から、高々と少女の足が生えたように見えたからである。
 そしてそのまま、それは国崎往人の脳天に落ちてきた。
「あぴ……」
 奇妙な声をあげて倒れる国崎往人。
「ゆ、往人さん……」
「……死亡?」
「こ、こここ、殺すな」
 上下にガクガクと揺れている頭を押さえながら、国崎往人は立ち上がった。振り返って原因を見る。そこにはまだ幼い、長い髪を二つに結った少女がいた。両手を腰に当て、なにやら憤慨していた。
「みちる……」
「みちる?」
「……私の親友です」
「はあ……」
「みつけたぞー!」
 そのみちると呼ばれた少女は、胸一杯空気を吸い込んで、大音声を叩き付ける。
「現行犯逮捕だー!」
「意味知ってて言ってるか?」
 大きく怒気を含んで国崎往人が訊ねる。
「みちるはお昼に見たんだぞ!お前があの家から出てくるのを!」
 診療所から一度戻って、昼食をとったときのことを言っているらしい。しかしそれは、現行犯とは言わない。
「どの家だ」
「でっかい物体エックスを描いてあった家!」
「物体エックス?」
「あ、落書きの事かな?」
「きっとそうだよぉ」
「で、その落書きがどうした」
 両手をぽきぽき鳴らして訊く。返答次第によっては……である。そんな凶悪な国崎往人の態度に対抗するように、みちるは胸を張って叫んだ。
「みちるの純潔かえせーっ!」
「なに?」
 一瞬の静寂。
「往人さん……」
「潤んだ目で俺を見るな」
「往人君……」
「怯えた目で俺を見るな」
「ぴこぴこ」
「尻尾を振るんじゃねえ!」
「……変態ロリコン犯罪者……」
「せめて疑問形にしてくれ、遠野……」
 みちるに向き直る。
「どういう事だ。説明しろ」
「……説明します」
 何故か美凪が答えた。
 なんでも、変わったデザインを見つけたみちるが、それをたいそう気に入って、美凪に刺繍としてTシャツに縫ってもらいたかったらしい。当然、美凪はその形状を聞いて、その形状が何を表しているのかを教える。それで、それを知ったみちるは傷ついたというのである。
 美凪が話し終わると、国崎往人は盛大にこけていた。
「……あのな、だいたい俺が描いたわけじゃねえぞ」
「うにょ?」
「あのね、誰かが夜のうちに描いたの」
 背を屈めて、みちるの視線に合わせた観鈴がそう説明した。
「う……にょ」
 日差しが少し傾いた。その分、影が少しだけ伸びる。
「……じゃ、そう言うことで」
「待てやコラ」
 がっしとみちるの頭を押さえる国崎往人。
「われ、人のどたまかち割ろーとして、ただで済むとは思ってないけんのー?」
「往人さん、それ何語?」
「きっとデタラメだよぉ」
「……似非極道弁?」
「外野は黙っていてくれ。さあ、嬢ちゃん。なんか払うもんあるだろ?払った方が身のためやけんのー」
「……払えない場合……変態ロリコン犯罪者の餌食?」
「うにょぉぉ!助けて、美凪ぃぃー!」
「……さようなら、みちる。今度合うときは私の知らないみちるですね……」
「美凪ぃー!みちるがみちるじゃなくなっても、みちる達は親友だよーっ!」
「ええ話だねぇー」
「……そうなのかな?ねえ、往人さん。その子どうするの?」
「………………なんか、どうでもよくなった……」
 ぼとっ、とみちるを落とす。
「今度やったら、両足コンクリで固めて、海に落とすからな」
「むむむぅ〜」
 腰をさすりながら、みちるは頷く。
「……猟奇殺人?」
「もおええっちゅうねん!」


「ふー、ふー」
「ぷぷぅ〜」
「うにょおおお!」
「ぴこぴこ〜」
 結局、だいぶ時間が経ったので、三人は人形劇の客探しはあきらめ、美凪とみちるにつきあうことにした。今は一番上手な美凪の指導の元、観鈴と佳乃がシャボン玉を飛ばしている。あまりうまく飛ばせないみちると、ポテトが二人のそばではしゃいでいた。少し離れて、国崎往人はその様子を見ている。
「かみーゆもかのりんも上手上手!」
「かみーゆ……」
「ちょっと海まで行って、『アニメじゃないっ!』と叫んでこい」
 朧気な記憶を元に、国崎往人がぼそっと言う。むろん、はしゃいでいる向こうまでは届かない。
「……それはダブルゼータ……」
 と、いつの間にか側に来た美凪にあっさりと指摘されてしまった。
「……やってやるぜ……」
 ビシッと親指を立てる。
「恐れ入りました……」
 国崎往人は素直に頭を下げた。
「……それにしても、珍しいですね……」
「観鈴――か?」
「……はい」
「……クラスではあまり目立たない人ですから」
「そうなのか」
「……はい」
 ふたりで、観鈴達を見る。
「……うれしそうですね。神尾さん……国崎さんがいるからでしょうか?」
「……あいつの母親もそんなことを言っていたな」
「……そうですか……」
 国崎往人が気にしていること。それは観鈴の周りのことである。少し変わっているが、非社会的といえない彼女が何故こうも……。
「往人さーん」
 そこで思考は中断した。いつの間にか下がっていた顔を上げると、観鈴が佳乃と一緒に手を振っている。
「おう、今行く。遠野、ありがとな」
「……いえ」
 それだけ言って、美凪は国崎往人についてきた。
「往人さん、飛ばそ」
「おう」
「……みちる、飛ばしてみる?」
「うん!」
「じゃあみんなで飛ばそぉ。いっせいのせ〜だよぉ。……いっせいのせ〜」
 六つのシャボン玉が一斉に空に向かう。
「六つ……?」
「ぴこぴこぉ」
 六つ目は、ポテトが飛ばしていた。
「こいつはもう犬でも何でもないと思う。俺は」
 今度のつぶやきは、誰も聞いていなかった。

「……それでは、私達はこれで……」
 日が暮れたので、全員で商店街の方へ戻り、診療所で佳乃(とポテト)と別れた。しばらく商店街を歩いていると、みちると手をつないだ、美凪がそう言ってきたのである。
「おう、またな」
「遠野さん、また今度」
「……あ、ちょっと待ってください……」
 何かに気づいた美凪はスカートのポケットを探り始める。そして目的のものを見つけると、それを十枚ほど国崎往人に手渡した。
「……出会いの記念に……進呈……」
「そっそれは、お米けぇぇん!」
 じぇあっと国崎往人。
 お米券。それは、普段はただの紙切れだが、米屋に持っていくと、米になるというスーパーアイテムである。
「……しかも、全国共通です」
「ぜ、全国共通お米けぇぇぇん!」
 全国共通お米券。どこの米屋でもその券を米に変えられるリージョンフリーなドリームアイテムである。
「おお、おおおおお……奇跡だ……」
「安っ!」
 呆れたみちるにそう言われても気にならない。目の前に夢があるのだから。
「これさえあれば、いちいち重い米袋を担いで旅に出ることもない……好きなときにお米に変わって、希望いっぱい、夢いっぱい……うふふふふ」
「往人さん、壊れちゃった……」
「……それでは、今度こそ本当に……」
「あ、さようなら」
「ばいばい、かみーぎし!」
「かみーぎし……」
「……だめよ、みちる。その名前をみだりに唱えると熊が襲ってくる……」
「うふふふふ」
 国崎往人は、突っ込まなかった。夢想にしっかりと捕らわれていたからである。
「往人さん……」
 結局、観鈴が引きずって帰ることになった。

「そっそれは、お米けぇぇん!」
 へあっと晴子。これ以上はないくらいさわやかに輝いた笑顔の国崎往人に、お米券半分を手渡されたのである。
「決して削れない米の費用。でももう心配することあらへん。うちには夢のドリームチケットが!」
「お母さん、重複してる。夢ってドリームだよ」
 もちろん、聞いていない。
「居候、はじめて我が家の家計の足しになることしたなあ!」
「なあに、俺に白米の天使がついているだけさ」
 美凪のことらしい。
「今夜は……宴会やー!」
「もちろんつきあうぜ!」
「あーあ……」
 早々と自室に向かう観鈴。
「今度は何も起きないと良いけど……あ、でも、何か壊れたら、往人さんもっと長くここに居てくれるかな?うーん……」
 ちょっと複雑な気分の観鈴であった。

 そして翌朝。
「往人さん、大変」
「なんだ」
 観鈴に起こされた直後は少し頭が鈍く痛んだが、前の夜ほどではない。確かなにも壊していない。ややあやふやながら、国崎往人は昨日の記憶を確認した。
「あのね、落書きが大きくなってる」
「あん?」
 で、外に出てみると。
「これは……」
「やっぱり、ソフトクリーム」
 少し横長だったが、ソフトクリームであった。お洒落にポッキーを差してある。
「なんや、誰か描き足したんか……」
 少しつらそうに晴子が起きてくる。
「消してなかったのか。お前」
「そんな暇なかったんや」
「おはよーっ!あー、ソフトクリームだぁ!」
「……おはようございます……雷公鞭?」
「アレはアイスクリームだろ」
「うにょっ!そふとくりーむ!」
 なにやら急に騒がしくなる神尾家玄関脇。
「おい、佳乃。ポテトはどうした?」
 何か一人分声が足りないことに気づいた国崎往人が佳乃に訊く。
「あれぇ、さっきまで一緒にいたのに」
「ぴこー」
 またもや路地の角に居るポテト。頭だけこっちに出している。その様子に、国崎往人ははたと気付いた。
「あー、ポテト君。ちょっとこっちに来たまえ」
「ぴ、ぴこぴこ……」
 そろそろと近づくポテト。手が届くぎりぎりに距離になると、国崎往人はやおらポテトを抱き上げ、逆さ吊りにしてぶんぶん振る。
「往人君――」
「まあ、黙ってみてくれ」
 ポテトをシェイクすること一分。耳からぽとりと、ちびたクレヨンが落ちた。白であった。
「……チンプイみたいですね……」
「ち、チンプイ……」
 知っている人が居たら、Ogurinまでご一報(註:何もあげません)。
「あぁ〜ポテト、ソフトクリームが食べたかったんだねぇ」
「やっぱり、ソフトクリーム」
「食いたかったどうかはともかく、お前か、犯人は!」
「ぴっこり……」
「……でも、こんな大きな絵をどうやって描いたのでしょうか?」
「え……」
「ぴこぴこ」(キュピーン)

――続く。

次回予告!
 この地域一帯のみ放送の超ローカルアニメ『○○oちゃん』。
何の変哲もないお茶の間アワーに流れるこの作品が新たな惨劇を呼ぶ!
「え?ボク?」
……伏せ字にした意味が無くなったじゃんか……。


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