『あなたの髪に、似合う花を。』
〜第13話〜
「今日は色々収穫のある一日だわ」
中庭に設えたテーブルに、頬杖をつきながらesはそう言った。
「いや、お恥ずかしい」
赤く腫れた頬を、キナーがさする。権藤から貰った掌底によるものである。
「確認するわ。実の父親じゃないのね?」
「仰せの通りで」
深く頷くキナー。
「でも、育ての親」
「その通りでございます」
「なるほどね……」
頬杖を解き、esは思い切り椅子の背にもたれて、空を見上げた。今日はよく晴れている。
「で、貴方はなんでさっきから黙り(だんまり)を決め込んでいるのかしら?」
急に姿勢を戻して、隣に座っている者に対して睨むように視線を送ってみる。
「……出来れば、放って置いていただけませんか?」
まるで、逃げ道のない袋小路で犬と遭遇した猫のように全身を緊張させながら、権藤はそう答えた。頭にネコミミのアクセサリーが付いているので、尚更毛を逆立てている猫のように見える。事実、頭髪が僅かながらとはいえ、逆立っていた。
「そういうわけにもいかないわ。しっかりと、彼との関係を話して貰うわよ」
権藤は――彼女にしては信じられない部類に入るのだが――答えない。
「昔から、跳ねっ返りでしてな」
穏やかに笑いながら、キナーが彼女の代わりに答えた。
「いつだったか、」
「キナー」
今度は、地獄の底から響くような声で彼を牽制する権藤。
「それ以上言うと、怒りますよ」
esすら、一瞬寒気がしたその凄みの効いた言葉に、キナーは肩をすくめて口をつぐもうとしたが、一瞬だけ考え込んだかのような素振りを見せた後、
「まあ、そう言うな。愛娘」
「誰が愛娘だ!」
とうとう地が出た。限界は以外に近いところにいたに違いない。
「こらこら、主人の前で私(わたくし)を見せるのは感心しないな」
「見せてる原因は貴方でしょう!」
「そう熱くなるな、ジェミナ=エイト」
キナーの言った言葉が、彼女を落ち着かせようとしたのか、または煽ろうとしたのかは、わからない。ただ、権藤という巨大な篝火に、薪を投げ込んだのは間違いなかった。
なぜなら――、
「その名で、私を、呼ばないで!」
と叫んで、権藤は屋敷に駆け込んでしまったのだから。
〜続く〜
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あとがき
悪役初挑戦(嘘)。
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