『あなたの髪に、似合う花を。』
〜第8話〜
「……掴んだんですか」
「ええ、そうよ」
「ぎゅっと?」
「そう、そんな感じね」
わきっと手を動かしたesに対し、権藤は、深い深いため息をついた。
「es様、そう言うことをしたらどうなるか、御存知ですよね?」
「知らないわ。ああ、でも、乳搾りなら一度だけ経験したことがあるわよ」
「牛や山羊のソレと一緒にしないでください!」
珍しく声を荒げる権藤に、esはおろか、シルフィーもびくりと肩をすくめた。
「いいですか、年頃の女の子の胸なんて触るものじゃないんです。それに、そういうことをしたらものすごく痛いんですよ!」
「そうなの?」
権藤を無視して、相変わらず部屋の隅に座り込んでいるシルフィーに尋ねるes。それに対してシルフィーは、慌てたように胸元を押さえると、こくこくこくと頷いた。
「そう、そういう、ものなのね」
そう言って、視線を落とす。そんなesに、権藤は少し戸惑って、
「あの、es様……?」
「なに?」
「なにって、御自分で――いえ、触ったことなど無いでしょうけど、胸を何かにぶつけて痛い目にあった事って、無いのですか?」
「ないわよ。そんなこと。第一、貴方が私に仕えるようになって、そんなこと一度でもあった?」
いや、ない。
「あの……」
そこへ、やっと落ち着いたシルフィーが、おずおずと手を挙げた。
「もしかして、キャロル様、人より成長遅くありませんか? 胸がないから、ぶつけたときの痛みとか知らないんじゃ……」
権藤があわてて、身振りでストップさせようとする間もなく、シルフィーは、自らスキップして地雷原に踏み込んでしまった。当然、六尺棒も無く、ナイフも無い状態では、結果は目に見えている。
「シルフィー、もう一度、言ってご覧なさい……」
にたりとした笑みを貼り付けて、淡々と言ったesのその表情は、先程どなった権藤の、30倍は恐かった。
〜続く〜
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あとがき
実際問題、esさんはぺったんこ……のはずです。(あったら恐いがな)
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