G.A.K
■3。
月宮、あゆ。
……誰だったかな?
何かこう、頭の中でサイレンが鳴りっぱなしのまま、あゆと別れて記憶を頼りに商店街入り口に戻ってみると。
「ひどいですよ〜」
と、名雪が拗ねていた。何故か頭の飾りの花が萎れていた。
G.A.Kanon
で、さらに次の日、昨日と同じ夕方。俺は商店街を何気なく歩いていた。
頭の中のサイレンが鳴りっぱなしで、それが何となく、あゆに関わっているような気がしていたからだ。
多分、ここら辺をうろついていれば……。
「どいたどいたぁ!」
来た。昨日と寸分違いなく、通行人を蹴散らしながらあゆがこちらに向けてかけてくる。
「そこっ、止まっているな!」
距離3メーターほどで、あゆはビスと指をこちらにさす。俺のことを忘れているのか、それとも現状により意識の外に押し出しているのか――多分後者、だと思いたい。
「チッ、どいてもらうよっ」
昨日俺に決めた、蹴りを再び俺に仕掛けるあゆ。しかし俺もやられっぱなしだというわけには行かない。左足を下げて、身体を斜めにし、僅差で避ける。そして同時に腰に溜めておいた右手を一気に前に押し出す。
暴走の抑止と、昨日のお返し、まさに一石二鳥。
そして予想通りボスンと拳が突き刺さる衝撃。――しかしそれはなぜか二重に聞こえた。その意味に思い当たると同時に昨日と同じように腹部に痛撃が走った。つまり、これは。
――クロス、カウンター――
あゆは蹴りの一撃目を避けられたこと想定して、拳の二撃目を用意していたのだ。そのあゆがにやりと笑って、言う。
「フッ、いいパンチしてるじゃないか……」
「……オマエモナー」
そのまま俺達は、どっさと崩れ落ちた。
「「……って、崩れ落ちてる場合じゃない!」」
そのまま口元に微笑みを浮かべていた俺達は、ほぼ同時に飛び起きた。
「お前に用事があったんだよ、あゆ!」
「あたしゃ追われているんだよ、祐一!」
ほぼ同時にそう叫んで、お互いをビスッと指さしあう。
「……また追われているのか、お前」
「……あたしに用があるのかい」
またほとんど同時。
「なら、ついてきな。ここで立ち話している暇はないんでね!」
「――ならなんで、昨日と同じく手首を掴む!?」
運命の神が手抜きをしているとしか思えない。昨日と全く同じ状態で、再び俺は引きずられていった……。
「ふう……と、まあ、ここまで来れば、大丈夫だろう……」
気が付いてみれば、全く知らない遊歩道に俺達は出ていた。商店街なぞ、影も形もない。
「それにしても何処だろうね、ここ」
はい?
「お前、知らないでここまで来たのか!?」
「悪いね、あまりこの町の地理に詳しくないんだ。悪いけど、祐一、帰り道はよろしく頼むよ」
「俺だって、知らん」
「何!?」
急にあゆの顔が険しくなった。だが、それはただ単に帰り道を知らないって事だけとは思えない気迫で。
「――どういうことだい?」
「一昨日、この町に来たんだ。七年ぶりに」
虚構も呪文も何もありはしない単なる事実。なのにあゆの呼吸は完全に止まった。止まったまま、静かにこっちを見る。
「アンタ、相沢祐一っていったね?」
……なんか、嫌な予感がする。
「ああ、そうだけど」
「この町にいたのは七年前」
「その通りだ」
――七年前。
――赤い夕焼け。
――夕焼け。
――あれ?
「そうか、帰ってきたのか……」
……ごっつう、嫌な予感がする。
「長かったよ……」
お姉さん、帽子の庇を下げないでください。
「あたしは、あたしの名前は月宮あゆ。覚えているかい、祐一。いや、祐一クン?」
その言葉と共に、俺の頭は真っ白になった。
――祐一クン。
赤い夕焼け。
泣いている女の子。
鯛焼き。
――約束だよ。
「……嘘だろオイ……」
「嘘じゃないさ。偶然にしちゃ出来すぎだけどそんなのたいした問題じゃない」
いや、俺が言いたいのは……。
「……なんか、立派に育ったな。あゆ」
「そうかい?そう言われると嬉しいねえ……」
そう言いながら、俺の背中をばしんばしんと叩くあゆ。
「その前に一つだけ確認させてくれ」
「? なんだい?」
「昔の口癖、覚えているか?」
「あ?……あーあー良く覚えているよ」
懐かしそうに口元をゆるめると、あゆは再び真顔になって。
「うぐぅ」
…………。
「うぐぅ。うぐぅ。うぐぅ」
「お、俺が悪ぅ御座んしたぁ!」
ものすごく、あわない。名雪のヤツが陸上部の部長と聞いたとき以上だった。
「おいおい……大丈夫かい?祐一」
頭を抱える俺に流石に心配になったのか、あゆがそう尋ねる。と。
「そこ!」
気合いのような叫び声とほぼ同時に、パンと、やけに乾いた音がした。嫌な予感がして、音源をよく見てみると、煙が上がったリボルバーを、あゆが構えていた。
「お、お、お前……!」
「ああ、あたしゃガンマニアなんだ」
「あ、の、な。いくらガンマニアでも実銃撃つヤツがあるか!」
「立ち聞きしているヤツがいるんだよ」
「その程度で撃つなよ!」
どさっと雪が落ちてきた。今の銃撃が効いたのだろう。
「きゃ」
「どうするんだよ。思いっきり街路樹に銃痕残っているぞ!」
「今女の子の悲鳴聞こえなかったかい?」
「誤魔化してどうする……女の子の悲鳴?」
確かに俺が喋る直前に聞こえたような気がしていた。あわてて、街路樹から雪の落ちた辺りに回り込んでみる。
「……大丈夫か?」
「あ――はい」
そこには、雪にまみれた小さな女の子が座り込んでいた。
「おやおや、立ち聞きしていたのはアンタかい。これからは気を付けるんだよ」
「雪落としておいてそこまで言うか」
角度的に、女の子はあゆが銃を撃ったのが見えなかったはずだから、そのことには言及しないでおく。
「はい、申し訳ありません」
あゆのめちゃくちゃな忠告にも女の子は素直に謝る。見た感じと声からして、結構大人しめの女の子だ。清楚可憐とはこう言うときに使うのだろう。
……頭にある、横向きの兎耳には、とりあえず視線を向けないようにしておく。まあ、名雪も変な花の髪飾り付けているし。
「すまなかった。本当に大丈夫か?怪我していたりしてないか?」
「いえ、していません。それに込み入ったお話のようだったので、思わず隠れてしまった私(わたくし)も私ですし……本当に申し訳ありません」
そう言って、女の子はちょこんと頭を下げた。なんかそうされると、俺達が悪いことをしてしまったように感じる……いや、したんだが。
「まあ、怪我が無くて本当によかったね。あ、それ拾うよ」
「いえ、結構です」
いささか強い口調で女の子がそう言う。あゆが拾おうとしたのは、女の子が落とした紙袋とレシート(雪が落ちたときに手を離してしまったのだろう)で、女の子はそれを手早く拾い上げてしまった。
「それでは、私はこれで……」
「ああ……あ、ちょっと待ってくれ」
慌てて俺が叫ぶ。
「はい?」
女の子が振り向く。
「スマン、商店街までの道、教えてくれないか?」
俺の申し出に、女の子は目を丸くしたのだった。
続く。
あとがかれ(仮定形)
ミント:「ま、こんなものですわ」
ミルフィーユ:「ミントさん、すごいですー」
ヴァニラ:「パーフェクトだ。ウォルター」
ランファ:「……なにそれ」
ノーマッド:「バニラサンノ宗教ノ聖句デ『タイヘンヨクデキマシタ』トイウ意味デスヨ」
ランファ:「あ、そう」
フォルテ:「あーそれにしても、後半出番が完全に喰われたねえ」
ランファ:「ミント、演技うまいですからねえ」
ミルフィーユ:「それで、つぎは誰がでるんですか?」
フォルテ:「えーと。ああ、次はランファだね」
ランファ:「ええ?あたし?」
ミルフィーユ:「あ、ランファさん、焦ってる」
ランファ:「そ、そんなわけないでしょ!わ、私の手にかかれば余裕よ、余裕!」
フォルテ:「そーかいそーかい。じゃ、一発ぶちかましてきな!」
ランファ:「あ。ちょ、ちょっと〜〜〜〜〜」
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