G.A.K
■2。
記憶の中にある少女と、今目の前にいる女の子はあまりにも違っていた。
違っていたが、話ながら歩いていると、目の前の女の子が紛れもなく従姉妹の少女だというのが分かってくる。
わかりたくないけど、わかりたくないけど、なんで髪が桜色になったのか激しく突っ込みたいところだったけど。
水瀬家にたどり着いてみれば、七年前とあまり変わらない秋子さんが迎えに出て、俺はほっと一息ついたものだった。
まあ、そんなこんなで一日が過ぎていったわけで。
G.A.Kanon
次の日。
「えっと、それじゃお買い物行ってきますね」
「ああ、行ってこい」
「ここで待っていてくださいね。どこかに行っちゃったりしたら嫌ですよ?」
「心配するな。商店街で迷子なんて真似、したくない。だから早めにな」
「はい、わっかりましたぁ!」
と無意味なまでに元気に返事をすると、名雪はルンルンキャピキャピと商店街の雑踏へ消えていった。
まあ要するに、夕飯の買い物で、名雪に後を任せたわけである。
「まったく……あんなに元気だったかね」
そうひとり呟いて、七年前を思い出そうとする。
――七年前。
――従姉妹の少女。
――赤い夕焼け。
――夕焼け?
「どいてどいて!」
何かが記憶に引っかかったのと、その声が聞こえたのは、ほぼ同時だった。
「ほら、どきな!」
――どき、な?
何か妙な違和感を感じると共に、激痛が腹に走る。見下ろしてみると、ヒールの踵が俺の鳩尾にめり込んでいた。
「のおおおおぉ!?」
訂正。激痛どころじゃない。思わず身体をくの字に折り曲げる俺に、蹴りを入れたヤツ――女だ――本人とおぼしき声がかかった。
「ちっ、アンタの犠牲、無駄にはしないよ!それじゃまた!」
「まてい」
脂汗をだらだら流しながら、ほとんど地面とにらめっこ状態である俺の視界に紛れ込んだコートの裾をがっしと掴む。
気配からして走り出そうとしていた女は当然つんのめって――頭から地面に激突した。
「な、なにすんじゃゴルァ!」
すぐさまがばりと起きあがる。回復力が早いヤツだ。
「そいつはこっちの台詞だ。いきなり蹴り入れておいて、犠牲がどうのこうのってのは無いだろ」
「あたしはいま取り込んでいるんだよ!」
「ンなの知ったことか!」
変わった格好をした女だった。身体にフィットした服は別に何ともないがまるで軍用みたいなコートと帽子をかぶっている。そして極めつけはモノクル――片眼鏡ときた。そして手に紙袋を持っている。
そんな格好の女は俺に何か言い返そうとしたが、ふと表情を変えると、舌打ちをひとつ打って、
「このままじゃ追い付かれるね……。ついてきな!」
「とか言っておきながらなんで俺の手首を掴むんだ!」
言い忘れていたが、女の方が俺より体格が良かった。結果は火を見るより明らか。
「ちょっと御免よ、道あけてくれ!」
予想以上の脚力でぐんぐん動いていく景色を眺めながら、俺は土煙を立てん勢いで引きずられていった……。
「ここまで来れば大丈夫だろ」
そう言って女が飛び込んだのは、商店街沿いにある喫茶店だった。そして入るなり、
「ビールと枝豆!なけりゃ適当で!」
なんて非常識極まりないことを言ってくれる。
「いいかい、あたしが合図したら視線を落とし気味にしな。決して真正面を向かないこと。視線があったらお終いだからね」
「どういう意味だよ、それ」
その言葉と共に睨み付けてやる。しかし女はまったく気にならないといった表情でこっちを見返すと、
「追われているんだよ」
とだけ言った。
「追われて……?」
相づちを打ちながら、俺は女が手にしている紙袋に目をやった。何となくだが、これが怪しい。
「まあ、詳しい話はやめておくが……今だ、視線を下げな!」
急に今までとは段違いな緊迫感を漂わせて、女が小さく叫んだ。俺は慌てて視線を下げる。
「来たのか?追っているヤツが」
「ああ、ゆっくり視線を窓に移して。あたしが指さす方に向けな」
そう言って女はテーブルに置いた人差し指をツツッとある方向に向ける。それをそっと追って俺が見たものは。
エプロンを付けた人の良さそうなおっさんだった。
「ふぃー、どうにか撒けたねえ」
喫茶店を出ただけなのに、まるで洞窟にでも籠もっていたかのような口振りで、女が背伸びをする。
結局、おっさんは辺りをうろうろしていると、そのまま元来た道を戻っていった。それから10分ほどしてから俺達は店を出たのである。
「なあ、説明してくれないか?」
と俺。すこしばかりやばい気もしたが、あのおっさんをみるかぎりどうでもいいような気がしてきていた。
「ああ、まあしたいのは山々なんだけど、やめておくよ。無関係の人間を巻き込みたくないからね」
もう無関係とは言え無いと思うのだが、どうも気のせいらしい。
「なあ、あんた、名前は?」
「そう言うのは、先ず自分から名乗るもんだよ」
名乗りたくないから、先に聞いたんだが……。
「祐一、相沢祐一だ」
「祐一……?」
眉をひそめる女、しかしすぐにそれは驚きの表情に変わっていく。
「どうした?」
「い、いや、なんでもないよ」
あからっさまに動揺している。
「で?こっちは名乗ったぞ、あんたの名前は」
「ああ……あたしの名前ね。あたしは月宮、あゆ」
一瞬、ほんの一瞬。
頭の中で『そこだ!そこでツッコミを入れろ!』という誰かの声がした。
(続く)
あとがかれ(仮定形)
ミント:「………………」
ランファ:「………………」
ノーマッド:「………………」
フォルテ:「な、なんだいなんだい、その眼は」
ノーマッド:「年相応ッテ言葉、御存知デスカ?フォルテサン」
フォルテ:「じゃかしいわっ!」(殴)
ノーマッド:「オブッ」(殴られ)
ミント:「なにか、話が大幅に変わってしまいましたわね」
ランファ:「つーか、誰よ、このキャスティングに決めたの」(じとー)
フォルテ:「あ、あたしじゃない!みんなだってそうだろ、なあミルフィーユ」
ミルフィー:「そうですけどぉ、フォルテさんもしかして次回も出るんですか?」
フォルテ:「ああ、どうもそうらしい」
ミルフィー:「いいなー、わたし、出番が少なくて」
ランファ:「大丈夫でしょ。この前ノートこっそり見たけど、みんな均等に出すのがテーマとかなんとか書いてあったから」
ヴァニラ:「盟約が、守られんことを……」
ランファ:「……駄目かもね」
ミルフィー:「ところでフォルテさん、どうしてあっちでもこっちの格好していたんですか?」
フォルテ:「はい?……ああ、いつもの格好だったこと?」
ミント:「それについては私から説明いたしますわ。先程あの人からメモが届いたのですけど、それによると、
・基本的に私服はG.Aでの普段着着用のこと
・ただし、学校の制服着用時はその限りではない
とのことです。――まったく、私達の衣装、私服ではなくて軍服ですのに……」
ランファ:「まあ、結構好き勝手にアレンジ出来るからね」
ミント:「それは……そうですけど」
フォルテ:「ほらほら、文句言ってないでそろそろ支度しな。次はミントも出るんだよ」
ミント:「え、私もですか?」
フォルテ:「そうだよ。ほら、台本」
ミント:「あらあら……」(パタパタ)
ランファ:「これで、軌道修正出来そうね」
ノーマッド:「逆ニ暴走シテ修正不能ニ陥リカネマセンケドネ」
ミント:「――お黙り」(ものすげえ殺気)
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