守護月天とシャオリン(1999.06.25)



 みんなが寝静まった夜。静かな夜。

 月があまりに綺麗だったから、
私は近くの公園まで散歩に出た。

 この世界は、
夜にひとりで歩いていてもさほどの危険はない。

 ――少なくとも、私が今まで渡ってきた世界に比べれば――

 長い長い時を経て得た安息。

 いつ終わるかわからないけれど、
私は精一杯この世界で暮らしている。



 ……ここは今までの世界とは、
あまりにも違いすぎていると感じているけど、
違っているのは私達かもしれない。と、最近思うようになった。

 でも、もう一つ疑問が残っている。この世界の私達。

 キリュウさんは、
私が知っていたキリュウさんよりずっと明るくなった。
ずっと話してくれるようになった。

 ルーアンさんは、変わっていないように見える。
だけど無理して笑うことがなくなった。
時折見せることがあった張り詰めた貌をしなくなった。

 でも私は?私はどうなったのだろう?

「シャオ殿が一番変わられたと思うが?」
「気づいていないのはあんただけね」

 そうなのだろうか。よくわからない。わたしは――
変わっているのか、変わっていないのか。

「気にすることねーよ。シャオはシャオだろ?」
「そうですシャオさん。たとえどのように変わられてもあなたは美しい……」
「てめーちょっと引っ込んでろ」

……ますますわからない……

 ふいに月の光が強くなった気がして、夜空を見上げた。
今夜は満月。雲がないので煌々と光を放っている。

「んー、どっちかっていうと、守護月天って感じがしなくなったよな。なんかこう、ほら、ふつうの女の子みたいになったって感じか?シャオだって昔みたいに守護月天だからって言わなくなったろ?」

………………………………

「いけませんぞ。守護月天としての誇りをお忘れか」

 私が変わってほしくない人もいる。

「シャオリン様。この時代があまりにも不自然なのです。忘れてはなりませんぞ」

……いつかくるこことの別れ……

――考えたくない――

「太助が教えてくれるさ。シャオと守護月天の違いってやつをな」

 私と私の違い。守護月天とシャオリンの違い……

「だから、太助が教えてくれるんだって!何悩んでるんだよ」
「オレが何教えるんだって?山辺」
「なんでもない!」
「ですからシャオさん。あなたは……」
「てめーは引っ込んでろっての!」

 ――この答えがわかるのがそのときからの楽しみ。
守護月天としての私とシャオリンとしての私の違いという問いの答え。
ちょっと悲しいのは、私自身でわからないということだけど……

「くしゅん!」

 少し冷え込んできた。

 風邪でも引くと、大変なことになる。公園へは今度にしよう……



 長い長い時を経て得た安息。

 いつ終わるかわからないけれど、
私は精一杯この世界で暮らしている。

<END>

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