『あなたの髪に、似合う花を。』
〜プロローグ〜
よく晴れた日のことである。
日差しが良く降り注ぐ、明るい部屋の中で、ひとりの少女が椅子に座って物憂げに窓の外を眺めていた。
何処までも白い肌に、同じ色の服で身を包んだその姿は、緩やかにウェーブのかかった、長い長い金髪と相まって、等身大の人形を思い起こさせ、燦々と降り注ぐ穏やかな日差しの中で、半ば溶け込むようなその姿は、彼女がこの世にいる存在だとは思えない。
しかし、よくよく見てみれば、彼女の瞳に宿る光は、生半可な輝きではなく、しっかりと結ばれた口元は、もう少し愛想を良くすれば、と誰もがため息混じりに言いそうなほどであり、総じて、彼女が生きている人であることを堂々と証明していた。
まだ、幼いと言って良い容姿である。
顔つきもまだ幼く、布地越しに見える身体の線はわかりにくいものの、肩幅は華奢と言ってよく、全体的にほっそりとしていて、女性的なふくよかさをまだ備えきれていないように見える。実際、彼女の年齢は、未だ13歳であった。
穏やかな日差しの中で、彼女は静かに外を見ている。
外には、庭がある。彼女が良く散歩に出る、庭である。少し視線を奥に進めると壁があって、その先は何も見えない。一瞬、彼女の眼光がより鋭くなった。まるで、その壁をうち砕こうとするかのように。そして、ついと、視線を室内に転じた。
明るさに慣れきった目がゆっくりと部屋の中のディテールを拾っていく。
屋敷の二階にあるこの部屋の中は広く、必要最低限のものが揃っていた。
しかし、あまりに必要最低限に絞ったため、部屋の中がやや広すぎる印象を受ける。
その部屋の中、ベットの脇に置いてあるスツールに上にある小さい箱に目をやった途端、彼女は瞬間的に眉間にしわを寄せた。
それをしばらく忘れるために、外に目を向けていたのをすっかり忘れていたのを、思い出したためである。
手を伸ばした。書き物に使う机の上にある、呼び鈴を鳴らす。
程なくして、珍事が起きた。
今の今まで、物音ひとつしなかった屋敷の一階から、どたばたと物音と、なにやら揉めているような人の声が聞こえてきたのである。
程なくして、ひとり分の不規則な足音が階段を上ってきた。
そして、不規則なまま廊下を歩き、聞こえるか聞こえないかのぎりぎりな音量で、部屋のドアがノックされた。
「入りなさい」
棘も刃もないはずだが、どこか人を緊張させる声で、中に入ってくるように促す。
それから、たっぷり3秒もかかって、ドアがゆっくりと開いた。
「お、お呼びでございますか? キャロル様」
「遅いわ」
「も、申し訳ありません」
彼女の部屋に現れたのは、年の若いメイドだった。あわてて頭を下げている。
「それに、貴方は呼んでいないわ」
少女のにべもない口調に、年若いメイド――シルフィー=ニューバレーは首を竦める。
「私が誰を呼びたいのか、大体想像は付いているでしょう」
「は、はい。ですが、あいにく先輩はお使いに出ていまして」
「そんなことわかっているわ。だから、早く呼んでって言っているのよ。呼び戻したって良いわ。はやくなさい!」
はい……と首を竦めながら下がろうとするシルフィーに、彼女はさらに追い打ちをかけるように、
「それと、何度も言っているでしょう」
「は、はい。なんでしょうか?」
おどおどと聞き返す。彼女はこの屋敷に仕えて、まだ日が浅いのだ。
そんなシルフィーに、少女はついに椅子から立ち上がって、
「私のことは、キャロルでもハウザーでもなく、esと呼びなさいと」
と、キャロル=e=s=ハウザー嬢は宣った。
「いい? 一刻も早く、権藤を呼んできて。急ぐのよ!」
〜続く〜
第1話へ
あとがき
とうとうはじめちゃいました。むか〜し昔のそのまた昔に書いたメイド小説(未発表)に、esさんからのマスコットキャラである権藤さんと自らの身体をお借りして(w、再構築したものです。
改めまして、このとんでもない企画を了承してくださったesさんに、御礼申し上げます。
……イロイロしちゃうんで、覚悟してくださいね(w
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