G.A.K





■6。

 この町に来てから、今まで、突飛な人物に会ってきたことは間違いない。俺、相沢祐一は、自信を持ってそう言える。
 だが、だが、しかし。今回のに比べればどうって事無かったのだと思い知らされた。
 
 なぜならば。
 
 ついに、人外が出て来やがった。



G.A.Kanon


「ぶっちゃけ、言っちゃうけどさ」
 倉田佐祐理と名乗った、奇怪なぬいぐるみ(縫い目があるから、間違いないと思う。中に何かが居るサイズでもないし)と、直接目を合わせずに、俺は言った。
「お前、なんなわけ?」
「……下手ナキムタクノ演技デスネ。モウ少シ修行シタ方ガイインジャナイデスカ?」
 いちいちムカつく奴だな……。
「俺の質問に答えろよ。第一こんな所で何してる?」
「ダカラ佐祐理ハ、ココノ生徒デス。デ、貴方コソ、コンナ時間ニ何ヲシテイルンデスカ?」
「俺は、忘れもん取りに来たんだよ。って、またお前、俺の質問に答えてないな」
 再び半眼になって、佐祐理と名乗るぬいぐるみ(だって、本名かどうか怪しいじゃないか)を見やった。
「……待ッテイルンデス」
「――おまえも、里村茜の演技、下手だな」
「ムシロ得意ナノハ椎名繭デシテネ」
 ……あえて理由は、訊かないでおいてやるよ。ちなみに、秋子さんと香里がそれぞれ長森瑞佳の物真似を得意技としているらしい。どうでもいいか。
「何を待っているんだ?」
 改めて、俺がそう聞くと、佐祐理(でいいや。もう)は、
「親友デスヨ」
 と言った。
「……そいつもぬいぐるみなのか?」
「失礼デスネ、貴方! 2重ニ失礼デスヨ!」
 たちまちキレる佐祐理(呼び捨てにするにはまだちょっと抵抗があるな)。
「マズ佐祐理ハヌイグルミデハアリマセン! サラニ舞ヲヌイグルミ呼バワリスルトハ……」
「舞って言うのか」
「……コノ佐祐理カラ誘導尋問ヲ成功サセルトハ、貴方、ナカナカヤリマスネ」
 まあ、ぬいぐるみを言い負かせるなんて、滅多にないことだろうしな。
「するとなにか、夜の学校でその舞って奴と待ち合わせか?」
「奴トイウ表現ガトテモ気ニ入リマセンガ、マアソウ言ッタトコロデス」
「何してるんだよ。こんな時間に、こんな所で」
 まあ、ノートを取りに来た俺が言うことでもないが。
「夜ノ日課ッテヤツデスカネ?」
 怪しいぞ、それ。俺がそう言おうとしたときだった。
 ――なにか、空気が歪んだような感覚が、全身を包んだ。
「伏せて」
 低くて小さいが、確実に届く声が俺に向かって放たれた。それよりも半瞬早く、俺は身を沈める。何かが、確実に俺を狙ってかかってきたからだ。
 ふっ。
 小さな音がして、何かが頭の上を通り過ぎる。
「ナカナカノ運動神経デスネ」
 佐祐理が暢気にそんなことを言っているが、こっちはそれどころじゃない。
「なんだ今の、軌跡が見えなかった――」
 警告の声がした方に問いかけようとして、失敗した。俺の微かな隙をついて、第二撃が来たのだ。
 真っ当に喰らうのだけは、どうにか回避できたがしかし、右肩に衝撃が走った。
 半端じゃない強さだ。俺は廊下を廊下に転がる形で衝撃を吸収しようとしたが、上手く行かずに必要以上に転がるはめになった。
「くっそ――」
 俺はすぐに飛び起きる。この状態で第三撃をくらうのは非常にまずい。
「横に飛んで」
 さっきの声がした。それに従って、俺はサイドステップをかける。
 ブン。
 さっきより、ずっと強い何かが俺の横を通り過ぎた。
 そして同時に足音が廊下に響いた。たったひとつだけ。コツと。
 それだけなのに、俺の隣に少女が立っていた。
 背は俺よりずっと低かったが、三年生の制服を着ていた。
 ポニーテールと縦ロールを合わせたような不思議な髪型をしていて、手に抜き身の剣を持っていた。
 頭に、ティアラとヘッドギアを足して2で割ったようなものを付けていた。
 それらすべてが、まるで彼女をこの世のものではないように錯覚させた。
 そして、俺が何か言おうとする前に、彼女は、じっと虚空に目をやりながら疾風のように前へ飛び、剣を振り抜いた。
 同時に、空気が歪んだような感覚が、消える。
 まるで、それを確認したかのように、少女は剣を下にさげた。
「――逃げました」
「イヤイヤ、オ疲レ様デシタ。舞」
「佐祐理」
 どうやら、彼女が佐祐理の言っていた親友らしい。
「来ちゃ駄目って言っているのに」
 そう言いながら、舞は佐祐理を抱き上げた。
「佐祐理ハ聞キ分ケヨクナインデスヨ」
 舞の腕の中で満足そうに佐祐理が答える。
「帰ります」
「ソウシマショウ」
 そう言って、ふたり(いや、ひとりと一体か?)は踵を返そうとした。
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
 俺は慌てて声をかける。
 髪を揺らして、舞が振り返った。
「今のは、なんだったんだ? それとあんたは一体――何なんだ?」
 舞の表情は動かない。だが、少し間をおいて、俺の質問に答えてくれた。

「私は魔物を狩るものだから」




「……ただいまー」
「あ、おっかえりなさーい」
 水瀬家の玄関で無駄にハイテンションで出迎えてくれたのは、ずっと待っていてくれたらしい名雪だった。
「今、ポットのお湯を沸かしますねって、どうしたんです? それ」
 マジマジと俺を見る。まあ、それはそうだろう。廊下を転げ回ったせいで、ホコリまみれになっていたのだから。
「ちょっと、魔物にやられた」
「まのの?」
「魔物だ。まののって何だよ」
「いえ、そう聞こえたんで」
 ……まあ、普通は魔物なんて単語は出てこないだろうな。
「悪い、やっぱ風呂入り直してくるわ」
「あ、はい。それじゃ私、その間にクッキーでも焼いておきますね」
「ああ、頼む」
 そう言って俺は一度部屋に戻り、着替えを持って風呂場に向かう。
 そして、脱衣所に入ったときに、唐突に気が付いた。
「なんか違和感が全然無かったな……」
 なんか、反動が恐ろしく感じた。
 ……俺も心配性になったなー。



つづく。







あとがかれ(仮定形)



ミント:「い、違和感0でしたわ……」
ランファ:「むー」
フォルテ:「なんだよ、何ふてくされてるんだい?」
ランファ:「だって、ヴァニラの役ってどっちかというと私の方が――」
ミルフィーユ:「え? なんでなんです?」
ランファ:「そ、それは、その……」
フォルテ:「まあ、ナニな話はその辺にしておきな。それに今回のヴァニラの演技は良かったけど、相殺するようにノーマッドがねえ……」
ノーマッド:「失礼デスネ! 私ハチャント演ジキレマシタヨ!!」
ランファ:「そんなこと言われても……」
ミント:「そのまんまで出演されては――」
ヴァニラ:「……どうすればいいんだ」
ノーマッド:「ヴァ、ヴァニラサン!? 貴方マデソンナ、超先生ミタイナ……」
ミルフィーユ:「そう言えば、ノーマッドさんと、超先生って、似ていますよね?」
ノーマッド:「全然似テネエヨ!」
フォルテ:「はいはい。そろそろまとめるよ。次回は……出来れば全員だってさ」
ランファ:「それは……無理あるんじゃないですか? フォルテさん」
フォルテ:「いや、あたしにそんなこと言われても」
ヴァニラ:「……どうすればいいんだ」
ミント:「今度はスパイラルですわ……」


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