超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「銃を向けられるたびに5円ずつ貰っていたら……今頃大金もちだぜ」
「銃というより、蹴りとか辞書だからな。つうか5円かよ」










































  

  


 梅雨前だというのに、だいぶ暑くなって来た五月の中頃、わたし、岡崎汐は両手に色々入ったスーパーのビニール袋を提げて、家路を急いでいた。
 土曜日のお昼前、普段ならのんびりしている時間なのだが、つい先程春原のおじさまが遊びに来たのである。
 そこでみんなで昼食を――という流れになり、結果としてわたしはお昼の材料を買い出しに行くことになったのであった。
 本日のお昼は定番のチャーハン。但し具はレタスと鳥肉。少し辛めの味付けにしてバンバンジー風味にしようと考えていた。
 家に到着し、玄関のドアをそっと開ける。話し込んでいたら悪いと思ったのだが……。
「ただい――?」
 わたしは密かに息を飲み込んだ。おとーさんと春原のおじさまのいい年したふたりが、ぴったりと寄り添うように並んで(幸いなことに、微妙な隙間があった)テレビの画面を見つめていたからだ。
 はて、何か臨時のニュースでも流れているのだろうかと思って画面を見ると……そこには真新しい、ちょっとぶかぶかな中学校の制服を着込んだ女の子が照れ気味に一回転していたところだった。
 こ、これは、
『えっと……どうかな? パパ――おとーさん』
 傍には、ケーブルで繋がれた古河家のハンディビデオカメラが置かれてある。つまり――。
「な、良いだろ」
 腕組みをしつつ何度も頷いて、おとーさん。対して春原のおじさまはごくりと喉を鳴らすと、
「あ、あぁ。まるで新手のロリコンビデオみぷしっ!」
 おとーさんの裏拳と、わたしによる延髄斬りを前後同時にくらい、春原のおじさまは妙な悲鳴を上げたのだった。



『わたしのお婿さん』



「か、帰って来たらただいまの挨拶くらい言おうよ、汐ちゃん……」
 後頭部をさすりながら、春原のおじさまはそんなことを言う。
「言おうと思ったんですけどね。なんかふたりでいかがわしいビデオ観ているように見えたもんですから」
「春原……」
 そこをすかさずおとーさんが、
「きもいぞ、お前」
「あんたも一緒に観てたでしょっ!」
 しばらく会っていなかったのに、息の合ったやり取りを披露しているふたりを見て、ちょっとだけ羨ましく感じてしまう。
「まぁ、人の成長記録をアダルト呼ばわりした罰です」
 皮を取ってさいの目に切った鳥肉を手早く炒めながら、わたし。ちなみに皮は捨てずに後で湯がいて細目に切り、同じく細切りにした葱と一緒に梅肉ドレッシングで和えるつもりである。
「うーん、見たまんまの感じで言ったんだけどなぁ」
「なお悪いですよ」
「なお悪いわい」
 今度はアクション無しで突っ込むわたし達に、春原のおじさまは溜め息をつくと、
「ひとごとだけどさ、汐ちゃんのお婿さんは苦労するだろうね」
 と、言った。
「急に話が飛びますね」
 フライパンを返しつつ、わたしはそう突っ込む。
「ねぇ、おとーさん。……おとーさん?」
 と、話を振ろうとして、わたしはおとーさんが腕組みをして俯いていることに気付いた。
「汐の旦那になるには――まず、オッサンのボールを打てなきゃならんな」
 と、真面目な貌をしておとーさん。
「んで、俺より速く電柱を一本建てられなきゃいかん。すなわち……」
「「すなわち?」」
 わたしと春原のおじさまの声が重なった。
「すなわち、汐を嫁に取ろうとする奴は、この世に存在できない訳だ。故に苦労することもない。わっはっは」
「あのな……」
「この手の話になると、おとーさんはああなるんです。放っておいてあげてください」
 わたしだって、頭が痛い。
「で、今日の用件はなんだ?」
「あぁ、それはね……ええと」
 いつもの調子に戻ったおとーさんが切り出すと、春原のおじさまは珍しいことに言い澱んで、
「う、汐ちゃんって、どんなタイプの男性が好み?」
 何故か、わたしに話を振ってきた。
「好みですか……特にそういうの、意識したことないんですけど」
「でも誰でも良いって訳じゃないでしょ?」
「そうですね……とりあえず、『ひいいぃっ』って悲鳴上げない人がいいかな?」
「それって僕の事ですよねぇ!?」
 イエス、ザッツライト。わたしは大きく頷く。
「続きの突っ込みは食事の後で。チャーハンが熱いうちに、レタスがしなしなになる前に食べてくださいね」
 そう言って、わたしは三人前のチャーハンと葱のサラダを、ちゃぶ台の上に並べ始めた。



「それって僕の事ですよねぇ!?」
 昼食後、みんなでお茶をそれぞれ一杯飲んでほっと一息ついた時、春原のおじさまは突然そんなことを言った。
 わたしはおとーさんと顔を見合わせる。
「どういうことだと思う? おとーさん」
「ついに自分が人類を超越した存在と対極の位置に居ることに気付いたんじゃあるまいかと思うんだが」
「ちがうっつーの! さっきの話の続きでしょっ! それと岡崎、何気にひどいこと言わないでもらえますかねぇ!」
 あーあーあー、わたしはぽんと手を打った。
「顔がへこんだらしばらく元に戻らない人も勘弁してください」
「人の外見をなじっちゃ駄目でしょ!」
「す、すみません」
 外見、なんだろうか。アレは。
「でだ。いいかげん用件を言ったらどうだ?」
 と、おとーさんがしびれを切らしてそう言う。
「お前、此処へ来るのに手間暇かけてるだろ。そいつを無駄にしないためにもさっさと話せ」
 あ、そうか。と、空になったおとーさんの湯飲みにお茶を継ぎ足しながらわたしは気付く。
 春原のおじさまが住む社員寮はこの町からずっと遠いところに在るのだ。故に、交通費やそれにかかる時間、場合によってはこっちでの宿泊施設の手配など、やることは多くなる。
「あ、いや。今回に限っては大丈夫。明日は休みだし、此処に来るのも泊まりの金も、僕が出して居る訳じゃないからさ」
 ん? と、わたし達父娘は顔を見合わせた。
「あの、春原のおじさま。うまい話ってたいてい裏がありますよ?」
「そうだぞ。簡単な仕事だからとかいわれてほいほいやっていると、ろくな目に遭わないぞ?」
「あんたらねっ! 僕だってそれくらいわかるっつーの!」
「じゃあ何だお前、わざわざ誰かに金出してもらって、汐の好みを聞きに来ってのか?」
 呆れたように、おとーさん。
「いや、そういう訳じゃないんだけどさ……」
 なおも言い澱む春原のおじさまに、わたしは出鱈目任せで、
「もしかして、わたしをお嫁さんとして貰いに?」
「ああ、それいいね」
「ああん!?」
「じょ、冗談だよ、冗談」
 おとーさんが久しぶりに見せるメンチきりに、春原のおじさまは慌てて手を振る。そこでわたしはわざと科を作ると、そっとおじさまの手を取り、
「お帰りなさい、あ・な・たっ」
「……イイ。すごくイイ!」
「ざっけんなこらぁ!」
「ひいぃっ? 岡崎がマジぎれしたぁ!?」
 二十年近く年が離れている女の子、しかも自分の娘にそういう反応を示せば、誰だってマジぎれすると思う。
 現に今のでぷつっといってしまったおとーさんは、普段から酷使している全身の筋肉をフル動員させて春原のおじさまににじり寄っていた。まぁ今のは半分、わたしが悪いのだけど。
「イケマセンヨー。ソンナオトコ、オトーサンハミトメマセンヨー」
「うわ恐っ! お、落ち着け岡崎っ」
 腰を抜かした体勢で、春原のおじさまが後ずさる。そして、その進路方向にあったハンディビデオカメラを横に倒してしまった。
「あ、やば……ん? なんだこれ」
 その拍子にスイッチが入ったのだろう。いまだ繋ぎっぱなしだったテレビに画面に一瞬だけノイズが走り――、お馴染みの古河家の居間を映し出す。ちょうど壁にかかっているカレンダーが画面から読み取れて、年号は……。
 ああーっ! そ、それはだめ! それだけは、ぜったいだめっ!
 わたしが手を伸ばすより早く、画面の真ん中に、小さいわたしが進み出る。
 やめて、幼いころのわたしっ! と、いくら願ったところで過去は変えられず、
『いちばんっ、岡崎汐……いきますっ』
 画面の中の幼いわたしはカメラに向かって宣誓すると、ぐっと力をためて、
『――うっしっし』
 …………。
 画面の向こうとこっち側でえもいわれぬ空気が一瞬流れ、
『ぶ、ブラボオオオオオオオオオオッ!』
「『な、ナアァイスガァッツ、汐っ!』」
 あっきーと、画面の内外計ふたりのおとーさんの歓声が、ものすごい勢いで響いた。
 ――嗚呼。
「わたし、もうお嫁に行けない……」
 がっくりと膝を付いて、わたしはそう呟いた。いままで当事者以外には決して見せなかったのにっ。
「心配するなって、汐ちゃん。何だったら僕が貰ってあべしっ!!」
 不用意な発言をした春原のおじさまに、岡崎ツープラトンアタックが炸裂する。
「いきなりふたりして何す――」
「やかましい。やっぱりお前は俺の息子になる気だな、春原……」
「ひいぃぃっ! じょ、冗談だってば岡崎! 本当に冗談だからそのバールのようなもの下げろよっ! 小刻みに振るなよ!! それと汐ちゃん、なに笑いながら工具箱から電動ドリル出してフル回転させてるのっ! 怖いよそれ!」
「冗談で済ませることと済ませないことがあるぞ、春原」
 けけけけけと笑いながらおとーさん。
「それとも本当は、汐に懸想しているんじゃないか? ならばお前のケツに電柱をおっ立ててやろう。そうでないなら、街灯を代わりにおっ立ててやる。さぁ、どっちがいい?」
「ちょっとまてっ! どっちにしても僕の尻に何か立つだろそれっ! う、汐ちゃん!?」
 助けを求める春原のおじさまに、わたしはうけけけけと笑ってドリルの回転を止めると、
「ちゃんと今回の目的を話してくれないと、嫌です」
 はっきりと、そう言った。
「う……、わかったよ」
 ようやく素直に頷く春原のおじさまに、わたし達はそれぞれの獲物――おっと、工具を片付ける。
「なんというか、このままはぐらかすと僕の命が危ういからね。ちゃんと話すよ。実は――」
「「実は?」」
 おとーさんとわたしの声が重なる。
「お見合いすることになったんだ」
 ……はい?
「「な、なんだって――!!」」
「なんでふたりしてそんなに驚くんですかねえっ!」
「い、いや……」
「だって、……ねぇ?」
 おとーさんとふたり、頷きあう。
「一言で云うと青天の霹靂」
「同じく寝耳に水」
「この二世代岡崎がー! って言いたいけど、気持ちはわかるよ。そりゃ僕だってもう結婚するつもりは無かったんだけど、紹介屋が是非にってね。なんでも、相手も僕と同じ位の歳なんだってさ」
「いいじゃん、とりあえず会ってみろよ」
「いや、でもさ……なんか嫌じゃん、この年で」
「贅沢を言うな」
「そりゃそうだけど……」
「あの。まさか、そのためにわたしを?」
 わたしは挙手をしておじさまにそう訊く。
「ああ、うん。彼女いますからって誤魔化そうとさ。上手く行きゃ明日逢わなくても済むかなーって」
「アホかお前はっ」
 珍しく、おとーさんが真面目に怒った。
「え……、やっぱ行かなきゃ駄目?」
「当たり前だ。うちに来た時に抱えていた書類、先方の写真かなんかだろ? 預かっている時点で引き受けたも同然だぞ」
「なんだって!?」
 驚いたように部屋の隅に丁寧に置いてあった大きな封筒に目をやる春原のおじさま。
「って言うかおじさま、交通費出して貰っているのって、先方じゃ」
「あ、それは仲介屋の方だから大丈夫」
 ……どこが大丈夫なんだろうか。
「あの、どっちみち行かないと。第一相手に失礼ですよ? 仲介屋が出してくれるお金だって、元は先方のものでしょうから」
「そ、そうなの?」
「ああ、そうだよ。ったく、高校生の汐でも知っていることだろうが」
 わたしも、持っている知識が聞き齧ったものばかりだからあまりあてにならないのだが、それでもおとーさんは盛大に溜め息を付いて言った。
「絶対明日、出ろよ。出ないと俺や汐だけでなく、杏や智代にも声かけて引っ張って行くぞ」
「わ、わかったよ。わかった」
 藤林先生と、師匠の名前を聞いて、冷や汗を流しながら春原のおじさまはおとなしく頷いた。
「で、相手はどういう人なんだ?」
「ああ、書類にあらかた書いてあるよ。ただ、名前をどっかで聞いたような気がするんだよね。どこでだったか忘れちゃったんだけど」
「どれどれ……」
 丁寧に書類を広げるおとーさん。わたしも隣に座って、静かに覗き込む。
 まず目を引くのは、お見合い独特の大きめの写真。そこには、どこか儚げで若々しい顔付きの綺麗な女性が、いささか緊張気味で写っていた。
 そして名前は――。

 一ノ瀬、ことみ。

 書類には確かにそう書いてあって、
 わたしとおとーさんは、埴輪と土偶になった。
「うーん、誰だっけなぁ」
 誰だっけって、おじさま……。



Fin.




あとがきはこちら













































「で、本当に誰!?」
「す、スホー!」(春原の奴、なに重要人物の名前忘れてやがる、このアホー! の略)




































あとがき



 ○十七歳外伝、春原のお見合い編? でした。
 お見合いというと、私の回りでは曾祖父の世代でないとやったことがないということで思いっきり現実感の沸かないイベントなんですが、独身のままでいると、それ系のちらしがほいほい迷い込むことになるそうです(私はまだですが……)。なんでも今の時代、昔のような仲介人ではなくネットやダイレクトメールによる登録制だそうで。
 さて、本編中で春原がついに聞き出せなかった○の好みですが、これは私にもわかりませんw。ただ、ずっと側に居てくれる、そんな人なんじゃないかなと思って居ます。尤も、彼女の彼氏になるには朋也や秋生と、目茶苦茶高いハードルが待ち構えて居る訳ですが^^。

 さて次回は、お見合いの顛末か七夕です。

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