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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「じゃあウドンゲ、後は御願いね」
「はい、わかりました」
「ちゃんと読者サービスしてるのよ?」
「ど、読者サービス!?」















































  

  





『香霖堂と二冊の本 〜新釈、竹取物語〜』



 花見の盛りを過ぎ、梅雨へと至る前の穏やかな一時、僕は朝から読書に耽って居た。
 その格好は店に来る或る客曰く、常にむさぼり読むような姿勢に見えるそうだが、その実あまり真面目には読んで居なかったりする。眼前の本は既に細部まで読み尽くし、今はおさらい程度に読んでいるに過ぎないからだ。
 だから、僕の意識は思索に向かっている。今の課題は――何故、春になると眠くなるのか。
 わざわざ此処、香霖堂に来てから居眠りをする者も居るのは極端な例として置いておいて、春眠暁を覚えずといった言葉は広く知られて居ると思う。
 おそらくそれは気候的に睡眠を誘う良い気温がその原因と思われるのだが、そこで思考は或る一点で停止する。同じ気温になるのなら秋もそれに含めるのではないか。ならば、同じ気温のはずである春と秋とでは、どのような差があるのか。
 僕は、次に来る季節に注目してみた。
 春の次は夏。蒸し暑いうだるような季節だが、作物がよく育ち、木々が青々となる季節でもある。
 では、秋の次である冬はどうだろう。こちらは、作物の収穫が終わり、葉の落ちる木は丸裸となる。
 そう、秋は収穫の季節故、おちおち居眠りなどしていられない。――収穫と言えば、前の秋に帽子いっぱいにいが栗を拾って来たのは良いのだが、帰りに一個だけ中に残っていたことに気付かず、頭を怪我をしてしまったおっちょこちょいが居るが、それも置いておく。
 閑話休題。すなわち、秋の行く先にあるのは緊張して迎えるべき冬なのだ。故に、居眠りを貪る訳にはいかないし、自然背筋が伸びて来る。

 なるほど、そういうことか。僕はふたつの問題が一気に解決したことに満足して、軽く伸びをした。
 春に眠くなる事と秋に眠くならない事の、両方の理由が解けたのだ。ここ最近の思索の結果では、中々の部類に属するのではないか。
 そんなことを考えていたとき、店の入り口に設えてある鐘が静かに鳴り響いた。
 すなわち、来客だ。



「お邪魔します」
「やぁ、いらっしゃい」
 客人は、僕が想定していた通りだった。
 いや、正確には僕が招待したのだけれども。
 種明かしをしよう。最近、この地域一帯に『文々。新聞』という新聞が配られている。最近、連絡欄という概念に気付いた主筆(と言ってもこの新聞を書いているのは、ひとりしか居ないようだ)の烏天狗が、各地で御用聞きよろしく連絡事項はないかと聞き回っている。
 そこで僕は、その欄を使って彼女を誘い出したのであった。
「珍しいですね、香霖堂さんからこういった形で招待していただくのは」
 そう呟いた本日の客人――いや、僕が呼び出したのだから客ではないか。後で品物を買ってくれるのならともかく――は、幻想郷の奥深き竹林の文字通り奥にある永遠亭の薬師、八意永琳だった。
「連絡欄に書いた通り、ちょっと気になる本を仕入れましてね」
 番台代わりの卓に、向かい合わせで座れるよう設えておいた席を勧めて、僕は今まで読んでいた本を目立たないようそっと脇に置き、手近な棚に仕舞っていた一冊の本を引っ張り出す。
「この本は、知っていますね?」
 そう言って僕が彼女の目の前に見せた本は、古き書だ。
「『竹取物語』ですね。存じております」
 驚きというものを全く浮かべず、むしろ少々皮肉気に、彼女は答える。
「確かこの本は、貴方の主の――?」
「ええ。姫がこの地上で人と暮らしていた時の記録ですね」
 彼女はあっさりと認めた。わざわざ呼び出して、この本を見せたのだ。おおよそを察したのだろう。ただし、こちらを見る目には緊張の色が微かに浮かんである。隠しきれていないのか、それともあえて表に出しているのか……恐らく後者だろう。
「でもその話、一体どこから……」
「いや、貴方の主が教えてくれました」
 途端、彼女は卓に突っ伏すように崩れ落ちた。
 以前、山中で彼女が『姫』と呼ぶ主――蓬莱山輝夜と言う名の、僕以上に珍しい品々を持つ少女――が着る物に困るという非常に珍しい事態に遭遇した時、たまたま僕が通りかかり助けたことがある。
 それを恩義と受け取ってくれたのか、彼女はその時に売った服の代金を自ら携えてきたときに、土産話のように生い立ちを教えてくれたのだった。
「……それで、姫は何処までお話しになられたんです?」
 もっていた緊張感を完全に消し去って彼女がそう訊くので、
「おおよそ大体は。目安としては、この本が一部事実異なることがわかるくらいには、ね」
 と、僕は若干砕けてきた彼女の口調に合わせて、普段の喋り方にしつつそう言った。
「なるほど。それで残りの事実を付き合わせたいと?」
「いや、それももう大分進んだので、今日は結構。それよりも……」
 そう言って、僕は先程脇にそっと置いた、色鮮やかな表紙の本を彼女に差し出した。
「こちらの本を見て欲しい」
「この本が、なにか?」
「実は仕入れた珍しい本というのは、こっちの方なんだ。内容の真の意味はともかく、『竹取物語』はたいして珍しくないだろう? でも、こちらは違う。今から読み出すと長くなるから、内容を説明しよう。この本には、月の姫が地上に転生し、人として暮らしている旨が描かれている」
「――なんですって」
 今度こそ、間違い無しに彼女は驚いた。ただし慌てるそぶりは見せず、慎重に本を開き、頁を捲っていく。
「以前はただ、珍しい形をした本――そう、見ての通りお伽草子のようだろう。戯画のようでもあるけど――だから取っておいたんだ。だが、貴方の主から話を聞いた時、その内容と重なることに気付いてね」
「確かに……一部突拍子も無い描写があるけど、本筋ではその通りだわ」
 まるでコマ送りの騙し絵(少しずつ動いていく絵を連続で見て、動いているように錯覚させるあれだ)を見るように、すごい勢いで頁を捲りながら彼女はそう言う。流石は月の頭脳、と呼ばれるだけのことはある。
「発行された年は……ああ、西暦ね」
「セイレキ?」
 聞き馴れない言葉に思わず聞き返す。すると彼女ははっと我に返って軽く咳払いすると、
「外の世界の年号よ」
「なるほど、それはそれで興味深い単語だね」
「そのうち話す機会もあるでしょう。さて、香霖堂さん。この本のお値段は幾らかしら?」
 唐突に商売の話になって、僕は多少たじろいた――なにせ、いきなり買い取られるとは思っていなかったからだ。もうふた押し程、売り込みをかけるつもりだったのだが――が、それは内心だけに留めてすぐさま値段を伝えた。
「わかりました。では、これを」
 彼女がそう言って渡した金額は……僕が提示した金額より、ひと回り多い。
「これは……口止め料、ですか?」
 営業用の言葉遣いに戻して僕が訊くと、
「ご想像にお任せします」
 彼女も事務的な口調に戻ってそう言う。
 まぁそういう事なのだろう、僕は意識的に肩を竦めて、頷いてみせた。
「ところで香霖堂さん。この二冊目の本、比較的新しい本ですよね? 一体何故、今頃になって発刊されたのだと思います?」
「皆目検討も付かないね。推論はいくらでも述べられると思うけれど」
「その推論で構わないわ」
 彼女がそう言うので、僕は軽く咳払いをすると、
「恐らく、この二冊の本の作者は別々なんだろう」
「……でしょうね」
「でも、どこかに繋がりが有ったんだろう。血の繋がりでも、師弟的なものでもいい」
「――それで?」
「こちらの古く伝わる方、こちらは……君の主に、本気だった者ではないかと推測している」
「ロマンティックね。ナンセンスでもあるけど」
「あまり侮らない方が佳いと思うけどね。寿命が短い分、人間の感情は瞬間最大風速がそれ以外の種族より強い時がある」
 僕は、いつも店に入り浸る魔女を思い浮かべつつそう言った。
「……そうね。姫も似たようなことをおっしゃっていたわ」
 目を細めて――正しそれは見下すそれでなく、微笑ましい想いから浮かんだものだ――頷く彼女。
「そしてもうひとつ。その瞬間最大風速を出す力を、持続の方向に切り替えることもできる」
「持続?」
「佳い例が一冊目の本だよ。これは調べてみると千年近く前に書かれたものだろう?」
 もっとも、今卓の上にある本は百年経っていない代物だが。まぁ逆に言えば、何度も何度も発刊されているということにもなる。
「此処幻想郷にも、人が作って千年近く経ったものが無い訳じゃない。故に、人間は永いこと何かを残す能力を発揮することもあると僕は見ている。それは時に無形であり、何かの拍子で有形になったりすることもあるのではないかとね」
「それが、二冊目の本?」
「そう。その通り」
 僕は静かに膝を叩いて言った。
「最初に言った通り、二冊目の本の作者は、一冊目の本の作者とどこかで繋がっているのだろう。そして一冊目の作者は君の主に――特別な想いを抱いていた。だが、その想いは果たされずに別離を迎え……せめて記録にとばかりに、一冊目の本を書いた。ただし、その時点でその作者は君の主に迷惑がかかる可能性を感じていたんだろう。故に――」
「――正確な記録として、残さなかった」
「そう。だけど、僕がさっき言った通り、人の想いというものは結構強い。それ故一冊目の作者の想いは次々と新しい時代に引き継がれていった。いつか、真実を語れるようにとね」
「そして、今になって?」
「ああ。おそらく千年待つようにとか、そういう言葉が残っていたんだろう。ところが千年経ってみると、ひとつの誤算が浮かび上がって来た」
「姫がまだ、ご健在だったって事ね」
「そう、その通り。だが、一冊目の作者――いや、二冊目の作者かもしれないが、万一のことを考えて、もうひとつ手を打っていたんだ」
「それは?」
「二冊目にも、真実だけを書かないようにしたんだよ」
 そう言って、僕は二冊の本を横に並べて見せる。
「この二冊、この二冊が揃って、初めてちゃんと意味が通るようにしたのさ」
「なるほど……」
 以上は最初に断った通り、僕の思いつきである。なのに、彼女は長年の胸のつかえが降りたかのように、腕を組んで深々と頷いていた。
「――私のような演算莫迦には到底理解できない感情ね。――羨ましくも、あるのだけれど」
「え?」
「いえ、なんでも。それより二冊目の本、続き物でしょう?続刊がどうなっているのか、気になりますわ」
「では、続刊らしきものを仕入れたらご連絡致しましょう」
 こうして、お互い取引時の口調になった僕らは儀礼的に頭を下げあって、別れた。



 思っていた以上の、儲け話になった。僕は天井を見上げつつそう思う。これだけ商売が上手く行ったのは何時のことだったか――少し空しくなるので、思い出すのはやめにしておこう。
 しかし、あの本……。
 あの、二冊目の本。
 何故書名が『美○女戦士 ○ーラームーン』なのか。彼女の主――あの月の姫は、かつて戦士だっただろうか。……まぁ、それはそれで似合うのかもしれない。
 そんなことを考えながら、僕は長く喋ったために涸れてしまった喉を潤すべく、お茶の用意を始めたのだった。



Fin.




あとがきはこちら













































「む、むーんぷりずむぱわー、めいくあっぷ……」
「よっしゃぬげ〜!」
「ちょっ、てゐ、やめっ! ど、読者サービスってこのことですか師匠ーっ!」




































あとがき



 香霖と永琳でした(これが言いたかったのかもしれない^^)
 香霖こと森近霖之助は、滅多に客が来ない雑貨屋(?)の蘊蓄が好きな店主と、私のツボを押しまくっているキャラだったりします。おそらくというか、ほぼ確定的というか、老後はこういう感じで過ごしたいと思っていたりいなかったりw。
 本編中にでてきた二冊目の本ですが、霖之助のところに来たのは、恐らく旧装丁版かと思います。一応タイトルはぼやかしましたが、わかるひとにはわかるというか、わからない人は少ないだろうなーとか。あー、でも生放送を見ている人はもう少ないと言っても良いのかな……。
 さて次回ですが、幽々子様か紫の予定です。またちょっと重めの話になるかも?

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