超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「お客様、こちらの春原さんはお客様に使われたがっているようです!」
「僕、道具扱いですかねぇ!」
「それ以前に、お前出番無いだろ」










































  

  





『いちばんぼし、みつけた』



『プラネタリウムはいかがでしょう――』
 そんなアナウンスが、俺達父娘の耳に入ったのは、良く晴れた午後の日のことだった。
 隣町のそのまた隣。かなり大きめのこの街で、俺は今年の春から小学校に上がる汐のために、学用品を買い求めに来ていた。もちろん、当の本人と一緒に。
「パパ、プラネタリウムって、なに?」
 当然のように汐が訊く。
「ん、そうだな。汐、上を見上げてみろ」
 汐は素直に空を仰いだ。
「何が見える?」
「そら。それにくも」
「そうだな」
 俺の合図で、汐は上げていた視線を元に戻した。
「そらとくもがどうなるの?」
「いや、今見えるのが空と雲だろ? プラネタリウムってのはな――」
 そう言いながら、俺はプラネタリウム独特のドーム状の屋根を見上げる。
「昼でも星が見えるんだ。しかもどんな星でもはっきりとな」
 これは俺も間接的に関わっていることになるのだが、最近は俺達の町でも夜空が良く見えない。それは街に街灯が増えている証拠なのだが、地上の闇を駆逐するついでに空の小さな光を隠してしまう結果にもなり、内心忸怩たるものを感じていた。それが、どうしようもないことなのだと、わかってはいるのだが……。
「パパ」
「ん?」
 袖を引かれて、俺は汐に向き直る。
「そこ、行ってみたい」
 少し頬を紅潮させて、汐はそう言った。
「そうか。じゃあ、行ってみるか」
 俺としても断る理由は無い。今日は時間に余裕があるし、滅多に無い汐のおねだりだったからだ。
 そんなわけで、俺達はプラネタリウムの券売機に足を向けた。



『それでは、本日のスペシャルゲスト、イエナさんですっ!』
 プラネタリウムは、結構本格的だった。
 ツァイス・イエナ、光学式投光器。
 その重厚な造りは、最近増えてきたデジタル式投光器とはやっぱり貫禄が違う。
 それは街灯を立てる前段階で使う、ツァイスのレンズを内蔵した測距儀を使ったことがある俺にとって、絶対的な信頼感だった。
 何せ、ずっと離れたところから観ているのに、目印のために目的点の真横で立っている芳野さんの胸ポケットにある煙草の銘柄どころか、その横に書いてある注意書きまで簡単にわかるのだ。その尋常じゃない解像度には、ひたすら驚くしかない。
「わぁ……」
 そんな俺の理屈染みたものとは裏腹に、汐は素直に感動していた。
「大きいね、パパ」
「ああ、そうだな」
 空いているのが幸いし、最前列に陣取った俺達は、ふたりして大きな金属性の砂時計にいくつものランプが付いたような巨体を見上げる。
 そうこうしている内に、館内の照明が完全に落ち、イエナがゆっくりと動き始めた。
 映し出されたのはまず、今の季節――もう春になりかけていたが、冬――の星座だった。
「すごい」
 汐が息を飲む。
 それは、汐が生まれて初めて見た、星空本来の姿だったのだろう。椅子の背もたれが無かったら、ひっくり返らんばかりに見上げている。
 俺も、胸の何処かに懐かしさを感じながら、天球のスクリーンを見上げていた。……おそらく、もう忘れているけども行ったことがあるのだろう。幼い頃、親父と一緒に。
「……ねぇ、パパ」
 汐が小声で俺に訊いた。
「ん?」
 同じく小声で、俺が応える。すると汐は、一拍だけ間を置いて、
「どれが、ママの星?」
 ……え?
「なん、だって……?」
 声が掠れてくれて助かった。なぜなら、今の音量は、普段の時のものであったから。それだけ、動転してしまったのだ。
「ママの星」
 そんな俺の変化に気付かず、汐は繰り返しそう言う。
「絵本にあったから。みんなとおわかれした人は、お星さまになるんだよって」
 ……そうか。
 俺は泣きそうになった。20代も半ばを過ぎた父親が必死になって認めようとしなかったことを、6歳になるかならないかの小さな娘が、しっかりと受け入れていたことに。
 汐は、自分の母親がもう居ないことを理解していることに。
「――ママの星はな、汐が指さした星だよ」
 だから、俺はそう言った。
「え?」
 今度は汐が聞き返す。
「どれでもいいんだ。汐がこれと思った星が、ママの星なんだよ」
「じゃあ……」
 少しだけ悩んだ汐は、天頂の一角を指さした。
「あの星」
 汐が指さした星、それは……それは、北極星だった。
 偶然だと思う。だが、俺はとても嬉しかった。
「ああ、良い星を選んだな。汐」
 だから、俺は言ってやる。
「その星はな、他の星が太陽や月のように動く中、お空で絶対に動かない星なんだ。代わりに、他の星を見守って、そして地上を見守って、いま、みんながどこにいるかを教えてくれる。そんな星なんだよ」
「……そうなんだ」
 汐が頷いたのと同時に、まるで俺が言ったことを証明する為のように、天球図が動き出した。大半の星がゆっくりと円を描く中、北極星だけは静かに見守っている。
「確かにあれは、ママの星だ、な……」
 不意に視界がぼやけそうになった。同時に、汐が俺の袖をそっと引っ張る。
 見ると、汐は嬉しそうに笑っていた。
 だから俺は上を向いて涙を堪えてみせると、同じように笑い返してやった。



「きれいだった」
「ああ、そうだな」
 プラネタリウムを出る頃には、辺りは夜の帳が降りようとしていた。
 今日の空は、良く晴れている。
 だけど、この街は俺達の町よりずっと明るい。故に星の輝きは見つけられそうにもなかった。
「腹、減って無いか」
 俺のすぐ隣で、汐が首を横に振る。
 直後、可愛らしい腹の虫が、申し訳無さそうに鳴いた。
「……ちょっとだけ」
 プラネタリウムに入る時より、ずっと顔を赤くして、汐。
「よし、じゃあどっか食いに行こう」
 コインロッカーに預けていた買い物の荷物を引っ張り出しながら、俺はそう言った。
 久しぶりに肩車をしてやりたくなったが、その荷物で両手がふさがりそうなので断念する。
「あ、パパ」
 汐が俺の袖を引いた。そして空の一点を指さした。
「いちばんぼし、みつけた」
 俺は空を仰ぐ。
 澄んだ空、けれども全体がうっすらと光っている中、ほんの僅かながらも精一杯に、
 小さな星が、瞬いていた。



Fin.




あとがきはこちら













































「パパ、あのお姉さんろぼ――」
「しーっ、それはパパと汐との内緒な」




































あとがき



 ○十七歳外伝、プラネタリアン編でした^^。
 プラネタリアンがパッケージ化されると聞いてきゃっほいとなっていたところに、第二回葉鍵板最萌えトーナメントへ○が出場することを知って、応援するなら……ということで今回の話は生まれました。○が頑張ってくれる手助けになれば幸いです。
 さて、本文中にもありますが、私の住む街でも真面目に星を眺めるのには辛い環境になって来ました。昨今の治安を鑑みるに、暗い夜道というのは危険だという意見は確かに良くわかるのですが……うまい妥協案が見つからなくて何も意見が言えず、困っています。
 それにしても、久々にプラネタリウムに行きたいのだけど近所には無いなぁ……。こちらもだいぶ数が減ってしまって、寂しい限りですね。

 あ、次回ですがちょっと未定です;

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