超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「チョコレートをバーナーでさっと炙ると、ジャイアントカプリコみたいなチョコになります」
「お、さすがはパン屋の娘」











































  

  





『はじめてのバレンタイン。そして』



「ただいま。汐、今帰ったぞ――なんだ、これ……」
 家に帰って、まず鼻についたのが香ばしいを通り越した鼻につく匂いだった。
「――パパ、ごめんなさい」
「いや、いきなり謝られても困るが……」
 次いで、食事を作る手伝いの時に使う小さなエプロンを着ている汐に謝られた。ドアを開ける前に足音が聞こえなかったことを考えると、ずっと戸口待っていたようだ。
「で、いったいどうした?」
 そう俺が訊くと、汐は俺の袖をちょこんと掴んで、そっと引っ張った。
 袖を引かれるまま、流しを見てみる。
 するとそこには、底面が真っ黒くなった鍋が水に浸けてあった。
「あー、鍋ひとつ焦がしちゃったのか」
 ひどく申し訳無さそうに、こくんと頷く汐。
 俺は流しに手を突っ込んで、鍋を取り出してみる。底面は完全に焦げ付いていて、それを落とすにはスポンジやタワシより、金属ヤスリでも持ち出さないと駄目そうだった。
「それで、一体何を作ろうとしたんだ?」
「……チョコレート」
 ――なるほどな。
 すっかり忘れていた。明日は2月14日、聖バレンタインデーだ。
「誰にあげようとしたんだ? それ」
 俺はそう訊いてみる。すると汐は、
「ええと……」
 と、珍しく逡巡すると、
「……パパ」
 はっきりと、そう言った。
「俺?」
 頷いて答える汐。
 ――何というか、あれだ。こうストレートに言われると、嬉しいの前に照れ臭くなる。俺は照れ隠しに鼻の頭を擦ると、教師が生徒に教えるように人差し指を一本立てた。
「汐、チョコレートを溶かすときは、鍋に水を入れて火にかけてから、その上にボールを載っけてチョコを溶かすんだ。湯煎って言うんだが」
「ゆせん?」
「そう、湯煎。これだとチョコレートはお湯で溶ける訳だから、焦げ付いたりしない。……お前のママからの受け売りだけどな」
「そうなんだ……ごめんなさい」
「気にしなくていい。今まで教えてなかったんだからな。だけど、これから火を使うときは必ず大人の居るときにすること。俺に言いづらいときは、早苗さんに頼むといい」
「……うん」
 これは、言っておかなければならないことだった。いくら俺のためでも、汐が事故を起こすのだけは止めなければならない。
 逆に言えば、今まで火の元の注意をしていなかった俺にも落ち度はあるのだが、だからといって中途半端にする訳にはいかなかった。
「もう一人で火を使うなよ、約束だぞ。……さてと――」
 俺は流しをもう一度見る。実は最初に見た時から気になっていたのだが、その隣には皿があって、上には慌てて取り出したのだろう、半分以上焦げたチョコレートがどうにか原形をとどめつつ鎮座していた。汐らしいというか何というか、丁寧にも何等分かに切ってある。
 そこで俺はそのうちひとつを指でつまむと、口の中に放り込んだ。
「――! パパ、それこげてる」
「ん? いいんだよ。汐が作ってくれたものだからな」
「でも……」
「んー、ちょっとビターつうかブラックチョコみたいだが、不味くはないぞ。ありがとうな、汐」
 俺が頭を撫でると、汐はやっと笑ってくれた。
「……うん。パパも、ありがとう」



■ ■ ■



 そんなことがあってから、ざっと十年程経つ。
 あの時のことを思い出しながら俺が家に帰ると、部屋中が甘ったるい匂いに満ち満ちていた。
 何事かと思って台所を見ると、そこには魔女の大釜みたいな鍋からものすごい勢いで湯が沸いており、その上には家で使うボールの中で、一番でかいのが鎮座していた。
 そして火の前には汐が鼻唄を歌いつつ……、
「い〜ひっひっひ! いい〜ひっひっひ!」
 ものすごい鼻唄だった。
「何をやっているんだ。お前は」
 呆れて声をかける。すると、
「あ、あれ、おとーさん帰っていたの?」
 些か戸惑ったかのように、汐はそう言った。
「今帰って来たところだけどな。で、今夜の晩飯はチョコレートか?」
 ボールの中身を覗き込みながら、俺。尋常じゃない大きさの調理器具と怪しい鼻唄のミックスだったから、中身は相当なイロモノと踏んでいたのだが、いたって普通のミルクチョコレートだった。但し、どんぶり2杯はありそうだったが。
「ううん、これは学校に持っていくやつ。明日はバレンタインだからね」
「そうか……いや、ちょっと待て。それにしちゃ多すぎないか?」
「わたしももう、そういう歳なのよ」
「そういう歳って……ま、まさか――! その巨大鍋で溶かしたチョコの量……本気かっ本気なのかマイドーター!」
「あー、おとーさん?」
「渚、汐がとうとう色気付ちまったっ! 俺はどうすればいい!」
 俺はしなを作りつつ、床に崩れ落ちてみせた。
「ちょっ、待った待ったストップ! 勘違いしているってばおとーさん! これは演劇部の男子全員分なのっ。それにおとーさんの分もあるし――」
 ……いや、わざとなんだけどな。
 俺は心の中で舌を出す。
 ただ、そんな季節が近づいてくることに、年甲斐もなく高揚して来たのを隠すためだった。
 バレンタインが過ぎれば、暖かくなっていく。
 それはきっと、貰った側も上げた側も、心が温かくなるせいだろう。……いや、自分でもクサイと思う話だが。
 なんにしても、渚と出会った日が少しずつ近づいてきているのは確かだった。
「ちょっと聞いてる? おとーさん!?」



Fin.




あとがきはこちら













































「しおちゃん、正解です。二回目は『いい〜ひっひっひ!』で合ってます」
「なんの正解なんだよ……」




































あとがき



 ○十七歳外伝、過去と現在のバレンタイン編でした。
 この話はだいぶ前に、2ちゃんねるのとあるスレッド(現在はもう見られなくなってます)に投稿したものに追記、改訂したものです。追記の容量は、ほとんど二倍二倍ですw。
 ところで、本編で○がやってしまったことですが、実は私も同じ轍を踏んでしまったことがあります; なんか変な煙が出て来たな……と思っているうちに、一気に焦げちゃうんですよね、あれ。朋也が教えた方法を知った時は、その手があったかっ! と膝を思い切り叩いたものでした。
 さて、次回ですが現時点では未定です。やるとしたら、ひな祭りかなあ……。

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