超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「ちなみにわたしは誕生日とクリスマスのプレゼントが一緒でした……」












































  

  


「パパ」
「ん? なんだ?」
 明けて、新年。小学一年生の汐も立派に二学期を修了し、渚の誕生日とクリスマスも無事に、そして楽しく過ごすことが出来た。
 そして元旦。ふたりで新年の挨拶を交わし、オッサンと早苗さんにもその日のうちに訪れ、四人でおせちを食べ、俺とオッサンは久々に杯を交わせることが出来た。
 そして今日、一月二日。
 膝の上に乗って見上げる形で俺の目を見る汐は、こう訊いたのだ。
「お年玉って、なに?」
 ……しまったっ!



『岡崎家の、お年玉』



 他所の家庭では知らないが、我が岡崎家にはお年玉と言う概念が無い。
 もちろん理由はある。こう言っちゃ何だが、小さいうちから現金をあげてもろくなことが無いからだ。――誤解しないでほしい。これは、俺の経験則でもある。
 なお、この判断は古河家も一緒で、毎年恒例な正月の挨拶でもオッサンと早苗さんから、お年玉を貰った覚えは一回も無い。……無論、汐の話だ。俺では無い。
 外の親戚のいない両家だから、今まではそれで何の問題も無かった訳だが……。
「お年玉って、なに?」
 そう、汐は今小学生だ。小学生である以上、集団生活を送る訳で、集団生活を送る以上、他所様の事情を知ってしまう訳である。そいつを、俺は完全に失念していた。
 さて、その概念も知らない汐に、どう教えれば良いのだろうか。
 案1。素直に説明し、今年からお年玉をあげる。
 ――却下。オッサンや早苗さんの意向を無視する形になるし、第一俺のポリシーに反する。
 案2。嘘を教えて誤魔化す。
 ――却下。その場凌ぎにはなるかもしれないが、汐だっていつか真実を知ることになる。その時、嘘を教え込まれていたとわかれば、その気持ちが何処に行くのか計り知れない。まかり間違って、ぐれてしまったら……。ううむ、この先は想像したくない。
 案3。問題を先延ばしする。
 ――採用。これで行こう。何も解決していない気がするが、とりあえずこれで行こう。……一瞬、渚の映った写真立てが傾いた気がするが、気のせいだろう。
「汐、お年玉ってのはな――」
 俺は、ちゃぶ台にある湯飲みを取って、ニヒルな笑みを浮かべて行った。
「お前には、まだちょっと早いんだよ」
「そうなんだ」
 汐は、素直に頷いた。
「でも、お年玉ってなに?」
 嗚呼、げに恐ろしきは子供の好奇心かな。
「ああ、それはだな……汐が、お年玉をもらえる位の歳になったら教えてあげよう。今はまだ早いんだ。わかってくれるか?」
「それって、藤林先生が教えてくれた……ええと――そう」
 ありがとう杏。汐に大人というものを教えてくれたお前が、俺からはサリバン先生に見えるぜ……!
「パチンコと、けいば」
 オーケイ杏、うちの娘に素晴らしい情操教育をありがとう。今のお前が俺には小悪魔にしか見えません。
「……まぁ、そんなもんだ」
「でも、隣の席の音無さん、毎年お姉ちゃんから貰ってるって」
「大人なんだよ、隣の席の音無さんは」
「……そうなの、かな」
「ああ」
 多分な。俺はそう心の中で付け足す。お姉ちゃんだけって言うのなら、その音無さんも結構大変そうだが。
「そうだ、汐。今年だけだが、お年玉の代わりに何か買ってやる」
 思わず、そんな言葉が口から飛び出していた。決して甘やかしているつもりはないが、偶には良いかと思ったのだ。
「なにかって?」
「汐の好きなもので良いぞ」
 それは若干余裕を持って言う。今まで汐にそう言って、俺の財布が空になった試しがなかったからだ。
「うーん……」
 そしてこれも今まで通り、汐は散々迷って……、
「これが、いい」
 そう言って抱き寄せたのは――渚が大切にしていた、だんご大家族の巨大な縫いぐるみだった。



■ ■ ■



「参った……」
 昼過ぎの商店街で、俺は大きく息を付いた。
 売って、ない。
 渚の時でさえ苦労していただんご大家族のぬいぐるみは、もう何処にも売っていなかった。
「くそ、どうする……」
 自分の放った軽口が、恨めしく思える。結果として心を痛めるのは、俺ではなくて汐だからだ。
「悪い、汐……」
 ちゃんと説明しておけば良かった。お年玉は別に大きくなって貰うものじゃなく、岡崎家としてあげていないと言っておけば、まだ――、
『それって、藤林先生が教えてくれた……』
 俺は顔を上げる。汐の声とともに脳裏に浮かんだのは、腰に先っぽが尖った尻尾をぶら下げた生意気な――小悪魔の姿。
 財布の中身を確認して、無意識に自宅へ向けていた踵を返す。
 行き先は、洋裁店だ。



■ ■ ■



「それで、あたしんとこに来た訳ね……」
 と、杏は呟いた。
「ああ……」
 俺は素直に頭を下げる。
 そう、無いのなら作るしかない。だが、俺には裁縫の腕が無きに等しい。そこで頼ったのが……杏という訳だ。
「布、糸、針、それに綿――まぁ、一通りの材料は買ってきたみたいね」
 それに加えて、商店街のケーキをホールで一箱。所謂手みやげだ。
「いいわ――」
「済まない」
 杏の返事に、俺は静かに頭を下げる。
「――みっちり鍛えてあげる」
「……はい?」
 下げた頭を静止させて、俺。
「杏、今なんて――」
「だから鍛えてあげる」
 にっこり笑って杏はそう言った。
「俺が? お前がじゃなくて?」
「何甘えたこと言ってんのよ。蹴り入れてばらして並べて晒すわよ?」
「ハイ、スミマセン」
「大体ね、汐ちゃんに嘘教えなかったって言うけど、問題を先送りすること事態が嘘じゃないの」
「仰る通りです……」
 杏に言われて初めて気が付いた。確かに俺が言ったことは嘘になっている。
「やべえ、汐がぐれる……」
「――アンタね、それくらいで汐ちゃんがぐれたら世の中不良の巣窟よ」
「許せ汐っ! だから髪を染めるのはやめてくれっ!」
「正気に返れっ!」
 たまたま手近にあった本を投げたのだろう。次の瞬間には俺の額に『ナルニア国物語』の一巻が刺さっていた。多分園児に読み聞かせる為のものだろう。
「さぁ、夕方になるまでに終わらせるわよ」
「あぁ……」
「アンタが急がないと、それだけ汐ちゃんが待ちぼうけになる訳なんだからね」
「う、うおおおおおおおおおおおおっ!?」
 その日、俺は裁縫の鬼になった。



■ ■ ■



「だんごっだんごっ――」
 どうにか日が落ちる前に自宅に帰ってきて、紙袋からそれを取り出した途端、汐はそいつに抱きついてそう歌った。
「ちょっと不格好だろ」
 俺は腰を下ろしながら、つい、そう訊いてしまう。すると汐はそんなことないとばかりに大きく首を横に振り、
「でも、とてもかわいいから」
 と言って、しっかりと縫いぐるみを抱き締めたのだった。
「そっか……痛て」
 俺は照れ隠しに鼻の下を指でこすろうとして、小さく悲鳴を上げる。
「どうしたの? パパ……」
 だんごを抱えたまま、心配そうに汐が訊いた。それはそうだろう。俺の手の指全てに、絆創膏が貼ってあるのだから。
「まぁちょっと、兇悪な猫に噛みつかれてな」
「……痛くない?」
「ああ。痛くない」
 多少気合いを入れつつ、俺は汐の頭を撫でる。それだけで汐は安心したのか、新しい家族となっただんごに勢いよく顔を埋めたのだった。
 ――おそらく、冬休み明けの三学期には、またお年玉の話題が出るだろう。その時に真実を話そうと思う。
 それまでは……ただ、幸せそうな汐を眺めていたかった。まぁ、これは俺の我が侭になるんだが。



Fin.




あとがきはこちら













































「さらにお正月に甘酒といわれて渡されたのが、蜂蜜入りホットミルクでした」
「なかなかにすげえな……」




































あとがき



 2006年最初のSSはCLANNADでした。
 そう言う訳で○十七歳編外伝、正月回想編です。
 本文中に出てきたお年玉の取り扱いですが、アレは私の家の環境と一緒だったりします。いやあ、あの頃はこすっからくない生活を送っていたなぁ……(いまはそうではないらしい)。
 さて次回は……バレンタイン――かな?

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