超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「いよっしゃー! とうとう僕が主役だっ」
「えー……」
「なんで岡崎はそんなに嫌そうなんですかねぇ!」












































  

  


 珍しいわね。汐ちゃんの方から呼んでくれるなんて。
 忙しかったかって? そんなこと無いわよ。今は夏休みだからね。
 それで? ああ、皆まで言う必要は無いわ、任せなさい。
 この藤林杏、元担任の名にかけて、汐ちゃんの恋のサポートをしてあげ――え、違う?
 なに、そんな兆候は無し? これっぽっちも?
 駄目よ、汐ちゃん。あたしはいまだに独身だけど、汐ちゃんの齢にはもう恋愛経験あったんだから。……ちょっと、何笑っているのよ、本当よ。
 え? 相手が大体想像できる!?
 ちょ、そんなことはどーでもいいじゃない……いいのよっ。それ以上笑うと怒るわよっ。
 は? じゃあ陽平はって!?
 問題外よ、問題外。
 だってあいつあのときから変わって無いじゃない。せめて朋也みたいにこう――深みを感じさせてくれるようになれば――あ。
 ……い、今のは無しね。特に朋也には内緒よ? 内緒。
 で、その陽平がどうしたの? まさかあいつ、とうとう汐ちゃんに色気使い始めたとかした?
 あ、それも違うのね。良かったわ。でないとあたし、あいつを三途の川送りにするところだったから。
 それで、陽平は何をしたの?
 ……? 特大の西瓜を一玉持って来た後、帰り際に『もう、僕は必要ないみたいだね』って汐ちゃんに!?
 なんていうか、キザね。
 まあ――でも――うん、わからなくは無いわ。去年の夏……ううん、そのちょっと前からあたしも似たようなこと考えていたし。
 理由?
 そうね、理由は知っているけど……汐ちゃんは知りたい?
 え? 口を割らせるのは多分簡単だろうけど、それをしちゃいけないような気がする?
 ははーん……鋭いわね、汐ちゃん。確かにあいつから聞き出すのは簡単だけど、今回だけはあたしに聞いた方が正解だわ。

 そうね……何処から話せばいいのかしら……。
 話はね、汐ちゃんが生まれた時にまで溯るのよ。そう、汐ちゃんのお母さんが亡くなった日に……。



『あの、始まりの日』



 その日、久々に陽平から電話があってね。
 あんたからかけてくるなんて、珍しいじゃない。学生時代だって二、三回しかかけたこと無いくせに――って軽口叩いたんだけど、昔だったらそこで反撃とばかりに噛み付いてくるはずの反論が無かったのよ。
 さすがにおかしいなって気付いてまじめに訊いたの。何かあったのって。
 ――そこで初めて、汐ちゃんのお母さんが亡くなったのを知ったわ。
 お葬式を次の日に控えていてね。
 うん、陽平は早苗さんから聞いたみたい。
 いつもだったら、もっと早く教えなさいとか言うところだったんだけど、流石に話が話だったから、その時は普通に電話を切って、次の日椋と一緒に向かったの、古河パンに。
 うん? そう、古河パンよ。
 それは正解だと思ったわ。だってすごかったから、お葬式。
 ――覚えてる? 去年のお墓参りのこと。
 そう、その時いた人がそのまま居たのよ。うん、ひとり残らず。だから、あのお墓参りの時も驚いたのよ。本当に、みんな来たんだって。
 話を元に戻すわね。お葬式の時のお話。
 ……そうね。みんなショックを受けていたわ。汐ちゃんのお母さんがお世話になっていた先生とか、美佐枝さんとか、芽衣ちゃんとか、みんな泣いていたし。
 その中にはもちろん陽平もいてね、あっちこっちに動いては、みんなを慰めてた。
 そう、不自然なくらい明るかったわ。そして、普段からは信じられないくらいしっかりしてた。
 例えば、智代。
 あいつは――そうね、汐ちゃんの言う通り泣いてなかった。でもものすごい怖い貌でね。とてもじゃないけど近付ける雰囲気じゃなかったの。
 でも陽平はそんな智代にも平気で話しかけてた。何を話したかわからなかったけど、智代がちゃんと受け答えしていたから、馬鹿な話じゃなかったと思う。
 そうこうしているうちに、陽平はあたし達に気付いてね。
「やあ、杏。それに委員長も」
 椋が挨拶を返したけど、あたしはそんな気分じゃなかったから、片手を上げるだけ済ませたわ。
「来てくれてありがとう。渚ちゃんもきっと喜んでいるよ」
「……昨日と違って、あまり落ち込んでいないみたいね」
「僕だって気分はどん底さ。でも、みんな落ち込んでいるからね。そういう杏はどうなのさ?」
「あたしは……」
 一瞬言葉に詰まったわ。だって、何でこんなに冷静なのか、自分でもわからなかったから。
「あたしは、そんな落ち込んでいられるほど余裕が無かったわ」
「なるほどね。余裕がないって意味じゃ、僕も一緒かな。なんせ――」
 陽平はそこで一回、ため息を付いてね、
「なんせ、岡崎の奴が今いないし」
 言われて、そこで始めて気が付いたわ。
 朋也がいなかったのよ。
「何で? 何で朋也がいないの!?」
「同じことを智代にも言われたよ。でも、僕に言われても困る」
「そうだけど……」
「それよりさ、渚ちゃんに挨拶してあげてくれないかな。そろそろ式が始まっちゃうから」
「あ……うん」
 白状するわね。その時まで、意識的に棺のことを考えていなかったの。
 今ならわかるんだけど、認めたくなかったのよね。汐ちゃんのお母さんが亡くなったって事を。
 でも挨拶をしない訳にもいかなかったし、意識したからには、しないつもりもなかった。

 汐ちゃんのお母さんはね、眠っているかのように横たわっていたわ。

 なんて言うのかな、胸が締め付けられるようだった。
 なんで、こんなに穏やかなんだろうってね。そう思ったわ。
 一緒に居た椋が何か言おうとしたけど、結局できなくて、代わりに泣き出しちゃって、あたしと陽平で慰めてね。
 そこでお葬式が始まったの。
 美佐枝さんとか、芽衣ちゃんはまだ泣いていたし、智代は怖い貌のままだった。
 陽平は――。
 陽平は、滅多に見ない真面目な貌だったわ。
 あんな真面目な陽平は学生時代でも数えるくらいしかなかった。……そうね、一番印象に残っているのは、バスケの3on3の時だったと思う。そう、朋也と智代と陽平の三人で、バスケ部と試合したときの話ね。
 その時も、そのことを思い出していたわ。
 ああ、あいつもこんな貌するんだったなって。
 だけど、それも献花の時までだったわ。
 みんなでね、最後にひとりずつ一輪一輪添えていったんだけど、陽平の番になったとき、あいつはそれまでの真面目な貌から、急に柔らかくなってね、
「これで、お別れだね」
 まるで、学生時代の時のように飄々と話すの。
「まさか、こんなに早く別れることになるとはね……本当、思ってもみなかったよ。だってさ――」
 でも、
「――だってさ、違うだろっ!? こういう事になるとしたら僕らの方だろっ! なんで渚ちゃんがこんな目に遭わなきゃなんないんだよ!!」
 吃驚したわ。陽平が本気で泣くのを初めて見たから。
「……ほんとはさ、岡崎のやつを引っ張ってでも連れてきたいところなんだけどさ……僕、あいつが今どんな気持ちなのかわかるから。だからさ、渚ちゃん――もう、許しているかもしれないけどさ――」
 棺を覗き込むようにして陽平はね、
「渚ちゃん、あいつを許してやってくれ……」
 無いはずの返事に、元気な泣き声が帰って来たわ。
 そう。汐ちゃん、あなたが泣いたのよ。
 それまでは早苗さんのとなりで、小さなゆりかごで眠っていたの。
「ああ……吃驚させちゃったね」
 みんな吃驚していたけど、それが陽平を落ち着かせたみたいでね、あいつは一回袖で顔を拭くと、そっとゆりかごに寄ってね、そのままゆっくりと抱き上げたの。
「君が汐ちゃんか。良い名前をもらったね」
 そうしたらね、汐ちゃんは泣きやんだわ。
「へへっ。お母さんに似て、強い子だね」
 そう言って、陽平は揺り籠の中に汐ちゃんを寝かしてあげたの。
「汐ちゃん、君も君のお父さんを許してあげて欲しい。――あいつは今何処にも居ないけど、きっと君の許に帰ってくるから。きっとね」



 出棺した後、そのまま参会になったんだけどね、あたしは椋を先に行かせて陽平と駅まで行くことにしたの。見送りって事で。
 でも本心は、あいつとちょっと喋りたかったからなんだけどね。
「陽平……」
「ああ、杏には格好悪いところ見せちゃったね」
 その頃には陽平はいつもの陽平だったわ。
「杏はさ、ここから近かったっけ。家」
「近いっちゃ、近いけど……」
「そうか、良かった。ひとつ頼まれてくれないかな」
「……なにを?」
「汐ちゃんの面倒を見て欲しいんだ。あの子が一人前になるまでさ。もちろん僕だって出来る限り様子を観に来たいんだけど、何分遠いからね……」
 突然そう言いだしたから、あたしはちょっと面食らっちゃったんだけど、言うことは言っておこうと思ってね、こう言ったわ。
「汐ちゃんは、古河家の人たちに任せて大丈夫だと思うけど……」
「うん、僕もそう思う」
 あっさりと、陽平は認めたわ。
「でもさ、出来る限り様子を見に行こうと思うんだ」
「――なんで?」
「見守りたいんだよ。渚ちゃんの代わりに」
「代わり?」
「そう、代わり。まぁ突き詰めていけば僕の我が侭なんだけどね」
 まあ、それが理由なのよ。あいつなりの。
 この頃は、あたしもまだ保母じゃなかったから、出来る限りとかしか答えなかったわ。――あ、先に言って置くわよ。この約束が元で保母になったんじゃないからね。汐ちゃんの担任になったときだって、吃驚仰天したくらいなんだから。
 でも、あたしの聞きようによっては反故同然の返事でも陽平は頭を下げて喜んだわ。
「今から楽しみだなぁ。汐ちゃん、成長したらきっといい女の子になるぜ?」
「……そうね。あたしに負けない良い娘になるわね」
 そんな感じで笑い合って、
「じゃあそれまでは」
「お互い、頑張りましょ」
 あたしと陽平は駅で別れたわ。



 さてと、あたしの話は此処でおしまい。
 ……ねえ汐ちゃん。なんで、今頃になってお葬式のときの話をしたと思う?
 答えはね、陽平がもう言っているんだけど、もう汐ちゃんにその話をしても良いと思ったから。
 あのときの事を、汐ちゃんが受け入れられると思ったから。
 それだけ、汐ちゃんが強くなったって事よ。
 陽平が言うところの一人前になったってことよ。
 あ、そうそう、先に言っておくわよ。お礼はあたしじゃなくて陽平に直接、ね。
 大丈夫よ、大丈夫。これで最後とか自分でも思っているに違いないけど、気になって仕方なくなるに決まってるんだから。賭けたっていいわ、あいつはまた来る。だから、お礼はその時にね。
 あ、それと。
 今度あたしを呼び出す時は、彼氏を連れてくること。いい? 約束だからねっ。
 え? 無理? 何とかしなさい、女の子でしょ?
 楽しみに、待ってるわよっ!



Fin.




あとがきはこちら













































「ちょっ、これじゃ杏が主役じゃん!」
「あ? なんか文句ある?」
「ひぃぃ! あ、ありませんっ!」(さめざめ)




































あとがき



 ○十七歳外伝、お盆編でした。
 何度か書いていますが、春原と杏は本編でも○十七歳編でも思いっきり活躍している名脇役ですが、今回はそのふたりにタッグを組んで貰いました。
 その結果、なんかカップルみたいになってしまいましたが、冒頭で杏が言う通り恋愛対象とは見ていないようです。おそらく、それはお互い様なんでしょう。なんで、○にからかわれるとw。
 後、今回は本編で全く触れられなかったお葬式を取り上げてみました。
 彼がその場にいなかったのは、やはり現実を受け入れたくなかったからだと思います。ちょっとひどいなと、自分でも思ってしまったんですけれども;
 
 さて次回ですが……かなり未定です;
 久しぶりにギャグものやりたいんですけど上手く行くかなあ……。


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