超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「ぶいっですよっ」
「なにい!?」










































  

  





『Pass a long time』



『クックックックック……』
 舞台の一角、誰もいない所から美声が響く。
『OK、ファッキンシープ(『憐れな子羊』)……』
 舞台装置を使い、床から上がってくるのは超絶格好良い色男だ。若々しい肉体を誇示するかのように、身体にフィットした衣装を身につけ、口にはイカした煙管をくわえている。
『たっぷり憐れんでやるぜ――!!』
 凄みを効かせて見栄を切る姿はまさに最高。そしてそこから華麗にて波乱なる戦闘シーンへと続いていくのだ。いやっほう!
「な、最高だろ?」
 俺はビデオのコントローラー片手に、隣りで一緒に見ている汐にそう言った。
「え、ええと……演技もなにもこれって地じゃない?」
 そう言いながらも汐はテレビの画面から目を離さない。
「っていうかあっきー、この演目、原作を読んだことがあるんだけど、なんかだいぶ違うような――」
「ああ、脚本の奴と俺とで随分と中身いじったからな」
 俺がなんでもないようにそう言うと、俺の自慢の娘である渚のさらに自慢の娘、汐は一瞬ジトッとこっちを見た。
「あっきー……」
「俺の役が大暴れ。わかりやすくて良いじゃねぇか」
「わかりやすすぎじゃない?」
「……だがそれがいい――そう思わねぇか?」
「思いません」
 きっぱりとそう言われると、上手い反撃の言葉が思いつかない。俺も年を食ってきた証拠だ。
「でも……」
 再び画面から目を逸らさずに汐。
「勉強になるところは結構多いかも……ほら、今の殺陣とか。切られ役を上手に捌いてる……」
「そうか、それなら物置から引っ張り出しただけあるぜ」
「うん、ありがと」
 と、居間にある時計が鳴った。時刻は既に年頃の女の子がひとりで帰る時間じゃなくなっている。
 それでも汐はいる。そんな時間まで引き留める俺じゃないし、第一早苗が許さない。
 ――まあ種明かしをすると、小僧が出張で汐が泊まりに来たってことなんだが。
「お茶がはいりましたよー」
 器用に湯飲みを三つを持って、早苗が居間に入ってきた。
 俺がビデオを止め、それがわかっていたかのように汐がちゃぶ台の代わりに設置したこたつに座り直す。
「お盆、どうしちゃったんですか?」
「この前、秋生さんが……」
「久しぶりにこわしやの漫画を最初から読み返していたら、ピンポンしたくなったんだよ。でもラケットがないから代わりに……」
 ため息をつかないでくれ、汐。俺だってまさか早苗のゲンコツミニドーナツをピンポン玉代わりにつかって、お盆が割れるとは思わなかったんだからな。
 ――もちろん口では言っていない。この寒空の下、早苗とマラソンはちょっとご免だ。
「汐ちゃん、秋生さんと一緒に何のビデオを見ていたんですか?」
 ありがたいことに、早苗が話題を変えてくれる。くーっ、汐が泊まってなきゃ、今夜は寝かさなかったぜ。
「あっきーの舞台。ビデオに収まっていたのをこの前の大掃除で見つけたからって」
「それは……懐かしいですね」
 わたしも生では見ていないんですよと早苗が言うと、汐は不思議そうに、
「あれ、その頃にはもう一緒じゃなかったんですか?」
「秋生さんと出会ったのはもうちょっと後なんです」
 へぇ……と湯飲みを両手で持ちながら汐が頷く。
「そういえばあっきー、あっきーと早苗さんは、いつ、どんな感じで出会ったの?」
「あん? 聞きたいのか?」
「うん」
「汐ちゃん――!」
 俺が答えようとする先、早苗がそれを遮った。そして、こんな目出度いことは今まで無かったといった顔で、
「汐ちゃん、彼氏出来たんですねっ!」
「ぶっ――」
 どうでも良いが、吹き出したお茶が熱いぞ。俺のドーターオブドーター。
「な、なっ、なんで――!」
 ちっ、顔が赤くない。この様子じゃ外れか。
「渚がよ、小僧と付き合い出した時に同じこと聞いてきたからそー思ったんだよ。早苗は」
 顔にかかったお茶を拭きながら、俺は説明してやった。
「なるほど……でもわたし、お母さんと一緒とは限りませんから――残念!」
「おお。古いの知ってるなぁ」
「あんまり自慢にならないけどね。それよりふたりが出会ったのって――」
「ヒロシって知ってるか? 実はな、ネット上の人物じゃなくて実際に居るんだぜ?」
「……誤魔化さないの」
「やっぱ秘密だ」
「え〜〜〜」
「汐ちゃんに、彼氏が出来たら教えてあげますね」
 ややむくれる汐に、あくまでさわやかな笑みを浮かべて早苗がブロックする。
「早苗さん、ずるいですよ……」
「御免なさい、でも――」
 早苗は、珍しいことに悪戯っぽい笑みを浮かべて、
「でも、渚と同じラインの方が、汐ちゃんも良いでしょう?」


■ ■ ■


 時計が、23時を指した。
「さてと」
 そう言って立ち上がる汐。
「あ? もう寝るのか?」
「うん、明日早いの」
「つったってお前、まだ夜更けにゃ程遠いぜ?」
「明日朝連だもん。万全にしておきたいの」
「もう少しくらい、いいだろ?」
「だーめ」
 それじゃあっきー、お休みー。
 そう言って、手を振りながら汐は部屋に帰って行ってしまった。
「……なんつーか、渚に似たのは外見だけだと思っていたけどよ、ああいう律義な所は俺達の娘に似てるなあ」
 取り残された気分になって、俺はそうぼやく。
「そうですね。でも、朋也さんも結構律義ですよ?」
「いや、汐が小僧から似たのは普段の性格だけだな」
「そうなんですか」
「ああ。間違いねぇ。あいつの場合、朝連と俺達なら、まだここに居た」
「そうなのかもしれませんね……お茶、淹れ直しましょうか?」
「いや、このままで良い」
 熱いお茶の方が最高に決まっているが、今はそんな気分じゃ無かった。
「なぁ、早苗」
「はい?」
「前から思っていたんだけどよ、汐が泊まってるからってわけでもないが、今訊くぞ」
「なんですか?」
 俺は、一呼吸おいてから口を開いた。
「――汐に、『ちゃん』を付けるようになったのはいつ頃からだ?」
 ふっと、早苗の動きが一瞬止まる。
「さぁ……」
「――俺とお前の中だろ。今更隠し事は無しだぜ?」
 そう、俺は早苗が汐の呼び方を変えた時期を知っている。だが、それは早苗の口から出て来なきゃ意味がない。
 それを言わないでいると、早苗は流石秋生さんですね、と前置きした後、
「朋也さんが、汐ちゃんと一緒に暮らすようになってからです」
 ……やっぱりそうか。
「どうしてだ? 今まで通り『汐』でいいじゃねぇか。なんであれから……」
「駄目ですよ」
 俺の言葉を遮って、早苗は一瞬だけ笑みを消すと、
「汐ちゃんは、朋也さんの子ですから」
 ……ああ。
 そういうことか。
 早苗にとって、『汐』であったとき――小僧が汐と直面出来なかった頃だ――、早苗が汐を厳しく育てていたことは、この俺がよく知っている。
 傍目から見てもすぐそれとわかる、自分を決して母親とさせない育て方。いつか小僧――いや、朋也が戻って来た時、自分がすぐ手を引けるようにと自らにも徹底した育児はしかし、ほんの一部分で早苗にとっては自分の子としても育てていた事になってしまっていた訳か。
 『汐』と呼ぶ、たったそれだけのことで。
「それで、『汐ちゃん』か」
「――はい」
 そう、そして『汐ちゃん』になった時点で、汐は晴れて孫になったという訳だ。
 ――まったく、お前ってやつは。
「……早苗よ」
「――はい」
「お前は、意外と人に厳しいところあるけどよ、それ以上に自分に厳しすぎだぜ?」
「そうですか?」
「そうだよ。何年つき合っていると思って居るんだ。俺達ゃ」
「……そうですねっ」
 些か、無理矢理に微笑む早苗。俺も、それに応えるよう無理矢理唇の端を上げてみせる。
「まあでも、お前の言いたいことはわかった。だけどな、ひとつだけ確認させてくれ」
「はい」
「汐は……お前にとっての『汐ちゃん』は、家族だよな?」
 馬鹿なことを聞いているな。そう思う。
 でも、早苗は真剣に、
 さも当然というように、
 そして、とても嬉しそうに、
「もちろんですよっ」
 と、俺達が出会ったころと寸分変わらない笑顔で答えてくれた。
「そうか、それならいい」
 俺も、あの時のように表情を隠して頷いてみせる。
「秋生さん……」
 あぁ、俺の嫁って、本当にいつになっても若いよな……。
「なぁ早苗今夜その…… や ら な い か ?」
「そういうのは、汐ちゃんが帰ってからにしましょうねっ」
 くうっ、俺の嫁っていつになってもガード堅いなあっ!



Fin.




あとがきはこちら













































「イヤッホウ! 古河最高!」
「秋生さん?」




































あとがき



 ○十七歳古河家回想編でした。
 一連の○十七歳を書いていて、よく悩むことがいくつかあります。
 そのうちのひとつが、早苗さんの○に対する呼び方でして、これをゲーム本編に準拠した呼び方にすると、どうもしっくりしなくなってしまうのです。
 うーんどうするべか、違和感を覚えているのは私だけの可能性もあるし、このまま本編準拠でいいか――などと散々悩んだあげく、どーにも落ち着かないので変えてしまいました。
 という訳で、早苗さんの○に対する呼び方が本編と異なってしまったのですが、これだと話をさせたりする中で引っ掛かるものを感じないから不思議です。もっとも、今の時点で私以外の人からその件について聞いていないので、まったく見当違いな事になっているのかもしれませんが;
 冒頭、あっきーの演目についてですが、こちらは『ヒビキのマホウ』が連載されている少年エースを読んでみればわかると思います。私の中では、若いころのあっきーはあんな感じだったんじゃないかなーとw。

 さて、次回ですが……もう一本、追憶編になりそうです。

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