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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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そろそろ、出番かな?










































  

  





『秋桜の畑を抜けて』



 土の具合は、非常に良い。
 指でそれを摘みながら、男は満足気に頷いた。
 今年の夏は大変暑く、その終わりには大きな台風が一回だけ通り過ぎたが、その後はすべてが良好と言えた。
 秋、収穫の季節である。
 TVの画面からは、都会の彩りが秋のものへと改装されて行く様を映していたが、ここでは、人は何もせずとも装いは改められて行く。あえて言うなら、田畑だけが人の手を借りるということになるだろうか。例えば、男が今居る小さな菜園とか。
 本当に、小さな菜園である。近所の農家から分けてもらった2〜3坪のその土地は、彼の家庭菜園だった。
 園丁鋏を持って、パチ、パチと収穫し、傍らに置いたザルに盛っていく。
「あの……」
 ふと、背中の方から声がした。男は手を休め、ゆっくりと振り向く。
 そこには、可愛らしい服装の少女がいた。白いレースのフリルがついたワンピースに、淡い桃色のカーディガン、そして紅葉色のベレー帽を身につけていた。長いスカートの裾が、伸びた雑草にからまらないよう、注意しながらこちらに歩いてくる。
「やあ」
 男は、片手を上げて挨拶をした。見覚えのある顔であったからだ。
「久しぶりだね。汐さん」
「あ、はい。お久しぶりです。ええと……」
「お祖父さん、でいいよ」
 と、男――岡崎直幸は言った。首にかけたタオルで、汗を拭く。
「――朋也も来ているのかい?」
「はい。家の方にいます」
「迎えに来てくれたんだね。ありがとう」
「い、いえ」
 少し、強ばった声だった。直幸は微かに眉根を寄せて、汐を見上げる。
「どうしたんだい?」
 屈み込んだまま、そう問う。すると汐は少し迷った後、
「――すみません、少し緊張しています」
 素直にそう言って、少し俯いてしまった。
「……そうか、それは仕方ないね」
 おそらくは自分の言動が、彼女を緊張させている。薄々気付いていはいるのだが、かと言ってどう改めれば良いのか直幸にはわからない。
 代わりに、彼は収穫を手早く済ませると、ザルを持って立ち上がることにした。
「さぁ、行こうか」
「あ、わたし持ちます」
 すかさずそう言った汐に、直幸はやんわりと手を振って断った。
「こういうのも、楽しみのひとつでね」


 一面の花畑を通る。
 今は秋桜――コスモスが旬で、その淡い桃色の絨毯に汐のカーディガンが良く映えた。
 直幸は知る由もないが、此処は朋也と汐が和解した場所でもある。
「――変りませんね」
 と、歩きながら汐が呟いた。
「……ああ。ここだけは変らないね」
 直幸が頷く。
「ところで、汐さん」
「あ、はい」
「その服を選んだのは、朋也かい?」
「え――わかるんですか?」
「あぁ、わかるとも」
 昔、俺も朋也に似合わない服を着せたからね。と、直幸は続けた。当時は、それが似合うと思っていたのだが。
「親子だね。こういうところは――」
「そうかもしれないです」
 と、汐。少しだけ、声が和らいでいる。
「それで、君はどのようにしてその服を着ることに承諾したんだい?」
「――え?」
 不思議そうに聞き返されて、却って直幸の目が丸くなってしまった。
「何か、交換条件を出したんじゃないのかい?」
「いえ、特には。――たまには、こういう服も良いかなって」
 そういうことを、考えてもみなかったといった表情で、汐。
 
 穏やかな風が、秋桜の花畑をひと撫でしていった。
 
 ――ああ、この子は朋也とは違うのだな。と、直幸は思った。同時に、朋也の娘としてしか見ていなかった自分を恥じる。
「――君は見た目、朋也そっくりだね」
 一瞬、汐の足が止まった。
「……そう言われたの、初めてです。今までは、母に似ているとしか――」
「そうかい?」
 不思議そうに、直幸。
「朋也にそっくりだよ、君は。でも、中身が違う。君は――君自身だ」
「それも、初めて聞くような気がします」
 隣に並んでいる直幸を見ながら、汐は言う。その貌には嬉しそうな微笑みを浮かべていた。
「汐さんは、いい子だね」
「え?」
「ちゃんと朋也と話し合っている。……俺とは違ってね」
「でも、今はちゃんとわかりあえていると思います」
「うん、そうだね。でもね、汐さん」
 今度は直幸が足を止めた。汐もそれに合わせて立ち止まる。
「それでも言わせてくれ。――どうか、どうか朋也と仲良くやって欲しい。朋也のように、辛い目に遭わないで欲しい。今仲が良いのなら、これからも、ずっと――」
 決して、俺のようにはならないで欲しい。そう続けたかったが、言葉が出なかった。すると汐は、
「任せてください。此処のお花畑に誓って、ずっとずっと好きでいます」
 と言って、笑ってみせた。
 その声に、先ほどまであった固さは微塵もない。どこまでも柔らかい声だった。
 そしてその答えに、直幸は満足した。何も言わず、ただ大きく頭を下げる。
「行きましょう。父が――おとーさんが待っています」
「……ああ、そうだね」
 こうして、祖父と孫は花畑を後にした。
 再び穏やかな風が、秋桜の花畑をひと撫でしていく。



Fin.




あとがきはこちら













































そろそろ、出番かな?




































あとがき



○十七歳、帰郷編でした。
 以前BBSのリクエストで、直幸と汐の話というのがあったので書いてみました。今回は、緊張した○の口調をわざとあの人っぽくしてみたのですが、上手く行ったでしょうか。
 にしても、直幸は難しいです。ラスト近辺のしゃべり方で行ってみたのですが、ちょっと違和感が。うーん;
 ちなみに○の服装ですが、朋也の趣味と言うより私の趣味だったりします。どっちかというとことみや渚に似合うなあと思ったりw。

 さて、次回ですが。もう一回直幸を出してみたいと思います。


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