超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
ブラウザのバックボタンで戻ってください。

このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

それでも読む方は方はここをクリックするか、
ガンガンスクロールさせてください。






































どこにも行かないよな、渚。










































  

  


 目を覚ますと、俺の胸の上に汐の手のひらが乗っていた。
 自分の布団から手を伸ばして、本人は気持ち良さそうにすかーっと寝ている。
 無意識のうちにやったのだろう。小さいころからの癖だ。
 そしてその原因は、俺にある。

 大分、前の話だ。
 あれは、汐がやっと小学校に上がったとき辺りだったと思う。
 小さな声に目を開けると、俺の隣の布団で、汐がぐずついていた。
 たいしたことに、どんなときでも泣かないと決めたあいつは、涙を見せなかった。
「どうした? 汐」
 と、俺。聞けば、とても怖い夢を見ていたという。
「そうか、なら一緒に寝るか?」
 そう訊くと、汐は小さく頷いてそっと布団の中に潜り込んだ。
 それでも、その小さな身体が震えていたので、俺はその小さな手をとって、胸の上に置いてやった。
 すると、汐は安心して寝入ってくれた。

 それからだ。
 汐は恐い夢を見るたびに、そっと俺の胸の上に手を乗せるようになった。
 かつて、俺がそうしてもらったように。



『命の証』



■ ■ ■



「朋也くん、どうかしましたか?」
 渚の声で、俺は我に返った。
「渚――だよな」
「はい」
 迷いも何も無い返事に、俺は深く息をつく。俺は布団の中にいて、渚は隣の布団の中。
 まだ真夜中だ。
 天井を見る。間違いない、俺達のアパートだった。
「怖い夢を見たんだ……」
「どんな夢ですか?」
「お前が居なくなるような、そんな夢」
「わたし、ここにいます」
「うん、わかってる……」
 布団の中に入ったまま、額の汗を拭き、そのまま手のひらを顔の上に乗せる。
 恐ろしいくらいの、喪失感だった。
「朋也くん」
「うん?」
「まだ、恐いですか?」
「――ああ」
 俺は素直に頷いていた。普段なら渚の手前多少は強がることができたが、その返事に否定することは、渚を失っていいという肯定にもなる。
 その渚は、布団の中で何か考えたあと、
「朋也くん、そのままでいいですから、手を貸してください」
 はっきりと、そう言った。
 俺はそのまま渚の方に手を伸ばす。すると、渚も手を伸ばし、しっかりと手を握ってくれた。そしてそのまま、自分の布団の中にずぼっと入れる。
 程なくして、柔らかくて暖かい感触が手のひらに伝わって来――こ、これは……。
「朋也くん」
「あ、ああ」
 いささかどぎまぎして、俺。
「朋也くん。わたし、生きてます」
 言われて、初めて渚の動悸に気が付いた。静かに、それでも確かに動いている、鼓動。
「だから、心配しないでください」
「あ、ああ……」
 急に、身体に入っていた余計な力が抜けた。俺は顔の上に乗っかっていたままだった方の手のひらををどける。
「――そうだよな。渚はちゃんとここに居る」
「はい、ちゃんといます。朋也くん」
 どいてくれと言われたって、どきません。渚はそう続けて言って、笑った。俺も連れられるように笑ってしまう。
「――なあ、このまま寝ちゃっていいか?」
「はい――、え、あ、だ、ダメです」
 微かに身体の上に載った俺の手が動いてしまって、渚は今どういう状況か思い起こしてしまったらしい。
「……このままだと、恥ずかしくてわたしが寝られないです」
 まあ、そうだろうな。
 俺は苦笑して、そっと手を引き抜いた。



■ ■ ■



 まさか、あの夢が正夢になるなんて思ってもみなかったのだけれど。

「……ん」
 汐が、目を覚ました。
「おはよう」
 俺が声をかけると、汐はキョトンとこっちを見て、すぐさま置きっ放しだった手を引っ込めた。
「ごめん、またやっちゃった……」
「俺は別に構わないぞ?」
 そう言ってゆっくりと起き上がる。
「おとーさんはそうかもしれないけど……」
 続くように、汐も起きた。そして照れ臭そうに頭を掻く。
「十七にもなるとなんというか……」
「別にいいだろうに」
「そうでもないのっ」
 その言葉をバネにしたかのように、汐は一気に立ち上がると、制服をさっと掴んで脱衣所に飛び込んでしまった。
 どうも、汐の照れ隠しはオーバーアクション気味だ。俺は思わず苦笑してしまう。
「……笑わなくてもいいじゃないっ」
 ピッタリと閉じた蛇腹の向こうで、汐が唸る。
 俺は、それには答えないで、窓のカーテンを開け、次いで窓も開け放った。

 風が冷たい。冬がだいぶ近づいてきている。
 しかし、空は快晴だった。

「今日も、良く晴れてるな――」
「誤魔化さないでよっ、もうっ」
 再び汐がそう唸ったので、俺はスマンスマンと謝った。

 ――渚は、もういない。
 けれども、渚が教えてくれた命の証は今も俺の胸に残っているし、汐にも伝わっている。単純に、すごいことだ、と思う。
 俺は、窓越しに空を見上げた。
 今日は、本当に良く晴れている。



Fin.




あとがきはこちら













































どこにも行かないよな、渚。




































あとがき



 ○十七歳、朋也の追憶編でした。
 予告通り、渚が書きたくなって書きました。
 それにしても、改めて本編を見直してみると、終盤の渚は強いです。今更私が言うことではないような気がしますけど、色々と弱かった序盤からここまで強くなって、本当にすごいなと思うのです。
 彼女には色々な魅力がありますが、私が惹かれているのは、きっとそこなのでしょう。

 さて、次回ですが……今のところ未定です。文化祭はちときついから年末のイベントに合わせようかな……うーん……。

Back

Top