超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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……酒〜は〜のぉめのぉめぇ〜。








































  

  




「あれ?」
 その夜、わたし、岡崎汐がおとーさんの買い置きを失敬しようと冷蔵庫を開けると、普段ある缶状のものはなくて、代わりにコップ状のものが並んでいた。
 少しだけ、思案する――いつもより度数が高くなる訳だ――が、どっこい、わたしも未経験という訳ではない。
「ま、こういうこともあるかな。肴は……これにしよ」
 わたしが選んだのはあみの塩辛。料理に使えば隠し味、そのままつまめば肴にもなる中々よい食材である。
「さってっとっ」
「――どうするのかな? 汐君」
 聞き覚えのある声が、真後ろから聞こえた。同時に頭をがっしりと掴まれ、ぎっぎっぎっと、向きを変えさせられる。おかしい、今夜は深夜作業があるから明日の朝まで帰ってこないって言っていたのにっ。
「得意先の都合で早く帰ってみりゃ、こんな面白いものに遭遇するとはな……さてマイドーター、一体全体何を持って行くつもりかね?」
 意図的に体中の筋肉をフル稼働させているおとーさんは、文字通り一回り大きく見え、ちょっと怖かった。



『岡崎家の、宴』



「そりゃまあ汐は、俺の娘だし、オッサンの 孫 でもあるからな。そっちの方の遺伝情報持ってりゃ、こうなることは目に見えていた訳だが」
 わたしが作ったキノコの豆板醤炒めをつつきながら、孫、をかなり強調して言うおとーさん。
「常習はまずいぞ、娘よ」
 そう言って先ほどのコップを傾ける。
「常習じゃないもん」
 先程のあみの塩辛をちょこっとつまみながら、わたし。
「まあ、買い足している様子は見えないから、それはわかっていたけどな」
「……もしかして、気付いてた?」
「あぁ」
「いつから?」
「最初から」
「うそっ」
「高校に上がって、俺が深夜残業した時に1缶空けたろ?」
「う……」
 ドンピシャです。参ったように、わたしは自分のコップを軽く掲げる。
「最初からお見通したっだのね……完敗です」
「わっはっは、おとーさんは何でもお見通しだってずっと昔に言ったろうが」
「そう言えば、そうだったね」
 お互い、コップをチンと軽く合わせる。
「ま、予定よりちょっと早かったがこうして父娘で杯を交わせるようになった訳か――オッサンに一番手取られたがな」
「そんなことまで……」
「そんなことって――この前古河家に用事があって行ってきたら、真っ先に自慢されたんだよ。悔しかったから、これからは汐と毎日宴会だぜーって言ってやったら向こうも悔しがってな」
「で、最後に早苗さんに怒られた、と」
「よくわかるな……」
 どうせ大声で応酬したのだろう。お隣の磯貝さんちまで聞こえたに違いない。
「ところで、おとーさんが始めたのはいつ?」
 くいーっと一杯、一気に空にして、わたしは訊いた。
「ほう、やるな」
 すぐさま新しいコップを手渡すおとーさん。そして自分のも一気に空にして、新しいものに取り掛かる。
「俺も……お前の時ぐらいだよ」
 懐かしそうに、そう言う。
「なんつーか、あれからだいぶ経ったなあ……」
「というところで、懐かしの昔語りコーナー!」
「……もう回ってるだろ、お前」
「まさか」
 これっくらいで回るようなタマではない。むしろ、そろそろおとーさんが回り始めているはずだ。
「さて、おとーさんとお母さんの馴初めは聞いたでしょ。で、結婚する前後も聞いたから、今日聞くのは……」
「……今日聞くのは?」
「ずばり、お母さんのどこに惚れたかっ」
「聞きたいかっ聞きたいかっ」
 そろそろ、アクセルがかかってきている。
「俺はな……あいつのすべてに惚れたんだっ」
「きゃーっ」
 傍から聞くとこの上なく恥ずかしい台詞を、堂々とおとーさん。
「そういえば、一部で良い匂いがするからだって証言が出ていたけど、そこらへんはどう?」
「どっから聞いた、その話」
「春原のおじさま。『気を付けろ汐ちゃん、あいつは匂いフェチだから気付かないうちにクンクンされちゃうぞ』って」
「あのおっぱい星人がー! 羨ましいだろーざまぁみろ!」
「本気でする気かっ」
「いや、俺はクリーンなパパDEATHよ!?」
 ダーティなパパも嫌だが、その表現もなんか怖い。
「で、お母さんは良い匂いだったの?」
「ああ、うん、良い匂いが……したっ!」
「きゃーっ」
 傍から聞くとこの上なく恥ずかしい台詞パート2を、堂々とおとーさん。
「よく学校にいるうちに襲わなかったわねー」
「俺だって我慢したんだっ」
 威張れることじゃない。
「じゃあ、次はそこら辺かな」
「どこら辺だよ」
「――ズバリ、夜の生活!」
「ぶはっ!」
 コップの中身を吹き出しそうになるおとーさん。ややあってわたしの顔を見る。
 おそらく、今のわたしはこの上なくエロそーな顔をしているに違いない。
「お前、言う事欠いてそれかよ……」
「もう、そういうお年頃なのよ」
 お互い、コップをあおるスピードが早くなっている。
「おっしゃ、聞かせたらー!」
「待ってましたっ!」
「ああ見えて、渚はなっ――」
 ………………、
 …………、
 ……。
「うわ、お母さんって大胆っ」
「だろ、だろっ。あんときは夢中だったからなんとも思わなかったが、今思い出すと赤面ものどころじゃないだろ!?」
 本当に顔を真っ赤にして、おとーさん。
「うーん、でも、それってあれじゃないかな」
「……あれ?」
 怪訝な顔で、聞き返される。わたしは、なんか妙に回転しやすくなっている頭脳を回し過ぎないよう気を付けながら、言葉を紡いだ。
「お母さんって、おとーさんより年上でしょ? たまにはお姉さんの貫禄を出したくて、リードしようと思ったんじゃないかな」
 おとーさんは、すぐには答えなかった。少しポカンとした顔でわたしを見て、ややあってさらに顔が赤くなっていく。
「そ、そういうことだったのか……」
「まぁ、わたしの推測だけどね」
「いや、汐も女の子だからな――そういったのは、女の子同士の勘を信じよう……」
「すぐに藤林先生に聞けばよかったのよ。『昨日渚がすごかったんだけど、アレってリードしてくれたのかな』って」
「んなこと言った日には、俺の頭が辞書の形に凹むだろっ」
「あ、そうなるわねっ」
 あははーっと笑いながらわたし。
「そうなるわねっ、じゃないだろうが。まったく……」
 苦笑しながら、おとーさん。
「まあまあ、それはともかくおとーさんの甘酸っぱい青春に乾杯!」
「できれば甘い青春を送りたかったがそれはとにかく乾杯!」
 ――ここらへんで、わたしの記憶は曖昧になった。


 ひゅ〜どろどろどろ。
 そんな古臭い擬音が聞こえた気がして、わたしは目を開けた。
 ……枕元に、お母さんが立っている。
 白装束に、三角巾。おまけに両手を前にぶらりと突き出すその格好は、間違いなく、幽霊スタイルだろう。
 ――怖いどころか、かなりかわいいのだけれど。
「し〜お〜ちゃ〜ん〜……」
 声に低くなるエフェクトまで付いている。もちろん、そんなものがあっても全然怖くない。
「……お母さんどうしたの? こんな真夜中に――面白そうなコスプレで」
「コスプレじゃないですっ」
 たちまち、素の声に戻るお母さん。せっかくの雰囲気も、これで100%なくなった。
「……しおちゃん、怖くないですか?」
 うらめしや〜とか言いながら両手をぶらりと突き出すお母さん。
「ごめん、全っ然怖くない。むしろかわいいって感じかな」
 あ、後ろを向いて落ち込んでいる。
「――しおちゃん、お話があります。そこに座りましょう」
「いいけど……」
 すぐさま立ち直ったお母さんの言葉に、座り直すわたし。
「しおちゃん、しおちゃんは今幾つですか?」
「十七」
「そうです」
 立ったままだと、視線が合わなくて話しづらいと思ったのか、お母さんはわたしの真向かいに座って続けた。きちんと両手をひざの上において正座。ピンと伸びた背筋は健康的で、もう幽霊スタイルのへったくれもない。
「しおちゃんは、あれを飲める年齢が、何歳か知っていますね?」
「……二十歳」
「そうです」
 うんうんと頷くお母さん。
「……そこまでわかっていて何で飲んだんですかっ」
 あ、本気で怒ると結構怖い。
「しおちゃん、返事を聞かせてくださいっ」
「んー……、強いて言うなら知的好奇心の充足かな?」
「そんなことで飲んじゃ駄目ですっ」
 ばちんと畳を叩いてお母さん。
「朋也くんはなんて言っていましたかっ」
「……俺も、お前の齢くらいから飲み初めていたって」
「それであんなに詳しかったんですかっ! っていうか朋也くんも朋也くんですっ」
 ぷんぷんという擬音が似合う表情で、お母さんは怒りの矛先を変えた。
「お願いしますって言ったばかりなのに――」
 あ、朋也くんで思い出した。
「お母さんストップ。訊きたいことがあるんだけど」
「? なんですか?」
 怒りをピタッと止めて、お母さん。
「うん、あのね――、」
 ……、
 …………、
 ………………。
「って本当?」
 お母さん、真っ赤になって答えない。
「そ、それはっ」
 絶体絶命のピンチもかくやといった感じで、狼狽している。
「おとーさんのジョークなら、それはそれで良いんだけど」
 今、お母さんの目には、わたしのお尻から尖った尻尾が生えているように見えているに違いない。
「じょ、ジョークじゃないです……」
 先程のおとーさんと同じくらい真っ赤になってお母さん。
「それって、やっぱりおねーさんとしてリードってやつ?」
「しおちゃん、なんでそれをっ」
「ってことはイエス?」
「へ、返答保留ですっ」
 そう叫んで、お母さんは姿を消した。しばらく待ってみたが、戻ってくる気配がない。
「……あっちでも元気そうね」
 そのまま、わたしは布団の上にぶっ倒れた。


 で、翌朝。
「うう……頭痛い……」
「うおお……お、同じく……」
 二人の枕元にある空になったコップの数は、ひーふーみーよー……冷蔵庫の中にあったもの全部。
 ――わたし達、アホな父娘です。
「今日が休みでよかった……」
 布団で大の字になって、わたし。
「まったくだ……」
 隣の布団の上にて、似たような格好でおとーさん。
「ねぇ、おとーさん。夢にお母さん出てこなかった?」
「出てきた。『朋也くん、しおちゃんになんてこと教えるんですかっ』って、な」
「……怖かった?」
「すっげぇかわいかった。素直にそう言ったら、しおちゃんにもそう言われましたっ! って、拗ねて帰っちまった」
「やっぱり」
「やっぱりって、最初はお前のところに来たのか……ずるいぞっ」
「娘に妬かないでよ……いたた……」
 叩かれるような痛みと締め上げるような痛みが同時に襲ってくる。これが噂の、二日――、
「汐ちゃんいますかっ!」
 うわ!?
「おおっ!?」
 突然の闖入者は、ふぅさんだった。いつ遊びにきてもいいように家の合鍵を渡してあったのだが……今に限って言えば、それが裏目になっているような気がしてならない。
 ふぅさんは悶絶しているわたし達を見るなり、
「汐ちゃん、今日は変です。まるでまな板の上の鯛みたいです――って」
 途中で何かに気付いたらしく、得心した顔で、
「これが噂の、『みんなでピクピク』ですかっ」
「何で知ってるっ! ――ぐあ」
 思わず叫んで、自爆しているおとーさん。
「風子は何でも知っています……」
「ふぅさんゴメン、音量下げて……」
「汐ちゃんのためなら、下げましょう!」
 下がってない! 上がってるっ!
「でもその前に、ヒトデの神様から言い付かったことをさせてください」
 ……なにそれ。
「ふぅさん、ヒトデの神様って?」
「昨日、風子の夢に出て来ました。汐ちゃんに似た人が、ヒトデの着ぐるみを着てこう言ったんです。『こんばんは。ヒトデの神様です』」
「風子。それ、ヒトデの神様じゃないからな……」
 顔を手で覆っておとーさん。わたしと同じく、それが誰だかわかったためだろう。
「はい。風子だってわかってます。あの人はヒトデの女神様です」
 それも、違う。
「で、ふぅさん、そのヒトデの着ぐるみを着た人から、何を言付かったの?」
「はい。ここでだんご大家族を最大音量で五回歌うように言われました。そうすると、ヒトデの恵みがあなたに来るかも知れません、だそうです」
 あぁ、ヒトデの恵み……と、ぽーっとし始めたふぅさん。
「あはは……、そういう手で来たか……」
「すっかり忘れてた……渚は怒ると怖いんだ……」
 起き上がることもできないわたし達には、もはや逃げられない。
「――、では行きますっ」
 こっちに戻って来たふぅさんが大きく息を吸い込む。
「……お母さん、ごめんなさい」
 わたしはポツリと呟いて、以降しばらくの間、ふぅさんリサイタルに転がり回るはめになった。



Fin.




あとがきはこちら













































……酒〜は〜のぉめのぉめぇ〜。

































あとがき





 というわけで、○十七歳、どんちゃん騒ぎ編でした。
 ここからは、特に一連のテーマなどを考えずに、お気楽極楽にやっていこうと思います。
 今回は、そこらへんを少し意識してコメディー風にしてみたのですが、いかがでしたでしょうか。
 次回は、ちょっと未定。まだ出てこないヒロイン二人のどっちかかも未定です;(出て来るかどうかも未定……;)

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