超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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ガンガンスクロールさせてください。




































それと便座カバー。








































  

  



 ――久々に、あいつの夢を見た。
 あいつは、白いサマードレスを着て、ゆっくりと坂を下ってきた。
 俺は坂の下であいつを迎える。
 あいつは相変わらずゆっくりと俺の近くまで下ってくると、少し申し訳なさそうにお辞儀をした。
『……朋也くん』
 俺はあいつの頭をゆっくりと撫でる。すると、あいつはあの時、あの姿のままにっこりと笑って――。
『……朋也くん――生きているんだったら返事して!」
 ひどい言われようだった。
 同時に、何かがガンガンと叩かれる音がする。
 俺は静かに目を開ける。
 どうも、汐が家に帰ってきたようだった。




『十七年目の、夏』




「まったく……ちょっと合宿に出ただけでコレなんだから……」
 長い髪を翻しながら、汐はじとっと俺を見つめてそう言ってくれた。
「……悪かったな。生活能力のない父親で」
「甘えでしょ」
 ……見抜かれていた。
「昔はちゃんとやっていたって早苗さんから聞いているもん。……あーあー、またこんなに洗濯物ため込んじゃって……」
 しょうがないというふうに肩をすくめて、汐は貯まり貯まった洗濯籠を両手で洗濯機に持っていった。
「娘に頼り過ぎよ、おとーさん」
「……だな」
 よっこらしょとちゃぶ台に座る。認めざるを得ない。高校生になってから、こいつの家事能力は俺やあいつをあっさりと凌駕していた。現に、既に戦場跡と化していた流しが、綺麗さっぱり片づいている。
「しっかし、お前もアホな子だな。家の鍵忘れてどうするよ」
「しょうがないでしょ。うっかりようっかり。それに結果的には入れたわけだし」
「俺が盆休みだったからな」
「それをちゃんとわたし覚えていたしね」
 お互いに、笑い合う。
「だがな、娘よ。次はないぞ」
「わかってるわよ、おとーさん。ところでお昼は?」
「無論まだ」
「でしょうね。チャーハンでいい?」
「おう」
「じゃ、ちょっと待っててね」
 綺麗に片づいた流しの隣りに、汐は立った。
「そう言えば、汐」
「なに?」
「なんの合宿行ってたんだっけ、お前」
「あれ、話していなかったっけ。わたしの部活」
 聞いてない。
「なんだっけか」
「演劇部」
 ――ちょっとドキッとした。
「そうか……今はあるのか、演劇部」
「うん。何年か前に再建されたんだっけ。わたしが入学したときには既にあったよ」
 最近余り話していないが、自分の母親が演劇部を再建させようとした話を、こいつは知っている。だからかどうか知らないが、汐の声は少し低かった。
「で、なんの役だ?」
「――え? ああ、聞いて驚かないでね。ヒロインよ。ちょっとヒステリックな」
「わはははは!」
「なんでそこで笑うのよ!」
 いや、なんつーか。
「なんか、似合う役だなって」
「どういう意味?」
「いや、だってお前、杏に似てきたからさ」
「藤林先生? 幼稚園の?」
「ああ、そうだ」
「確かおとーさんの知り合いなんだっけ?」
「そうだ、一緒に馬鹿やったりしていた」
「ふーん……」
 その仕草を見ていると、自然と口の端が、ゆるむ。
「やっぱり杏に似てきたな」
「最近の学生って、みんなこうなんじゃない? それに藤林先生って優しかったわよ。……よく覚えてないけど」
「……かもな」
 よく覚えていない。その汐の言葉に、俺は深く頷いた。子供のときの記憶なんて、そんなもんだと思う。
「なあ、ちょっとやってみろよ」
「――何を?」
「劇の台詞」
 汐の背中が、困ったかのように微かに揺れた。だが、それは一瞬でフライパンを置いて火を止めてくれた。
「……ん。行くわよ」
 そう言って、汐はやおら振り返り力一杯踏み込みを入れると、
『だから! 私が嫌いなのは、あ・な・た!』
 と、行って俺をビシッと指さした。
「――すいません、俺が悪かったです」
「……今の、劇の台詞なんだけど」
「あ、そうか」
「なに真に受けてるのよー」
 本当に、もう。そう言いながら、汐は昼飯づくりを再開した。
「なかなか上手かった。つーか、感情が籠もってた」
「そう言ってくれると、嬉しいわ。ありがと、おとーさん」
 誤解させたのを悪いと思ったのか、汐は弾んだ声でそう言ってくれた。
 俺はそれ以上、何も言わず、リモコンを操ってテレビを付ける。
 これ以上話しかけて昼飯を遅らせたくなかったし、失敗したく(そしてさせたく)なかったからだ。
 ただ、昼時なのであまりいいものはやってない。丁度今、ウキウキウォッチンが始まったところだった。
「タモリもよく頑張ってるなー」
 内容はもはやさっぱりだったが、思わずそう呟く。
 汐は答えない。答える必要がないと思ったか、料理に集中しているのか……、
 ……いや。

 汐はなにかを歌っていた。
 俺は、そっと耳を澄ませた。昨今のこいつにしては、妙に耳に優しいメロディは……。
「……だんごっだんごっだ・ん・ご♪ だんごっだっいっか・ぞ・く♪――」
 ――あぁ。
「なあ、汐」
「なに?」
 フライパンを器用に返しながら、つまりは俺には振り向かずに汐が答える。
「その唄、何処で聞いた」
「え、何処って……」
 ふたたびフライパンを置く。そして俺に振り返った後、
「……あれ? 何処でだっけ?」
 と、考え込み始めたので、俺は手を振りながら、
「いやいい。昼飯作るの続けてくれ」
「あ、うん」
「後、その唄も」
「え、なんか恥ずかしいんだけど……」
 そう言いながらも、汐は、あの唄を続けてくれた。
 そんな汐の声を聞きながら、俺は壁に背を預け、そっと目を閉じる。
「……だんごっだんごっだ・ん・ご♪――」
 そして、さっき見た夢に対して心の中で呟く。



 申し訳なさそうに頭を下げるな、渚。
 こいつは元気に育って、俺やお前よりずっと強くて、
 ちょっと強すぎて少し心配だけど、でも。

 お前を何処かで忘れていないから。



「おとーさん、できたわよ。運ぶの手伝って!」
 汐の声が、明るく響く。


Fin.


あとがきはこちら













































それと便座カバー。
































あとがき


 実質的最初のCLANNADSSが、思いっきりネタバレになってしまいました。
 若干約一名が性格を大幅に変えておりますが、これはもう片方の――も受け継いでいるからです。というか、そっくりの場合、下手すると面影を追ってしまう可能性があるので;
 にしてもネタバレしないようにあとがき書くのってむずかしー!w

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