超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。
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「さて、今回のぷち演劇シリーズは前回特に配役を決めなかった『アイドルマスター シンデレラガールズ』なんだけど……」
「だーかーらー、汐ちゃんの役はちょっとおっとりとしていてなおかつ王道路線な島村卯月ちゃんなのっ! 岡崎だってそっちの方がいいでしょ!?」
「いーや! 春原、それは間違っているぞ! 汐がやるのは渋谷凛だねっ! ちょっとクールだけどその実ひたむきなところが実に汐向けだろうがっ!」
「いや、これは譲れないねっ!」
「奇遇だな、俺もだっ!」
「あーもー、はやくどっちか決めようよ……」
「だからニーソが良いって言ってるでしょ!」
「いいえタイツです! これだけは譲れません!」
午前で終わった仕事からの帰り、玄関を開けようとしたところで中からそんな声が響いてきた。
「お前らな、良い年して何を言い争って――なんだこれ」
声の主は想像通り、家に遊びに来たとおぼしき杏と風子だった。それはいい。
問題は、そのふたりが汐――今年高校に入ったばかり――から強奪したとおぼしき靴下を片一方ずつ持っている。
そして空いている方の手はそれぞれが汐の手を引っ張っており、汐自身は所謂大岡裁き状態になっていた。
「おとーさん、たーすーけーてー」
汐が、困り切った声を上げる。
「あ、帰ってきたのね朋也。ねぇ、あんたは汐ちゃんニーソが似合うと思うでしょ?」
「いえいえ、タイツです。岡崎さんもそう思いませんかっ!」
ふむ、それならば……。
「とりあえず、汐にはかせているところをじっくりと観察してから決める!」
直後、俺はトリプルキックを食らった。
正確に言うと、その余波でタンスに激突したとき上に飾ってあった渚の写真立てが脳天を直撃したのでクアッドキックなのかもしれないが。
『シロクロ決めろと、言われても……』
ことの次第は、汐が高校生になったからちょっとイメチェンししてみたいと呟いたのを、杏と風子が拾った為らしい。
「それで、ニーソを勧めていたってことよ」
と、汐の靴下を持った手を腰にあてて、杏。
「そして、言わずもがななことですが、風子はタイツを勧めていたんです」
こちらは汐の靴下をにぎりしめ、風子。
「それで、タンスの中身が広げられている訳なんだな」
俺の言うとおり、杏、汐、風子の前には色とりどりのニーソとタイツ、それにストッキングが広がっていた。おそらく、汐に着せようとして引っ張り出したものなのだろう。
「まぁ、タンスには色々あるからなぁ」
「結構多いわよね」
ちょっと意外だったわ。と、杏。
「ああ、汐が渚の服着るのに抵抗がないからな。そのまんま流用させてもらっている」
「それって、あんたと汐ちゃんのお母さんが一緒に暮らすようになってからの? それじゃぶかぶかじゃない?」
と、首を傾げて杏。
「いや、すでにぴったりだ。――主に胸周りが、な」
「……汐ちゃん、恐ろしい子!」
古典的少女漫画みたいな顔になって、杏。
まぁそれはさておき、汐は特に自分の母親の服を上手く着こなしていた。時には渚が着ていたチョイスとまったく同じであったりしたが、大半は汐自身が決めた組み合わせで、それは渚のそれとは大きく変わっていたものの、よく似合っていた。
「それでは……このバニースーツ、何に使ったんですか」
と、いつのまにか汐の靴下放り出して片手でタンスを漁っていた風子が、それを手にとって訊いてくる。
「ああ、それは昔古河パンでお月見セールをやったときに使ったものだな」
「それじゃ古河パンにないとおかしいでしょ。なんでわざわざこっちに置いてあるのよ」
杏が、ジト目になってそう訊いてくるので、俺は一度咳払いすると、
「そりゃお前……むふふふふ」
いかん、つい思い出してしまって頬がゆるんでしまう。
「……汐ちゃん、今のはすぐに聞かなかったことにしなさい。情操教育に悪いわよ」
「残念ながらもう聞いてます」
そしてすごく忘れたいです。と、汐。
「風子、大人の汚さを目の当たりにしました」
「いや、お前も十分大人だからな。……まぁそれはさておき」
このままタンスを漁られてアレやソレを引き出されると、すごく困るので軌道修正を計る俺。
「ねぇちょっと、この臙脂色の制服なによ。スカートあたし達のより短くない?」
「風子、このクリーム色のシャツに黒いロングスカートの夏服が気になります」
「ねぇおとーさん。この白を基調としたフリルとリボンがてんこ盛りの制服、なに」
いつのまにやら、汐までもが探索に加わっていた!
「あー……今はそれより、杏と風子の主張だろ。せっかく汐が両方とも持っているんだから、それぞれアピールして汐を納得させればいいんじゃないか?」
――よし、なんとか軌道修正に成功した。杏も風子も、それぞれニーソとタイツを手にとってヒートアップしている。
……真ん中の汐が虚ろな目で「おとーさん、そういうのはちょっと……」とか呟いているが、見なかったことにしよう。
「よし、まずはあたしからね!」
びしっとニーソを俺につきつけ、杏がそう宣言した。
「なんたってニーソの良いところは脚が引き締まってみえることよ! それでいて、タイツやストッキングと違って、股関節の制限を受けないから動きやすいところがポイントねっ」
「膝や踝は?」
と、俺。
「あんた、元バスケ部員だったんでしょ? 膝サポーターとか忘れた?」
……あ、そうか。膝間接はむしろそういったもので覆った方が無理な負担がかからなくて済むんだった。
「まぁ、本物のサポーターにはおとるけどね」
と、ウィンクしながら杏。
「ま、百聞は一見にしかずっていうから――汐ちゃん、借りてくわよっ!」
そう言うなり、汐を抱えて風呂場の脱衣場を兼ねた更衣室に突撃する杏だった。
「あーれー」
我が娘が、古風な悲鳴を上げる。
『あら汐ちゃん、意外と大人っぽい下着つけているのね……感心感心っ!』
『ちょ、藤林先生! そんなにじろじろ見ないでくださいっ!』
……非常に耳に毒な会話だった。
「見たいんですか、岡崎さん」
「人の心を勝手に読むんじゃない」
真顔の風子に対して、思わずデコピンをして追い払う。
やがて――。
「じゃっじゃーん! どう?」
杏と汐が出てきたのだが――。
「ぺ、ペアルック!?」
「風子、『いやーんな感じ!』って言うべきですか?」
予備のものをあらかじめ用意していたのか、ふたりとも学校の制服を着込んでいるうえに、同じニーソを着用していた。
「いやー、ちょっと無理しちゃったけど、まだまだ着ることができるわねっ!」
その割には、少しだけプルプルしている。どうも、腹周りに力を入れているようであった。
……汐、恐るべし!
その潜在能力に、改めて感嘆してしまう。
「どう? 汐ちゃんかわいいでしょ?」
「ああ、スカートとニーソの間にあるフトモモが眩しいな」
「……あんた、あたしのことそんな目で見ていたの?」
「なんでお前の話になるんだよ!?」
「どっちにしてもそんな感想なんだね……」
どこか虚ろな表情で、汐がそう呟く。
「ま、かわいいってことで結果オーライねっ!」
と、杏。だが……。
「でも、ニーソックスは脚にお肉が余っていると、盛大にはみ出てしまいます」
どこか勝者のようなほほえみを浮かべて、風子がそう指摘した。
「そう、まるでボンレスハムのように……!」
「だ、誰がボンレスハムよっ! そんな贅肉、つけているわけないでしょ!? ……そりゃ、ずり落ちないようにちょっとだけ締め付けているから、ストッキングみたいな一体感はでないけど……はみ出るほどではないわよっ。ね、朋也、そうでしょ!?」
「わかった、わかったからいい年した大人がふとももを押しつけるんじゃあないっ!」
なんか汐がすごい顔をしているし、タンスの上の写真立てがいつの間にか倒れているし!
「それにくらべて、風子がおすすめするタイツやストッキングは、脚全体をスリムに見せます。だから、汐ちゃん借りていきますっ」
「もうすきにしてー」
完全に投げやりになっている我が娘であった。
『わあっ、汐ちゃんすごいですっ』
『ちょ、タンマ! もう制服着ているんだから脱がす必要ないでしょ! さわらない、さわらないのっ!』
…………。
「あんたいま、ふしだらな想像したでしょ?」
一緒に入ったものの、すぐさま元の格好に戻って出てきた杏がそんなことを言う。
「実の娘にするかっ!」
ニヤニヤ笑っている杏に対し、きっぱりと否定する俺であった。
――ドキッとしたのは、ふしだらな想像ではないだろう。多分、そのはずだ。
それから、数分後。
「どうですかっ!」
今度は風子が汐の制服を着ていた。どこもかしこもぶかぶかで、なんというか入学したての中学生に見える。
それはともかく、ふたりともタイツを着用していた。
「やっぱり黒タイツの方が汐ちゃんに似合いませんかっ!」
うんまぁ、先ほどのニーソでもそう思ったが、似合っていることには間違いない。
「こちらだとニーソと違って脚線美を維持できるのが最高ですっ! それに多少スカートが短くても、タイツだったら恥ずかしくないですっ!」
「ふーん」
何の前触れもなしに、杏が風子のスカートをばさっとめくった。幸いにも、俺のいる方向から見えないようにしてくれたので俺自身には被害がなかったが、もろに見てしまった汐が思いっきり噴いていた。
「あら、もっと子供子供したのはいているのかと思ったけど、そうでもないのね」
「最悪ですっ!」
スカートの裾を押さえつけながら、風子。
「風子、まさかこの年でスカートをめくられるとは思いませんでした。えっちですっ!」
「めくられても平気って言ったの、そっちじゃない」
あきれ顔で、杏。
「っていうかさ、前っ々から思っていたんだけど」
びしっと、風子のタイツに包まれた脚を指さしつつ、杏は続ける。
「あんたのそれ、黒じゃなくて濃い紫色じゃない?」
……杏、お前、それ言っちゃうのか……!
俺も、ひょっとしたらそうなんじゃないかと思っていたんだが……。
しかし、指摘された風子はというと、静かに目を閉じて深呼吸をすると、
「光の具合でそう見えるだけです」
「え、そ、そうなの朋也?」
「いや、俺に訊かれても……」
急に自信がなくなってきた。
「まぁそれはいいわ。さぁ汐ちゃん――そして朋也!」
「どっちが良いか、決めてください!」
ふたり揃って仁王立ちになり、両腕を組んでそんなことを言う、杏と風子。
――仕方がない。俺はため息をついて佇まいをただすと、
「裸足が一番。そう思わないか? それなら脚のラインは崩れないし、汐はまだ若いから引き締めらせるとかそういうのは関係ない。なにより、汐の脚線美をダイレクトに観ることができる――そうだろ?」
「……うん、あんたさいてー」
杏は容赦がなかった。
「風子、こんな駄目人間始めてみました」
風子も容赦なかった。
「もうおとーさんの前で裸足でいるの、やめるね」
汐にいたってはなぜか瞳から光彩が消えていた。
「いやいやまてまて。今の冗談だからな」
「あんたね、言って良い冗談と悪い冗談があることわかるでしょ? 父親なんだから」
「風子、思うに少しだけ本気だったのではないかと推測します」
「どっちみち、裸足やめるね」
いまだ目に光のない汐だった。
「まぁ冗談はさておき、ここまで杏と風子の主張があったんだ。後は俺が決めるより、汐が決めた方が良い。そうだろ?」
「そりゃあ……」
「そうですが……」
ふたたび大岡裁き状態になりそうになる汐。
だが、汐はぎりぎりのところでふたりの手を避けると、つかつかとタンンスに近寄り、中身を漁り始めた。そして、何かをとりだしてスカートのポケットに突っ込むと、そのまま更衣室に消える。そしてすぐに出てきたのだが……。
「こ、これは……!」
「な、なんてこと――!」
「その手がありましたか……!」
汐がスカートの下のはいていたのは、普段からの愛用品であるスパッツだった。
「こ、これでこれで良いわね」
「はい。風子、眼福です……!」
俺と杏と風子が同時に戦慄する。
「もーこれでいきます。異論はなしの方向で!」
ふむ。確かに異議は無しだが――まてよ?
「汐よ、それはアウトだ」
俺は、タンスの上に置いてあった汐の生徒手帳を見ながら、そう言った。
「どういうことよ、今更風子に肩入れするの?」
「風子、岡崎さんは最後の最後で裏切ると思いましたが」
「スカートもはかないのがいいとか言ったら、さすがに本気で怒るからね」
「いや、そうじゃなくてだな――っていうかみんなして俺をなんだと思っているんだ」
そう言いながら、俺は該当するページをみんなに見せつつ話を続ける。
「今の校則だと、スカートの下にそれとわかもの、ジャージや短パン、それにスパッツは駄目なんだと」
直後、その場が静寂に満たされた。
「――やっぱりニーソよ、ニーソ!」
「タイツです、一歩譲ってストッキングです!」
再び、杏と風子が騒ぎ出す。
「……ループって、こわくない?」
疲れ切った顔で、そんな風に呟く汐。
「いや、いままで茶化しておいてなんだが、最後は自分の意志で決めるものじゃないか?」
と、俺は助言する。
「うん、そうだね……」
疲れながらも、何かを決断したような表情で、汐はそう頷いたのであった。
それで結局どうなったのかというと。
汐はその日の気分でニーソやタイツを着用するようになり、杏も風子もそれを見て納得したのであった。
さらにのちには、マイクロスパッツに出会って主に部活中に愛用するようになるのだが……それはまた、別の話。
Fin.
あとがきはこちら
「朋也くんは、わたしに何が似合うと思いますか?」
「ブルマっ!」
「朋也くんっ!」
「ははっ、悪い悪い。まじめな話をすると、渚には何でも似合うと思うよ」
「朋也くん……ありがとう、ございます」
「渚……」
「へーい、娘の前でいちゃつかないでー」
あとがき
○十七歳外伝、仁義なきニーソ派とタイツ・ストッキング派の戦い編でした。
個人的には○にはタイツが良い感じだと思うのですが、まさか本文中で風子を応援するわけにはいかず、私的には中立――という立場をとったのですが、結論から言って、○は何を着ても似合うと思います!(握り拳!)
余談ですが、このSSでついに300本目に突入しました。
長いようで短いようで――何にせよ、遠いところに来たなぁとは思います。
さて次回は……やっぱり未定で!