超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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ガンガンスクロールさせてください。


























































「うーん、今度のぷち劇場シリーズどれにしようかな」
「候補はないのか?」
「あるにはあるんだけど、ヒロイン枠が少なくて」
「ほう、どの作品だ?」
「えっと、『ジョジョの奇妙な冒険 第一部:ファントムブラッド』――」
「『俺は人間をやめるぞ! ジョジョーッ!!』」(朋也)
「『俺は人間をやめるぞ! ジョジョーッ!!』」(秋生)
「『俺は人間をやめるぞ! ジョジョーッ!!』」(芳野)
「『俺は人間をやめるぞ! ジョジョーッ!!』」(勝平)
「『俺は人間をやめるぞ! ジョジョーッ!!』」(春原)
「ちょ、なんでみんなDIO役やりたがるのよ!?」
「風子はあえてここで承太郎を選びます。『やれやれだぜ……』」














































































































  

  


「……え?」
 わたし、岡崎汐の申し出に、彼女――わたしよりふたつ下の演劇部員――はたっぷり十秒ほど、驚いた貌のままかっちかちに固まった。
 その様子はなんというか、一年前のわたしを思い出してしまう。立場がまるで、逆になってしまっているけれど。
 そう。一年前のちょうどこの日に、わたしは演劇部の部長からあることを打診された。そして今日、わたしはこうして後輩に打診したのだ。
 わたしの跡を継いで、演劇部の部長になってほしい、と。
「そ、その、外の空気を吸ってきてもよろしいでしょうか。すぐに戻って参りますので」
「うん、OK」
 私達が居る演劇部の部室には、わたしと副部長、そしてその後輩の三人しかいない。残りはみんな、体育館で練習中だ。
「少し経ったら呼ぶから、あまり遠くに行かないでね」
「は、はい……」
 どこか思い詰めた様子で後輩の子が部室から退出する。――そのまま、待つこと五分。戻ってくる様子はない。
 クラスメイトでもある副部長がつかつかと歩みより、部室の扉を開けた。そして廊下に首を突っ込むと――。
「うん、やっぱり誰もいないねー」
「――そう」
「去年と一緒だねー」
「……そうね」
 はい、そうです。一年前のわたしも、逃げました。
「悪いけど、先に体育館に行ってみんなと合流してて」
「いいけど、一緒に探さなくていいの?」
「うん。わたしひとりで探してみる」
「了解了解。頑張ってね、うっしー」
 こうして、部室の入り口でわたしは副部長と別れた。
 さて、わたしの時は屋上に逃げたけれど、あの子は何処に行ったのだろう。
 ――そしていま、何を思っているのだろう。



『その道を、受け継ぎましょう』



「え、近江さんですか? 部活に行きますって言ってからこっちには戻ってきていないですけど」
 まずは彼女のクラスに行ってみたのだけれど、案の定空振りだった。
「近江さんが普段行きそうなところって、知らないかな?」
 そう訊いてみると、あの子のクラスメイトは首を傾げて、
「そうですね……普段からおとなしい子だから、教室から滅多に動かないんですけど」
「そっか――」
「あ、でも演劇部に入ってから積極的というか、決断力が付いたみたいで。そのための勉強もよくしていて、図書室や過去の演目の映像がある資料室とかに行っているみたいです。演劇部にいないのなら、そっちなんじゃないでしょうか」
 そういう意味で、近江さんは演劇部に入って良かったと思います。と、あの子のクラスメイトは締めくくった。
「ありがとう、参考になったわ」
 わたしはそう礼を言って、あの子のクラスを後にした。



 図書室、空振り。
 資料室、空振り。
「ふーむ」
 廊下をあてどもなく歩きながら、考える。
 他に行きそうなところは、と……。
「わたしのときと同じく、屋上かなー」
 そう思って、屋上に上がってみる。
 でもさすがに逃亡先までわたしと一緒と言うことはなく、屋上には誰もいなかった。
「……ふむ」
 考え事にはちょうどいいロケーションであったため、そのまま沈思黙考する。
 ここからだと、校舎のグラウンドから校門から街へと伸びるあの坂までが一望できる。わたしとあの子が初めて出会った場所――同時にそこは、おとーさんとお母さんが出会った場所でもあるらしい――も目を凝らして観てみたけれど、そこにも居る様子は無かった。
 だとすれば、彼女はいったいどこに……。
「またこんなところにいるのね、岡崎汐」
 いきなり背後からそう話しかけれて、わたしの背筋はまっすぐに伸びた。
「い、委員長? どうしてここに」
 振り返ってみれば、声の主は二年の時からずっとクラスの委員長を務めている、わたしのクラスメイトだった。
「どうしてもこうしても、なんか考え込みながら屋上に上っていくのを見たから、気になって追いかけたのよ。それに一年前も、こうしていたでしょ」
「覚えてた?」
「ええもうバッチリ」
「うわちゃー。忘れてくれてもいいのに……」
 かつてわたしがここに逃亡したとき、演劇部員に頼まれて探しにきた委員長に見つかってしまったのだ。
 それはなんというか恥ずかしい想いでのひとつなのだけれど、委員長と話したおかげでわたしの肚は決まったので、密かに感謝していることでもあった。
「もしかして、今度は次の部長を決めるのに悩んでいるの?」
「んにゃ、そっちはもう決まっているの」
「相変わらず、即断即決ね……」
 あきれたようにそう言う委員長に、わたしは意図的に『てへ』とポーズを取ってそれに応える。
「そうじゃなくて、ほら、前におとーさん達と一緒にお昼を食べた二年下の後輩を探しているのよ」
「それって、演劇部の子?」
「そう。委員長は何処に行ったのか知らない?」
 ダメもとでそう訊いてみると、委員長はあっさりとした様子で、
「体育館の方に行くのを見たけれど。演劇部の練習に行ったんじゃないの?」
「それ本当!?」
 まさかの大当たりだった。
「本当も何も、嘘をつく理由がないでしょ?」
「そりゃそーね」
「なに、あの子に何か用事があるの?」
「うん。ちょっと演劇部の部長を継いでもらおうと思ってね」
「なんですって? あの子一年生でしょう!?」
「一応言っておくけど、全会一致の可決よ。提案したのはわたしだけど」
 声がひっくり返る委員長という大変珍しい状況に内心驚きながらも、わたし。
「まったく……あなた達演劇部って、毎度毎度とんでもないことをしでかすんだから」
「あの子の代になったら、多少変わるんじゃない? ……了承してくれたらだけど」
 風になびく髪を抑えながら軽口を交わし、わたし達は屋上を後にした。


 校舎で委員長と別れて、体育館への渡り廊下を歩く。
 あの子の居場所はわかった。でも、どこか腑に落ちないところがある。
 そもそも、あの子がわたしの打診から逃げてそのまま練習に加わるだろうか。
 おそらく、それはない。だとすれば体育館に行ったとしてもみんなと合流するわけはなく……。
 ああ、そうか。
 そこでやっと、わたしは気が付いた。
 最初に演劇部員として公演に参加してもらったとき、たしか――。
「行ってみるか」
 誰に見せるでもなくひとつ頷いて、わたしはそのまま、体育館の裏手に回ったのであった。



「ビンゴって、ところかな」
 体育館の地下。ここには舞台装置の配電盤や、各種備品が格納されている。
「岡崎部長――」
 そしてその舞台の昇降装置の前で、彼女は立ち尽くしていた。
 わたし達の前から姿を消して約三十分。その間、ずっとこうしていたのだろうか。
「も、申し訳ありません。その……」
「いいのいいの。わたしも逃げ出した口だから。こうやって探していたのも、見つけて返答を訊くためじゃなくて、ただ話をしたかっただけだから」
 わたしが手を振ってそう答えると、あの子は驚いた様子で、
「え? 逃げたって……岡崎部長のときは――」
「うん、怖かったよ」
「怖かった……?」
「そう。怖かったの。笑って引き受けたと思った?」
「え、あ、はい……」
 素直に答える彼女に、わたしは微笑みを返す。
「岡崎部長も、怖かったのですね。吃驚しました」
「どうして怖いの?」
 少しかがみ、彼女を視点を合わせて、わたしは訊く。
「その――岡崎部長が築いた演劇部を、私が変えてしまわないか、と考えてしまいまして」
 ああ、そうか……。
「理由も、わたしと一緒なんだね」
 自然と優しい声になって、わたし。
「理由までも、ですか?」
「ええ、そうよ。わたしも、わたしが演劇部の部長になることで前の部長達が築き上げてきたものを壊してしまうかもしれないと恐れたの。そしてなにより――かつて演劇部を一度再建した、お母さんの部活を、わたしが勝手に采配していいのかって思っちゃったのよ」
「それは――」
 彼女が、息をのむ。そしてそのあと訥々と、
「あ、あの。それは気にすることがないのではないでしょうか。御母堂と岡崎部長の間には、大きな時間の隔たりがありますし、なにより皆さんが望んで岡崎部長に演劇部を率いてほしいと思ったのですから――」
 それでもはっきりと、そう言った。
「そうなのよ。実際に部長をやってから、わたしもそう思ったの。そして、今もね」
「今もって――」
「あなたに関しても、当てはまるのよ。あなたを部長に指名しようと発案したのは確かにわたしの一存。でも、それを部員は全員了承してくれたの。つまり、さっきあなたがわたしに言ったように、あなたも、みんなから望まれているのよ」
「ですが……」
「だから、変えたいと思ったら変えちゃえばいいのよ。守りたいものがあったら、守ればいい。何にしてもそれはあなたの決めることで、そうしていくことで、演劇部は先に進んでいくと思うの。……違う?」
「それ、は――」
 彼女は、すぐに返答しなかった。
 その間に、みんなが練習している声が上から響いてくる。
「なるほど、こうなっているんだ……」
 結構声がクリアに響いていて、感心してしまう。
 わたし自身もここにきて作業をしたことはあるけれど、練習の時や本番の時は必ず舞台にいるため、今まで気付かなかったのだ。
「……わかりました」
 そして、そこからスタートして舞台の上にまで登った彼女の返答がやってきた。
「引き受けて、くれる?」
「はい。――演劇部部長のお役目、お引き受けいたします」
 あの子が、まっすぐにわたしを見る。
 その瞳には、いままで以上に強い光が宿っていた。
「ありがとう、うれしいよ」
「演劇部のみなさんが、岡崎部長が望まれていることですから。……なにより、私自身がいま、やってみたいと心の底から思いましたので」
「そっか……よし、それじゃ早速」
 とある舞台装置を動かすボタンを、わたしはぽちっと押していた。
「あ、岡崎部長! それはっ」
 その舞台装置がなんなのかを熟知しているあの子が慌てふためく。
 それは、ちょうどわたし達が居る場所を舞台の上へと運んでくれる昇降装置を作動させるボタンだったのだ。
「ほら、もっとちゃんと寄って。このエレベーター、本来はひとり用なんだから」
 大柄な男子生徒ひとり分だから、わたし達の場合はしっかりと抱き合っていれば十分通ることが出来る(念のために言っておくともしどこかが引っかかったら即座に停止し少し戻るという安全装置も付いているのだ)。
「今回だけ、ですからね……」
 わたしの胸にぎゅっと顔を埋めて、あの子はそう言った。
「是非もなし、よ」
 そんな彼女にわたしは――その子の髪に顔を埋めながら、そう応えたのだった。



Fin.




あとがきはこちら









































「うん? エレベーター上昇警報? 誰か舞台の下にいるのか?」
「いや、台本にはそんな設定無いですけど……」
「それじゃいったい誰が――」
「……」
「岡崎部長だー! 岡崎部長がナギと抱き合って上がってきたー!」
「こいつはすげえーッ! 百合以上のにおいがプンプンするぜーッ!」
「やったっ! さすが岡崎部長! 俺達に出来ないことを平然とやってのけるッ! そこにシビれる! あこがれるゥ!」
「あ、ありのままに起こったことを話すぜ! 『岡崎部長が部長の継承のため部員のナギこと近江渚と一緒に部室に行った』と思ったら『抱き合って舞台下から出てきた』な、なにが起こったのかわからなかった――」
「ブラボー! おおブラボー!」
「いいからみんなジョジョから離れなさい!」
「(来年の演目はジョジョにいたしましょうか……)」











































あとがき



 ○十七歳外伝、演劇部継承編でした。
 長い間考え続けていた演劇部の部長交代にまつわるエピソードをお届けすることが出来ました。なんとかこうして完成して、ちょっとひといきついております。
 さて次回は――ちょっと未定です;

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