超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「藤林先生にふぅさん、それに芳野さんがアニメの『リトルバスターズ!』に出演しているから静かだねー」
「よし、俺たちも乱入するか」
「こらこら」














































































































  

  


「ただいま〜」
 夜遅くのこと。
 夕食を済ませた俺がテレビを見ながらお茶を飲んでいると、寒風と共に今年十九歳の我が娘、汐が帰ってきた。
「お帰り。外寒かっただろう」
「うん、もう冬真っ盛りだね」
 今日の天気予報は寒波と強風と言っていただけあって、その頬は赤くなっていた。そんな汐はコートを脱ぎ、俺が座るちゃぶ台の反対側に腰を下ろす。
「とりあえず、なんか飲むか?」
「それじゃビールっ!」
 俺は汐に、チョップを食らわせた。



『誰がための、その居場所』



「むー……!」
 頭をさすって唸る汐。それほど力を込めた憶えは無いので、演技なのだろう。
「あと一年たらずだろ。我慢しろ」
「はーい……」
 もちろん、本人も冗談のつもりで言ったのだろう。唸り続けてはいたが、それほど拗ねている様子はなかった。
「夕飯は?」
 立ち上がりながらそう訊くと、汐はそれを押しとどめるように、
「うーん……もう遅いし、今日はいらないかな」
「でも食べてないだろ? 疲れが顔からも抜けてないぞ。一緒にお茶漬けも作るから食べておけ」
「――うん。ありがとう」
 遠慮していたらしい。ちょっとだけ申し訳なさそうに、それでいて嬉しそうに汐はそう言った。あと少しで名実と共に大人になる我が娘だが、ここぞというところで甘えられないのは小さい頃から変わっていない。
「それで、今日はなんでこんなに遅かったんだ?」
「ん? プレゼミに参加していたら、議論が白熱しちゃってね」
「プレゼミ?」
「ええと、大学の1〜2年は、3年から始まるゼミの見学が割と好きにできたりするの。もちろん、単位はもらえないからそうひょいひょい見学できるわけじゃないんだけど」
「な、なるほど……」
 大学のキャンパスライフなるものとは全く無縁の俺にとっては、いまいちイメージしづらい話であったが、要は上級生の授業を見学しているということなのだろう。
「で、どんな内容だったんだ?」
「今日は経済学に絡んで、町おこしをするにはどのような手段が効果的かって――」
「そ、そうか」
 OK、よくわからなかった。
「ほい、おまちどう」
「ありがとう、おとーさん。いただきます」
「どうぞ、召し上がれ。慌ててかっこんで火傷するなよ?」
 お茶漬けといっても、ご飯に鰹節を盛って、醤油を垂らした後にお茶を注ぎ、最後にチューブのわさびをちょこんと乗っけたものに漬け物を添えた、簡単なものだ。
「うん……!」
 食べることに集中しているのか、生返事の汐。そんな風に実に美味しそうに食べてくれると、作った側としてはすごく嬉しくなる。
 しばらくして――。
「あー、やっぱり家で食べた方が落ち着くね」
 満足そうに一緒に淹れたお茶を飲み、汐は一息ついていた。
「そうだな」
 再びテレビを見ながら、俺。
「プレゼミ終わった直後は、どこかに食べにいこうか本気で迷ったんだけどね」
「あんまり遅くなるようなら、食べてきても良いぞ? 夕食を作る当番にかぶっていたら、いつでも代わってやるから」
「ありがと。これからはそうするね」
 あんまり遅いと、食べた分だけ脂肪になっちゃうしね。と、汐。
「しかし、ゼミ……なんだよな」
「うん。そうだけど――?」
 俺の声に疑問の色が混ざっているのを感じ取ったのか、汐の語尾が聞き返すようになっている。そして、その瞳も興味深そうにこちらを見ていたので、俺は一息付くとテレビを消して、
「前から思っていたんだが……サークルとか、部活には入らないのか?」
 一瞬、汐の動きが止まった。
「それって、演劇部とか?」
「――ああ。そうだ」
 汐自身が踏み込んできたので、俺は頷いてそう答える。
「あるんだろ、演劇部」
「うん」
「前から少し不思議に思っていたんだ。俺は、てっきり――」
 汐が、大学でも演劇部に入るんじゃないかと思っていたんだが……。
 しかし、そんな話題はとんと上がったことがない。
 高校の時も一年間ほど汐は自分が演劇部に入っていることを隠していた(というか俺が訊かなかったので汐が答えなかっただけなのだが)が、もう二度とそんなことはしないと汐本人が言った以上、こっそりと演劇部に入るとは思えなかった。
「……演劇の世界に、興味が無い訳じゃないんだけどね」
 天井を見上げて、汐はそう答えた。
「そうだよな。高校にいた間、お前はあれだけ頑張っていたんだから」
 特に、最後の一年は演劇部の部長だ。
 そう。奇しくも俺の娘は渚と同じ場所に居たのだ。
「でも、前におとーさん言ったよね。可能性を潰すなって」
「そういえば、そんなこともあったな」
 それは、汐が大学に進学するか悩んでいたときのことだ。
 当時(実は今もだが)我が家の家計簿を付けていた汐は、大学に進むのは現実的ではないと考え就職に心を傾けつつあった。そこを、俺が私的に用意しておいた貯金でその心配はないと伝えたことがあったのだ。案の定というかなんというか、最初汐はそれを使うことをためらったのだが、そのとき俺の口から飛び出たのが――今汐が言った、可能性を潰すなという言葉だった。そしてそれが文字通り最後の一押しとなり、汐は進学への道を選んだのだ。
 いまでも、あの選択に間違いは無かったと思っている。
「もちろんわたしがこのまま演劇部に入ることも可能性のひとつだけどね。だけどその前に、出来る限り見ておこうと思って」
「どこを?」
「えっと……その、世界を。ちょっと、大げさだけどね」
 多少照れくさそうに、汐。でも、他に例えるべき言葉がなかったのだろう。
「――なるほどな」
 けれどそれは、親として嬉しいことだった。
 なるほど、汐にはまだ色々な可能性がある。何にだってなれる可能性が、まだ残されているのだ。
 そしてそれは同時に、汐の若さがちょっとだけ羨ましくなる一瞬でもあった。色々なものになれる可能性それ自体が、俺にとっては眩しいものであるからだ。でもこれはこれで、親として抱かざるを得ない想いなのではないかと思う。
「なぁ、ちょっと意地悪な質問をして良いか?」
「ものによるけど……いいよ?」
 たいていの場合、汐が嫌がるのは下ネタだ。なので今回は安心して質問できる。いや、いささか気が重いものではあるが。
「汐は、高校の――あの演劇部がどうなっていくのか、気にはならないのか?」
 本当に、意地悪な質問だと思う。
 けれど俺は、演劇から離れた汐が、自らが居た演劇部の――かつて渚が蘇らせ、そして再び眠りにつかせ、そして三度目覚めたあの居場所を、どのように思っているのか知りたかったのだ。
 そんな想いを乗せた俺の問いに、汐は再び一瞬だけ動きを止めた。そして持っていた湯飲みをことりと置くと、
「そりゃ多少気にはなるよ。でもそれをさて置いても、わたしはもう演劇部には何も言えないから。後のことは、今の部長達が決めていくことだしね」
 はっきりと、そう言った。
「それでいいのか?」
「いいんじゃない? そもそも演劇部は誰かのものじゃなくて、みんなの部活だもん。もし、みんなが居るところにわたしがなにかしちゃったら、居心地が悪くなっちゃうかもしれないじゃない」
「なるほど……」
「確かに、わたしが前の部長、前の前の部長から受け継いだものもあるし、あの子――次の部長に伝えようとしたものもある。けれど、それを守るのも変えるのも、あるいは棄てるのも、次の世代が考えることだからね。自由にやっていいんだと思うよ。だってそれが――」
「それが?」
 まじめな顔の汐にそう訊く。すると汐は口元だけ笑みの形に緩めて、
「それが、部活ってものでしょ?」
 ――ああ、そうか。
「……そうだな。本当にそうだ」
 どうも、俺の知っている最初の演劇部は渚だけのものであったため、錯覚をしていたようだ。
 ――いや、違うか。渚の演劇部だって渚ひとりの演劇部じゃなかった。俺や春原、幸村のジィさんや他のみんなが居なければ成り立たなかったはずなのだ。
 そうなると、俺は随分長いこと誤解し続けていたことになる。
「ごめん渚、やっと気付いた……」
「え?」
 ぼそっと呟いたつもりであったが、汐には聞こえてしまったらしい。俺はわざとらしく咳払いをすると、
「いやその――なんか、ずいぶんと先を見据えているんだな。お前……」
 本当に大人ぽくなってきたなぁと思う。いや、後一年で本当に大人になるわけだが……。
「それより、おとーさん」
「ん?」
「おかわり!」
 にっこり笑って、汐がお茶漬けの丼を差し出す。
 どうも、大人だ子供だと断ずる以前のものがあるらしい。それがいわゆる『らしさ』なのだろう。だが、それがいいのだと思う。
 そんな娘に俺がしてやれることは、さしあたり――、
「お代は高くつくぞ?」
 そうおどけて、俺はそれに応えることにした。



Fin.




あとがきはこちら









































「……今のしおちゃんを見ていて安心しました。しおちゃんは、しおちゃんの道を歩んでいるみたいで、嬉しいです」
「そ、そうかな……(面と向かって言われると照れるなぁ……)」











































あとがき



 ○十七歳外伝、冬の大学編でした。
 私の場合は一年生の頃からサークルにべったりでむしろゼミとは疎遠でしたが、そこは十人十色の学園生活、色々なパターンがあると思います。 我らが○はまだ腰を落ち着けていないようですが、そこからどうするのかは私自身も気になるところであったり。
 さて次回は、演劇部の話で行こうかなと。

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