超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「岡崎朋也です。『おおかみこどもの雨と雪』を観て号泣しちゃった岡崎朋也です。主人公の頑張りに、全力で泣きました!」
「岡崎汐です。劇場でマジ泣きしたおとーさんに肩を貸して外に連れ出した岡崎汐です。そこまではちょっと恥ずかしいで済んだんですけど、そのままの体勢で『五年間もほったらかしてごめんなあああああっ!』と叫びながらわたしの頭を思い切りなでなでされたのは本当に恥ずかしかったです。……うれしかったけど」














































































































  

  


 夏休みに入る前、つまり1学期最後の日に、大量の荷物を持って帰る羽目になった生徒というのは確かに存在する。
 俺、岡崎朋也もそうで、小学校時代放っておいたものを持って帰るように言いつけられ、しぶしぶ運ぶことになったことが数回あった。
 ――とはいえ、それも小学校まで。中学、高校となればそんなことは起こりえない。
 そう思って、いたのだが。
「た、ただいま……!」
 鞄を肩に掛け、両手にはそれぞれシークレットサービスが持っていそうなアルミケース、そして背中にナップサックを背負って帰宅したのは、受験勉強で忙しいはずの汐だった。
 ちなみに、今現在の外気温は35度を突破している。
 前髪は額にべったりと貼り付いていたし、制服のブラウスは水でも被ったかのようにびっしょりと濡れていて、ブラの横紐部分がくっきりと見えていた(制服の構造上、本体は見えないようになっていて助かった。いや本当に)。
「お前なにやって――」
 と、この日は有給を取っていて部屋でくつろいでいた俺がすべて言い終わる前に、汐は制止せんばかりに右手を突き出した。そのせいで、今まで持っていたアルミケースが、ごとりと落ちる。
「あ……」
 俯いてそう呟く汐。汗が一滴、前髪を伝って床に落ちる。
「あ?」
「暑いのんじゃーっ!」
 真夏の空を切り裂いて、背骨が折れんばかりに天を仰いだ我が娘全力の咆吼が、周囲を震撼させた。



『真夏日の、岡崎家』



 ものすごい水音が、風呂場から響いていた。
 おそらく、蛇口を全開にして汐がシャワーを浴びているせいだろう。風呂釜のスイッチは入っていないため、シャワーの水はいっさい減速せず汐の身体にぶち当たっているはずだった。もっとも、完全に水だけだと冷たくてかなわないはずだが――この炎天下を大荷物を持って歩いてきたせいか、特にお構いなしというかむしろ大歓迎といった様子であった。
 やがて、蛇口を閉じる音と共に水音が消える。そういやあいつ、着替え持って行ったっけ――と思うまもなく、脱衣場を区切る蛇腹の向こうから、
「おとーさーん! おとーさんが持っているTシャツでいっちばん大きいの貸してー!」
 そんな声が、響いたのだった。
 案の定、忘れたか。でもTシャツだけでいいのか……?
 そう思いながらも、タンスの名から比較的大きいサイズのTシャツを取り出す。俺でもやや大きく感じる程度だから、汐だと確実にだぶだぶになるだろう。
「上から投げるぞー」
「おねがいー」
 汐が居る位置を推定して、Tシャツを投げる。
「よっと」
 あてずっぽうであったが当たっていたようで、汐は難なくキャッチしたようだった。
 程なくして――。
「OK、これ涼しい。採用!」
 さっぱりした顔で、汐が出てきた。
「いや、ちょっとまて」
 即座にそうつっこみを入れる俺。
 案の定、汐はTシャツの下に何もはいていなかったのだ。あいや、多分下着ははいているはずだが。
「いつものスパッツはどうした……」
 春夏秋冬、家の中にいるときに汐が愛用しているものを例にあげる。
「蒸れるから却下」
 手に黒い滑らかな布地で出来たスパッツを手に掲げて、汐。どうも、はいた後すぐに脱いだものらしい。
「それじゃ、せめてブルマかなんかを――」
「家の中でそれをはくのはちょっと……っていうかなんで真っ先にそれが出てくるのよ」
 確かにまぁ、あれな感じがする。渚もよほどの事情がない限りはこうとしなかったし――いや、今その話はいい。汐につっこまれたとこも含めて、だ。
「でもそれだと、俺が目のやり場に困るだろう」
 親として、そう指摘する。すると汐はさばさばとした調子で、
「だから一番裾のあるTシャツをお願いしたの。これならまず見えないし、ワンピースに見えるでしょ? ほらっ」
 立ち上がって、その場でくるりと一回転する。その際裾がふわっと浮き上がったが、指摘の通り見えることはなかったし、少し薄手のワンピースに見えなくもない。
「まぁ――そういうことならいいか」
 できるだけ薄着をしたいという気持ちはわかる。こっちだって、短パンにアロハシャツ一枚だ。汐がちゃんと配慮しているのだから、これでいいのだろう。
「さてと……」
 決意も新たにといった様子で、汐は勉強机に積み上げられたアタッシュケースふたつとナップサックに目を向けた。
 その後の一挙手一投足を眺めていると、どうもナップサックの中身は演劇部で汐が個人的にしようしている小道具のたぐいであるらしい。
 そして、ものものしいアルミケースの方はというと……。
「よいしょっと――」
 鍵とダイヤルのふたつを組み合わせて、汐が取り出したのは、紙の束だった。
「なんだそれ」
 ちょっと気になったので、そう口を挟む。すると汐はその紙束から視線を外さずに、
「片方は演劇部の予算と今学期の総費用が計上された伝票、もう片方は演劇部全部員の夏休み中の連絡先が記入されている台帳」
 すらすらと、そう答えてくれた
「個人情報というやつか……」
「そうなのよね……」
 父娘で、ため息を付く。
「だからこんなにものものしいんだな」
「そ。だから滅茶苦茶重かったの。このアルミケース、空っぽの状態でも一個三キロあるのよ?」
「あー、うちでもこういうのは金庫とかに納めるからなぁ……」
 それをわざわざ持ち出したということは、早いうちに決済したり、演劇部員に何かあったときの連絡体制を維持する為なのだろう。
 つくづく、好きでないと出来ないことだと思う。
「で、なんで今時紙で出してくるんだ?」
「そりゃ、予算と伝票の方は判子が押してあるもん。電子判子もあるらしいけど、うちの学校じゃまだ全然普及していないから」
「連絡先の方は?」
「万一ネットワークに流出したら大変でしょ?」
 もっともな話だった。
「持ち出すのはOKなのか」
「まぁね。どういう訳か知らないけど、うちの部って顧問の先生より部長の方が権限強いし」
「そういえば、そうだなぁ……」
 いままで何度か演劇部の部室にお邪魔してきたが、その中で汐の即断即決をよく見てきたような気がする。
「部長って大変なんだなぁ」
「まーねー」
 今見なければならないものと、そうでないものを区別し終わったのだろう。半分以上の書類を元のアルミケースに戻しながら、汐はそんな返事をした。
「そういやお前――」
「うん?」
「引退、随分遅くないか?」
 その言葉に、汐の肩がぴくりと動いた。
「……ごめん、受験勉強はちゃんとしているから」
「ああ、それは構わないからな」
 多少声を落とした汐に、俺は慌てて明るめの声でそう答える。
 事実、汐が自主的に提出している中間と期末テストの成績は、現役時代の俺にはとても出せない点数を叩きだしていた。そういう意味で、汐の引退を特に急かさずに待っていたのだが――どうも、汐はその強い権限を行使して引退を遅らせているようであった。
 それはただ単に、部長を続けたいからとか、適任がいないからとかそんな適当な理由ではないのだろう。親馬鹿と言われればそれまでだが、そう思う。
「ま、お前の思うとおりにすればいいと思うぞ。……でも、卒業までには引き継げよ?」
「――うん。ありがとう、おとーさん」
 一度だけこちらを振り向き、にっこりと笑って汐はそう言った。
 その笑顔はいつもよりは迷いの色で陰っていたが、今はそれで良いと思う。
 俺が何か言うよりも、汐が迷った末に出した結果であれば、それが何であれ一番納得できるものになると思うのだ。汐にとっても、俺にとっても。
「さてと――」
 いつの間にか、書類に目を通し終わったらしい。必要なものにサインや判子を押した書類をとんとんと角をそろえて、丁寧にアルミケースにしまう。
「次の演目の台詞打ち込み打ち込みっと――」
 気を取り直したのだろう。畳に大の字でうつ伏せになり、汐はノートパソコンのキーボードを叩きだした。
 大胆な格好だが、暑い日は大抵こんな感じになる。まぁ、スパッツをはいているから形のいい尻のラインが見えることはあってもそれ以上は――あ。
「なぁ、汐」
「なに?」
「その体勢だと、ぱんつ丸見えなんだが」
「あ」
 そう、今の汐はスパッツをはいていない。
「薄いピンクってのも、大人っぽくていいな!」
「ぎゃわーっ!」
 汐は爆発した。
 以降、どんなに暑い日だろうと汗だくになろうと、汐は決してスパッツを手放さなくなるようになったのだが……それはまた、別の話。



Fin.




あとがきはこちら









































「朋也くん! 見えちゃったら見ていないことにしてそれとなく教えてあげるのが大人だとおもいますっ!」
「うんうん、そうだよね」
「どうしても見たいのなら、わたしのを見てくださいっ」
「うんうん……え?」











































あとがき



 ○十七歳外伝、猛暑編でした。
 ここのところ暑い日とそうでない日が両極端な日々が続きますが、体力を落とさないように気をつけないといけませんね。
 さて次回は……間に合えば、朋也の夏休みで。

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