超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「時々思うんだけどさ、杏って汐ちゃんの先生だったわけじゃん?」
「そうだけど、いきなりなによ?」
「いやその、大変だったんじゃないかなってさ」
「大変じゃない子なんて、ひとりもいないわ。みんな何かしらのものを抱えているものだもの。汐ちゃんひとりが特別ってわけじゃないのよ」
「……なるほどね。その点は僕が間違っていたよ。ごめん」
「いいのよ。あんたの言いたいこともよくわかるから……そうね、たまには昔話をしてみましょうか」














































































































  

  


「すくーるみずぎだぜっ! 杏せんせーのすくーるみずぎ!」
 今年も夏がやってきて、あたしの幼稚園でもプールの授業が始まった。
「もむぜ! 杏せんせーのをもむぜー!」
「ひとなつのおもいでゲットだぜー!」
 そしてこういうときは、必ず一部の男の子がこんなことを言うのだ。
 まだ色を知る年頃ってわけじゃないけど、こういった仕事にはそういったトラブルはつきもの。それを知らなかった――というより経験していなかった――最初の数年はやれスカートをめくられるわ、あらぬ処を揉まれそうになるわ掴まれそうになるわ(なにせ加減をしらないのだ)で大変だった。
 ま、それも今となっては笑い話で、どうしても一定数はいるおませさんには、完璧に対応できるようになっている。
 要は――。
「ちょっとだんしたちー!」
 そう叫んだのは、女の子たちだった。



『真夏の、スキンシップ』



「そういうのって、せくはらよ!」
「そーよそーよ! せくはらよー!」
 いまあたしが受け持っている組は、こういった感じでよく男の子と女の子で意見がまっぷたつにわかれることが多々あった。
 もっともそれは悪いことばかりではなくて、子供達同士での議論に繋がるため、こういった事態に陥った場合は静観することにしている。現に……。
「な、なんだとー!」
「ついでにいうとぱわはらかもしれないわよ!」
「そーよそーよ! ぱわはらぱわはらー!」
 いや、パワハラではないと思う。っていうかどこでそんな言葉を覚えてくるのやら……。
「そういうのはゆるせない! やるならあたしたちにかってからにしなさいよー!」
「へへーん、おまえたちにまけてたまるかよ!」
「いったなー!」
 うーん、あたしが想像していた決着と違うけど……ま、こんなものだろう。
 要は、子供たちの興味を別のものに移すこと。
 それは決して飽きやすいからじゃない。より好奇心をそそられる方を選択した結果なのだ。
 思春期はまだまだ先だから、あたしにそういった意味でべたつくのは悪戯したいか単なる興味本位になる。だから、なにか別に強く興味をひくものを見せれば、問題は一気に解決するわけだ。
 というわけで今回は女の子たちに助けられた。次は何か、別の手をあらかじめ考えておこう。
 ちなみに、あたしがスクール水着を着ているのはちゃんと理由があって、子供たちと同じ格好をすることによりプールの時間には水着を着なければいけないという雰囲気を伝えるためだったりする。まぁ、陽平や朋也だったらそのままでもいいとか言いそうだけれど。
 さて、男の子たちと女の子たちがプールで激突しているから、怪我とかしないようちゃんと監督しないと――。
「ん?」
 そこで、あたしは一対の視線に気が付いた。
 斜め下から伸びてくるその眼差しの源を追ってみると、そこには――教え子である、汐ちゃんが複雑な顔であたしを見上げていた。
「どうしたの、汐ちゃん。みんなと一緒に遊ばないの?」
 それはもう遊びと言うより水中騎馬戦みたいになっていたけど、そう訊いてみる。すると、汐ちゃんは俯いて、
「あのね……」
「うん?」
「……なんでもない」
「こらこら、なんでもないは駄目って、前に言ったでしょ?」
 汐ちゃんは、人一倍我慢をする子だ。それは五歳という年齢を考えるとかなりとんでもないことで、あたしの密かな心配事のひとつでもある。
 もっと、甘えてもいいのだ。
 そう思うのだが、その甘える先である朋也と話し合えるようになったのもつい最近だ。なかなか簡単にはいかないのだろう。
 だから、あたしは汐ちゃんにはできるだけ『なんでもない』という言葉を言わないようにと教えてある。何かあったときに、すぐに相談してもらえるように……と。
 それは、あたしのひとりよがりかもしれないけれど、他の子供たちと同じように甘えられるようになって欲しいという、願いでもあった。
「それで、どうしたの? 汐ちゃん」
「……ええと、あのね」
 すごく言いにくいことらしい。汐ちゃんは頭から湯気が出そうなほど悩んでから、ものすごく小さな声で。
「その……さわってもいい?」
「――はい?」
 あたしの思考が、一瞬停止した。
 汐ちゃんが、あたしの胸を触りたい?
 な、な、なんで……?
 混乱が顔に出てしまったのだろう。汐ちゃんはなんだか申し訳なさそうに、
「ごめんなさい。やっぱり、だめ?」
「ううん、駄目ってわけじゃない……けど……なんで汐ちゃんは触りたいの?」
 そもそもの原因がよくわからないのでそう訊く。すると、汐ちゃんは控えめというか、おそるおそると言った感じで、
「おとこのこたちがいってた、やわらかくてあったかいのって、ほんとう?」
 ……ああ、なるほど。そういうことか。
 そこで、やっと理解した。
 汐ちゃんが何を求めているか。
 それは、男の子たちの悪戯心、ましてや下心などではない。
 もちろん純粋な興味本位とも違う。
 汐ちゃんは、汐ちゃんしか知らないものを知ろうとしている。ただそれだけなのだ。
 自分が知らないことを、他の子が知っていて当たり前のことを知ろうとする――特に、こういうことは人前で話すことではないから、知ったかぶりをすることも出来るのに、あえて理解しようと努力する。
 それは、とても勇気のいることだと思う。
「汐ちゃんは、えらいわね」
「え?」
「ううん、こっちの話」
 そう。それは多くの子供たちが知っていることのはずなのだ。
 何故なら――あたしは母親になったことがないから本当はわからないけど――誰もが一度は自分の子を胸に抱くものであろうから。
 その、特別な事情が、無い限りは。
「さ、どうぞ」
「え?」
 両腕を軽く広げたあたしに対し、困惑の表情を浮かべる汐ちゃん。
「ほら、早く。みんなが気付かないうちに」
 あたしは、プールの縁に座って脚を水に浸けた。こうすれば、汐ちゃんが背伸びをしなくても手が届くからだ。
「ほら、いいわよ」
「いたくない?」
「腫れ物じゃないんだから、平気よ」
 恥ずかしいという気すら、無い。何故なら、それは汐ちゃんにとって必要なことなのだから。
 汐ちゃんは躊躇いながらも、そっとその小さな手を伸ばし――その小さな手のひらが、あたしの胸に触れた。
 少し涼しい風が、あたしの髪をそっと撫でる。
「やわらかい」
 ややあってから、汐ちゃんはぽつりとそう言った。
「そう?」
「それと、あったかい」
「そっか。そう言ってもらえて、嬉しいわ」
 これが朋也だったら、こんな冷静に対応できなかっただろうなー、と心の隅でちょっとだけ思う。現に、少しくすぐったいし……あ、気持ちいいわけではない。こればっかりは、本当に。
「ま、汐ちゃんのママとは、ちょっと違うのかもしれないけどね」
「そうなの?」
 小首を傾げて、汐ちゃん。
「ごめん、こればっかりはあたしもわかんないな」
「ううん、だいじょうぶだから」
 こういうときには本当につくづくと思う。もっと話したり、遊んでいれば良かった、と。
「ありがとう、杏せんせい」
 あたしの胸に頬を寄せて、汐ちゃん。
「うん……」
 そんな汐ちゃんを、あたしはそっと抱き寄せる。
 この経験が、汐ちゃんにとって有益なものに、そして良い思い出になるように。
 本当に、そう思う。
 見上げれば夏特有の入道雲がコントラストの強い青空に浮かんでいて、その向こうで……誰かさんが笑っているような気がした。



Fin.




あとがきはこちら










































「へぇ、そんなエピソードがあったんだ……汐ちゃんらしいねぇ」
「でしょ」
「岡崎が聞いたら羨ましがるだろうね。ん? でも待てよ、もし今の汐ちゃんだったら――」

■ ■ ■

「あ……藤林先生の、あったかい」
「ふふ……汐ちゃんのも、柔らかいわよ……あら、もうここをこんなにしちゃって――」
「やだ……藤林先生、そんなにところに指――」

■ ■ ■

「うおおおおっ! 僕ものすごく興奮してきちゃったー!」
「あははは……最近渋くなってきたかなーとか考えていたけどそんなことなかったわね! というわけで……歯を食いしばりなさい?」
「いや、これはちょっとしたお茶目って言うか……ちょ、待っ――うわらば!」











































あとがき



 ○十七歳外伝、幼稚園のプールサイド編でした。
 ちょっと季節が早いようなきがしましたが、その季節になってから間に合わないよりかはいいかなーと思って、ちょっくら前倒しです。
 しかしまぁなんというか、最近の○はなんだからあれにまつわる話が多いですね。そろそろ自重せねば。
 さて次回は……時間がかかると思いますが、演劇部で。

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