超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
ブラウザのバックボタンで戻ってください。

このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

それでも読む方は方はここをクリックするか、
ガンガンスクロールさせてください。
























































「ぷち演劇シリーズ。今回は作者がドはまりした『妖狐×僕SS』で。例によって、わたしが主人公で。……役よりちょっと胸があるけど」
「イエス、メニアック! というわけで一言イコール名言な役をもらったけど、胸のない主人公を汐ちゃんがやるってのもなんか新鮮ね」
「あれ、藤林先生も読んだんですか?」
「え、あ、まぁね(椋と一緒に読んでいるなんて言えないわね……)。んで、主人公のシークレットサービス役は?」
「それはもちろん、中の人縛りという制約がありますから――」
「お呼びですか? 凜々蝶様」(キラキラキラキラ)
「うっ……あー、おとーさん?」
「凜々蝶様、今だけは僕を御狐神君とお呼び下さい。そうしていただくことが――僕にとって、この上ない喜びとなりますから」(キラキラキラキラ)
「う……わ、『わかった、そう呼ぶことにしよう、御狐神君』」
「かしこまりました、凜々蝶様」(キラキラキラキラ)
「……いやーっ! こんなおとーさんいやーっ!!」
「ああっ、凜々蝶様っ一体どちらに行かれるのですかっ」(キラキラキラキラキラキラキラキラ)
「身悶える汐ちゃん……メニアック!」














































































































  

  


「こんにちはー」
 いつも通りの明るい声で我が家にやってきたのは、汐が幼稚園に通っていたときに世話になった――そして俺と学生時代からの縁である藤林杏だった。
「あら、汐ちゃんはいないの?」
「なんか買い物があるとかでついさっき出かけたが」
 居間で読んでいた新聞を畳みながら、俺。
「あらら、入れ違いになっちゃったわね……」
 腰に両手を当てて溜息をつく杏に、
「すぐに帰ってくると思うから、ゆっくりしていけ」
 お茶を淹れながら俺がそう言うと、そうするわと言って、杏はちゃぶ台の向かい側に座る。
 思えば、学生時代より少しだけ丸くなったよな。そう思いながら俺はお茶の入った湯飲みを渡そうとして――ある重要なことを思い出した。
「あ、そうだ杏」
「なに?」
「汐のことについて、ちょっと訊きたいことがあるんだが」
「なによ改まって。どんなことが訊きたいの?」
 汐ちゃんの恋に関することなら、あたしは無条件で汐ちゃんの味方だから、そのつもりでね。と杏は言うが、幸いなことにそっちの話ではない。
「――あー、怒るなよ?」
「汐ちゃんのことなんでしょ。今更怒ることなんてなにひとつ無いわよ」
「それも、そうか……」
 そう言ってくれると、ありがたい話だった。
「それじゃ訊くが」
「うん」
「汐って――巨乳か?」
 俺は怒られた。



『年頃の娘が気にならない父親など、居ないはずがない!』



「まったくねぇ……最初娘を性的な目で見ているんじゃないかって危惧しちゃったじゃないの」
 あきれたように肩で息をついて、杏がそう言う。
「済まなかった」
 頭にめり込んだ辞書を丁寧にちゃぶ台の上に置いて、俺。年のせいだろうか、ぎりぎりで避けられなくなったのがなんというか悲しいところであったりする。
「だいたい巨乳だったとしたら、どうしたいのよ」
「そりゃもちろん自慢する」
「――仮にだけど、貧乳だったら」
「そりゃもちろん自慢する」
「どっちにしても自慢するのかっ!」
 キレのいいツッコミを披露する杏であった。
「まぁ、あたしからみて十分豊かだと思うけどね。ああいうのはちゃんとした基準があると思うから、とりあえず、専門家を呼んでおいたわ」
 携帯電話をジーンズのポケットにしまって、杏。どうやらメールか何かで呼び出したらしい。
「専門家って……」
 誰だ? と俺が言おうとしたときである。
「こんにちは〜」
 そんな声と共に我が家にやってきたのは、俺の幼なじみで、今はどっちかというと汐や杏とよく一緒にいる一ノ瀬ことみであった。
「杏ちゃんに呼ばれたの。朋也くん、どんなご用事?」
 ……ああ、これは。
「なるほど、専門家」
「そう、巨乳の専門家」
「そんなの専門じゃないのっ!」
 割と本気で怒ることみであった。
「ただでさえ、ゴシップ雑誌に『巨乳のアインシュタイン』なんて紹介されているのに、朋也くん達までひどいの」
 口の先を尖らせて、ことみはそう言う。
「でも、専門家に見えます」
 わざわざ挙手までしてそう言ったのは、風子だった。
「……待て。いつの間にいた、お前」
 俺がそう指摘すると、幼なじみは幼なじみでも、汐の幼なじみである伊吹風子はしれっとした貌で、
「いえその、汐ちゃんのお友達が汐ちゃんの家に入っていくところをみてしまったもので。たぶん、汐ちゃん絡みのお話であろうと察したまでです」
 相変わらず、そういうところは妙に鋭いと思う。
「んじゃこっちは貧乳の専門ってことで」
「なんかいきなり専門家にされてしまいましたっ! こころもち屈辱ですっ!」
 まぁ、そっちはそうなるのかもしれない。が、ことみほど深刻さがないように感じる俺である。
「で、どうなの? 汐ちゃんってことみから見ても大きく感じる? っていうか巨乳?」
「そんなの知らないのっ」
 拗ねることみだった。
「そもそも胸が大きくて良いことなんてあんまりないの。服のサイズは制限されるし種類もなんか色っぽいのが多いし、肩は凝るし、うつ伏せになれないし」
「最後の、どういうことだ?」
 思わず口を挟む俺。すると――。
「こういうこと」
 ことみは、実践してみせた。畳の上にごろりと横臥してから、うつ伏せなる。
「結構この状態、苦しいの」
「ああ、わかった……」
 なるほど、若干上半身が弓反りになっている。というか、あらぬところのつぶれっぷりが半端なかった。
「ふぅ……」
 よほど苦しかったのだろう。仰向けになって、大きく息をつくことみ。
「その状態でもカップの大きさ保っているんだもんね。すごいわ本当」
 どこか羨ましそうな貌で、杏。
「目に毒です」
 風子がそんなことを言う。その割には凝視しているように見えるのだが……。
「うーん……ブラを外せば少しは潰れるけど、――外す?」
「「こらこらこらこら」」
 図らずも、杏と俺の声が重なった。
「……失言だったの」
 今になってその意味に気付いたらしい。ことみは真っ赤になって撤回する。
「あ、そうそう。つぶれるで思い出したけど、満員電車でも大変なの。押しつけられると、どんな服装でも痛いし」
 ぎゅっと自分の胸を押しつけて、ことみ。
「だろうな……」
 つい見とれてしまったが、確かに本人にとっては大事であろう。
「だから、胸なんて無い方がいいと思うの」
 珍しく憮然とした貌で、ことみはそう締めくくった。
「はたして、そうでしょうか――」
 そこで、今まで黙っていた風子が口火を切る。
「一ノ瀬さんの言うこともわかります。ですが、風子にはどれも贅沢な悩みにしか聞こえません……!」
 こちらも珍しいことに、きりっとした貌で、風子は言う。
「先程の服のサイズですが、確かに無い方がいろいろ選べます。ですが――」
「ですが?」
「男物の方が似合うと言われたときはショックでしたっ!」
 ……ああ、なるほど。
 それは、なんとなくわかる話であった。汐が幼いころに男の子の格好をさせたら、ちょっと嫌そうだったし。
「それに、風子が子供向けの下着から脱却できるまで、一体どれだけかかったことか――!」
「……結構苦労してるのね」
 と、杏。
「個人的にはイーブンだと思うの……」
 自分の胸元を見つめながら、ことみがそんな感想を漏らす。ことみはことみで――その、色々とあったのだろう。
「つまり、何事にもほどほどってことか」
「その通りだけど、なんであんたが言うのよ?」
「いやまぁ、話の流れ的にな」
 いつの間にやら、俺が司会進行役っぽいし。
「まぁそれはさておいて、汐が巨乳かどうかなんだが」
「何か指標が欲しいわよね、誰かより大きいとか」
 と、杏。
「そうだな……少なくとも、渚よりでかい」
「それ、生で確かめたの?」
「確かめられるかっ! あくまで服の上から見た印象だ、印象!」
 渚の方はともかくとして――いやいや。
「だからこそ、汐と一緒に風呂とかに入っている杏達に訊いているんだろうが……」
 咳払いをしながら、俺。
「うーん……」
 両腕を組んで、杏が唸る。
「悔しいけど、あたしより大きいわね」
「そうなのか……」
「こら、そこで視線を下げるんじゃないの」
「す、すまん」
 確かに今のは、不躾な視線であったと思う。
「風子が思うに、一ノ瀬さんよりかは大きくないです。まことに残念なことですが」
「そう?」
 ことみが首を傾げるがそれも間違いないだろう。
「そして言うまでもありませんが風子より圧倒的にあります……! あの胸に飛び込んで頬摺りとかすると、汐ちゃんの成長を実感できて最高ですっ」
 なにそれ羨ましい。
「私の場合は、昔の汐ちゃんをよく知らないからわからないけれど……小さかった汐ちゃん、見てみたかったの」
 ちょっとだけ残念そうに、ことみがそう呟く。
「今度写真を見せてあげるわ」
 幼稚園児代のなら、写真は文字通り山とある杏がそう言うと、ことみは嬉しそうにありがとうと答えて微笑む。
「まぁ総合すると、風子や杏より上、ことみよりは下か。んで、風子は省略して杏は普通、ことみは所謂巨が付くと」
「岡崎さんひどいです。ちゃんと風子も加えて下さい」
「それじゃ風子は貧乳ってことで」
「ああっ! 言われた方が傷つきましたっ!」
「なら頼まなければいいじゃない」
 呆れた様子で、杏がそう言う。
「それはともかく、やっぱり何らかの数値なり境目なりが必要だよな」
 と、俺。もう少し人数を集めれば、大まかな境界がわかりそうではあるが。
「あ……」
 そこで何かに気付いたかのように、ことみが挙手する。
「あくまで、私のパターンだけれど、服の上下のサイズが違っていて、なおかつ上の方が下の方よりサイズが大きい場合が、そうなんじゃないかと思うの」
「ウェストは?」
 杏が指摘する。
「杏ちゃん、スカートやズボンのサイズの一番上は?」
「あ、ウェストか……なるほどね」
「つまり、ことみの推測では服の上下でサイズを変えざるを得ない場合は、巨乳ということなんだな?」
「たぶんそう。学生時代だって、制服はともかく体操服の上下でサイズが違っていたの!」
「え……? ああ、そういえば胸はぱっつんぱっつんだったけど裾は随分余っていたものねぇ」
 体育は女子と男子で別れてなおかつ学年合同であるから、杏はことみの体操服姿を見ていたのだろう。
「おそらくそうだと思うの。ただ、国が違えば別だけど――例えば、アメリカなら私は普通のサイズみたいなの」
「……すごいな、アメリカ」
 本当に、そう思う。ことみ以上ということは、美佐枝さんレベルだろうか。
「一回アメリカ直輸入のアウトレットモールで買い物したことあるけど、すごいわよ。胸元にバスケットボールがまるまる入りそうなくらい余裕があるのに、ウエストはぴったりなの」
 杏もそんなことを言う。
「一体なんだって、そんなに差が付いたんだろうなぁ……」
 思わず遠い目になる俺。
「その説明をすると半日はかかるから省略するけれど、強いて言うなら文化が違うの」
 一言で済ましてしまうことみであった。
「風子、そんなところに行ったら子供扱いされてしまいそうですっ!」
 大丈夫だ、既に子供扱いされているから――とは、言えない俺であった。
「子供に思われるのはいいんじゃないの?」
 ちゃぶ台に頬杖をついて、杏がそんなことを言う。
「そして大人になったらナイスバディになるよとか言われるんですが。でも、風子に成長の余地があるように見えますか……?」
「ああうん、ごめん……」
 目をそらす杏。なるほど、いつまでも子供扱いされいても、嬉しくはないということか。
「でも逆に言えば、老けないという可能性があるの……!」
 ことみが今気付いたと言った様子で、そんなことを言う。
「それは盲点でしたっ!」
 心底驚いた様子で、風子が叫ぶ。
「つまり風子、いつまでもたっても子近所から可愛いお嬢さんと噂されるわけですね。照れますっ!」
「まぁ、早苗さんっていうスタイル抜群で若いままの人もいるけどな」
 我ながら、割と容赦の無い一言だった。
「岡崎さんのその一言で、風子傷つきました。キズモノです……」
「お前は何を言っているんだ」
「でも、汐ちゃんのスタイルの良さは間違いなくそこからの遺伝よね……」
 と、羨ましそうに杏。
「真面目な話、DNAのサンプルとか採取しておいた方が人類の為に役立つような気がするの」
 どこまで本気かわからない貌で、ことみがそう言う。
「お前らな……少しは俺の遺伝子のことも考えてやってくれ」
 このままだと汐が早苗さんのクローンだと信じ込まれてもおかしくないような気がしたのでそう言うと、
「なに言ってるのよ。汐ちゃんの性格は思いっきりあんた寄りじゃないの」
 杏がそんなことを言う。
「――なんだって?」
「統計上、女の子は父親の影響を受けやすいの」
「ちょっと待ってくれ、それだと渚はオッサン寄りの性格になるはずだが」
「あくまで統計の話なの。それに汐ちゃんのママは例外のケースに当てはまりそうな気がするの」
 渚とは直接面識が無かったことみだが、オッサンとはちょくちょく顔を合わせている。それ故の感想であるらしかった。
「あるいは、反面教師――」
「OKことみ、それくらいにしておこう」
 なんか芋蔓式に怖いことを想像してしまう。俺の妻は、そんなに腹黒くない――はずだ。
「確かに、汐ちゃんの性格は岡崎さんの影響を受けています。遺憾なことですが」
「ほほう」
 なかなか愉快なことを風子が言うので、ありがたく拝聴することにする。
「もうちょっとこうお淑やかであれば、抱きついたついでに胸に頬摺りしても、すぐさまひっぺがされることはなかったでしょう……!」
「そりゃそんなことすりゃ誰だってそうするだろうがっ」
 俺だってそうするし、例え渚にしたとしても――あー、渚なら大丈夫か――いやいや。
「ま、百パーセントあんたって訳じゃないから安心しなさい」
 杏がそんなことを言う。
「そうです。ツッコミは容赦ありませんが、基本的に汐ちゃんの方が岡崎さんより優しいですし」
 風子もそんなことを言った。
「多分、そういうところは汐ちゃんのママに似たんじゃないかなって、思うの」
 最後に、ことみ。
「そうだな……」
 確かに、そうだと思う。
「あれよね、ことみと渚を会わせたかったわ。あ、風子もね」
 ちゃぶ台に頬杖をついて、杏がそう言う。
「風子はもう何度か会った気がしますが……」
「はい?」
「いえ、こっちの話です」
 なんだかよくわからないことを言う風子だった。
「でもそっか、娘は父親の影響を受けるか……ん?」
 そこではたと杏の動きが止まる。
「つまりあれってこと? あたしは幼稚園で朋也の面倒をみていたってことにもなる――」
「おい杏、なんでそこで赤くなる」
「あ、赤くなって無いわよっ!」
 首を真横にぶんぶんと振る杏。だが、その顔は赤いままであった。
「まぁ、杏ちゃんのちょっと特殊な嗜好はおいておいて――」
「ちょっと待ちなさいよことみっ! 特殊な嗜好ってなによ特殊な嗜好ってぇ!」
「具体的に言うと、好きな男性の――」
「ことみストップ! 当たってても外れていても恥ずかしいからストップっ!」
 今度は一転してことみを抑える杏であった。
「なぁ風子、今のは一体――」
「さぁ、風子にはよくわかりません」
「今、微妙な間が無かったか?」
 そっぽを向く風子だった。
「そんなことより、とりあえず汐ちゃんが普段来ている服の組み合わせを箪笥から持ってきたわけですが」
「――お前、すごいな」
 一体いつの間に……。
「汐ちゃんの普段着はあたしもわかるけど、なんで箪笥のどこにあるか把握しているの?」
 俺も抱いた疑問を、杏が代わって訊く。
「風子、汐ちゃんのことならなんでも知っていますので」
「流石は汐ちゃんの幼なじみなの」
 ことみが感心してそう言うが、それはなにか違うような気がする。
「んじゃ早速――」
「はい没収!」
 ちゃぶ台に置かれた汐の服が、一瞬にして目の前から消え去った。ふと見上げれば、そこには仁王立ちの、
「お帰り、汐。お茶飲むか?」
「へいおとーさん、何普段通りに接しようとしているの。まずはなんで私の服がちゃぶ台の上に広げられているのか話すのが父親の責務だよね。おーらい?」
 自分の服を抱きしめて、何とも形容しがたいオーラを漂わせつつ、汐がそう言う。
「朋也がね、気になるんだって」
「ほほう、わたしの下着がですか?」
「何故だーっ!」
 思わずこの前見た老人と若者で構成された新人お笑いコンビの持ち芸を真似て叫ぶ、俺。
「汐ちゃんが巨乳かどうか、気になるんですって」
「……はい?」
 汐の首が、ほぼ九十度に傾いた。
「な、な、なんでまた?」
「自慢したいんですってよ、汐ちゃんが巨乳だって」
 呆れた様子で杏がそう続ける。
「なんでそんなのが気になるのよ、おとーさん……」
「いや、なんとなくだ。なんとなく」
「そう言うときは大抵深層心理に働きかける何かがあったはずなの。たとえば、汐ちゃんの胸が大きいだろうって朋也くんが思うようなこと」
 ことみがとんでもないことを口にした。すると杏がぽんと手を打って、
「あー、ありそうねそれ。汐ちゃん、一応訊くけど朋也の目の毒になりそうなこと、してる?」
「しませんよ、そんなこと」
「本当にそう? お風呂上がりにバスタオル一枚でうろついていたりしてない?」
「してませんってば」
「寝るときに面倒になってTシャツ一枚だけっていうのも、案外刺激的なの」
「してないですっ!」
「風子、発想を逆転させてみました。つまり汐ちゃんがお風呂上がりにバスタオルも何も着けずにうろついていたのかも――」
「するかーっ!」
 久々に吼える俺の娘であった。
「まったくもぅ……そういうのは、お互い大人ですから。ちゃんと節度を守ってます!」
「……へぇ」
「……うん」
「……ヒトデ」
 三者三様、感心のため息を漏らす(若干約一名が、別のことを考えていそうであったが)。かく言う俺も、黙って息を呑んでいた。
 だってそうだろう。汐が自分を大人であると意識していると言っているのだから。
 なんというか、大学に入ってから大人びてきたなと思っていた俺であったが、その内面は想像以上に成熟しているようであった。
「大人かぁ。十九歳にしてそういう発言が飛び出してくるとは思わなかったわ」
 嬉しそうな様子で、杏。
「きっと朋也くんの育て方が実を結んだの。そしてそれ以上に汐ちゃんが素直な子であったのが良かったの」
 ことみも嬉しそうに、そう言う。
「風子、そこらへんはよくわかりませんが……」
 最後に風子がそう呟く。
「汐ちゃんは小さいころから、いい子です」
 確かに。その場にいた全員が風子の言葉に頷く。
「それで、実際に汐ちゃんは大きいんですか? 小さいんですか?」
「いやあの……ふぅさんさ」
 ため息混じりに汐は言う。
「普通にカップのサイズを測ってDかE以上ならいいんじゃない?」
「……あ!」
 気付かなかったとばかりに、ことみはポンと手を叩く。杏と風子も、似たような感じであった。
「灯台もと暗しなの……」
「ことみちゃんって、ときどきものすごく迂回した思考になるよね」
「否定できないの」
 ちょっと悔しそうに、ことみ。
「んじゃ、解決方法がわかったところで――」
 杏がゆらりと立ち上がる。
「測らせて、くれるのよね?」
「なん……だと……!」
 濃ゆい顔つきになって、汐。
「藤林さん……」
 神妙な顔つきで、風子が言う。
「風子も、手伝います」
「ブルータス、お前もか!」
 汐が叫ぶ。
「ことみは?」
「もちろん……」
 艶やかながらもどこか怖さをにじませて、ことみが答える。
「測ることは既に確定事項なの」
 どうでもいいが、マネキン人形をむりやり動かしたときのようにギギギ……と間接を軋ませるのはやめて欲しい。
「えええええ……」
 汐がそんな悲鳴をあげるなか、三人の人影がゆらりと立ち上がる。
「おとーさん、へるぷみー」
「……観念しろ」
 いかに娘の危機とはいえ、ご婦人――いや、乙女三人には適わない。かくして――、
「突撃!」
「いっぺん、測ってみる?」
「ヒトデ・ファンタズマ!」
「に゛ぃゃあああああーっ!」
 汐の微妙に色気のある悲鳴が、辺りに響きわたったのであった。
 結果であるが……それは一応、秘密にしておこうと思う。



Fin.




あとがきはこちら










































「それで結局、しおちゃんはその……大きいんですか?」
「んー――、秘密っ。お母さんとしては、やっぱり気になる?」
「いえ、わたしは朋也くんに渚のくらいが一番好きな大きさだって言ってもらえましたから……えへへ」
「の、惚気られたーっ!?」











































あとがき



 ○十七歳外伝、作者的にはぎりぎり普通、後一歩で巨のレベル希望編でした。
 なんか久々にお馬鹿な話をやりたいなと思っていたら、予想以上に愉快な展開になってしまいました。たまにはこういう話も……ありですよね?
 さて次回は、ちょっと真面目になります。


Back

Top