超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
ブラウザのバックボタンで戻ってください。

このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

それでも読む方は方はここをクリックするか、
ガンガンスクロールさせてください。
























































「あの創立者祭とは日付がずれてしまいましたが……文化祭で頑張る生徒の皆さんを見ていると、すごく楽しいです」
「それはいいんだけど……年々目撃証言が増えているから気を付けてね」














































































































  

  


 文化祭というと、我らが演劇部では公演が目玉になるわけだが、実はそれ以外にも色々とやっていることがあったりする。
 そのうちのひとつが所謂グッズ販売で、映画のパンフレットを模した演劇のパンフレットや、わたしを含めて各部員のブロマイド(公演ごとの役の格好で数種類を撮ってある。こちらは、所謂プロの劇団にある売店のお土産を参考にしたのだ)を他の部活と協力しながら――撮影を写真部、印刷を漫画研究会といった具合に――販売しているのである。
 これが、結構な売り上げを記録しており、協力してくれた各部活に分配し終わってもかなりの額が部費として計上できてしまったりする。
 それは、以外と出費が嵩む我らが演劇部にとって非常にありがたいことだったのだ。



『文化祭と、大人買い』



「どう? 様子は」
 演目と演目の合間を縫って、わたしは会場入り口に設えられた件の売店に顔を出していた。
「あ、岡崎部長……お陰様で、順調です」
 店番というか、レジ担当の一年生の女子が、そう報告してくれる。
「って岡崎部長、衣装のままこちらの方に出ないでくださいっ」
 ――おっと。
「ごめんごめん、この衣装脱ぐのにも着るのにも時間がかかるから」
「マント、絶対に翻さないで下さい。目のやり場に困ってしまいますので」
「あ、うん。気を付ける……」
 そういえば、そうだった。今回のわたしの衣装は、結構きわどい。舞台に立っている間は他の役の衣装に埋もれてそれほど目立たないであろうけど、こうして普段の場にいれば目立つこと必至だ。そんな場でマントの下のきわどいのを公開してしまえば、翌朝には新聞部によって構内新聞一面を飾ってしまうのは間違いない。
「とりあえず、暴れないようにはするわね」
「お願い致します」
 演劇部に入部した当初は物怖じしていた後輩のこの子も、今ではこれくらいは言えるようになっていた。
 その成長が、わたしには嬉しかったりする。
「それで、一番人気は?」
「やっぱりパンフレットとブロマイドが良く売れています。あと、今回はあのネックレスが売れているようです」
 目玉商品はカタログとブロマイドだが、まれに小道具のレプリカなども売っている。こちらは手芸部や日曜大工部などの協賛だった。
 今回は特に、劇中で重要なポジションを占めたネックレスが彫金研究会の協力の下大量に生産されており、それが好評を博しているようである。「グッズ商法ってのも、結構ありかもね」
「そうですね。これでより凝った大道具小道具が作れるって担当の先輩が喜んでいました」
「そっか……」
 隣のパイプ椅子に座って、一息つく。
「レジ打ちの方はどう? 慣れた?」
 わたしの方は割と小さい頃から古河パンのレジ打ちをしていたから慣れているが、そうでないと大変だろう。そう思って訊いてみると、
「ええ、お陰様で。結構私に向いているみたいです」
 笑顔でそんな答えが返ってきた。
「OKOK、せっかくの文化祭なんだから楽しまないとね」
 今は公演と公演の間なので、舞台となる体育館前のここはあまり人通りが多くない。わたしもわたしで、打ち合わせの類は終わらせていたので、ちょっとだけ暇であったりする。
「だいぶ経ってから訊いちゃうけど、部活も――慣れた?」
 少しだけ遠慮がちに訊いてみる。彼女はわたしが半ば強引に演劇部に勧誘したからだ。もっとも、それだけで入部したわけではないと思うが。
「はい。最初は私で大丈夫かなと思いましたが、今はなんだか楽しいです」
 と、後輩の子は言う。うーん、それはそれで嬉しいけど……。
「でも、そろそろ舞台に上がってみたいなぁ……って、思わない?」
 こちらは何度か舞台に上がることを勧めているのだが、本人が裏方を希望しているのでそのようにしている。
 正直、舞台に上がればわたしより映えると思うのだけど……。
「思わないでも、ありませんが……」
 途端、目を伏せて後輩の子は続ける。
「まだ、少し怖いんです」
「――そっか」
 俯く彼女に対して、わたしは天井を見上げる。
「いつかは、舞台に立てるようになると思います」
「うん、待ってる」
 もしかするとそれは、わたしが引退した後かもしれない。それでも彼女の言うその言葉が、いつ現実になるのが楽しみになるわたしであった。
「それにしても――」
 改めて、売店の前に並べられているものと、バックヤードにあるものをチェックしてみる。
「ほんとう、どれも結構売れて……んん?」
 その違和感の、原因はすぐにわかった。
 売場に並べられたわたしのブロマイドがごっそり無いというのは、なんかおかしい。
「ねぇ、これ――まさかと思うけど」
 わたしが指摘するより早く、その意図に気付いたのだろう。後輩の子はひとつ頷くと、
「ご想像の通りです。先程ワイルド・アッキーとトモヤビー・ブルックス・ジュニアとか名乗られるおふたりがごっそり買っていきました。枚数は、制限いっぱいの十枚ずつで」
 やっぱり、枚数制限をかけておいて正解だった。
 って言うか、どっからどう聞いてもあっきーとおとーさんだった。
 それにしても……どうして偽名に自分の名前を埋め込んでいるんだろう。ばれたいんだろうか、わざとわたしに怒られたいんだろうか。
 あ、でもついうっかりって可能性もあるか……っていうか、そっちの方がありえそうな気がする――。
「岡崎部長?」
「――あ、ごめん。それじゃ、それぞれもう何十枚か刷ってもらえるよう指示を出しておいてもらえる?」
「了解致しました」
「一応聞いておくけど、誰だかわかったよね?」
「ええ、まぁ……」
 おとーさんやあっきーと面識があるから、余計に困った貌で、後輩の子はそう答える。
「岡崎さんに、あの眼鏡はあまり似合いませんでした」
 どんな眼鏡をかけたのだろうか、おとーさんは。
「まぁ限度十枚を買ったならもういいか――」
「失礼仕る!」
 そこでいきなりそう言ってレジの前に立ったのは、何処から持ってきたのか羽織と顔が半分隠れる仮面を被った、端整な体格と顔つきの男性だった。仮面が半分しか隠れないから――ではなく、その声と姿で誰だかすぐにわかる。……わかるが、理解したくはなかった。
「なにやってるのよ、おとーさん」
「――おとーさん? 君とは初対面だが」
「わたしの目を見て、もう一度言ってくれる?」
「……ごほん」
 誤魔化された。
「私の名前は武士道仮面。――武士道の、水先案内人だ」
 どこからつっこめばいいのか迷うくらいの、迷演技なおとーさんだった。
 お母さんと一緒に演劇部をやっていた頃は舞台に立てなかったし、立たなかったと言っていたけど、案外うまくやれたんじゃないかと思う娘のわたしである。
「ええと……どちらの商品をお探しでしょう?」
 呆れ顔半分、困り顔半分といった様子で、後輩の子が己の職分を果たそうとする。
「岡崎汐のブロマイドを、もう十枚ずつ所望する!」
「……ほう、『もう』十枚ずつ?」
「――やべっ!」
 聞き逃すわけにはいかなかったし、見逃すつもりもなかった。
「……そこまでよ!」
 マントを翻して、わたし。
「岡崎部長!」
「……あ」
 もろに見せてしまった。マントの下の黒のハイレグレオタード、withガーターベルト。
「眼福であったっ!」
「すぐに忘れるっ!」
 おとーさんの両肩を掴み、ガックンガクン揺さぶって、わたし。
「しかし、高校三年生がツインテールでマントの下が黒のハイレグレオタードにカーターベルトってマニアックすぎないか?」
「仕方ないでしょ、ノリで提案が出てノリで承認しちゃったんだからっ!」
 いきなり素に戻ったおとーさんに、わたしは叫ぶようにそう言う。我が演劇部の演目を決める会議では、そういう事態に陥ることがよくあるのだ。
「それに昔から悪の魔法少女は露出度高めって決まっているでしょ?」
「悪の『魔法少女』って、つい最近出来た気がするけどな」
 そこは、見解の差だろう。そう思うことにする。
「それにしても眼福って――舞台でもさんざん見たでしょうに」
 呆れかえりながらわたしがそう言うと、元の格好に戻ったおとーさん(変装用具をどこにしまったんだろう)は何を言うと反論し、
「舞台かぶりつきよりもさらに間近で見られたのだ、こんなに嬉しいことはない!」
「わかったからその無駄にハイテンションな演技引っ込めて……なんかものすごく疲れるから」
「ふむ……そんなに疲れるか?」
 元の調子に戻って、おとーさん。
「藤林先生の前でやってみればわかると思うよ。多分数分もしないうちに『暑苦しいわーっ!』って言われて辞書投げつけられると思う」
「うむ……ありそうだな」
 何か思い当たることがあるのか、深刻な貌で、おとーさん。
「しかし、今の杏の演技すごかったな。まるで本人みたいだったぞ?」
「んー、割と身近な人達なら結構自信があるけど?」
「マジでか」
「マジマジ。さてと」
 身内だからとはいえ――いや身内だからこそか。私は気を引き締める
「さぁ、きりきり答えてもらいましょーか。わたしのだけ随分と減っちゃっているけど、その分のブロマイドもおとーさんが買っていったんでしょ?」
「いや、俺じゃないって」
 と、手をぶんぶんと振りながら、おとーさんはそう言う。
「それよりだな、次の演目もうすぐだろ? 急がなくていいのか?」
「だからさっさと終わらせたいの!」
 両手を腰に当てて、わたし。
「わたしのブロマイドだけ、売れ行きが良すぎるのよ。そんなことをするの、おとーさんとあっきーぐらいでしょ? っていうか、そもそも十枚もどうするのよ、これ……」
「そりゃもちろん町内会に配って――」
「却下っ!」
「あの、クーリングオフということでいかがでしょう?」
 と、売場の番をほかの演劇部の子と交代した後輩の子が助け船を出してくれる。
「それも駄目。お客さんに中古のものを売るわけには行かないでしょう?」
 細かい傷や、歪みがあっては申し訳ない。
「あ、そうですね……」
 気づかなかったとばかりに、後輩の子。
「とにかく、これだけ売れるのはおかしいわ。おとーさんでないなら、あっきーがたくさん――」
「あのな、汐」
 そこで、おとーさんが横から割って入った。
「お前、ちょっと自分を過小評価していないか?」
「え……?」
「私もそう思います」
「……ええっ!?」
 まさか後輩の子にまでそう言われるとは、思わなかった。
「でもおとーさん以外で10枚もがっつりと買いそうなのは――」
「一回だけですけど、一般のお客様からも10枚は売れていますし」
「……それ以前は?」
「申し訳ありません、私が引き継ぐ前はちょっと――」
「ううん、気にしないで」
 そもそもこういった(脱力する)事態を読めなかったわたしのミスだし。
「そういえば、あっきーは?」
「オッサンなら『ワイルドに配るぜ!』とか言いながら帰ったが」
「つまり、おとーさんとあっきーでそれぞれ二十枚は一度にはけているわけでしょ、そこに十枚とそこそこ売れていると……じゃあ残りはやっぱり」
「だから俺じゃないぞ」
「だって、あとはおとーさんだけでしょ。そんなに買うの」
「いやだから、これが初めての二回目だって。それすらお前に阻止されたわけだし」
「それじゃ、成功していたらどうしていたのよ」
「そりゃ、欲しい人に配るだけだ。数枚は予備で手元に置くつもりだったがな!」
「あのね……」
「ちなみに、この日のために給料を貯めておいたんだぞ?」
 ……我が家の家計が、部費へと変貌を遂げていた。
 端から見ると、ものすごく過保護な父親に見えなくもない。
「あー、岡崎演劇部部長。こんなところにいましたか」
 そこで声をかけてきたのは、ブロマイドの印刷を手がける漫画研究会の会長だった。
「どうしました?」
「いやなに、ブロマイドの売り上げが……特に岡崎部長のが多いので、ここらで一気に増刷してしまおうかと思いまして」
「え、でも、そんなに売れているんですか? わたしの……」
「はい、岡崎部長のでしたら満遍なく。特に売れているのが、これですね」
 そう言って手渡されたのは、あのお母さんの演劇を再現したときのものだった。役名が明確でなかったので、最近では『幻想世界の少女』と言う名前になっている。それにしても……。
「へぇ、それなんだ――」
 ちょっと意外なわたし。なにせ、それほど長い劇でもないし、他の役者がいるわけでもない。演じた私が言うのもなんだが、ちょっと特殊な劇だと思っているのだ。
「あ、それわかる気がします」
 なのに、後輩の子が即座にそう言う。
「え? なんで?」
 思わずそう訊いてしまうわたし。すると、
「いえ、その……」
 後輩は、少し間を置いてから、
「岡崎部長って、その役だけは素で演じられていますよね。その――技巧は凝らしていらっしゃるんですけど、役の性格付けとかは一切されていないような……」
 ……鋭い。
 わたしは、内心舌を巻く。
 確かにその通りで、わたしはお母さんの遺してくれた演劇だけは自分自身に置き換えて演技をしている。ごく最初はお母さんを演じようとしたのだけれど、そのまま練習を進めていくうちに少しずつ違和感が大きくなったからだ。おそらくそれは、お母さんがお母さんとして演技をしていなかったからだろう。
 そして何度か練習していくうちにふと普段の自分のつもりで演技した途端、すとんと何かにはまったように、すんなりと上手くいったのだった。 お母さんは、わたしを演じたのだろうか。
 少しばかり、興味のわくところである。
「だからかなのかは存知ませんが、岡崎部長の演技は、あの劇がずば抜けていると思うのです。だから――そのブロマイドもそれだけ売れるのではないかと思います」
「あ、うん。ありがと……」
 改めてそう言われると、気恥ずかしいわたしだった。
「でもやっぱり、わたしのだけがやたら売れているのが気になるのよね……」
「ああ、それなら――」
 漫画研究会の会長が手を挙げて言う。
「そっちの子が引継ぐ前にたまたま立ち寄ったときに見たんですけど、ブルー・アプリコットとヒトデ・ハイとスノハラ・サイクロンと名乗る三人組が――」
「……まさか、10枚ずつ?」
「ええ。ただしサイクロンの方は女性部員全員分ですけどね」
 女子全員というのは、割合良くあるパターンです――と言われても、わたしが困る。
 っていうかこれで身内が手にしたのは一種類につきそれぞれ50枚ずつになる。いったいそれだけのブロマイドをどうするつもりなのだろう……。
「ほらみろ!」
 得意顔で、おとーさんがそう言う。
「……ぐぬぅ」
 思わず妙なうなり声をあげてしまう、わたし。
「とりあえず、これ以上身内が買い占めないようにしないと……むーん……」
「たのしそうですよ、岡崎部長」
「そ、そう?」
「間違いないな」
「そうですね。そう見えますが」
 おとーさん、漫画研究会の会長にも肯定されてしまう。どうも、おとーさん補正がかかっていなくても、端からはそのように見えるらしい。
「む、むぅ……」
 それがなんだか恥ずかしくて、わたしはさらに赤面してしまうのであった。
 ――仮に学生時代のお母さんのブロマイドがあったら、わたしも買っていたのかなぁ……。



Fin.




あとがきはこちら










































「あたしのハートはちょっぴりコールド……朋也のハートを完全ホールド!」
「どさくさに紛れて何言ってるんですか、藤林先生」
「ヒトデです。そしてヒトデです」
「ふぅさんも。なんか余計に何を言っているのかわからなくなっているし」
「まったく、お前達はのりのりだな」
「あれ? 師匠はヒーローのコスプレしないんですか」
「うん……。私がヒーローというのには、その、なんだ――、壊しすぎた」
「いやいやいやいや」
「ねぇ、ちょっと僕見切れてr」
「っていうか虎徹さんの境遇すっごいよくわかるなぁ……どこの父親も大変なんだなぁ……」
「おとーさんはおとーさんでなんか感慨に浸っているし」











































あとがき



 ○十七歳外伝、演劇部売店編でした。
 元々は文化祭シーズンに出そうかなと思っていたのですが、ちょうど十一月辺りから猛烈に忙しくなり、なかなか完成せず随分とお待たせさせてしまった印象があります。なので、今回どうにか無事に送り出せてほっとしているのですが――ちょっと季節とちぐはぐになってしまいましたね; さて次回は……次回は……次回は……。



Back

Top