超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。
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「お久しぶりのぷち演劇シリーズ。今回は最新作Rewriteで!」
「……で、俺が執事役か。まぁそれに異存はないんだが」
「わたしのおにーさん役ってことになってるところが面白いよね」
「逆に汐がそっちの役柄って方が意外かな。てっきりメインヒロイン役だとばかり思ってたし」
「あちらの方が遙かに難しいけどね……」
「その難しい役を仰せつかったわよ。なにこの暑苦しい人のモノマネとか怪談で有名な人のモノマネとか旅番組のナレーターのモノマネとか」
「ファイトです、藤林先生……!」
「ああもう、どうせなら同じ委員長役をやりたかったわ……智代、今からでも遅くないから替わってよ」
「いや、この役柄は非常にしっくりきているから譲るつもりはない。……ただ、この制服はそのなんていうか――かわいいなっ!」
「おお、案の定師匠があのフリル満載な制服の虜に――!」
「それはそうとして風子、さんまよりヒトデの方がいいんですが」
「海産物同士、きっと仲良くなれる――ような気がするから頑張って!」
「魔女で会長でひとつ上のお姉さん役貰ったの。頑張るの」
「……うん、ある意味ことみちゃんの声でああいう演技って、ぐっと来るよね」
「……なんだかえらい組み合わせになってきたが、大丈夫か? 汐」
「うーん、今回ばかりはちょっと無理があったかなぁ……」
「ねぇ、折角主役もらったのに僕の扱い小さくありませんかねぇ!? ねぇ!」
「……諦めるんだな」
たまには外食しようということになった土曜の昼下がり、その帰り際に俺と汐はとある一団と遭遇した。
煌びやかな振り袖、襟元を飾るふわふわとした飾り、そして髪を飾る綺麗な笄の女性達――。
その他にはパリッとしたスーツ姿や紋付き袴の男性、そしてごく少数ながらスーツ姿の女性もいる。
これはもう、間違いないだろう。
「あー……」
同じ感想を抱いたのか、その集団を観ながら汐がぽつりと言う。
「来年はわたしも――だね」
『子供で居られる、最後の一年』
「汐の振り袖……か」
想像してみる。和装、結い上げた髪、襟元から少しだけ覗いて見える白いうなじ。おお、これぞ日本の美! ――って何を考えている、俺。
「そういえばお前、自力て着付け出来るんだよな」
「うん。演劇部で何度も練習したし」
すれ違った新成人の団体をもう一度だけ振り返って見てから、汐はそう答えた。今の新成人達のうち、はたして何人が汐と同じ返答が出来るのか――というはナンセンスな話で、まず俺自身が着付けをよく理解していなかったし、周囲を見てもそれが出来るのはごく限られている。
要するに汐はそれだけすごいということだが、まぁそれはさておき。
「成人式……か」
汐の手前であったが、その言葉を口にする際は、どうしてもため息混じりにならざるを得ない俺であった。
もちろん、理由はちゃんとある。
俺の場合、成人式の時に汐が生まれたのでそれどころではなかった。
……本当に、それどころではなかったのだ。
「おとーさん?」
「――! あ、いや、悪い」
慌てて我に返り、そう謝る。
危うく、汐に感づかれるところだった。汐自身は自分の生まれをよく知っているので、その話題は出来るだけ避けたいというのが俺の本音になる。
「今から言っても仕方ないけれど、着物の模様に迷いそう」
「ああ、そうだな」
ありがたいことに汐はそれ以上踏み込まず、自分の髪――大学に上がってからうなじあたりをシックなリボンで結うようになった長い髪――を触りながらそんな話題を口にしていた。もしかしたら既に気を使ってくれたのかもしれないが、だからといってそれを意識したらますます申し訳ないだろう。
「まぁどっちみち、後一年で社会的には大人だね」
と、汐。正確には次の誕生日を迎えたらと言うことになるが……二十歳、か。
「ちょっと複雑だな」
思わずそう呟く俺。
「なんで?」
「……いや、俺ももう四十かと思ってさ」
「そっちじゃないでしょ? 本当に思ったことを話して欲しいな」
――流石というか何というか、咄嗟の誤魔化しはおもいっきり見抜かれてしまう俺であった。
「それじゃ言うが……要するにあれだ、大人になって一人前になってくれたって想いと、一人前になったからには俺の前から巣立っていくんだろうなって想いがごっちゃになっているんだよ」
自分でもちょっと、まとまりの無い話であった。
ただまぁ、目の前にいる俺の娘が大人になったと言うことには感慨を覚えざるを得ない。
よくここまで育ってくれたと言うべきか、或いはようやくここまでたどり着けたと言うべきか。どちらにしても、ここに至るまでの道が平坦ではなかったのは確かな話だった。もっとも、それは多かれ少なかれ誰もがそうであるに違いないと思うのだが。
「……悪い、なんかちょっと訳がわからないよな」
自分でも整理がついていないことを口に出すべきではなかったのかもしれない。故に俺はそう汐に謝ったのだが、当の本人はというと首をぶんぶんと大きく振って、
「ううん、大丈夫。よくわかるから」
お世辞ではない真摯な貌で、そう言ってくれた。
「でも安心して。わたしはおとーさんの側からいなくなったりしないから」
「いや、それはそれで心配なんだが……」
いつまでも俺にべったりというのも、それはそれで困る話ではある。……いや、彼氏なんぞが出来た日には、おもいっきり狼狽える自信が俺にはあるのだが。
「でも『子供』じゃなくなるんだよな」
「うん、そうだね……」
この場合の子供とは、親子の子ではなく、大人と子供の方の『子供』の話だ。それは汐もわかっているのだろう。故にお互い、ちょっとだけしんみりとなる。
なんだろう、男手ひとつで育て上げた――というのはちょっと弊害があるが、少なくとも俺にしか守れないものが、自らの足で立って歩き出していくのをただ見送るだけのような、そんな感覚。
「でもね、おとーさん」
少しだけ帯びた湿り気を打ち払うように、明るい声で汐は言う。
「後一年は、わたし『子供』だよ?」
「子供っていう割には、だいぶでかいけどな」
「もう、すぐそうやって斜に構えるんだから……」
だがそれは照れ隠しだ。汐もそれがわかっているから、呆れ顔半分、笑顔半分となっている。
「まぁそういうわけだから、後一年は――」
悪戯っぽく笑って、汐は言う。
「ゆっくりべったり甘えようかなーと」
「……お前な」
こちらも呆れた声を出したが、その実嬉しい俺である。
「一応言っておくが、別に大人になってら甘えちゃいけないって訳じゃないんだぞ」
現に俺自身、今になっても甘えているところがある。正確には、色々な人に世話になっているというべきかもしれないが、それは多かれ少なかれ人としてあるべき姿なのではないかと最近思えるようになっていた。
人は、ひとりで生きていくには弱い生き物なのではないか。最近、とみにそう思う俺である。
「んー、そうかもしれないけど……でも」
そんな想いを余所に、飛びつくように俺の腕を取って、汐は言う。
「子供として甘えるのは、最後かもしれないからね」
……ああ、そうか。
それは、そうかもしれない。
「というわけでこの後の予定だけど」
「ああ」
「食後のデザートは、河岸を変えようってことだったよね?」
……なるほど、そういうことか。
「わかった。この街の中だったら、何処の店でも行いぞ」
と、親として大人として余裕を見せる俺。すると汐は我が意得たりと言わんばかりの笑顔を浮かべて、
「それじゃ、カフェ『ゆきね』のジャンボパフェ・メガマックスで!」
「なっ……」
思わず息を詰まらせる俺。ジャンボパフェ・メガマックスとは所謂普通の喫茶店にあるジャンボクラスのフルーツパフェのざっと二倍はある巨大なもので、その価格はリーズナブルであるけれど、ひとりではとても食べきれるものではない。
――そしてそれには暗黙の了解というやつで、スプーンがふたつ付いている。
つまりは、そういうことだ。
「お前なぁ……」
今度こそ完全に呆れて俺がそう言うと、汐はにんまり笑って、
「言ったでしょ。ゆっくりべったり甘えようかなーって」
……かなわないな。本当に、そう思う。
「わかったわかった。じゃあ、誰にも見つからないことを祈りながら頼むとするか」
「おとーさん、それ見つかるフラグ」
それでも良いと思う俺である。
――まぁ、渚なら拗ね……いや、逆に羨ましがるだろう。
Fin.
あとがきはこちら
「渚に呼ばれたような気がしてここに来てみたら、なんかえらいことになっているんだけど」
「なっているな……」
「なっているの……」
「(ヒトデ……)」
「(確かに羨ましいです……っ)」
「なんか店の一角に人間で出来たトーテムポールが建っているように見えるんだが」
「……気のせいじゃないかな?(何故か一番上のふぅさんが重そうだけど――まさかね)」
あとがき
○十七歳外伝、プレ成人式編でした。
最初は一気に時間を進めて成人式にしようかなとも思っていたのですが、ちょっと思いとどまるのと、その前に書いてみたいものがあったので、このような形になりました。まぁ、○の振り袖姿は見てみたいですけどね!
さて次回は……どうしようかな。