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このお話は、AngelBeats!最終話話まで視聴されていること前提で書いてあります。

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「ユイのゲリララジオ、略してゲリララ! 本日のゲストは天使でおなじみのかなでさんです!」
「よろしくお願いするわ」
「所謂天使って奴ですけど、誰か参考にしている天使キャラ居るんですか?」
「特に居ないわ。あたしはあたしだもの」
「それもそうですよね。んでは、憧れる天使キャラとかは?」
「……居るわ」
「お……! で、誰です?」
「『エルシャダイ』のルシフェルさんよ」
「マジでかっ!?」
「あの格好良さには、憧れるわ」
「いやまぁ、ある意味格好良いですけどねー……」



「呼ばれたようだが、大丈夫か?」
「――! 一番良いサインを頼む(きりっ)」
「いや、呼んでないんで。あと番組収録中にサイン求めないでくださいよ泣きますよ?」





























































































  

  


「強化スーツだって?」
 音無がそう聞き返したのは、いつも通りのブリーフィングルームでのことであった。
「ええ、そうよ」
 タブレット型の端末から顔をあげて、SSS(スクール・スイミング・スーツ)のリーダーである、ゆりがそう答える。
「現状、SSSの各メンバーでは戦闘力にかなりのばらつきがあるわ。個々での戦闘ではそれでいいかもしれないけれど、集団戦の場合統率の取れた行動が必要になるでしょ。だから、それを補正しようって考えたわけ。これなら暴走したかなでちゃんの分身が大量発生した時でも、皆で対処できるようになるわ」
「お前なぁ、そんなことが起こるわけ――」
「ありうるわ」
 呆れた音無の言を遮ったのは、ほかでもないかなで本人であった。
「ガードスキル『ハーモニクス』で分身した方が暴走するってわかったもの。備えておくのに越したことはないわ」
「本音は?」
 音無がそう訊くと、かなでは無表情のまましばし間をおき、
「格好良いスーツを、見てみたいの」
 と、宣うたのであった。



『鋼鉄のヴォーカリスト』



 それは、西洋の甲冑と特殊部隊の装甲服を掛け合わせたかのようなデザインであった。
「もっとヒーローみたいなもん想像したけど、ロボットみたいだな」
 と、それの試運転につき合うため、地下のギルド隣接する試験場(という名の広大な洞窟)に降りてきた日向が、明るい灰色のそれを見上げながら、そう呟く。
「強化スーツと言っても、操縦式ですからね。広義にはロボットであっていますよ」
 と、プロジェクト全体を統括し、主にソフトウェア方面を担当した竹山が誇らしげにそう答えた。
「まぁそれはともかく、これが強化スーツ一号機『オランピア』です」
『……《オクタヴィア》?』
「『オランピア』!」
 スピーカー越しにぼそっと呟いたユイに、即座に反論する竹山。
「まぁ名前はともかく、人が乗るものだとするのなら、もう少しスマートな方がいいな。なおかつボディーカラーが紫色ならなおいい」
 と、人よりふた周りほど大きい巨体を見上げて、直井。
『っていうか、なんか可愛くない……』
 むぅー、と唸りながら、ユイがそんなことを言う。
「今回のコンセプトは高火力重装甲なんですよ。スマートさや可愛さを求めないでください」
 不満そうに、竹山。
「まぁ、一応機動力にも自信はあるがな」
 と、こちらはハードウェアを担当したチャーが両腕を組んだまま、そう補足した。
「並以上の運動神経を持つ人間でも、その動きに追従するのは困難だろう」
『あのー、ところで』
 一号機に搭載されているスピーカーから、ユイの声が響く。
『乗ってから言うのもなんですけど、なんであたしがパイロットなんです?』
「いまこのSSSに居るメンツで。貴方が一番弱いからよ」
 あっさりきっぱりと、ゆりが即答する。
『ああ、なるほど……ってなんですかそれっ! 納得のできる説明してくださいよ!』
「技能、経験、実戦における対応の記録、そしてなにより戦闘担当ではない部隊に所属していること。……他にもあるけど、聞く?」
『いえ……いいですよぅ』
 声からでもわかるしょげかえりぶりであった。
「え、でも……」
「あの、実戦の経験数で言えば私達よりユイの方が多いんじゃ」
 控えめに、入江と関根がそうフォローする。すると、ゆりは持っていたタブレット端末からSSSメンバーの成績表を呼び出し、
「確かにその通りよ。前線への出撃回数は貴方達より多いのは確か。でもね、その現場で自爆したり自滅したり自損したりしている回数が半端じゃないのよ」
「……うわ、本当だ」
「そこで一気に総合点下げてますね」
「――どうせそんなこったろうと思ったんだ」
 入江と関根がぼそっと呟く中、一歩下がったところにいたひさ子がそんなことを言う。
『絶望しました! 余計なところで成績下げているあたしに絶望しました! っていうか降りていいですか?』
「続けてくれるなら、この機体の固有名を付けて良いわよ?」
『じゃあやります!』
 あっさりとテンションを持ち直し、ユイ。
「でも今すぐ決めなさい。テストまで時間があまり無いから」
『わかりました! では、《イワサワ》でお願いします!』
 一瞬、場が完全に静まり返った。
「『イワサワ』ってお前……」
 呆れたかのように、日向。
「……いやまぁ、欧米だと偉人の名前を兵器に付けるけどさ」
 頬を人差し指で掻きながら、音無。
「岩沢が草場の陰で泣いてっぞ」
 こちらも呆れたかのように、藤巻。
「でも、ここって草場の陰じゃないですか?」
 無駄にメガネのつるを動かしながら、高松がそう指摘する。
「そういやそうだった!」
 はっはっは! と笑う男子一同。
「……なぁかなで、お前もなにか一言」
「格好良い……」
 どこかうっとりとした感じで、かなで。
「強さと優雅さを兼ね備えた名前だわ。『イワサワ』」
「そ、そうか……」
 かなでがそうなら、もうそれでいいかと思考停止を起こす音無である。
『ところで質問なんですけど、なんなんですか、このパイロットスーツ』
 そこで、皆が見ているスクリーンから通信ウィンドウが開き、ユイが顔を出した。どうも、声だけの通信に飽きてきたらしい。
「貴方の好みに合わせてピンクと黒のにしておいたんだけど」
 と、あっさりした様子でゆりがそう答える。
『いや、そうじゃなくてなんでこんなにボディライン強調されちゃってるんですかこれ!?』
「各種センサーが搭載されていてパイロットの健康状態が随時モニターされているんです」
 ユイのデータをモニターに出しながら、竹山がそう説明する。
『それって普通のデザインでもOKですよね?』
「生命維持装置もちゃんと装備されていますよ。もう死んでいますけど」
 最後に開発補佐に回っていた遊佐がそう言う。
『だーかーらー! なんでこんなにピッチピチしたスーツなんですかって聞いているんですってば! 日向先輩なんか、あたしのお尻のライン見て鼻の下伸ばしっぱだったじゃないですかっ!』
「んなっ! の、伸ばしてなんかいないっつうの! っていうかそんなとこ見てねぇっての!」
 突如話を振られた日向が慌てて反駁する。
「正直言ってどうなんだ? 似合っていなかったのか?」
 日向にだけ聞こえる音量で、音無がそう訊く。
「……そりゃ、似合っていたけどさ」
 同じく小さな声で、日向。
「まぁスーツのデザインは後で直すこととして前向きに善処することを検討するわ。起動試験並びにシミュレーション、いくわよ」
『まぁいいですけど……。イワサワ、起動しまーす!』
 ユイがそう言った途端、辺りをジェネレーターからとおぼしき重低音が支配した。同時に、若干猫背状態になっていた一号機が頭を上げ、直立不動になる。
「起動完了。すべてのチェック項目、グリーンです」
 竹山がそう報告する。
「OK、それじゃシミュレーション開始」
「了解、シミュレーター起動。仮装敵をモニターに出します」
 ゆりの指示に従い、端末にキーボードに指を走らせながら、竹山がそう言う。
 端から見る限りでは、特に変わりはない。
 だが、皆が見ているモニターと、ユイが見ているモニターには仮想敵が表示されているはずである。
「ってこれは……」
 その仮想敵は、長くて艶やかな淡い色の髪を持った、スレンダーな少女の姿をしていた。
「……おい、なんでかなでなんだ」
 しかも一号機にあわせて四、五メートルほどの巨体である。
「いやその、いままで戦ってきた相手が天――立華さんなんで」
 と、しどろもどろに、竹山。
「まぁそれは置いておく。なんでそのかなでが巨大化しているんだ」
 どこと無く怖い雰囲気をまとわりつかせている音無である。
「だって、そのままの背丈じゃ、まるで僕の一号機が弱いものいじめしているみたいじゃないですか」
「だからってお前、女の子を巨大化させて当の本人が喜ぶとでも思って――」
「『――ま゛っ』」
 喜んでいた。
「……何をしているんだ? かなで」
「ロボ化したらこんな感じかなって思ったのよ。それとも、『ガオーん!』の方が良かったかしら」
「なにか、例えが微妙に古くないか?」
 むしろそこが気になる音無である。
『えっと、やっちゃっていいんですか?』
「やっちゃいなさい。でないと先制攻撃されるわよ」
『了解! とりゃあああああ!』
 可愛らしい雄叫びをあげて、ユイの一号機が仮想敵に突撃する。
 仮想敵がそれに反応して両手からガードスキル『ハンドソニック』を展開。迎撃の姿勢を取ったところで、ユイの一号機は突如としてその軌道を変更、仮想敵の体勢が崩れた瞬間を見計らって身を沈め、足払いを仕掛ける。
『な、なんか勝手に動くんですけど!?』
「そりゃそうですよ。技量差を埋めるという目的もあるんですから」
 と、竹山。
 結局その足払いは避けられ、一号機は両肘に内蔵していたナイフを展開、仮想敵と壮絶な斬り合いを始めたのであった。
「どことなく、ゆりっぽいな」
 その激しい戦いをみやりながら、ぽつりとそう呟く音無。
「正解です」
 と、遊佐。
「え……?」
「戦闘データはゆりっぺさんのを流用していますので」
 おかげで戦闘に関してはオールマイティです、と遊佐は説明してくれる。
「ふぅん……」
 あたしって、普段ああいう風に動いていたのね。と、感心したようにゆり。
「そう言えばお前の銃やナイフの扱いって、誰かに習ったのか?」
「いいえ、誰かに師事したわけではないわ。効率のいい動きを、ひたすら反復練習していただけよ」
「それって、習うことよりすごいことじゃないか?」
「そうかしら?」
 無頓着な様子でゆりはそう言うが、音無はつい考え込んでしまう。
 ゆりが、そう言うことができるようになるまでに一体どれくらいの時間が費やされてしまったのだろう、と……。
『てりゃああああああ!』
 そうこうしているうちに、一号機のシミュレーションは終了していた。仮想敵の懐に飛び込んだ一号機が、その喉元にナイフを突きつけたのである。
『なんか、あたしあんまり要らないような気がするんですけど』
「そんなことないですよ。一号機をこういう結果に導く最終決定をしたのは、他ならぬパイロット自身なんですから」
 意外にも優しげな貌で、竹山がユイを労う。
『んー、それならいいかな……って、なんかちょっと暑いような気がするんですけど』
「コックピット周りの室温は?」
 即座にゆりがそう訊く。
「確かに上がっています。排熱が予想より低いみたいですね。……一号機の試験はこれくらいにしましょうか?」
「そうね」
「では、続けて二号機の試験に入ります」
「……二号機?」
 音無が首を傾げる。
「ああ、今回二機作成したんですよ」
 一号機の側にあるコンテナを開けるようPCで指示を飛ばしながら、竹山がそう答える。
「こちらが二号機、『コッペリア』です」
『《シャルロッテ》?』
「『コッペリア』! 『ッ』しか合ってないじゃないですか!」
「まぁ名前は良いとして……なんかユイの一号機とだいぶ違くね?」
 コンテナから出てきたその黒い機体を眺めながら、日向がそんなことを言う。
「そう言えば、パイロットは誰なんだ? ガルデモの誰かか?」
 と当然の疑問を浮かべる音無。
「あぁ、こちらはパイロットが不要だ」
 竹山が何か言うよりも早く、チャーがそう答えた。
「パイロットが、不要?」
「おっしゃる通り、二号機にはパイロットは必要ありません。完全に自律していますので」
 今度は遊佐がそう答える。
「おおかたパイロットのダミーとしてデータを内蔵しているとか、そんなところだろう」
 帽子の庇を調整しながら、直井。
「その通りです。ちなみに一号機はゆりっぺさんですが、二号機には天使の戦闘データが入っています。流石にあの、ガードスキルというのは入っていないですけど」
「へぇ……」
 かなでのデータが入っている割にはどこか不穏な雰囲気を纏っている二号機をみつめながら、音無はそんな感想を漏らす。
「しかし、二号機で、完全自律型で、黒い色をしていて、完成したばっかりって……」
「……暴走フラグ立てまくりですよね、音無さん」
 呆れたかのように、直井がそう言う。
「失敬な。ちゃんとテストはしていますよ」
 竹山がそう抗議するが、それもフラグである。
「それでは、二号機起動します。よろしいですよね」
「ええ、お願いするわ」
 ゆりの承認の許、一号機よりどこか禍々しい重低音を響かせて、二号機は起動した。
 そして一号機と同じくしばらく直立した後――。
 いきなりかなでに攻撃を仕掛けたのである。
「なんでかなでちゃんを狙っているのよ!?」
 腕から斧上の刃物を出して真横に薙払う二号に対し、縄跳びの要領で避けるかなでを目で追いながら、ゆりがそう叫ぶ。
「IFF(敵味方識別信号)のデータが古かったんです!」
 しまった! と叫ぶ竹山。
「くそっ、完全自律しているから制御を奪うのに時間が――!」
「それでどうするの?」
 髪の毛を二、三本切られながらも、冷静な声でかなでが訊く。
「申し訳ないけど、撃破しちゃって」
 本当に申し訳なさそうに、ゆり。
「攻撃していいのね」
 と、念を押してから、かなでは攻勢に移った。
 それまで円を描くように回避行動を取っていたのだが、そこからいきなり直線を引くように突撃し、両手から展開したハンドソニックで連続回転切りを見舞う。
「あまり、効いていない……?」
 表面装甲にひっかき傷のように残った斬撃の跡を見ながら小首を傾げて、かなで。
「俺達の銃撃も効いていないぞ!」
 と、音無が叫ぶ。
 なるほど、先ほどからかなでを援護するかのように二号機の周りを火花が散っていたが、こちらは傷すらついていない。
「むう、さすがは強化スーツといったところか……」
 と、額の汗を拭いながら松下。
「活動限界とか無いのか?」
 効かないとわかってから直ちに銃撃をやめた直井が、竹山にそう訊く。
「そんな間抜けなシステムにするわけないじゃないですか!」
「間抜けとは何だ、試作品は暴走をくい止めるためにそう言うセーフティを仕掛けるものだろうがっ」
「一応PCから制御を取れるんですけどね、さっきも言った通り時間がかかるんです!」
 そう言っている間も、竹山はキーボードでコマンドを打ち込み続けていた。
「なんでもいいから早く止めてくれ、このままじゃかなでが――」
「かなでちゃん!」
 ゆりの声に、全員が二号機とかなでの方を向く。
「――あ」
 二号機の背中からケーブルが伸びて、かなでの肢体を縛り上げたのである。
「か、かなでちゃんがエロティックに縛られたーっ!?」
 思わずそう叫ぶ男子数名に、
「エロティック言うなっ!」
 音無がそう叫び返すが、実際少し色っぽかったことは否め無い。
「……っ!」
 そして縛られた当のかなではと言うと当初はハンドソニックでケーブルを切断していたのだが、次々と伸びてまとわりつくそれに両手の自由を奪われ、終いには――、
「かなでちゃんがエロティックに取り込まれたーっ!?」
「一体何する気だおい!?」
「空いているコックピットのスペースを利用した、捕虜捕獲機能を使用したんです!」
 なおも停止コマンドを入力しつつけながら、竹山。
「でもこれで暴走は収まるはず……」
 なるほど、確かに二号機は展開した斧を自分の腕に仕舞っている。
 しかしその代わりに、反対の腕からガトリング砲が展開されていた。
「おい、まさか」
 野田がハルバードを構え、息を呑む。
 その、まさかであった。
「ますます暴走したーっ!?」
 雨霰とばらまかれる弾丸を避けながら、日向がそう叫ぶ。
「一体どうしたって言うんだ!」
 思わずそう叫ぶ音無に、
「さっきの発砲で味方を敵と判断したのでは?」
 遊佐が冷静にそう指摘する。
「……それでほぼ間違いないでしょうね」
 直井のだめ出しに、頭を抱えたくなる音無。先程の援護射撃は、音無自身が口火を切っていたからであった。
「それでどうします? 音無さん。相手はあいつを取り込めるくらい強力ですが」
「どうするったって――竹山、あれを停止させるのに後どれくらい――」
「残念ながら、撃破するしかありません」
 音無が訊ききる前に、唇を噛みながら竹山がそう答える。
「今ので近くにいた僕と、その端末を敵性であると判断されてしまいました。もうこちらからの命令は受け付けてくれません」
「それって、やばくないか?」
「相当やばいですよ」
 額の汗を拭って、竹山はそう続ける。
「なにせ、単機でSSS全戦力と対峙できるように作ってありますから」
「距離をとれ!」
 すぐさま音無が的確な指示を飛ばした。
「こっちからの銃撃は効かないからまずは距離を取るんだ!」
 その号令で、一同は蜘蛛の子を散らしたかのように、さっと距離を取る。
「これからどうします? 音無さん。相手が機械ですから僕の催眠術は多分効きませんが」
 と、事故時に使われる避難壕に身体を滑り込ませながら、直井。
「地形を生かすしかないな。落とし穴に落とすとか……ただ、中のかなでが――」
 音無が逡巡したときである。
『はっはっは! 誰か忘れていませんかなっ?』
 その声は、そのときに限って言えば妙に頼もしかった。
「そうか、一号機か!」
 直井と竹山がほぼ同時にそう叫ぶ。
「いや、ちょっと待てよ!」
 日向が割って入る。
「ユイにやらせる気か? 危ないだろ!」
『そんなことはわかっていますよ、日向先輩!』



 コックピットの中で前を睨み、ユイは叫ぶ。
「それでも、あたししか戦えないというのなら……!」



『やってやるわーっ!』
 先程のシミュレートより幾分逞しくなった気合いと共に、ユイの一号機が突進した。
 先程と違って、双方ナイフと斧を展開済みの実戦である。
 故に、金属と金属が激しくぶつかり合って、轟音と火花を撒き散らしたのであった。
「かっけぇ……」
 手頃な遮蔽物に隠れながらその様子を眺め、藤巻。
「ロボットアニメみたいだね……」
 と、大山。
 それは図らずも、かつて音無が見たゆりとかなでの格闘戦と瓜二つであった。
「そういえば、ゆりは……?」
 今気付いたとばかりに、音無。
「あれ? そう言えば……」
 日向も辺りを見回す。
 ――と。
「みんなお待たせ!」
 巨大な銃器を背負ったゆりが、避難壕に飛び込んできた。
「ゆりっぺ!」
「なんだそれ……」
「対戦車ライフルよ!」
 ペットボトルのような巨大な弾丸を装填してボルトを閉じ、銃身だけを外に出しながら、ゆりがそう答える。。
「一号機、聞こえる? これから援護射撃を行うわ。合図したら突撃しなさい。わかった?」
『了解しました! あー、竹山先輩? 必殺技とかないんですか?』
「勝手にやっちゃってくださいよ!」
『そっちも了解です!』
「OK、それじゃ行くわよ、3、2、1――いまっ!」
 対戦車ライフルを発砲するゆり。爆音と共に弾丸は二号機の頭部に命中し、大きく仰け反らせる。
『でりゃああああ!』
 そこへユイの一号機が再度突撃した。ゆりの銃撃が効いたのだろう、二号機は反撃らしい行動を見せない。そこをユイの乗った一号機は――、
『必殺のぉ――ガルデモファイナルイリュージョンッ!』
 二号機の右腕をがっちりとホールドしたのであった。
「か、間接技?」
「ゆりっぺさんの戦闘データが元なんですから、使えないわけ無いですね」
 遊佐が淡々とそう解説する。
 二号機がきめられた関節を解こうと無理矢理四肢を動かす。だが、それを待っていたとばかりに一号機はあっさりと関節技を解くと、素早く二号機の背後に回ってその胴体をがっちり掴み――。
『アルティメット・シュート!』
 そのままエビ反りになって二号機を頭部から試験場の床に叩きつけたのであった。
「シュートっていうより、ジャーマンスープレックスだよな……」
 呆気に取られた様子で、音無。
「どうみてもプロレス技ですね」
 遊佐が小さく頷いてそう答える。
「今のも、ゆりの戦闘データなのか?」
「いえ、ゆりっぺさんはツッコミ以外でプロレスの技を使いませんから、あれはおそらく完全な手動なのではないかと。もしかしたら、ユイさんはパイロットの才能があるのかもしれません」
 一号機が、ゆっくりと姿勢を正す。
 対して、二号機はぴくりとも動かなかったが、徐々に全身から煙を吐き出し――最後に、小爆発を起こしたのであった。
「爆発したぞ……」
 呆然とした様子で、音無。
「っていうかユイが勝った……」
 日向がそう呟く。
「やったわね……って、中のかなでちゃんどうなったのよ?」
 最後に、ゆりがそう言った。途端――、
「か、かなでーっ!」
 音無が慌てて擱座した二号機に駆け寄る。
「かなで、無事か!? かなで!」
 閉じられたままの捕虜収納スペースとなっているコックピットをこじ開ける。すると中には――、
「……助かったわ」
 多少煤で汚れた程度で、けろっとしているかなでが普通に出てきたのであった。
「無事だったか、良かった……」
 心底ほっとした様子で、音無。
「結弦が助けてくれたの?」
「いや、俺は何も出来なかったよ、やったのはユイと一号機だ」
「でも、今こうして助けてくれたのは結弦だわ」
「かなで……」
「ありがとう、結弦」
「あ、ああ……」
 照れくさくなって、頬を掻きながら、音無。
「ところで一号機とパイロットは無事なの?」
「ああ、無事……」
 一号機を見やって、音無は絶句する。
「なんか、滅茶苦茶水蒸気を吐いているんだが」
 二号機の煙ではないが、明らかにゆらゆらと水蒸気が上っていた。
「オーバーワークのせいでしょうね……」
 モバイル端末のキーボードを叩きながら、竹山がそんなことを言う。
「コックピット、大丈夫なんだろうな」
 ややイライラした様子で、日向。
「高くてだいたい摂氏50度程です」
 最後まで聞かずに、日向は駈け出していた。
「ユイ! 大丈夫か、ユイ!」
 いつになく真面目な貌で、日向はコックピットのハッチに手をかけ――。
「うわっちゃああああ! 暑い! 蒸れるんじゃああああ!」
 直後中から開け放たれたハッチの直撃を食らったのであった。
「ってなに仰け反ってるんですか? 日向先輩」
 きょとんとした貌で、ユイがそう訊く。
「おっ前なぁ! こっちがどんだけ心配したと思ってるんだ!」
「う……、それは、嬉しいけど怒らなくたっていいじゃないですかっ!」
「ぃやかましい! 大体だな――」




「二号機は、開発凍結ね」
 そんな二組の男女をみやりながら、ゆりは審判を下していた。
「……はい」
 黙って頷く、竹山。
「一号機の研究と開発は許すけど、こっちももうちょっと安全性に考慮して、徹底的に改良して頂戴」
「了解しました。――結構時間がかかりますが、構いませんか?」
「問題ないわ。時間だけはいっぱいあるもの」
 設置していたライフルを背負いなおしながら、ゆりがそう答える。
「それにしても羨ましいわね。あの二組」
「まったくだ、な」
 帽子の庇をおもいっきり下げて、直井が同意する。
 こうして、SSSの強化スーツ実験はある意味成功し、ある意味失敗して終わった。
 後にそれらの改良型が出現し、再び試験中にひと騒動が起きるのであるが――、
 それはまた、別の話。



Fin.




あとがきはこちら








































「爆発から出てきたとき――」
「いつもにまして唐突だな、かなで」
「性格とか変わっていた方が落ちがあった方が面白かったかしら」
「いや、なにも受け狙いしないくても……普通でいいんじゃないか?」
「口癖が付いているなんてどうかしら。Keyヒロインらしいわ」
「いや、お前が言うほど口癖のあるヒロインは多くないぞ?」
「トゥットゥルー♪」
「……は?」
「口癖」
「あー、うん。中の人のネタはやめような」
「なんで? ネッs――げふん、かなでは中の人ネタ大好きよ〜?」
「だからやめろって……」











































あとがき



 久々のAngelBeats!でした。
 ロボットアニメみたいなノリをちょっと書いてみたくなって、このような話になりました。なんかそれほどロボっぽくはありませんでしたが……。
 さて次回は――遊佐かな?

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