超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
ブラウザのバックボタンで戻ってください。

このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

それでも読む方は方はここをクリックするか、
ガンガンスクロールさせてください。






































「暑い……」
「暑いな……」
「……お母さん呼んだら外気温下がらないかな」
「渚をクーラー代わりにするんじゃない」








































































































  

  


 ふと気が付くと、広野に居た。
 どこかカルスト台地を思わせる地形が延々と続いている風景の真ん中に、わたしはひとりで立っていた。
 ここは、どこだろう。
 来たことがある風景ではない。けれども、どこか懐かしいような気がする。
 辺りを見回してみると、日が昇っていないのに辺りは明るくて、空の色は何というかはっきりしていない。それ故、今は何時かもよくわからなかった。
 本当に、ここはどこなんだろう。
 ……それ以前に、わたしは誰だろう。
 どうにもこう、頭の中にもやがかかってしまったようで、思い出せない。



『この、広い世界で』



 こんなところでいつまでも突っ立っていても仕方がない。わたしは適当に方角を決め、歩きだした。
 緩やかではあったけれど、地面には高低差があって遠くまでは見渡せない。だから、わたしは周りを見渡して一番高いと思った丘を目指して、歩みを進めていた。あの丘の頂に立ったら、どのような光景が広がっているのだろうか。
「……うん?」
 そんなことを考えながら歩き続けるわたしの視界の隅に、何かが引っかかった。
「羊?」
 この世界で、初めて動くものに出会った。見る限りは一頭だけで、わたしの行く手で、静かに立ち尽くしている。
 どういう訳かと近付いてみると、ちょこんと飛び出た尻尾が、打ち捨てられたガラクタに引っかかってしまっていた。
 まるでそれが解かれるまで決して動けないことを悟っているかのように、羊は大人しく佇んでいる。
 助けない理由なんて、どこにもない。
「よいしょ……と」
 わたしは身を屈めると尻尾の毛を上手に解きほぐし、枯れ枝から解放してあげた。
「はい、もう大丈夫だよ」
 そう言ってあげると、羊はまるでその言葉を理解しているかのように一度その場で前足だけ足踏みさせると、そのまま何処へともなく歩きだした。わたしは、その様子をずっと眺め……しまった、一緒に行けば良かったんだと思い至り、後を追おうとし――たところで、背後から人の足音が響き、慌てて後ろを振り返った。
「しおちゃん――!」
 その人は、わたしと同じくらいの背丈の女の子だった。黒いコートを身に纏い、首にはマフラーを巻いている。そしてその貌は、すごく驚いていた。
「どうして、こんな処に……」
 ――ええと。
「それが、わたしの名前?」
「え……?」
 変な質問だったのかもしれない。その人は一瞬表情を止めてから、
「えっと……はい、そうです」
 律儀に、そう答えてくれた。
「ふふ……良い名前」
「そう言ってもらえると、嬉しいです」
 本当に嬉しそうな貌で、その人はそう言った。
「もしかして、しおちゃん――」
「……うん。なんか、頭の中がもやもやしてて」
 わたしは正直にそう答えた。隠していても仕方のないことだったし、何となくこの人には嘘をつきたくないと思ったからだ。
「……なるほど。なんとなく、しおちゃんがここにいる理由がわかりました」
「え?」
「あ、いえ……こっちの話です」
 何処となく、会話がかみ合っていないような気がする。もっともそれは、わたしの頭の中があまりはっきりとしていないせいなのだろうけど。
「わたしの名前を知っているってことは……前に、会ったことがあるの?」
「はい、あります」
「……ごめんね、よく思い出せなくて」
 仲が良かったのだろうか。それすらも思い出せなかったけれど、目の前の人が悪い人には見えなかったし、その柔らかな呼び名から結構親しかったのではないかと思う。
「いいんですよ」
 気にしないで下さい。と、その人は笑ってそう言った。
「そういえば、あなたの名前は?」
「それは、秘密です」
 慣れた感じで、そんなことを言う。もしかすると、普段からそう言っているのかもしれない。
「それじゃ――ここは、どこなの?」
「ごめんなさい、それはわたしにもわからないです」
 先程の少し悪戯っぽい様子と違い、本当に申し訳なさそうな感じで、その人はそう言う。
「でも、いつかどこかで聞いた、世界にたったひとり残された女の子の世界に、良く似ています」
「それって……あなたのことじゃなくて?」
「いえ、違います。わたしは――ただの、迷子ですから」
 困ったような貌で、その人は笑う。それはどこか悲しげでもあり、誇らしげでもあった。
 まるで、誰かを救い出せたかのように。
「でもわたしはともかく、しおちゃんはすぐに帰られるはずです」
「帰るって……何処へ?」
「しおちゃんが元々居た場所です。そこに戻れば、もやもやしているしおちゃんもすっきりとするはずです」
 静かに数歩進んでから後ろを振り向き、その人はわたしに手を差し伸べて、言った。
「さぁ、行きましょう」
「――うん」
 わたしは、静かにその手を握る。
「……えへへ。こんな形で、しおちゃんと手を繋ぐことになるなんて、思わなかったです」
 どこか嬉しそうに、その人はそう言う。
「普段のわたしは、手を繋がないの?」
 何かそれは、少し冷たいような気がする。自分のことであるのだけれども。
「いえ、普段のしおちゃんも、出来ればそうしたいと思っているかもしれません。……けれど、あまりそういう機会が無いので」
「そうなんだ……ごめんね」
「しおちゃんが謝ることじゃないです。謝るのは、わたしの方ですから」
 そんな話をしながら、ふたりで緩やかな丘――わたしが最初に選んだ一番高いものではなく、もっと緩やかなもの――を、登っていく。
 ――だんごっだんごっ。
 突然、その人が歌を唄った。
 曲名は思い出せなかったけれど、何処か懐かしい感じがするメロディに、わたしは思わず頬を緩める。
「しおちゃんは、この歌を覚えていますか?」
「ううん。でも、すごく優しい歌」
 多分、普段のわたしもそう言うに違いない。
「それは良かったです」
 安心したように、その人はそう言った。
「折角ですから、一緒に唄いませんか?」
「でも、わたしその歌を憶えていないよ?」
「大丈夫です。そんなに難しい歌ではありませんから。わたしの後に続いて下さい」
「うん、わかった」
 わたしは頷く。いずれ思い出すかもしれないけれど、今教えてくれるのなら憶えた方が絶対にいい。
「それでは行きます。――だんごっだんごっ」
「だんごっだんごっ――」
 こうしてわたし達は、歌を唄い始めた。先程よりゆっくりと、しかも一節毎に間を置いてくれるので、その歌を憶えていないわたしでも、すぐに唄うことができた。
 ……なんだろう。
 これは、わたしがいままでずっと、ずっとしたかったことのような気がする。
 こうして手を繋ぎ、こうして歌を唄って――。
 なんでだろう。
 心が、とても暖かい。
 ふたりで歌を唄いながら、ちょっとした丘を越える。
「わ……」
 その先に続く光景を見て、わたしは絶句した。
 風景そのものは先ほどから続くものと一緒だ。それは変わらない。
 けれど、そこには無数の小さな光の玉がまるで雪のように舞っていったのだ。
 いや、雪と違って上へ、上へと昇っていくように見える。
「……綺麗」
 丘を降りながら、舞い上がる光を見上げて、わたしは思わずそう呟く。
「そうですね、本当に綺麗です」
 どこか慈しむような貌で、その人もそう言う。
「これは、なに?」
 握っていた手に力を込めて、そう訊く。
「たくさんの、想いです」
「想い?」
「はい。嬉しいこととか、悲しいこととか、全部です」
 嬉しいこと。悲しいこと。それらはわたしも持っていたはずだ。
「わたしのも?」
「はい。どこかに必ず、きっと……」
「あなたのも?」
「そうですね……まだ、あるのかもしれません」
 わたしとその人で違う……?
 それがどういう意味なのか、少し怖くて訊けないわたしだった。
「此処が、出口なの?」
「はい、そうです」
「でも、扉も何もないよ?」
 光以外は何もない場所を見回して、わたしはそう言う。
「それは、すぐにわかります。光をひとつひとつ、よく見ていて下さい」
 安心させるようにわたしの両肩に手を置いて、その人はそんなことを言う。
「う、うん……」
 緩やかに舞っている光の群は、減りもしなければ増えもしない。それらをひとつずつ見ていたわたしは、いつしか一回り大きく、強く輝く光がいくつかあるのに気が付いた。
「あの、これって……」
 そのひとつを指さして、わたしは訊く。
「それは、しおちゃんが大切に思っていたり、思われている人の光です。……ほら、しおちゃんの一番大切な人が呼んでいますよ」
「え?」
 振り返ると、今までの中で一際強い光が、すぐ側にあった。
「触れてみて下さい」
「うん……」
 そっと、強く瞬く光に手を伸ばす。
 そして、その強い光に触れた途端、辺りが光に満ち――。
 わたしは、自分が誰であるかを思い出した。



■ ■ ■



「汐、汐……」
 その声に揺り起こされて、わたしは目を覚ました。
「……おか――おとーさん?」
 どこか心配そうにわたしの顔を覗き込むのは間違いない、おとーさんだ。
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたも、お前が言ったんじゃないか。今日の大学は一限から授業があるから時間になっても寝ていたら起こしてくれって」
 そういえば、そうだった。
「それより――」
「なに?」
「夢で何かあったのか?」
「え?」
 怪訝な貌で聞き返すと、おとーさんはちょっとばつが悪そうに、
「いや、お前、泣いていたからさ」
 そう言われて、思わず頬に手を触れる。
 なるほど、確かにひとすじ分だけ、涙に濡れている箇所があった。
「……本当だ。なんでだろ」
 慌てて顔をこする。
 なにか、すごく大事な夢を見ていた気がする……のだけれど、思い出せなかった。
「哀しい夢でも見たのか?」
「ううん、たぶん違うと思う……よく覚えて、いないんだけど」
「……そうか」
 わたしは、どんな夢を見たのだろう。
 わたしは、夢の中で何をしたのだろう。
 ――わたしは、夢の中で誰と出会ったのだろう。
「それより、これってノーカンだよね?」
「例の泣くときのルールか? ノーカンノーカン。夢の中で俺が抱きしめていたのかもしれないからなっ」
 そうおどけて言ってくれるおとーさんのおかげで、わたしは随分と救われた気持ちになれたのであった。



Fin.




あとがきはこちら










































「俗な質問であれなんだが」
「うん、なに?」
「……はいていたか?」
「はっはっはっはっは。……ノーコメント」











































あとがき



 ○十七歳外伝、幻想世界編でした。
そういえば、渚がこの世界をどうやって知ったのかが謎のままになっていましたが――真相はどうだったのでしょうか。ちょっと気になるところです。
 さて次回は……久しぶりに、演劇部で。




Back

Top