超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「タイトルの元ネタがわかる人は、作者とおそらく同年代……なんだって」
「いや、それ意味がわからないからな」








































































































  

  


「ふむ……」
 ひと仕事を終えて、俺、岡崎朋也はしばし黙考した。
 本日向かった先はかつて俺が通い、そして今は汐が通うあの学校だった。ちょっと前から俺達の事務所と縁が出来ていて(それの原因が俺なのだが、詳しくは割愛する)、割と仕事を請け負うようになっていたのだ。
 その仕事そのものは、既に終わっている。事務所からは直帰の許可を貰っていて、一緒に仕事していた芳野さんは一足先に帰宅していた。
 というわけで、今現在の俺は割と自由だった。となれば、折角の機会だし汐と合流したいというのが、俺の本音だ。
 さて、汐はまだ校内にいるのだろうか。少々判断に困る時間帯ではあるが――。
「とりあえず、部室に行ってみるか」
 演劇部の部室には何度か足を運んでいる。そこにいなければ体育館を覗いて、それでも駄目なら家に帰ろう。そう想いながら踵を返したまさにそのときに、。
「岡崎先輩、俺とつきあって下さいっ!」
 その名状し難き言葉に、俺は派手にすっ転んだ。



『おとーさんは、心配症』



 とりあえず、言っておく。
 誰だ、命知らずなことを言う奴は。
 あまりにも信じ難いことを言った声の主を探るべく、その声がした方へ身を隠しつつ進んでみる。すると、体育館と校舎との間、ちょっと人目に付きそうにないところに長身の男子生徒と、見目麗しいというか、目に入れても痛くないと言うか、健康的ながらも透き通るようなきめの細かい肌をしていて、活動的ながらも清楚な雰囲気を纏っている、美しさと可愛いさを兼ね備えた理想的な女子生徒――要するにうちの娘――が向かい合って立っていた。
「えっと……」
 手頃な茂みの陰に隠れてそっと汐の様子を見てみると、案の定その表情は困惑に曇っていた。
「ヤラウチ君……だっけ?」
「はい、屋良内です! 友人からはヤラナイって呼ばれているだろ――呼ばれてますっ!」
 直立不動で、そう答える男子生徒。見た感じ、かなり背が高い。汐は言うに及ばず、俺よりも頭半分はリードしているように見える。それでも汐を岡崎先輩と呼んだわけだから、歳は汐より低いことになるのが、不思議と言えば不思議なところだった。
「もしかして、わたしを呼び出した理由って――これ?」
 そう言って汐がスカートのポケットから見せたのは、古式ゆかしい手紙であった。認め難いが、所謂汐宛のラブレターであろう。
「その通りでありますっ」
 緊張のあまりか、明らかにがちがちに固まった口調で喋る、男子生徒。
「どうして、わたしを好きになったの?」
「それは――」
 即座に汐の美辞麗句を述べる男子生徒。曰く、見目麗しいというか、目に入れても痛くないと言うか、健康的ながらも透き通ったようなきめの細かい肌をしていて、活動的ながらも清楚な雰囲気を纏っている、美しさと可愛いさを兼ね備えた理想的な女子生徒……って、何で俺と感想が被るんだ、おい。
 そんな俺のつっこみを余所に、案の定というかなんというか、汐は困ったかのように沈黙している。
 ……だとすれば、やることはひとつだ。
 すなわち、如何にしてこの場を妨害するか。
 汐は渚と違って押しに弱いということはない(結婚してからは渚自身も随分と強くなったが)。故に押し切られてはいと頷くことはないが、困っている娘を助けるのは父親の務めだ。問題は、如何にすべきか……。
 ――ふむ、ちょっと手が滑ってスパナが飛んでいった……は不味い。事務所に迷惑がかかるというか電気工としての沽券に関わる。
 では、男子生徒に化けて件の男子生徒をあらぬところに連れていくか……いや、この方法だと一時しのぎにしかならない。それでは、後日俺の居ないところで事態が進行してしまう恐れがある。
 ならば、俺が猫撫で声を出して「キャー、岡崎先輩助けてー!」とか叫べば、義侠心に溢れる我が娘なら即座に駆けつけるはず……お、これならばいけそうな気がしてきた。
 では早速――岡崎朋也、目標を駆逐する!
「岡崎さん……?」
 背後からいきなりそう声をかけられ、思わず総毛立った。
 おそるおそる振り返ると――そこには汐の後輩である演劇部員が、きょとんとした貌でこちらを見ている。
 ……まぁ、仕方あるまい。手近な茂みにこうして潜んでいるわけだし。
「こんなところで、どうなさったんですか」
「汐が、告白されてるんだ」
「ああ、岡崎先輩に告白ですか……え? ……えええ!?」
「しっ、聞こえると不味いっ」
 俺は後輩を抱き抱えるようにして、茂みに潜伏させる。
 そのおかげで、まるでこちらが密会を開いているような形になってしまったが、まぁこれだけ年が離れていれば大丈夫だろう。
「あ、あ、あの、岡崎さん!?」
「……よし、気付かれていないようだな。――どうした?」
「……いえ、なんでもありません」
 何処か不満げというか、残念そうな汐の後輩であった。
「ところで、一体何方が……あ、屋良内さん」
「知っているのか?」
「はい。有名な方ですから。運動もスポーツも出来て、それに色々と物知りなのです」
「なるほどな。ちなみに、何部なんだ?」
「確か、特に部活動には入っておられないようです。いつもお友達の方といらっしゃるようですが」
「ふむ……」
 所謂、優等生というやつだろうか。
「ある意味、岡崎先輩にはお似合いなのかもしれませんね」
「――いや、駄目だ」
「……お厳しいのですね」
 少し困った様子で、汐の後輩がそう言う。そんな彼女に向かって俺は、
「覚えておくといい」
 にっこり笑って、言う。
「父親ってのはな、どんな男でも娘はやらんと思うものなんだ」
「岡崎先輩の苦労が偲ばれます……」
 なぜ汐が苦労するのか、良くわからない話だった。
「それにな。今のお前、少し苦しそうだぞ」
「……私が、ですか?」
 自分の胸に手を当てて、汐の後輩は目を丸くする。
「そんなこと、ありえません……」
「いや、自分の気持ちには素直になっておいた方がいい。お前は今、汐が誰かのものになりそうなことが嫌だと思ったんだ」
「でも……でも、岡崎先輩は何方のものでもありません」
「その通りだ。汐はお前のものでもないし、娘ではあるけれども俺のものでもない。けれども、誰かのものになりそうになって、俺もお前もこうやって焦っているわけだろ?」
「そう……なのでしょうか」
 気付かなかったとばかりに、後輩はそう呟く。
「正確にはわからないさ。でも今お前は迷った。その気持ちを、無理矢理整理しようとするのは、きっと心に良くないだろ」
 汐の後輩は答えない。ただ、黙ってこちらの言うことを聞いている。
「だからまぁ、邪魔するのを手伝えとは言わないが、無理矢理くっつけようとするのはやめてくれ。それは多分、俺にも汐にもお前にも、良い結果をもたらさないからさ」
「はい……心得ました」
 こっくりと、汐の後輩は頷いて答える。その瞳に、迷いの光は残っていなかった。
 さて、汐の方はと……。
「それでも俺は――」
 いけね、後輩との話に集中しすぎて、汐の方への注意が逸れてしまったせいか、話が進んでしまっている。
 俺達は話を中断し、汐達の方へと集中する。
「それでも俺は、岡崎先輩が好きなんです!」
 ……OK、よくぞ言った。
「あの、岡崎さん。そのスパナは仕舞われた方が……それと、目が怖いのですが」
「大丈夫大丈夫、ちょっと緩んでいるネジを締め直すだけだからな」
 それにほら、昔から言うだろう? 『父親道(ブシドウ)とは、死ぬことと見つけたり』って――。
「ありがとう、そこまで言ってくれて」
 信じ難いことに、汐の声はすごく優しかった。しかし、続く言葉の響きには申し訳なさそうな色が混じって、
「でも……ごめんね」
 ……よし!
「気持ちはお察しいたしますが、あからさまなガッツポーズもどうかと思います、岡崎さん……」
 先程と打って変わって、意外と冷静な汐の後輩だった。
「せめて、理由だけでも教えて欲しいだ――欲しいんですが」
 納得できない様子で、男子生徒がそう言う。
「一番の理由はね……」
 男子生徒が息を飲む。
 俺達も、息を飲んだ。
「わたしが、恋をよくわからないことかな」
「……は?」
 ……は?
 声こそ出さなかったが、隣で汐の後輩も大量の疑問符を浮かべていた。
「友達になりたいっていうのはわかるの。それは、わたしも持っている感情だから」
 どこか遠くを見るような目で、汐はそう続ける。
「でも、この人と一緒になりたいとか、もっと言葉に出来ないようなこととか、そういうのがね」
 少し寂しそうに笑って、汐はそう言う。
「この気持ちに整理がつかない内は、普通につき合えないと思うんだ。だから……ごめんね」
 誰もが、声を出せなかった。
「岡崎先輩が言うこと、正直、俺が理解するのは難しいです」
 目を伏せて、男子生徒はそう言う。けれど、すぐ真っ直ぐに汐を見て、
「でも、岡崎先輩の気持ちはわかりました」
「……ありがとう。別に、先輩って呼ばなくても良いよ?」
「いえ、俺は……岡崎『先輩』のままでいいです」
「そっか……ごめんね」
「謝らないで下さい。俺のワガママなんですから。それでは」
「うん」
 男子生徒は、早足で去っていった。っていうか全力疾走だった。
 ……流石に、ここでとやかく言うつもりはない。
「ちょっと……悪いことしちゃったかな?」
 無い無い無い、そんなことは無い。どこか呆れたような貌で汐の後輩が見つめる中、激しく手を横に振る俺。
「さてと……」
 そう呟いて汐は髪をかきあげると『こちらを振り返り』、
「そこで覗いているふたり、出てきなさぁい?」
 かつてない怖い口調で、そう言った。
「は、ははははいっ!」
 即座に直立不動の姿勢になる後輩。よほど怖かったのだろう、目に涙を溜めている。
 逃げる手も無くはないが、後輩だけを置いていくわけにはいかない。なので、俺も立ち上がったのであった。
「やっぱりおとーさんか」
 やれやれと言った様子で、汐。
「悪趣味よ、おとーさん。それにわたしの後輩を巻き込まないでくれる?」
「すまん、早々に乱入するつもりだったんだが」
「いや、乱入しなくていいから……」
 もし乱入されていたら、全校生徒にファザコン扱いされていたわね……と汐はいうが、別に問題はないような気がする。
「で、いつから見ていたの?」
「あの男子生徒が告白してから」
「私はその後からです」
 もう誤魔化す必要がないので、素直に答える俺達。
「……随分前から居たのね」
 困ったように額に手をやって、汐。
「普通そう言うのって、微笑みを浮かべながらそっと立ち去るものじゃない?」
「でも、俺は最後まで居てほっとしたぞ」
 と、胸を張って俺。続いて、汐の後輩が、
「私もですが……」
「……ですが?」
 汐が、言葉尻を捉えて聞き返す。
「その、少し不安になりました。岡崎先輩が、ずっと恋愛をしないのも……なんだか、哀しい気がしまして」
「大丈夫だ、問題ない」
「それは、父親としての見方だと思います」
 と、珍しく強い口調で、後輩。
「でも岡崎さん個人の見方で言えば……岡崎先輩が娘さんでなく、お友達とかであったのなら、気を揉むのではないでしょうか」
 それは――難しいところだった。
 確かに、汐には恋という素敵なものがあるということを知って欲しい。その気持ちには偽りはない。
 けれど、実際に汐が誰かに恋をする姿は見たくない。この気持ちにも、偽りがなかった。
「まぁ確かに、俺が汐の歳にはもう告白していたからなあ」
「そうなのですかっ!?」
 なぜか汐の後輩に食いつかれてしまった。なにか色々放り出されたような気がするが、いいのか?
「あ、そういえば……」
 そこで何かに気付いたかのように、汐が呟く。
「そういえば、おとーさんがお母さんに告白したのって――この学校でなんだよね?」
「そうなのですかっ!?」
 さらに汐の後輩に食いつかれてしまう、俺。
「それは一体何処なのでしょう?」
「あ。わたしも詳しくは知らないんだった。ねぇ、どこどこ?」
 ものすごく興味津々なふたりに問われて、俺は記憶を頼りに視線を動かす。
 歳相応というか、この年齢特有のきらきらした表情を見せるふたりに苦笑しながら、俺はあの日あのとき、渚に告白した場所を指さして見せたのであった。



Fin.




あとがきはこちら










































「小僧――いや、とっもやくーん? 何か俺に言うことがあるよなー?」
「……あー、渚は意外とボリュームがあった」
「てめえええええええっ!」
「朋也くんっ! 嘘はいけません!」
「悪い悪い(嘘じゃないんだけどな)」












































あとがき



 ○十七歳外伝、まさかの告白目撃編でした。
 なんというか、ちょっと朋也と私の思考がシンクロしてしまう珍しい話となりました。
 実際、○には恋愛して欲しいような、欲しくないような……ううん、複雑です。
 さて次回は――ちょっと未定ですね。


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