超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「驚異の88センチとか言われるけど、汐ちゃんと5センチしか差がないの。さらに直径に直したらもっとその差は小さくなるはずなの。なのにでかいでかいってなんか納得できないのっ」
「まぁたしかに、バストとウエストの差だからなぁ……でもでかいぞ、ことみ」
「っていうかわたしよりウェスト細いよね」







































































































  

  


「こんにちは、遅れてごめんなさい」
 週末の昼下がりにに我が家を訪れたのは、珍しいことにことみだった。
「悪いな、わざわざ」
 俺の知り合いの中でも、ことみはかなり忙しい身のはずだ。俺としては、休日ぐらいのんびりしていて欲しいとも思う。
「ううん、汐ちゃんとの約束だから」
 けれども、ことみはたった一言そういってにっこりと笑顔を浮かべてくれた。それは、元幼馴染みとしても娘の友人としても、ありがたいことだった。
「汐ちゃん、居る?」
「ああ、居るには居るが……」
 俺は声を落として、座っているちゃぶ台の横をそっと指さした。
 そこには、汐が毛布を被って熟睡していたのだ。



『一ノ瀬ことみの大いなる油断』



「済まんな、汐が今こうで。さっきまで頑張って起きていたんだが……」
 ついに耐えられなくなってちゃぶ台につっぷしって眠ってしまったのを、俺が苦労して寝かせてやったのだ。
「ううん、構わないの。道路が込んでいたとはいえ、遅れてきたのは私だし。それに――」
 と、ちゃぶ台の上にあるレポート用紙の紙束を手に取り、ことみ。
「汐ちゃんと約束したの。大学で初めての小論文が出来たら、まず最初に私が査読するって」
「……なるほどな」
 と、頷く俺。前々から思っていたことだが、汐は教師に恵まれていると思う。そうは言う俺にも幸村のジィさん、渚には公子さんが居たから、血筋的には当たり前のことなのかもしれない。
 それでも、汐の周りには今ここにいることみをはじめ、杏、風子、智代と揃っているのだからやはり恵まれている方だと言えそうではあった。
「しかしこの小論文って、言ってみりゃ高校で言うレポートだろ? 汐の凝り性でこうなったんじゃないのか?」
「ううん、誰でも最初はこうなるものなの。最近の大学は小論文での考査が重要かつ厳しくなっているから」
 かなりの早さでレポート用紙をめくりながら、ことみ。どうやら、昨今の大学生は大変らしい……というのが、かろうじてわかった俺であった。
「それにしても汐ちゃんはすごいの。前に聞いたときは期日を二日オーバーしそうだって言っていたのに、ちゃんと手を抜かずに完成させているの。期日を守って提出することも大事なことだけど、ちゃんと質まで確保してあるのはそれだけで加点対象なの」
「そうだな」
 それは、仕事のことに置き換えれば俺にもよくわかる話だった。
「でもどうしてちゃぶ台にあったの? もしかして、朋也くんが先に読んだ?」
 少し寂しそうに、ことみがそう訊く。
「いや、それに俺は一切手を触れていないぞ。何せ汐は、ちゃぶ台でこの小論文を書き終えたからな」
 そもそも、俺は表紙を見ただけでギブアップだった。
「勉強机があるのに、ちゃぶ台を使うの?」
 小首を傾げて、ことみ。
「興が乗るときとか、滅茶苦茶集中したいときはちゃぶ台を使うんだよ」
 おそらくそれは、小さい頃からちゃぶ台で文字の練習をしたり、お絵かきをしていたせいだろう。そう思う。
「それに、勉強机は今あんな感じだしな」
「……すごいの」
 勉強机の上には、資料の山が処狭しと置かれていた。それが何なのか、表紙を見ただけで頭痛に苛まれる俺にとっては、確認する術がない。
「関心関心。ちゃんと資料を揃えて論文をまとめるのは、良い論文の第一歩なの」
 その小論文を我が子のように胸に抱き、ことみは満足そうに頷いてそう言う。
「さてと。汐ちゃんの小論、初査読なのっ」
「汐は文系なのに、大丈夫なのか?」
 ことみがオールマイティなのは知っているが、ちょっと心配になって、俺。けれどことみはふるふると首を横に振ると、
「修士課程まで進められると、ちょっと厳しいけど――学士課程なら大丈夫」
 ……何か、すごいことを言っているような気がする。
「えーと、修士課程ってのが確か大学院で、学士課程は普通の大学だっけか?」
 少ない知識を総動員してそう訊くと、ことみはひとつ頷いて、
「うん、そう。正確には大学院は修士課程と博士課程に分かれているけど」
「それで、お前って確か博士号持っているんだっけ?」
「うん、そう」
 事も無げにそう言って、ことみは汐が仕上げた論文のページをめくった。
 途端、目が僅かながら細まり、その表情が研ぎ澄まされた刀のように鋭くなる。
「……ふむ……うん」
 そして、文章を追う目の動きが早い。それも、並の早さではない。俺でもわかる、相当な速読っぷりである。
 ……やがて。
「やっぱり、良くまとめられている。流石は汐ちゃんなの」
 長い息を付いて、ことみはそう呟いた。
「このまま行けそうか?」
「うん、たぶん大丈夫。私の専門じゃないから100%確実とは言えないけれど……」
 その小論文を丁寧にちゃぶ台に戻しながら、ことみはそう言った。
「それよりも――」
「ん?」
 なんだろうか。名前の書き忘れでもあったのだろうか。そんな初歩的なミスを汐は滅多に犯さないが――。
「汐ちゃんの寝顔、可愛いの……」
「そっちか!」
 ものすごい切り替わり方だった。
「まぁ、否定はしないが」
「……でも、ちょっと不思議な感じ」
「何がだ?」
「えーと……私も結婚していたら、あの位の子供を産んでいたのかなって」
「あー、そうだな」
 今のところ、俺の知り合いの中で子供が産まれたという話はまだ聞かない。……というか、結婚も滅多に聞いたことがない。
 当初は俺が早すぎたのだと思っていたが、今となっては――いや、やめておこう。
「いまから作っても、別に遅くはないんじゃないか?」
 そもそも、最近は母胎の外でも子供が育てられるくらい医療が発達しているから、実質的な出産年齢は大幅に広がった筈だ。……寿命だけはどうしようもないから、余り年をとってから子供を設けるのは難しいと言えば難しいものだが。
「うん。でも、今は研究が忙しいから……子供どころか、結婚すら大変そうなの」
 いつも見せてくれるほにゃっとした笑顔に、ちょっとだけ苦味を乗せて、ことみはそう答えてくれた。
「だから、今はこれが精一杯」
 そう言ってことみは寝ている汐に近寄ると、そっとその髪を手で梳こうとして――って、まずい。
「ことみ、あんまり近寄ると危ないぞ?」
 特にこう、汐が疲れ果てているときは。
「……え?」
 汐の髪に触れる直前で――つまり、汐にごく近い位置で、ことみが動きを止める。
「……ん?」
 それと同時に――そして間の悪いことに――汐がうっすらと目を開けてしまった。
 間違いない、あの表情は寝ぼけている貌だ。
 ならば、もう手遅れか。
「んふ……」
 満足そうに汐は微笑むと、その両手が伸ばして――、
「ひゃ……!」
 汐がことみを抱き寄せ――その胸に、自分の顔を埋めたのだった。
「――! ――! ――!」
 こんな状況になっても汐に気遣ってか、両手で口を押さえ、声が漏れ出ないように努力、ことみ。
「朋也くん、これっ、これっ!」
 しかも、小さい声で喋ってくれる。口調の割に割と冷静なところもあるのは、流石博士といったところだろうか。。
「あー、寝ぼけているときに女性が近づくと比較的高い割合で、そうなるんだ」
 最初の被害者は、幼稚園でのお昼寝時に巻き込まれた、杏だった。
 続いて双子の妹の椋(これは杏の確信犯。あとでばれて滅茶苦茶怒られたとのこと)、その後は公子さん(幼いとき風子の家へお泊まりに行ったときにやってしまったのだ)、そして智代(これだけ時期が不明。つい最近智代本人から聞いたのだが何時頃とは言われなかったので)と続いていたのだが、本日それにことみが加わったということになる。
「すりすりしているのっ! すりすりしているのっ!」
「うん、端から見ていると凄まじい光景だな」
 仮に春原が見ていたとしたら、十秒と持たずに鼻血を噴出しそうな、そんな艶めかしい光景だった。
「どうして、こんなことを……っ」
 両手で汐の頭を押しながら、ことみ。だが、汐の方が体力腕力共に秀でているため、ぴくりとも動かない。
「……朋也くん、何とかして。でないと、でないと……」
 頬が上気し、目を潤ませて、ことみがそう懇願する。
 よくよく聞けば呼吸が若干荒い。
「ふむ……」
 このままでは色々とまずいことがわかったので俺は立ち上がる。
 脇を思い切りくすぐれば、いかに汐でも起きるだろう。



「むうううううーっ――」
 汐がごろごろと床を転げ回る。
 案の定、おもいっきりくすぐったところ数秒もしないうちに汐は目を覚ました。
「もう無くなっていると思っていたのにいいいいい――っ!」
 そして、自分の目の前にある非常にボッリュームのあるものに気付き、さっきからこうやって床を転がっているのである。
 言うまでもないことだが、恥ずかしくて仕方がないのだろう。
「……びっくりしたの」
 汐にすりすりされることによって起きた着衣の乱れを直しながら、ことみ。
「済まなかった」
 俺が頭を下げると、ことみは静かに大丈夫と手を振って、
「いいの。私がちゃんと朋也くんの忠告を聞かなかったんだから。でも一体、どうして?」
 当然の質問をする、ことみ。
 故に、俺はもう解明済みの原因を話さなければならない。
「……無意識に求めているみたいなんだ。その――母親の、胸をな」
 ことみが小さく、息を飲む。
 そう、汐は母親の胸で眠った記憶がない。後で汐にそういう癖があるとわかったとき、早苗さんが自分のせいだと謝ってきたが、それだって早苗さんを母親と誤解させない為なのだから、早苗さんが悪いわけではない。
 つまりこれは、誰かが悪いわけではないのだ。そしてその対処法も、今のところ見つかっていない。
「ことみで、五人目だな」
 故に、新たな被害者はこれからも増え続けるかもしれないのだ。俺としては――ただ、気をつけて見ていることしかできない。
「私で良ければ……いつでもいいの」
 けれども、ことみはそんなことを言ってくれた。
「……ありがとうな。そう言ってくれるのも、ことみで五人目だ」
 そう、誰もが事情を知ると、汐を許した。
 そればかりか、必要があれば呼んで欲しいとまで言ってくれたのだ。 ちょうど今の、ことみのように。
 それは、とてもとてもありがたいことだった。
「汐ちゃん。私の胸で眠りたくなったら、いつでも言ってね?」
「端から聞くとすごく羨ま――げふん、艶のある話だな」
「みゃああああああーっ!」
 聞こえたおかげで恥ずかしさが最高潮に達したのだろう。汐が最高速で床を転げ回る。
 そんな汐を見守るようにいつも箪笥の上にある渚の写真は、今日ばかりは困りながらも嬉しそうに笑っているように、俺には見えたのであった。



Fin.




あとがきはこちら










































「絶望しました! 風子だけまだ汐ちゃんの毒牙にかかっていませんっ!」
「毒牙かよ」

「朋也くん、その……何方もわたしよりその……」
「ああ、バストサイズが大きいな」
「はっきり言わないでくださいっ!」











































あとがき



 ○十七歳外伝、ことみの受難編でした。
 元々はもうちょっとシリアスな話でしたが、ことみが場をほんわかとさせてくれたので幾分かほのぼのとなったんではないかなと思います。
 さて次回は……未定ですね;



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