超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。
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「ぷち演劇シリーズ。今回は最終回まで一挙放送で作者的にテンションが上がってきた『魔法少女まどか☆マギカ』で」
「んで、お前が黒い魔法少女か、汐」
「うん。まぁおとーさんも原作じゃ似たようなことしているし?」(<大体の展開を知っている)
「んで、あたしが青い子かぁ……。いや、いいんだけどね。見せ場いっぱいあるし」(<大体の展開を知っている)
「声縛りで赤い魔法少女役ですが……いいのでしょうか。正直、風子とは真逆の気がします」(<大体の展開を知っている)
「黄色い魔法少女約なの! 武器も格好いいし服も可愛いし、頼れるお姉さん役だしすっごい楽しみなのっ」(<大体の展開を 知 ら な い )
「えっとわたしが主役です……でもいいんでしょうか、朋也くん……?」(<大体の展開を 知 ら な い )
「おい汐、大丈夫なのかこの劇」
「だ、大丈夫だと……思うよ?」
それは、汐が小学生に上がった頃のことだった。
そろそろ、幼稚園で使っていた安全性重視のプラスティック製から普通の食器に切り替えようと思い、実際に切り替えた後、ある程度は予想していたそれが起きたのだ。
「パパ……」
帰宅してすぐ、俺はそんな声とともに不安に押しつぶされそうな貌の汐に出迎えられた。
滅多なことで泣かない汐だが、今回は本当にぎりぎりのところで堪えていた。――よく見れば目が少し赤かったから、もしかするとトイレで少し泣いたのかもしれない。
「どうした? 汐」
時には俺をも驚かせる程大胆なことをする汐だが、その世代の子供がやるような悪戯はまったくしないので、その可能性を早々に除外しつつ、俺。
「あのね……」
すると汐は、おずおずとそれを俺に見せてくれた。
「あー、これは……」
汐の手にあったもの。
それはかつて渚が使っていたティーカップであり、今は汐が使っているものであり、その取っ手の部分が丸々取れていたのだった。
『岡崎家の、リサイクル』
ことの経緯を正すと、こういうことになる。
小学校から帰ってきた汐は、自分でお茶を淹れようとしたらしい。(直火の使用は禁止してるから、使うのはポットになる。余談だが、うちのは電気式ではない古いポットなので、朝一番にお湯を用意しておけば電気周りのことを気にせず置いておくことが出来る。怖いのは火傷だけだが、これを恐れるのは少々過保護だろう)。その際、戸棚からお気に入りのティーカップを手に取ってつい、手が滑ってしまったらしい。幸いにしてカップは割れず、その破片で怪我をすることもなかったが……取っ手が完全にもげてしまったのだった。
「ごめんね、パパ」
「いいんだよ、気にするな」
身を縮めてそう言う汐に、俺は頭を撫でて慰める。
意図的にやったわけでもなし、俺が叱る要素はどこにもない。それに先に言ったように、プラスティック製から陶器に切り替えた際に、こういうことは起こるだろうと予想していたからだ。
けれど汐は以前意気消沈したままで、
「でもママに、おこられちゃう……」
そんなことを、呟いた。
……なるほど、そこが不安なのか。
「大丈夫だよ、汐。ママはこんなことじゃ怒らないからな」
「でも……」
壊れたものは直らない。そういうことだろう。
「大丈夫だ。パパが何とかしてやるから」
「本当?」
汐の貌に、僅かながらも明かりが灯った。
そんな娘を不安がらせないよう、俺は強く頷いて応える。
さて、どうしたものか……。
「ふむ……」
職場の昼休み。俺は頭を悩ませていた。資料としてあった接着剤の一覧とその用途、対象が書かれたものを熟読したのだが、ティーカップのような陶器の場合、それようの接着剤はあるにはあるものの、応急処置以外にはあまり使えないとう表記があったのだ。特に取っ手のような負荷がかかるところでは、割合すぐに再発してしまうらしい。
つまり元通りにすることは、ほとんど不可能ということになる。
となると、やはり同じデザインのものを買いなおした方がいいのだろうか……そんな風に悩んでいると、
「どうした? 岡崎」
心配してくれたのか、芳野さんがそう声をかけてくれた。
「実は……」
と、ことのあらましを芳野さんに伝える俺。
「――なるほど、それは難しいな」
「電気関連なら、簡単に修理できるんですけどね……」
つくづく痛感する。単純なもの造りのものほど、壊れたときに直りにくいということに。
「あまりアドバイスにならないかもしれないが、同じデザインのものを買い直すのが無難だろうな」
「そうですよね……」
そこでふと、芳野さんが小脇に抱えているものに目が入った。
「芳野さん、それは……」
「ん? ああ、今度の夏休みに公子と旅行に行こうと思ってな。そのパンフレットだ」
昼飯時に、旅行会社に寄って貰ってきたんだ。と、芳野さん。
「ちょっと見せてもらっても良いですか?」
今ちらっと見えたものは、もしかして。
「ん? 構わないが……どうかしたのか?」
首を傾げながらも渡してくれたパンフレットを俺はめくる。
「あった。これだ……」
やがて行き着いたその土産物のページ――僅かながらも表紙を飾っていたものの紹介――に、俺の視線は釘付けになる。
「芳野さん。これ、使えませんか?」
そのページを指さして、俺。
「……なるほど。良いものに目を付けたな、岡崎」
それに目をやって、芳野さんが頷く。
「余っている配線やLEDなら好きに使って構わん。やってみろ」
「いやでも、備品を勝手に……」
「いいか岡崎。お前の修理点検はもう一人前だ。だけどな、時には応急処置的な意味で自分で回路を作らなきゃならないときがある。滅多にないことだが、それでも起きるときは起きるんだ。今、お前は自分で回路図を作り、それを作ろうとしている。俺が、そんな格好の実地研修を見逃すと思うか?」
まるで周囲の人間に愛を説くようにそう話す芳野さん。ということは、それは真摯に伝えようとしていることになる。
「芳野さん……ありがとう、ございます」
深く、深く頭を下げる俺。
「あまりそう頭を下げるな、岡崎」
と、芳野さん。
「ドライバー、交換しあった仲だろう?」
「……はいっ」
あの頃を思い出して、つい目頭が熱くなってしまう、俺。
「今までの経験を総動員すれば造作もないはずだ。だが、何かあったら聞きに来ると良い。……可愛く作ってやれよ。娘さんが、喜ぶようにな」
「わかりました!」
会社の先輩として、そして男としてつくづく見習いたいと思う。
「ただいま、汐」
「おかえり、パパ」
そう出迎えてくれた汐の表情は、どこか冴えなかった。おそらく、壊れたティーカップのことを気に病んでいるのだろう。
「あのな、汐」
「うん」
荷物を置いてちゃぶ台の側に座ると、汐も同じようにちょこんと座って話を聞いてくれる。
「あのティーカップな、色々やってみたんだけど、元通りにはなりそうにないんだ」
「……うん」
諦めが付いていたのだろうか、汐はひとつ頷いて俯くだけだった。
「でも、そのまま捨てちゃうんじゃ勿体無いよな」
「うん……」
さらに俯く、汐。
その様子で、なんとなく察してしまう。諦めているのではなく、哀しんでいることに。
上手く、行くだろうか。
その想いを飲み込んで、俺は言葉を続けた。
「だからな、こうしてみた」
「……うん?」
汐が、顔を上げる。
そこには――俺の手には、ティーカップを逆さまにして、その底の部分にスイッチとコンセントの端子を付けたような機械があった。
「パパ、これって……」
首を傾げる汐に対して、俺は片目を瞑るとそれを壁にあるコンセントに刺し込んだ。
「よーく見てろよ」
「うん……」
父娘でそれを囲んでから、スイッチを入れる。
途端、ほのかな明かりが辺りを照らし出した。
「――ランプっ!」
汐が目を丸くして、そう叫ぶ。
「そう。正確にはフットランプな」
芳野さんの持っていたパンフレットには、ランプシェードを貝殻にしたものが使われていたが、俺はそれを取っ手の取れたティーカップで応用してみたのだ。
「きれい……」
うっとりした声で、汐。
ティーカップが丈夫な割に薄手の造りで助かった。そのおかげでたいして暗くなることもなく、さらには貝殻のそれとはまた違う趣をもって、辺りを照らし出している。
「……そうか、良かったな」
その貌から憂いが綺麗に消えているのを確認して、ほっと胸をなで下ろす、俺。
「大事にしような」
「うんっ、だいじにするっ!」
元気よく宣言する汐。
その宣言は今も有効であり、あれから十年以上経った今もそこにあって、俺達の枕元を照らし出してくれている。
俺の設計が良かったのか、それとも汐が宣言通り大事にしているからか――多分、両方なのだろう。
Fin.
あとがきはこちら
「……ありがとうございます、朋也くん」
「いいんだよ、俺には俺に出来ることをしただけだからさ」
あとがき
○十七歳外伝、思い出のティーカップ編でした。
この前の週末に鎌倉と江ノ島に出かけたとき、とあるインテリアのお店に変わったフットランプを見かけて、今回の話が生まれました。この手のフットランプは貝殻が相場だと思っていたのですが、ティーカップでも独特の趣がありますね。
さて次回は……未定です。