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このお話は、AngelBeats!最終話話まで視聴されていること前提で書いてあります。
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「ユイのゲリララジオ、略してゲリララ! 今日のゲストは、画面の何処かに必ずいることで有名な遊佐さんです〜!」
「どうも」
「こっちでも、なにげに結構出番多いですよね?」
「作者のお気に入りだからだそうです」
「メタ禁止っ!」
「もう大丈夫ですよ」
PCを何かの機械に繋いで操作していた竹山がそう言い、男子寮にある音無の部屋に集まっていたSSS(スーパー・ソニック・シメサバ。つまり超音速シメサバ)の男子一同は、ほっとため息をついた。
「ここまでしなきゃならんのか」
「万一漏れたら、嫌だろ」
多少不満げな野田を、日向が宥める。
「それで音無? 万一の盗聴を防いでまで、俺達に話しておきたいことって何だ?」
「ああ、それはな……」
皆の視線を集める中、部屋の中央に陣取っていた音無は、静かに話し始めた。
■ ■ ■
「傍受できました」
――同時刻。対天使用作戦本部。
インカムと通信機を巧みに使い分けていた遊佐は、SSSのリーダーである、ゆりにそう告げていた。
「OK、急に集まるから気になったんだけど……念のため、ね」
あまりやりたくないという貌で、ゆり。
「仕方がないことでしょう。こういう世界ですから」
肯定も否定もせずそう言って、遊佐はインカムの耳の部分を押さえ――その頬が、桜色に染まる。
「どうしたの? 遊佐ちゃん」
「いえ、その……」
珍しく、言い淀む遊佐。
「どうやら、音無さん達は――生前持っていたえっちな本の数を競いあっているようです」
「んなっ――!」
ゆりの顔が、たちまちにして赤くなる。
『マンダムな御年頃』
しばらくふたりとも、そっぽを向いているだけであった。
「なにやってんのよ、あの子達はもう――!」
頬を膨らませて、ゆりがそんなことを言う。
「ですがこれ、おそらくブラフでしょう」
頬はまだ少し赤かったが、ずっとインカムの耳部分を押さえていた遊佐が、冷静に指摘する。
「なんでわかるの?」
「男子の皆さんが、竹山さんのことを『クライスト』と呼んでいますので」
とんだシステムの落とし穴であった。
「つまりは、竹山君のジャミングってことね」
「おそらく、ですが」
「OK。それじゃ申し訳ないけど、しばらくうちの男衆の同行、観察しててくれる?」
音声はともかく、行動は隠しようもないでしょ。と、ゆり。
「了解しました」
インカムをつけなおして、遊佐がそう頷く。
■ ■ ■
「ホワイトデーね……」
藤巻がそう呟いた。
「ああ、ホワイトデーだ。カレンダー上はな」
と、音無。
「White Album!」
最後にTKが、そう叫ぶ。
「今までは、完全に無視していたが……」
狭い部屋の中でもお構いなしの様子で愛用のハルバードを肩にかけて、野田がそう言う。
「確か男は、キャンディを贈るんだったよな?」
気楽な様子で、日向。
「つったってよう、俺達には飴なんて作る技量も材料もないぜ?」
そう言ったのは藤巻である。
「同意だ。確かに、何かしらの返礼はしたいが……」
と、野田。それほど、ゆりからチョコレートを貰ったことが嬉しかったのであろう。
「作るのは、わりと簡単だ」
音無の隣に立っていた直井がそう言う。
「グラニュー糖と極少量の水を加熱し、溶かす。後は好みの色加減で冷ませばいい」
「へ? そんなのでいいの?」
大山が驚いたようにそう言う。
「そうだ。材料はたったふたつ。簡単だろう?」
「……なるほど、鼈甲飴か!」
と、日向が膝を叩く。
「確かにそれなら、出来そうですが……型はどうするんです?」
眼鏡を光らせて、高松。
「それは我々ギルドに任せて貰おう」
その質問に、地下から上がってきたギルドの長、チャーがそう答えた。
「この前のバレンタインで、生まれて初めてチョコを貰った者が結構居たからな。皆お返しをしたくてうずうずしているようだ。だから、お前達は型のデザインを考えてくれるだけで良い。後は俺達ギルドが、責任を持ってその型を作ろう」
「んじゃ俺達は何をするんだ?」
と、藤巻。
「そりゃ、グラニュー糖の確保だろう」
黙って話を聞いていた松下が、そう答える。
「そうだな」
と、同意する音無。実は、そこまで結論は出ていたのだ。
「今回みんなに聞きたいのは他でもない」
皆を見渡しながら、音無はそう言う。
「グラニュー糖の確保に、協力して欲しいんだ」
「作り出せない以上、あるところから持ってくるってわけだな?」
そう訊く日向に、音無は頷いて答える。
「持ってくるって何だよ。この前女子がやったように、輸送物資を狙うのか?」
「いや、それじゃ不味いだろ。二回目をかなでが見逃すとは思えないし、そもそも紳士的じゃない」
藤巻の問いに、音無はそう答える。
「まぁ、音無的にはかなでちゃんに贈りたいだろうから、襲撃は不味いわな」
と、日向。
「ならどーするんだよ」
なおも食い下がる、藤巻に、音無は少し間を置いてから、
「食堂だ」
そう言って、自分に支給されているPCの画面に、校内の地図を呼び出した。
「だからその食堂を襲撃しちゃ駄目だろ」
「いや、そうじゃない。食堂で自販機を『使わずに』コーヒーを注文する。すると何が出てくる?」
そう言いながら、食堂の端にあるドリンクコーナーを拡大させて、音無。
「コーヒーだわな」
と、藤巻。
「他に何が出て来るというのだ」
呆れたように、野田がそう言う。
「そうだ。コーヒーだ。だけどそのコーヒーはブラックだよな?」
「――!」
一同に、緊張の色が走った。
「スティックシュガーか!」
額の汗を拭って、日向。
「そう、そいつだ」
再び頷いて、音無。
「何度か繰り返せば、かなりの量になる。そうだろ?」
「Home Sweet Home!」
一回転してポーズを取りながら、TKがそう叫ぶ。意味はよくわからないが、それでもその場にいた全員がはっきりと頷いた。
「よし、やろう。みんなで放課後コーヒータイムだ」
■ ■ ■
「……はい?」
その遊佐からの報告に、ゆりは自分の耳を疑った。
「ごめん、もう一回言ってくれる?」
「はい。音無さんをはじめとする男子の皆さんが、食堂でお茶会をするようになりました」
淡々と報告する、遊佐。
「皆さん行儀よく並んでコーヒーを注文し、行儀よくテーブルに座って、渋い貌で一斉に飲んでいるそうです」
「なによそれ。まさか一口飲んだ後、一斉に『うーん、マンダム』とか言ってるんじゃないでしょうね」
「言ってます」
ずるりと、ゆりが椅子から落ちそうになる。
「何、何なの? 新たなるお笑いのネタづくり!?」
「それは目下調査中ですが……」
そこで遊佐は珍しく迷い、
「おそらく、真剣にやっているのではないかと」
それでもはっきりと、そう言った。
「真剣ねぇ……」
にわかには信じられないけど……と、ゆり。
「まぁ、良いわ。特に変なものがバックに居るわけでも無さそうだし、引き続き静観――ね」
椅子の背もたれに身体を預けて、そう言うが、返事の代わりに遊佐は通信機に耳を当て続けていた。
「遊佐ちゃん?」
「追加情報です。ゆりっぺさん」
「どうしたの? 今度はカフェラッテ野菜ましまし油少な目ニンニクどか盛り辛めとか言い出した?」
「いえ……音無さん達が、食堂で辛いものを注文するときに、砂糖を注文しているようです」
「はぁ!?」
「今のゆりっぺさんの言葉を借りれば、砂糖ましましと言ったところでしょうか」
「わけわかんないわよっ。音無君達、それほど辛いもの苦手って訳じゃないでしょ。っていうか、普通やんないわよそんなことっ!」
「仰るとおりです。……心境の変化でしょうか?」
「心境の変化と言うより――」
思わず、真面目に考え込んでしまう。
「味覚の変化? ――ううん、それだけなら何らかの報告があるはず。集団洗脳――にしては、範囲がなんか変だし、そもそもかなでちゃん側にそんなことをする必要性は無い。だとすると……」
何が起きているのよ、もう。と、頭を掻くゆり。
そんな彼女に、遊佐は声をかけようとして――再び無駄のない動きで通信機に耳を当てる。
「追加かつ緊急情報です。ゆりっぺさん」
「なに? 音無君達が、ワッフルに蜂蜜と練乳でもかけて食べ始めた?」
「いえ……天使と交戦を開始しました」
「はいぃ!?」
■ ■ ■
「許せないわ」
ゆらりと一歩前に進んで、かなではそう言う。
「その行い、麻婆豆腐に対する冒涜と知れ」
普段より数倍は長いハンドソニックを水平に構え、薙払う。その斬撃の軌道上に居る標的――大山は、腰が抜けていて動けない。
金属がぶつかり合う特有の、甲高い割に重みのある音が辺りに響いた。
野田のハルバードと、藤巻の長ドスが、かなでの長いハンドソニックを受け止めたのである。
「大丈夫か、大山っ!」
歯を食いしばりながら、藤巻。
「た、たたた助かったよ!」
床にへたりこんだまま、大山がそう叫ぶ。
「礼はいいから下がれっ!」
野田がそう叱責し、大山はその姿勢のままずるずると後ろに下がった。
「何をやったんだ何を!」
そんな彼を助け起こしながら、音無。
「いや、食堂メニューのさ、劇辛麻婆をさ、甘くしたいから多めにスティックシュガー貰おうとしたら――」
たまたま近くに居たかなでが、キレたらしい。
「なんてことを……!」
「だって、あんだけ辛いんだもん。たくさんもらえるんじゃないかと!」
貰えることには、貰えるだろう。
だがそれは、かなでの逆鱗を亀の子たわしで思いっきり擦るような真似であったのだ。
「やっぱり辛口を甘口にしてグラニュー糖ゲットというわけには行かないか……」
尻ポケットから小型の拳銃を取り出して片手で構えつつ、音無の援護をしていた日向がそう言う。
「だからやめとけと言ったんだ」
二丁拳銃でそれぞれハンドソニックとかなで自身に狙いを定めつつ、直井。
「それでどうするんです? 音無さん。あいつ、ああなると見境無いですよ?」
なんだったら、事の張本人を人身御供にして――と言いかけた直井の脇を、音無は駆け抜けた。
「待つんだ、かなで! これには深い訳があるんだっ」
かなでから野田、藤巻の両名が距離を取った瞬間に、その間に立ちはだかったのである。
「……何処かの姫姉様みたいだな」
呆れたように、藤巻。
「配役逆じゃね?」
と、日向。
「っていうかそれだと音無吹っ飛びフラグが……」
「言う前に音無さんを助けろ俗物共めがっ」
さらにその音無の前に出ようと、直井が身体を滑り込ませるより早く、
「ならば、態度で示して」
ハンドソニックを納めたかなでは、あっさりとそう言い、勢い余った直井はそのまますっ転ぶこととなった。
かくして、SSS男子一同は一斉に劇辛麻婆豆腐をかっこむ羽目になったのである。
その直後に持てるだけの武器を装備したゆりが飛び込んで、そのままの勢いで先ほどの直井と全く同じ格好ですっ転ぶという非常に珍しいものが見られたが、それは所謂余談と言うものであろう。
――そして、ホワイトデー当日。
「飴は普通の鼈甲飴なのに、形がすっごく凝ってますね……」
ユイが普段使うギターの形に象られた飴をまじまじと見ながら、ユイはそう言った。
「すっごーい、あたし達の楽器の形になってる……」
「なかなか出来ないよね、これ」
関根と入江がそうはしゃぎ、
「ま、ありがたく頂いておくよ」
と、ひさ子が言い、
「……きゅーと」
いつもこっそり自室でだっこしている犬のぬいぐるみと同じ形をした飴を見つめて、椎名が何処がうっとりとした表情でそう呟いた。
対天使用対策本部でのことである。
「型の精度がすごいですね」
自分が使うインカムをそのまま縮小した飴を手に取り、遊佐。
「……やるじゃない、音無君」
SSSのエンブレムを浮き彫りにした形の飴を手に取り、ゆりがそう言う。その貌は、何処となくいつもより満足そうであった。
「いや、皆が力を合わせた結果さ」
何処と無く照れくさそうに、音無はそう言う。劇辛麻婆をたらふく食べるという苦行はあったものの、結果として必要量のグラニュー糖は確保でき、こうしてバレンタインデーのお礼が出来たのであった。
「あ、そうだ。ほら直井、この前のお返し。っていっても同じものだけどさ」
そう言って、音無がラッピングされた小袋を、直井に渡す。。
「と、ととと、とんでもない! あ り が と う ご ざ い ま す っ ! 音 無 さ ん ! 」
今、直井にしっぽが生えていたとしたら、ちぎれんばかりに振っていたに違いない。
「いやっほーう!」
よほど嬉しかったのだろう、あちこちを飛び跳ねている。
「くそ、俺も作っておけば良かったかなぁ」
そんな直井の様子を横目で見て、日向がひとりごちた。
「だからやめましょーよ、そういうこと」
男子しかいないんならまだわかりますけど、女の子もいるところでそれは腹立ちますよ? と、ユイ。
「はっはーん! 羨ましがってもあげないからなっ」
「別にそこまでしていらねーよっ」
俺はただ、あげときゃ良かったと思っているだけだっての、と日向が言うが、その声には僻みも妬みも含まれては居なかった。が、端から見るとどうみても愁嘆場である。
「……なんでこんなの好きになったんだろ、あたし」
そんな彼を見ながら、ぼそっと誰にも聞こえないような小声で、そう呟くユイ。
「ねぇ音無先輩、何か言ってやってくださいよ。って、あれ? 音無先輩は?」
いつの間にか、その姿が消えていた。
「かなでちゃんのところだろ。邪魔するのも野暮ってもんさ」
頭の後ろで手を組んだ日向が、そう言って笑う。
Fin.
あとがきはこちら
「これは……天使の羽?」
「そんなところかな?」
「てっきり麻婆豆腐型かと思ったわ」
「それは流石に無理だろ」
「でも豆腐型ならいけるかも」
「ただの直方体じゃないかそれ」
「麻婆ならまず崩れているわ」
「それもただのかち割りだよな」
「ついでに味も再現すれば完璧ね」
「何処の世界に劇辛の鼈甲飴があるんだ。材料は砂糖と水だぞ?」
「ウィスキーは麦だけで色々な味と香りを出せるわ」
「酒と一緒にしないでくれ……」
「閃いたわ。ウィスキーボンボンならぬ麻婆ボンボン――」
「不味いだろそれ、確実に」
あとがき
AngelBeats! ホワイトデー編でした。
完成が遅れちゃって、なんというか申し訳ないです^^;
さて次回は……ちょっと未定気味ですね。