超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「どうでもいいが、作者はこの話を喫茶店で書き上げて外に出た途端辺りが雪景色で仰天したそうだ」
「なのそのリアル幻想世界なわたし達」





























































































  

  


 事務所の電話が鳴ったのは昼をすぎてちょっと――俺、岡崎朋也が昼食を終えて戻ってきたときのことだった。
「お電話ありがとうございます――」
 丁度手元に受話器があったので、急いで取り上げる。この時間帯なら、おそらく所長宛のものだろう。そう思っていたのだが……。
「……え?」
 発信元は俺や汐が通っていた、あの学校からだった。



『その星を、受け継ぐ者』



「まさか今になって呼び出されるとは思わなかったな」
 コーヒーを飲みながら、俺はそう言った。
 夕刻の喫茶店『ゆきね』。移り変わりの激しい商店街において、大手喫茶店のチェーン店ではない個人経営の喫茶店は、もやはここだけだったが、多くの町内外の人に愛されている憩いの場でもある。
 現に今でも、多くの客でテーブルが埋まっていた。カウンターの端に置かれている木彫りのヒトデは、多分風子が忘れていったものだろう。或いは、店長の宮沢にあげたものかもしれない。
 ――閑話休題。
「お忙しいところ、申し訳ありません……」
 そう言って申し訳なさげに眼鏡のフレームに手を触れているのは、皆からナギと呼ばれている汐の後輩だった。そして今は――。
「構わないさ。演劇部の部長殿に呼ばれたとなってはな」
 意識して片目を瞑り、芝居っぽい調子で俺。
「お、おやめください岡崎さん……」
 案の定というか何というか、照れた様子で彼女はそう言う。
 けれども、そこには初めて出会った時のような狼狽えた雰囲気は微塵もなかった。
 つまりは、だいぶ部長の役目が板に付いてきたのだろう。
 もっとも、もう一年近く部長をしている訳なのだから、それもまた当然かもしれなかった。
 さて、何故俺が汐の後輩とこういった場を設けるほどに親しくなったのかというと、そこにはいくつかの偶然がある。
 数年前、俺がいつになく感傷的な気分で渚と出会ったあの坂を歩いていたときに出会い、助けを求められたのだ。そしてその助けなければいけない――修理しなければならない――ものがたまたま汐の演劇部の公演で使う機械であり、彼女が演劇部員であった。ただそれだけだ。
 いや、ここまでくるともうただそれだけでは片付かないだろう。誰にも(汐にも)言っていなかったが、それは渚が巡り合わせてくれた縁であると俺は思っていた。
「そういえば、なんで学校からかけたんだ? 自分の携帯電話、持っているだろ?」
「あ、はい。そうですけど……」
 そう言いながら、彼女は制服の内ポケットから真っ白な携帯電話を取り出し、
「非常時でもありませんし、学校から携帯電話を使うのもいかがなものかと思いまして……」
 迷ったかのように手で弄んでから、それをテーブルの上に置いた。
「偉いな、お前」
「え? いえ、そんな……」
 もし俺の学生時代に携帯が普及していたら、間違いなく四六時中使い倒していただろう。そう思う。
「まぁそれはさておいて、俺の携帯の番号教えておくよ。今度からこっちに、な?」
 二つ折りの無骨な携帯電話(なにせ型が古いのだ)開いて、俺。
「あ、はい。ありがとうございます……」
 テーブルの上の携帯を手に取り、彼女も画面を開く。
「これで、よしと」
「……本当に、ありがとうございます」
 転送された俺の番号をじっと見つめて、彼女。
「どうだ? 演劇部の方は」
「おかげさまで、頑張っていけてます」
 と、現演劇部の部長は笑顔でそう言う。
「でも今になっても時々思います。何故私なのだろう……と」
「そりゃ、あの卒業公演であれだけの大立ち回りしていりゃ、誰だって認めざるを得ないだろ」
 と、俺。
「そんな急なことで決めてはならないような気がします。部長なのですから」
「まぁ、そうだよな」
 少し見ないうちに、冷静さと、真面目さに磨きが掛かっていた。完全に俺の私見だが、これなら皆に慕われているだろう。
「岡崎部長は――」
「今の部長はお前だろ」
「そうでした。岡崎先輩は、夏頃から考えていたそうです」
「……そうなのか。あいつ俺には引退の話をこれっぽっちもしなかったからな」
「岡崎さんを、心配させたくなかったのでしょう」
 コーヒーカップを傾けて、彼女はそう言う。
「? どういう意味だ?」
「悩んでいる岡崎先輩を見て、岡崎さんが心配なさらないように、気を使われていたのではないかと」
「……なるほどなぁ」
 言われて膝を叩きたくなった。どうも俺は、汐の側に居すぎて一歩引いた視点で見られなくなってしまっているらしい。
「先輩は、お元気ですか?」
 少し目を細め――過去を思い出すような目で、彼女がそう問う。
「あぁ、元気すぎるくらいだ」
 同じように目を細め、俺。
「えっとその……大学でも、演劇部に?」
「いや、特定のサークルには入らないで、あっちこっちのゼミをうろうろしているらしい」
「……ゼミって1年生から履修するものでしょうか?」
「いや、よくわからんが3年あたりからだって聞いているが」
 そもそもゼミと言うものがなんなのか、俺にはよくわからない。春原に聞いたら蝉の仲間とか言うし。
「岡崎先輩らしいと思います」
「そうかもしれないな」
 まぁ、キャンパスライフは汐のものだ。世ほどのことがない限り、俺は口を出す気はない。彼氏が出来たとかいうのなら、話は別だが。
「岡崎先輩は、変わられましたか?」
 彼女が口に出した『変わられた』に、少しどきっとした。
 その話し方は、どこかあいつにそっくりだったのだ。無論、それを貌には出さないが。
「変わった……か。ふむ――なんていうのかな、随分と大人っぽくなった気がする」
 仰々しく腕を組んで、俺。
「岡崎さんからは、そう見えるのですね」
 興味深そうに、彼女はそう言う。
「お前だとどうなんだ?」
「そうですね……すごく、綺麗になりました」
「なるほど――な」
 綺麗、か。確かに汐は綺麗になった。考えてみれば、俺とつきあっていた頃の渚と同じ歳になったのだから、それは当然なのかもしれない。それに――。
「あれだな、着ている服が変わるだけで、随分と雰囲気が変わるものなんだな」
 あの制服から私服姿になることが多くなってから、特にそう思うようになった。遠い記憶を探ってみれば、大学生となった藤林姉妹と出会ったときもそんな感覚を覚えたものだが、それがより顕著になったような気がする。
「演劇の衣装と同じですね。お化粧する前に着るだけでも空気がぐっと変わりますので」
 ちびちびとコーヒーを飲みながら、彼女がそう指摘した。
「そういう見方もあるか……」
 なんというか、そういう考え方がいかにも演劇部と言った感じではある。
「ところで、今日はどう言った用なんだ?」
 ちょっと身を乗り出して、俺はそう訊いた。
 いや、大体は想像がついている。ついているが、このままだと汐の思い出話に終始して、そのまま別れてしまうような気がしてしまったのだ。
「……あ」
 忘れていたと言うより、来るべきものが来たと言った様子で、彼女。もしかしたら、彼女なりにタイミングを計っていたのもかもしれない。だとしたら、悪いことをしてしまったことになる。
「えっと、その、本日は……バレンタインですから」
 そう言って、彼女は学生鞄から小さな――それでいて丁寧に包装された綺麗な包みをそっと取り出した。
「もしよろしければ、どうぞ――えっと、その……どうぞ」
 本命か義理かを言わずに、彼女はそっとそれを差し出した。俺はそれを受け取り――、
「ありがとうな、な――ナギ」
 我ながら、悪いことをしてしまったと思う。
 けれども、俺は彼女の名を愛称で呼んでしまっていた。
 もちろんすぐさま後悔するがもう遅い。僅かながらも、彼女の貌は曇ってしまっている。
「名前では、呼んでいただけないのでしょうか?」
 ぽつりと、彼女はそう言った。汐よりふたつも年下で、渚と同じ名前を持つ少女に、俺はどんな傷をつけてしまったのだろう。
「……ごめんな」
 だから、俺は静かに謝った。一度飛び出した言葉はどうしたって完全には取り消せない。ならば、出来ることは誠心誠意謝るしかないだろう。
 そして、伝えなければならない。俺の、ありのままの気持ちを。
「そう珍しい名前じゃないのはわかっているんだ。だけど、どうしても……な。多分なぎ――俺の妻は、許してくれると思うんだが」
「いえ、私が浅はかでした」
 緩くかぶりを振って、彼女はそう言う。
「却って心配させてしまったようです。申し訳ありませんでした、岡崎さん」
「いや、悪いのは俺だろ」
「では、おあいこということに致しませんか?」
 笑顔を浮かべて、彼女はそう言う。
 そこには、その物腰の丁寧さと、初対面で抱いた狼狽具合とは正反対の、芯の強さがあった。
「ああ、それでいい」
 よく考えたら、汐も十七歳の時には随分としっかりしていた。どうも俺は、若いと言うだけで彼女を過小評価してしまったのかもしれない
「汐はどうなんだ?」
「岡崎先輩は、ちゃんと名前で呼んでくれました。たまたま、お母さんと同じ名前なだけなんだからって」
「……そうか」
 そういうところは、汐の方が割り切っているな。そう思う。
「しかしバレンタインか……」
 卑怯ながらも、話題を変える俺。
「実はこうやって逢って受け取るの、初めてなんだ」
「ええっ!?」
 思い切り驚かれた。普段どういう風に見えているのだろう、俺は。
「先輩の御母堂――いえ、奥様とは……」
「ああ、妻とはそういうのなかったんだよ。っていうか奥様って初めて言われた気がするな」
「は、はぁ……」
 渚が若かったからか、それとも夫婦でいられた時間が短かったからか、冗談めかしたものを含めてそう呼ばれることはなかったのだ。
「では、やはり――」
「いや、チョコは受け取るよ」
「え!?」
 ぽかんとした貌で、俺を見る。
「よ、よろしいので?」
「よろしいもよろしくないも無いだろ」
「あ……はい。ありがとうございます。嬉しいです」
 ま、チョコレートを受け取るくらいなら渚も怒るまい。そう思う俺だった。
「ま、汐には内緒にな」
 再び片目を瞑って、俺。
「そうですね、岡崎先輩が見たらきっと――」
「呼んだ?」
「ぶっ――!?」
「お、おおお岡崎先輩!?」
「はぁい」
 最近よくやるようになった、長い髪をうなじあたりで適当に束ねた汐が、手をひらひらさせていた。
「い、いつからこちらに……」
 本気で驚いたのだろう。眼鏡がずれたまま、彼女がそう訊く。
「いや、ついさっき。なんか見慣れた人達がいるなぁって思って店内を覗いてみたら、なんかすっごい空気を纏っていたから気配を消して近づいたの」
「忍者かお前は」
 思わず呆れた声になって、俺。
「んー、忍者と言うよりくのいちと呼んで欲しいなって――ほっほーう……」
 すごくおもしろいものを見ちゃった。そういった感じで汐の目が細くなる。その視線の先は、俺が手に持っている彼女からもらったチョコの包みが。
 ……あ゛。
「事実は小説より奇なり――か。まさか年下の義母さんが出来るなんて、ね」
 昔流行った悪役主人公のような貌で、汐。おそらく彼女は、汐がこう言ってくるだろうと予想していたに違いない。
「お前は何を言ってるんだ」
 だからこそ、努めて冷静に俺。続いて同じく彼女も――。
「そ、そうです。私はともかく岡崎さんにご迷惑が……!」
 ――え?
「とも……」
「……かく?」
 俺達父娘の呟きに、彼女が小さく息を飲む。
 ああ、ここら辺は後継者といえどもまだ乗り越えられない壁なのだろうか。その壁の父親ながら、少し彼女に同情してしまう俺だった。
「――ううむ、藤林先生達に強烈なライバル登場か……」
 何故か時代劇の侍のような渋い顔つきになって頷く、汐。
「こりゃ、前途多難だわ」
「そ、そそそそういう意味ではっ!?」
「大丈夫大丈夫。わたしは反対しないから」
 ぽんと小さく彼女の肩を叩いて、汐はそう言う。
「あくまで、決めるのはおとーさんなんだからね?」
 うわ、キラーパス投げやがったなこいつ!?
 いやまぁ、確かに決めるのは俺なんだが……。



Fin.




あとがきはこちら










































「というわけで岡崎さんがうちの生徒から本命のチョコを貰っていました」(カウンターに隠れていた)
「OK、今からしばきに行く――のはともかくとしてもお説教をかましに行くわよ」
「私も手伝おうっ」
「私も手伝うのっ」
「わたしも手伝いますっっ」

「……今、ひとり多くなかった?」



■ ■ ■



「雪のバレインタインか、なんかロマンチックね」
「作者的には通勤的にそれどころじゃないらしいが……」











































あとがき



 ○十七歳外伝、十九歳編でした。
 大学生になった○を色々イメージして書いてみたんですが、なれていないせいか結構難しいですね;。
 さて次回は――朋也がぼそっと言っていたことかな?
 その前にシリアス続きの反動で軽いのをやりそうですけれど。




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