超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。
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「むぅ、最近シリアス続きのおかげでここでボケられん」
「いや、無理してボケなくていいんじゃないかな……」
確か、汐ちゃんが卒園する直前のことだったと思う。
「ねぇ、汐ちゃん」
「ん?」
「あたしは、汐ちゃんのママと友達でいられたと思う?」
「ともだちじゃ、なかったの?」
「あ、うーん……」
以前、クラスのみんなに汐ちゃんのママがいないことを知られてしまった時がある。そのとき、あたしは汐ちゃんのママがあたしの友達であると公言していたのだった。
「あたしはそう思っているんだけど、汐ちゃんのママはどう思っていたのかなって」
「うーん……?」
考え込んでしまう汐ちゃん。まだちょっと早い話題であったのかもしれない。けれど、汐ちゃんの導き出した答えは簡潔なものだった。
「ともだちだとおもう。きっと」
「そうか……。ありがとうね、汐ちゃん」
そう言って、あたしは汐ちゃんの頭を撫でる。
撫でられ慣れていないのだろうか、なんともいえない戸惑いの表情を浮かべる汐ちゃんだった。
『きょう、ゆきのなかで』
■ ■ ■
居酒屋を出てみると、雪が降っていた。
「――それじゃあな、杏、春原、智代、ことみ」
そう言って朋也はあたし達に背を向け、ひとり歩きだす。
対するあたし達は、何も言葉を紡げず、とりあえず残りの四人で歩き出したのだった。
「大丈夫か、朋也は……」
智代がそうひとりごちた。
「無茶はしないさ。汐ちゃんの熱が引いたとき、そう僕らに約束してくれたんだから」
陽平がそう答える。
――その日は、珍しいことに学生時代の面子だけが集まった飲み会だった。
そこで、あたしが言った何気ない一言のおかげで、あたしを含めその場にいた皆が汐ちゃんの受験状況――場合によっては、この街を出なければいけないこと――を知ることになった。もっとも、陽平は既にある程度把握していたみたいだし、ことみの方は酔っぱらっていたから、正確に言うのならあたしと智代だけということになるのだけれど。
そして、それを知ったからといって、今更あたし達には出来ることは何もない。それは朋也もわかっているようで、汐ちゃんが結果を出したら盛大に宴会をやろうと言っていたけど――その表情は晴れることがなかった。
「頼むぞ、藤林。一ノ瀬も私も飛び回る毎日だし、春原も地元で働く身だ。お前だけに押しつけるようで申し訳ないが……」
十字路で立ち止まり、智代がそう言った。右を行けば住宅街、左を行けば駅へと繋がる。――ちなみに、まっすぐ歩けばあたし達が通ったあの学校へとたどり着く。今では、もう誰もそっちに向かって歩かなくなった、あの長い長い坂道と共に。
「気にしなくていいわよ」
肩のハンドバッグをかけなおしながら、あたし。
「私からも、おねがいするの」
顔は赤かったけれど随分と冷静になった声で、ことみもそう言う。
「朋也くんは、誰かが居なくなることに人一倍敏感なの。だから杏ちゃん、何かあったら朋也くんを助けてあげて」
酔っぱらっていても、ことみは話の内容はちゃんと聴いていたようだ。そこはなんというか、流石だと思う。
「任せなさい。保母さんは伊達じゃないとこ、見せてあげるわ」
あたしがそう答えると、ことみは、やっぱり杏ちゃんは頼りになるの、と言ってほにゃっと笑う。
「それでは、お休み」
「ああ、おやすみ」
「春原さん、杏ちゃん、おやすみなさい」
「風邪引かないようにね、ことみ」
「大丈夫なの〜」
依然顔が赤いので、寒いのかどうかわからないことみの手を繋いで、智代が先導していく。どうも、今日は智代の家に泊めるつもりらしい。
こうして、あたしは陽平とふたり雪の降る十字路に残ったのだった。
「あれ? 杏は?」
「こっちの方向じゃないしね。駅まで送ったげる」
「ああ、悪いね」
雪の中を、陽平とふたりで歩く。学生時代だと、とてもではないが考えられないことだったろう。
「ねぇ、朋也のことだけど――」
「うん」
「大丈夫かな、って」
「どうだろうねぇ……」
なんとも言えない曖昧な表情で答える陽平だった。
「でも、どっちも大変だろうね。汐ちゃんが全部落ちても、いま受けてるところに合格して、この街を旅だっても――さ」
返事の代わりに、あたしはハンドバッグから二つ折りの携帯電話を取り出し、片手で開く。
「やめときなよ」
「え?」
が、電話帳のボタンを押そうとしたところで、陽平がそう口を挟み、あたしはその手を止めたのだった。
「今、汐ちゃんに電話しようとしたろ」
「あ、うん……そうだけど」
携帯を持つあたしの手に自分の手を添えて、陽平は諭すように言う。
「やめておきなって。汐ちゃん試験が終わってやっと一息ついているとこなのかもしれないんだからさ。余計な心配させても、こっちに戻ってくるのは明日なんだし」
「あ、そうか……ごめん」
「気付いてくれたんだから、謝る必要はないよ」
さてと、今回は泊まりなしだから急がないとねぇ、と背伸びしながら、陽平。
「ねぇ、陽平」
「ん?」
「朋也は、いつまで縛られるのかしら」
「何にさ?」
「何って、その――」
「……渚ちゃんのことなら、おそらくずっとだよ。僕らと同じように、ね。そして渚ちゃんの代わりになれる人は絶対に居ない。それは杏でも無理だし、汐ちゃんでも無理なんだろうね」
「でも、それじゃ……」
「あのねぇ――」
なおもあたしが食い下がると、陽平は溜息をついて、
「あのね、杏。別に渚ちゃんの代わりにならなくても、岡崎の奴を支えてやることは出来るんだ。それを忘れちゃ駄目だよ」
「それって、どういう意味?」
「良い例が汐ちゃんさ。もっとも汐ちゃん自身はそんなこと意識していないと思うけどね」
「でも、その支えが無くなったら?」
「そのために僕らがいるんだろ?」
言葉も無かった。
「もっとも、岡崎が自分で意識しないとどうしようもないんだけどね。だから、これは岡崎だけの問題なんだよ。あいつがこっちを向かない限り、僕ら外野が何をやってもどうしようもない」
つまり、朋也が手を伸ばさない限り、あたしたちがさしのべる手には届かないということになる。でもそれは――。
「もどかしくないの? 陽平は」
「僕? そうだねぇ、僕は――」
そこで陽平は言葉を切って、夜空を見上げた。分厚い雪雲から、なおも雪は降り続けている。
「もどかしいね、とても」
積もり始めた雪を軽く蹴って、陽平。
そんな彼を見て、非常に愚かしい質問をしてしまったと、あたしは自分が恥ずかしくなったのだった。
「でもさ、さっき智代達が言っていたことだけど」
「あ、うん」
「あんまり背負いすぎるなよ、杏」
「誰に向かって言ってるのよ。……でもありがとう、あたしは大丈夫よ」
「そっか、ならいいんだけどね」
学生時代とはまた別の軽い調子で、陽平はそう流す。
「でも、どうしようもないことだけど、こんな時に部長がいてくれれば――って思うわ」
「部長ねぇ……」
ため息をひとつついて、陽平はそう言う。まるで、ちょっと呆れたかのように。
「なによ」
「いや、杏ってさ――」
「なに?」
「……いや、何でもないよ」
よく考えたら、これも僕がどうこう言う問題じゃなかった、と、陽平は言う。
そんなこと、あたしだってわかっている。
けれどそれは、喉に刺さった小骨のように、何時になっても忘れられないものだったのだ。
そんなことを考えているうちに、駅前に到着した。
終電にはまだ時間があるけれど、もう通勤時間帯をとっくのとうに越えているため、駅前にも構内にも人の気配はない。
「それじゃあおやすみ、杏」
「ええ、おやすみなさい」
こうして、あたしは陽平と別れた。
さて――。
これから、あたしはどうすればいいだろう。
居酒屋で朋也が歩きだした方向は、家とは全く別のものだった。
だから多分、いや確実に朋也は家に帰っていない。
とすれば、向かう先はひとつのはず。
今なら、まだ間に合うはず――。
でも、あたしが行ってどうなるというのだろう。
そもそも、あたしが行って何が出来るのだろう。
そう悩みながらも踵を返したあたしは、思わず凍り付いた。
あたしの真ん前、2、3メートルと離れていない距離。そんな近い場所に――。
部長が、立っていたのだ。
□ □ □
鼓動が一瞬、早くなった。
茫然自失となったのは、ほんの一瞬。ただ、とてつもなく長く感じられただけだ。
あたしは小さく、息を吐く。
大丈夫、ちゃんと話せる。
「こ、今晩は部長?」
――全っ然駄目だった。
「今晩はです。藤林さん」
けれども、そんなあたしの失態にも関わらず、部長は普通に接してくれた。
あのときと、寸分変わらぬ学制服姿。違うところと言えば、首から巻いたマフラーくらいだろうか。
そして、その笑顔は変わらない。あの頃と、全く変わっていない。
それが却って、あたしを安心させてくれる。
「どうしたのよ、こんな処で。朋也のところには、行かなくていいの?」
今度は普通の口調で、あたし。もっとも、心臓の方は若干ながらもハイペースなままだ。
「そっちには今、しおちゃんが向かっていますから」
何処か少し寂しそうに、それでいて誇らし気な表情で、部長はそう言う。
「そっか……それなら大丈夫よね。でも、なんであたしの処に?」
「今は――藤林さんの方が心配でしたので」
「やぁねぇ、そんな心配しなくていいのに……」
駅前のターミナルに点在するバス停のベンチに座る。屋根があるおかげで、ここには雪が吹き込んでこなかった。
「それに、お礼も言わなければと思っていました」
あたしから付かず離れずといった位置で、ベンチの隣に座り、部長はそう言う。
「今までしおちゃんを見守ってくれて、ありがとうございました」
――え。
呼吸が止まる。
今のは、完全に不意打ちだった。
「な、何言ってるのよもう。お礼を言わなきゃいけないのは――ううん、むしろ謝らなきゃいけないのは、このあたしじゃない」
「謝ることなんか無いです」
「ううん、謝らなきゃ駄目なのよ。だってあたしは――時々、汐ちゃんを自分の子供のように感じてしまっていたことがあったんだもの」
それは、朋也にも汐ちゃんにも、そして他の誰にも話したことのない、あたしの秘めた感情だった。
「たとえそうだとしても――」
けれども、部長は言う。
「わたしは怒りません。しおちゃんだって、きっとそうです」
学生であったときとは全く違うその力強く、そして優しい言葉に、あたしの胸の奥が暖かくなる。
「もう、母娘揃って似たもの同士なんだから……我慢、できなくなっちゃうじゃないの……っ」
「我慢なんて、しなくていいんです。藤林さんは、今まで頑張ってきたんですから――」
そこが、限界だった。
あたしは静かに、部長の胸に顔を埋める。
その手は学生時代のものなのに、抱きしめられた感覚は母性を感じさせるものだった。
やっぱり、子供を持つと変わるのだろうか。心の何処かが、そう思う。
「さっきしおちゃんが――って言ってたってことは、今汐ちゃんが何処で何をしてるのか知っているのね」
少し落ち着いてから、あたしはそう言った。
「はい。大体、ですけど」
さっきまで取り乱していたあたしに対し、何でもないように部長がそう答える。
「どうなの? やっぱりこの街から離れられると寂しい?」
「……それは、少し寂しいです。でも、わたしも朋也くんもそうやって来ましたから」
「朋也と同じこと言うのね……やっぱり夫婦だわ、あんた達」
「あ、ありがとうございます……」
あの頃、あの輝かしい学生時代のときと同じように、部長は照れていた。
何というか、不思議な気持ちになる。置いていかれたという想いと、置いていってしまったという想い。全く逆の感情だというのに、それを同時に抱えてしまうとは、思ってもみなかった。
「なんだろ、逢えたらどんなことを話そうか色々考えておいたはずなのに、いざとなったら忘れちゃったわ」
バス停の天井を見上げて、あたし。視界の端では、雲に覆われた空から、静かに雪が降り続いている。
「そういうものかもしれません。わたしも他にも色々お話ししたいことがあったのに……忘れちゃいました」
こんなことになっても、物忘れしちゃうなんて思いませんでした。と、部長は笑う。
「あ、でもひとつだけあるわ」
「はい?」
「あのね、あのね――」
おそらく……というか確実に、今言わないと二度と言えなくなる。
そう。多分、もう二度と。
けれども、なかなか言葉がでてこなかった。
「藤林さん?」
心配そうに、部長がそう訊く。
駄目だ。ここで言葉を引っ込めては絶対に駄目だ。
こうしてまで逢いに来てくれた人に、伝えたいことを伝えないままじゃ、あたしのプライドが――いや、あたしの全てが許さない。
あたしは、小さく息を吸った。
「ねぇ、部長。渚って、名前で呼んでいい?」
心臓のペースが、さらに早くなる。
目の前で小さく息を飲む彼女は、何も答えない。
「それとも、部長の方がいい……?」
恐る恐る、そう訊く。
「いいえ。渚、がいいです」
「そっか……」
――長かった。
ずっと、ずうっと伝えたくても伝えられなかったことが、やっとのことで、今伝わった。
「ねぇ、渚……」
「はい」
「あたしの友達に、なってくれる?」
「もちろん、です」
静かに笑って、渚はそう言ってくれる。
□ □ □
それから、色々ととりとめのない話を続けていたと思う。
けれども、残念なことに何を話していたのかは記憶に残らず、気がつくと目の前にバスが停まっていた。
考えてみれば当然だ。だってここはバス停のベンチなのだから。
「乗ります?」
バスの運転手さんが控えめにそう訊くので、あたしは慌てて手を横に振った。
もちろん、その場に居たのはあたしひとりだった。
■ ■ ■
それから、しばらく後の話。
「そんじゃまぁ、汐が第一志望の大学に、見事合格出来たことを祝って……かんぱぁぁぁぁぁいっ!」
既に朋也は出来上がっていた。
よっぽど嬉しかったのだろう。
なにせ、汐ちゃんが受かった第一志望の大学は、自宅からでも十分通勤できる範囲であったからだ。
「よっしゃ脱ぐぞーっ!」
こっちも酔っぱらっている陽平が上着を脱ぐ。意外にも、身体は弛んでいなかった。ってそう言う問題じゃあない。
「杏も脱げっ!」
「脱ぐかっ!」
「脱ぐのっ!」
「ことみは脱ぐなっ!」
っていうか揺らすな揺らすな揺らすな揺らすなっ! いい歳して自慢げにそれを揺らすなぁーっ!
……ああ、うん。
一言で言えば、どんちゃん騒ぎだった。
このなかで真っ当なのは古河夫妻――。
「早苗ー! こんなにめでてえんだから子作りしようぜっ!」
「あら秋生さん、十七歳にそれはいけませんよっ」
……駄目だ、ならばうちの妹――。
「勝平さん、この機会にそろそろ……」
「え、あ? そ、そうだねぇ。あはは、愛の結晶かぁ――照れるなぁ!」
うがあああああ! なんで色ボケばっかりなのよっ!
ああもう、智代。最後の砦たるあんたならっ!
「美佐江さん、私は貴方と勝負がしたい!」
「勝負っつってもねぇ……そうだ。アームレスリングなら、受けて立つわよ?」
「では、それで」
「ふふふ……全力が出せるなんて、久々ねぇ?」
「――私もです」
「うふふふふ……」
「……フフ」
「ちょ、智代、美佐江さん!、歪がむっ! 空間が歪んでるっ!」
助けを呼ぶどころか火消しに回るあたしであった。
「なんか、みんな弾けてますね……」
そんな中、久々に吃驚した貌を見せているのは、主賓である汐ちゃんだった。
「みんなそれだけ気を揉んでいたってことよ。あ、でも勘違いしちゃ駄目よ? みんなが『勝手に』気を揉んでいたんだからね」
「藤林先生も、ですか?」
「まぁね、もっともあたしは先に解消しちゃったけど」
「え?」
「こっちの話よ」
あれが夢であったのか、それとも現実であったのか、それは誰にもわからない。
けれど、随分と心が軽くなったのは確かだった。
「頑張れ汐ちゃん後二年! 後二年で一緒にお酒が飲めるぞーっ!」
もうそれだけが楽しみですと言った感じで、陽平がそう絶叫する。
「いいぞ新八! よく言った!」
「誰が新八だおいいいいいっ!? 確かに他人のような気がしないけどさっ! というわけで下も脱いじゃおか――」
そんなワルノリする陽平の頭を、がっしりと鷲掴みする力強い手がある。言うまでもない、可愛いから綺麗という言葉が似合うようになった、陽平の妹さんだった。
「お兄ちゃん? 少し頭、冷やそうか……」
思わず微笑んでしまう。妹というものは、何処の家庭でもしっかりものらしい。
「風子は、数少ない例外でしょうか」
「うん。っていうか人の思考読まないでくれる? 恐いから」
「それは失礼しました。でも今の芽衣ちゃんを見ている藤林さんの貌だと、考えていることが丸見えだと風子は思います」
「それはまぁ、否定しないけどね」
少し頭を冷やされて、頭頂部から煙を噴いている陽平を見ながら、あたし。
「でもみんな、嬉しそうですね」
と、汐ちゃん。
「頑張ったかい、あったなぁ……」
「そうね。渚も喜んでいるわよ、きっと」
「なぎ――え?」
酔っぱらっていた陽平が急に醒めた貌でこっちをみる。
「杏」
「なに?」
「いや、今……ごめん、何でもない」
「なによ、はっきりしないわねぇ」
今、陽平はあたしが渚の名前をちゃんと呼んでいたことに反応した。あの雪の日の別れる前のこも考えると、おそらくずっと昔から気を揉んでいたのだろう。そう言う意味で、あたしは随分と迷惑をかけてきたのだろうと思う。
けど、もう大丈夫。
あたしはもう、大丈夫だ。
「後は結婚ね、汐ちゃん」
「ちょ――! い、いきなり何言い出すんですか藤林先生!」
完全に不意打ちだったのだろう。慌てたかのように、汐ちゃん。
「えー、だって朋也は、汐ちゃんと同じ歳の時もう渚と同棲していたのよ?」
「そりゃそうですけど、おとーさんとお母さんはおとーさんとお母さん、わたしはわたしです!」
「ま、大学卒業して就職が決まったら、考えておいてね」
「だーかーらー!」
なんだかんだ言って、汐ちゃんも受験という肩の荷が降りたのだろう。いつになく、ノリがいい。
そんなあたしたちを横目でこっそりと見ていた陽平は、満足したように、自分のジョッキを傾け――直前に朋也が入れ替えていた焼酎8、ホッピー2のあまりにも高いアルコールに、思わずむせたのだった。
ま、しらばっくれるから教えてあげなかったんだけど、ねっ。
Fin.
あとがきはこちら
「岡崎っ! たまには格好良く終わらせてくれませんかねぇ!」
「いや、カッコイイまんまだったらお前じゃないじゃん」
「なんじゃそりゃあああああっ!!」
あとがき
○十七歳外伝、雪の中の杏編でした。
前々からやってみたかったテーマだったんですが、出し所が難しくてずっとお蔵入りしていたものを、この機会だからと言うことで引っ張りだしてきました。といっても、見直していたらほぼ八割書き直しとなったんですが……。
さて次回は――朋也と、誰かさんです。