超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「あれ、クリスマスの話じゃないの?」
「今回忙しくてそれどころじゃなかったそうだ。だからここでネタすらやっていないだろ」
「なにそのすごい説得力」




























































































  

  


 雪が降っていた。
 真っ白い雪が、朝の通学路を埋めようとしていた。
 冬、そのまっただ中。
 ひとつ息をついて、わたしはマフラーを口許まで引き上げる。
 当たり前のことだけど、今日はいつもよりも寒かった。



『冬になると、いつも』



 雪を踏みしめる感覚の原初を辿ると、そこにはおとーさんの大きな手のひらがある。
 それは、こうして雪の降る中を歩いていながらでも、鮮明に思い出せる昔のこと。
 五歳の時。
 熱のせいで伏せていた、あの頃。
 身体が弱って歩くのも辛いというのに、わたしは外に出たいとせがみ、おとーさんが快く引き受けてくれたあのとき。
 当時のわたしなりにしっかりと掴んだ大きな手のひらはしかし、微かに震えていたことも、はっきりと覚えている。
 後で聞いた話だけれど、そのときおとーさんはわたしの看病でだいぶ消耗していたらしい。幼稚園の時にお世話になった藤林先生の双子の妹であり看護師である椋さんに言わせると、熱はともかく憔悴の方はおとーさんの方が進んでいたそうだ。
 そこら辺の話は、周囲の人の話を聞けば聞くほど、当時のわたし達がいかに限界に追い込まれていたのかがわかって正直ぞっとしない。自分で言うことではないかもしれないけれど、よくもまぁ元通りの生活に戻れたものだと思う。
 ……閑話休題。
 雪を踏みしめる感覚の原初を辿ると、そこにはおとーさんの大きな手のひらがある。
 忘れもしないわたしが五歳の時のこと。
 それらは、未だ鮮明に覚えているわたしの思い出。
 何時になっても色あせない、わたしの記憶だ。
「――あ」
 そこで、わたしは立ち止まる。
「……またか」
 白く染まりつつある目の前の風景に目を細めながら、わたしは手袋越しの手でこめかみを揉みほぐした。
 さっきも言ったとおり、五歳の時がわたしの一番古い雪の記憶であるはずだ。
 ――けれど。
 いつ頃からか、それより昔の記憶が頭をかすめて、ふと立ち尽くすことがあるようになった。
 こんな、雪に日のようなときに。
 ちょうど今、このときのように。
 そのイメージはやはり、同じように雪を踏みしめる感覚。けれども、この町と全く違う風景。
 例えるとするなら、何処なのだろうか。広大なススキ野原? あるいは丘陵にぽつぽつと白い岩石が点在するカルスト台地? あるいは死火山の火口……?
 でも、そんなところに、幼少期のわたしは行ったこともない。
 それに。
 それに、五歳の時より小さかったわたしが、『誰かの手を引いて歩く』ことなどあるはずもないのだ。
 誰と手を繋いでいたのかは思い出せない。
 繋いだ手の感触も定かではない。
 ただ、その手を握っているとすごくほっとしていることだけはおぼろげに覚えている。

 雪が降っているというのに、無理矢理いつも通りに走る車の甲高いエンジン音でわたしの思考は中断された。
 道の脇に寄って、蹴散らされた雪を避ける。

 何というか、こうやって整理してみるとものすごく曖昧な記憶である。
 わたしの中で作られた思い出なのだろうか。
 あるいは、誰かの思い出か何かの話を記憶としてすり替えてしまったのであろうか。
 ……後者であれば、ひとつだけ心当たりがある。それは、お母さんの劇だ。
 お母さんがたったひとりで演じて、後にわたしが見つけて演じることになったあの台本。その中身と妙に一致しているのだ。
 ただ、どうしてそれをずっと昔の記憶として認識しているのかが、よくわからなかったし、そもそもわたしが演じたときのものとも、たまたま見つかったビデオの中にあったお母さんの劇とも服装や舞台の様子が違う。
 そして、なによりも決定的な違和感は、その風景のイメージを、懐かしいと思ってしまうことだ。
 まるで、遠い昔を思い起こすように。

 そんなことを考えているうちに、いつもの坂の下に着く。
 校門まで200メートルの、長い長い坂道。
 今はそこも、白く染まりつつある。

 あの劇の終わりは、哀しい結末を迎える。
 世界でたったひとり残された少女は唯一の相棒ともいえる存在を得て一緒に居るようになるのだが、結局は去っていってしまい、それを見送ってまたひとりになってしまうのだ。
 だが、その少女はひとりでも満足そうに微笑みを浮かべる。何故なら、それまでずっとひとりであったから。ひとりではなく、ふたりで居られたという思い出を得たから。それを胸に、少女はひとりでまた生きていくのだ。
 劇は此処で終わる。
 そして、わたしの頭をよぎる朧気な記憶にはその後がある。
 やはり、悲しかったのだ。
 手を繋いでいた誰かを失って、わたしは悲しかったのだ。
 微笑んでいた口許は徐々に歪んでいって、わたしはとめどめも無く泣いてしまう。
 しかし、そこで誰かが後からわたしの肩を叩くのだ。

 ……なにか、ものすっごく重要なことをわたしは忘れてはいないだろうか。

 降り積もる雪はまだ浅く、あたりの景色はやんわりと白く染まろうとしている。
 そんな雪の道を、わたしは黙々と歩いていく。校門まで、残り数メートルもない。

 誰かに肩を叩かれて、わたしは振り返り――、
 ものすごく、驚くのだ。
 黒いコート。
 その下の学制服。
 そして今のわたしのようにまかれたマフラー。
 ……何を見てそう思ったのか、全く思い出せないけど。なんというかそれは……この学校の生徒によく似ている。
 つまりわたしは五歳より前にこのあたりに来ていた? いや、それならその前の何ともいえない風景はどうなるのだろう。わたしと一緒に居たのは誰であったのだろう。どうして居なくなったのだろう。

 そこで、肩を叩かれた。
「うおあうあ!?」
「わっ、び、びっくりしたー! どうしたのよ岡崎、そんな声上げちゃってさ」
 1メートルは飛びすさっていたと思う。そして、そんなオーバーアクションをかましてしまったため、肩を叩いた相手――わたしのクラスメイトは、当然のことながら驚いていた。
「あ、いやちょっと考え事をしていてね」
「そうなんだ。それにしちゃえらい派手に驚いていたけど……受験のこと? それだったら委員長に相談したら? あとはそちらの副部長さんとか」
「そうね……生憎それとは違うプライベートなんだけどさ」
「ふぅん――まぁ、誰かに話しちゃいなよ。楽になるよ?」
「そうだね。……うん、今度おとーさんにでも話してみるわ」
「おとーさんって……ほんと、岡崎って親と仲良いわねー」
 そんなことを話しながら、ふたりで校門をくぐる。

 遠い昔。おとーさんと手を繋いで歩いた雪の道。
 それとは別の、誰かと手を繋いで歩いた雪原。

 あそこはいったい、何処であったのだろう。
 手を繋いでいたのは、誰であったのだろう。
 そして、肩を叩いたのは誰であったのだろう。

 思い出せということなのだろうか。
 思い出すなということなのだろうか。

 どちらだとしても、わたしには今がある。

 わたしは雪の道を踏みしめる。
 行き着く先は何処であろうとも、今を生きているのだから、ただその道を進んでいこう。
 そう思うのだ。



Fin.




あとがきはこちら








































「いまになって話が動くってどうなのよ」
「いやー、俺に言われてもなー」











































あとがき



 ○十七歳外伝、雪原の記憶編でした。
 今後はしばらく、シリアスが続くと思います。……その息抜きに極めつけに軽いものが来るかもしれませんが。




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