超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「綺羅星!」
「いきなりお前は何を言っているんだ、杏」
「いやねぇ、綺羅星十字弾って素敵な悪の組織(?)に誘われちゃったのよ。ちなみに今のは組織での挨拶ね」
「……ミスター・ブシドーでワンマンズアーミーだった俺が言うのもなんだが、そんな組織お前しか入らないからな」
「残念だが岡崎、私も組織の一員だ……」
「と、智代!?」
「綺羅星!」
「綺羅星!」
「え、なに? 俺も入らないと駄目!?」



「……師匠と藤林先生が出ているアニメ、昔わたしが世界を革命する力を云々していたのと似ているんだよね」
「朋也くんのも藤林さん達のにもしおちゃんのにも出たことがないからちょっと寂しいです……」




























































































  

  


「降ってきやがったか……」
 雪見障子から外の様子を眺めていた彼、古河秋生はひとりそう呟いた。
 深夜、古河家の居間。ひとりで酒を飲んでいたときのことである。
 雪は、ちらちらと降り続けている。ここのところ冷え込みが激しく、加えて今夜は曇天であったのでそうではないかと思っていたのだが、まさに案の定といったところであった。
「おーお、今夜は冷えらぁな……」
 部屋のわずかな明かりを反射して、雪が静かに舞い散る様を眺めながら、秋生はあまり嬉しくなさそうにそう呟く。
 そもそも、秋生にとって雪には苦手意識があるのだ。何故ならば、娘の渚が体調を崩しがちになったのも、そして――いや、そもそもは……。
「――へっ」
 馬鹿なことを考えたもんだと、秋生は胸中で自嘲した。
 そんなことは、ない。
 何もかもが自分のせいと言うことはない。誰が悪いと言うことではないのだ。
 ふと、彼の背後で小さな足音が響いた。
「あっきー、まだ起きていたの?」
 彼の孫の、汐である。
 普段は彼女の父親である朋也と一緒に住んでいるのであるが、今日はその朋也が遠隔地へ現場研修のため家を空けることとなり、そのためにこうやって泊まりに来ているのであった。
「あぁ、たまにはな。――飲むか?」
 杯を手に取り、孫の方へと手向けて、秋生。
「やめとく。早苗さんに知られたら怒られちゃうもん」
「……そうだな」
 素直に頷いて静かに杯を置き、秋生。
「どうしたの、あっきー。なんか元気ないよ?」
 もとより、汐にあげるつもりはなかったのだが、それがいつもと違うせいで弱気と映ったのであろう。それを心配してか汐がそう訊く。
「俺だって、センチメンタルになるときもあるんだよ」
 事実、そうであったのだ。



『雪の日の、帰宅』



「どうした、また寝付けないのか?」
 以前、母親の部屋に泊まったとき、汐は寝付けなかったことがあった。今日もそうであったから秋生はそう訊いたのだが――。
「ううん、そんなこと無いよ。ただ急に周囲の音が消えたような気がしたから」
 そう言って、髪をかきあげる汐。
「――鋭いじゃねぇか」
「どういうこと?」
「外観てみな」
 親指で、くいっと外を指す。すると汐は丁寧にパジャマの裾を整えながら膝を付き――、
「わ」
 雪見障子からの光景に、そんな声を上げたのであった。
「明日は早めに学校出ないと、どうなるか知らねぇぞ」
「そうだね。あの坂が凍っていたら急ぐに急げないし」
 校門の前には200メートルほどの長い坂がある。確かにそこが凍り付くと結構難儀するはずであった。
「んだったら、早めに寝ないとな」
 羽織っていた半纏の袖の中に両手を突っ込んで、秋生。
「そうだね……うん、降っている雪を観ていこうかなと思ったけど、そうする」
「雪のせいで冷え込みが強いから暖かくして寝ろよ?」
「うん。あっきーも気をつけてね。ここで寝ちゃ駄目だよ」
「おう、前向きに善処するぜ」
「善処って……まぁ良いけど、風邪引かないでね」
「おう。お休み、汐」
「うん。お休み、あっきー」
 最後に小さく手を振って、汐は部屋へと戻っていった。
「……ん?」
 そこで、秋生は小さな違和感を覚えた。
 今し方の、汐の背丈が――。
 渚よりも、高かったのである。
「もう子供扱い出来ねぇな……」
 そんな呟きは、外から押し寄せてくる静寂に押しつぶされ、掻き消えたのであった。



□ □ □



 雪は、止みそうになかった。
 暖房は大分前に止めていたため、部屋の中はかなり冷えてきたが、それでも秋生は外を眺め続けていた。
 もうすっかり冷えてしまった酒を徳利から杯へと注ぎ、一口飲む。
 一度燗した酒であったが、外気で程良く冷えていて、美味かった。
「雪見酒ってのは、何年ぶりかね」
 思わず、そう呟いてしまう。
 酒が美味いと思い始めた頃は、冬が来る度にしていたような気がする。それがぱたりと止んだのは、やはり――、
 そこで、ふと小さな足音が背後で響いた。
「渚か?」
 なんとなく、そんな気がしたのだ。
「遅くなって、ご免なさいです」
 果たして、その声とその姿は間違いなく、あの時あのままの彼女であった。
「……その前に言うことがあるだろ、娘よ」
 悟られぬよう、密かに背筋を伸ばして秋生はそう言う。
 そう言われて、彼女は困ったような貌になると、
「……あ」
 かつて、家に帰ってきたら真っ先に言うように教えた言葉を思い出したのであろう、
「ただいま、です」
 笑顔を浮かべて、そう言った。
「おう、お帰り」
 片手を挙げて、秋生
「ずいぶんと長かったじゃねぇか。もう十九年に近いぞ?」
「……色々、ありましたから」
 秋生の向かいに座って、彼女はそう言う。
「そうだな。色々あった」
 杯に手が伸びて――手にしたものの、中の酒を飲み干す気にならなくなり――元の位置に戻しながら、秋生。
「冷めちまったが、飲むか?」
「いえ、あのときの一杯で十分です」
「そういや、そうだったな」
 成人を迎えた日、彼女が一杯だけ飲んだことがあった。
 そしてすぐに酔っぱらってしまったのだ。
 あのときは楽しかった。本当に。
「俺だけじゃ勿体無ぇ。ちゃんと早苗や汐にも逢ってこい」
「いえ、お母さんやしおちゃんに逢うのはちょっと――」
「なんだ、面倒くさいことでもあるのか」
「端的に言うと、そう言うことです」
 真顔になって、彼女はそう言う。
「……色々大変じゃねぇか」
「亡くなるというのは、そう言うことだと思います」
「なるほど、な。そういうもんか……」
 思わず、外を観る。雪見障子から見える雪は、緩やかに舞い落ちていた。
「月日が経つのは早いもんだな、娘よ。お前の子で俺の孫の汐がもう十八だ。お前が小さかった頃は考えもしなった老後が今、ここにある」
 彼女は返事をしなかった。その代わりに、秋生と同じように外の雪を眺める。
「でもよ、不思議と老いぼれた気は全く無いんだが……な」
 そこまで笑っていた秋生は、不意に押し黙って、
「なぁ。雪は、嫌いか?」
「……え?」
 予想外の質問であったのだろう。彼女が困惑した声を上げる。
「お前は雪は嫌いか? 渚」
 依然外を見つめたまま、秋生。
「いえ、そんなことはないです」
「そうか……」
 頬杖を突く秋生に対し、彼女は胸元に両手を当てると、
「雪は綺麗ですし――全てを包んでくれます。嬉しいことも、哀しいことも、全部……」
 静かに、そう言った。
「そうかもな……」
 今度は杯に自然と手が伸びた。すっかり冷えきった酒を、一口飲む。
「雪に八つ当たりするのは、やめとくか」
「そうしてくれると、嬉しいです」
 降りしきる雪を眺めながら、彼女はそう言う。
「なにかのせいにするのは、きっと心に悪いですから」
「そうだな。その通りだ」
 改めて、そう思う。
「なぁ、渚」
「はい」
「俺のお迎えの時は、頼む」
「心配しないで下さい。誰の時でも、わたしは迎えに行きます」
 そう彼女――渚は言う。
「だから、そんな哀しいことを言わないで下さい。お父さん」
 お父さん。
 その言葉を聞いて久々に鼻の奥が痛くなった。
 涙腺が緩んで来たな。そう思う。



□ □ □



 翌朝。
「――やっぱ夢か」
 ぼんやりとした視界が徐々に晴れていく中、秋生はそうひとりごちた。
 向かいに誰かが座っていた跡など、全く残っていなかった。それはまぁそうだろう。そう思う。
「んん……?」
 外が妙に眩しい。どうも、積もった雪が陽光を照り返しているのようであった。
「おはよ、あっきー」
 そこで、既に制服姿に着替えていた汐が居間に入ってくる。
「おう、おはよう」
「なに、やっぱりそのまま寝ちゃったの? 風邪引いちゃうよ?」
 呆れた貌でため息を付かれたので、秋生はわざとおどけて、
「引かねえよ。イケメンは風邪引かないって言うだろうが?」
 久々に芝居が買った口調で、そう言ってみる。
「言わない言わない」
 呆れたように手を横に振って、汐。
「それよりも、雪、積もったね」
「早速雪合戦でもやるか?」
「んー、そうしたいのは山々なんだけど、朝練あるから」
「そういや、そうだったな」
「おはようございます」
 そこで、汐に次いで着替え終わっていた妻の早苗が、台所から入って来た。
「おう、おはよう」
「すぐに朝ご飯にしますね。お酒の酔いは残っていますか? 残っているなら軽めにしますけど」
「んにゃ、すっかり醒めちまっているから普段通りでいい」
「わかりました」
「あ、早苗さん。わたしも手伝おうか?」
 汐がそう言うと、早苗は笑顔のまま、
「大丈夫ですよ。今日は登校するのにも体力を使うでしょうから、気力ともども温存しておいて下さい」
 やんわりと、汐の申し出を断ったのであった。
「はーい」
 その早苗の真意がわかっているのだろう。大人しく、汐が秋生の向かい側に座る。丁度、昨晩彼女が座った位置に。
「んー……なんか、思っているより積もっているみたい」
「そうだな……なぁ、汐」
「ん、なに?」
「お前は雪、好きか?」
「んー、好きだよ?」
「たとえば、どこら辺がだ?」
「そうだなぁ……雪化粧ってあるでしょ? ああ言う感じで何もかもを真っ白にしてくれるところかな。大きなものでも、小さなものでも、……嬉しいことでも、哀しいことでも全部」
「なるほど、な」
 思わず、笑ってしまう秋生。
「どうしたんですか? 嬉しそうですよ、秋生さん」
 朝食をお乗せた盆を運んできた早苗が、そう訊く。
「いやなに、ちょっとな」
 ――時々、こういうことがある。
 汐と渚には直接的な接点はほとんど無いのに、似たもの母娘になっていることが、ままあるのだ。
 そのことが、秋生には嬉しかったのである。
「うーし、着替えたらちょっくら外の様子見てくるか。場合によっては雪かき……ん?」
 身を起こしたときに、背中から何かがずり落ちた。昨夜は掛けていなかった毛布である。
「毛布掛けてくれたの、お前か?」
 今の今まで気付かなかったそれを手に取って、汐にそう訊く秋生。
「ううん、違うよ?」
 あの後真っ直ぐ寝たもん。と手を横に振って汐。
「じゃあ早苗か?」
「いえ、私が起きたときにはもう羽織っていましたよ」
 着けていたエプロンを脱ぎながら、早苗がそう答える。
「……んじゃこりゃ一体なんなんだ?」
 誰が毛布を掛けたのだろう。
「あー、ぼけたかな」
「あっきー、それ洒落にならない……」
 頬を人差し指で掻きながら、汐がそんなことを言う。
「なに言いやがる、俺はまだそんな歳じゃねぇっ」
「はいはい、ふたりともそれくらいにしましょう。朝御飯にしますよ?」
 早苗ではない、汐でもない。もちろん、自分でもない。
 だとすれば、それは――どんなにあり得ないことでも、残った選択肢がそうであるのなら。
「まぁ、捉え方次第ってやつかね」
 外の銀世界に目をやりながら、秋生はひとりそう呟く。
 今日は、良い天気になりそうであった。



 Fin.




あとがきはこちら








































「あー、やっぱり貰わなくてよかった。いつもみたいにしていたら――」
「いつもみたいって、何でスか? しオチゃン」
「な、ななな何でもございませんお母様っ!」











































あとがき



 ○十七歳外伝、秋生編でした。
 月の始めにお世話になった親族を喪ってからずっと考えていたことを少し話に盛り込んでみました。本文中にあるようなことが、どこかで一度でもあればよいなと思います。
 さて、次も多分……シリアスです。



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