秋。
 晴天。
 割れんばかりの歓声と、派手目なBGM。

 体育祭である。

 全校生徒の9割9分が、己がチーム、己がクラス、そして己が友人達を一生懸命応援していた。
「頑張れっ、七瀬さんっ!」
 彼女の目の前にいる友人の長森瑞佳が、良い例である。これまた彼女の友人であり、瑞佳にとっては親友ともいえる七瀬留美が出場している1000メートル走をそのスタートから熱心に見つめており、応援席近くを走り抜ける度に元気な声援を送っている。
 ちなみに留美が他の選手を追い抜く度に小さく飛び跳ねて喜んでいるのだが、あまりにも熱心に応援しているため、その際に揺れる豊かな胸に数人の男子の視線が釘付けになってしまっていることにも気付いていない。
 そうこうしているうちに、留美が見事ゴールテープをカットした。
「とったどおおおおおっ!」
 女子達の黄色い歓声が上がる中、目指す乙女とは対極に近い雄叫びをあげて、留美がガッツポーズを取る。
 それを見届けてから、彼女――里村茜は応援席を立ったのだった。



『里村茜の休憩』



 茜の向かった先は、中庭である。
 普段から人気の無い場所であったが、今回は完全に無人の野と化していた。
 適当に、芝生の上に座る。普段はスカートなので気付かなかったが、今はブルマをはいているため、芝生の先がさらさらと脚に触れて、なかなかに心地が良い。
 別の競技が始まったグラウンドを見やる。
 ちょうど校舎が仕切となって、スクリーンで切り取ったような風景になっているのが、新鮮と言えば新鮮であった。
 そこでひとつ、ため息をつく。
 どうにも、あの熱狂的な空気には馴染みきれないところがある。そういえば、彼も――、
「こんなところでどうした? 茜」
 その彼の声が真後ろから聞こえて、茜の肩が一瞬だけぴくりと動いた。だがその後は微塵も動揺の素振りを見せず、静かに振り返る。
 そこには、当然のように折原浩平が立っていた。
「浩平こそ、どうしたんですか」
「いや、お前がここに向かって歩いているのが目に入ってな」
「それだけですか?」
「ふむ、本音を言うと茜のブルマ姿をもっと見たくてな」
「……ジャージ、はいてきます」
「それをはくなんてとんでもない!」
 割と本気で叫ぶ浩平である。
「お前のお下げまでもがとろとろにとろけたあの八月からまだ二月と経っていないんだぞ? ジャージなんぞはいたら折角のふと――御身足が蒸れに蒸れまくるだろうっ」
「――直射日光に当たった方が暑いです」
「ならばオレが日傘になろう! 今日一日中は、パラソル折原君と呼ぶがいい!」
 茜は小さくため息をつく。元々、ジャージをはくつもりはなかったが妥協したことにしようという考えに至ったためであった。
「わかりました、パラソル折原君」
「ああ悪い、実際に言われるとちょっときついからいつも通りに頼むわ」
「自分勝手ですよ、浩平」
「だってオレはオレだからな」
 無駄に説得力のある言葉である。
「さて、話を本題に戻そうか。こんなところでどうしたんだ? 茜」
「自主的休憩です」
 あっさりと答える茜。
「……お前って時々、そう言うところあるよな」
「気付きませんでしたか?」
 片目を瞑って、茜はそう言う。
「……いや、気付いてたけどな」
 その寡黙さから、どちらかというと優等生扱いされている茜である。だが、実際の成績を見てみると実は中の中、調子が悪いと中の下といったところなのであった。
 そして、今のように自主的に休憩に入るのもまた、彼女の偽らざる一面なのである。
「んじゃ、オレも休憩っと」
 茜の隣に、どっかりと浩平が座る。
「おー。なんか、ここからグラウンドを見ているとビデオか映画を見ているみたいだな」
 同じことを考えていた。その事実に内心吹き出しそうになりながら、茜は小さく頷く。
 そのまましばらく、ふたりでグラウンドを眺めるふたりであった。
「……今更だけどさ」
 しばらく経ってから、ぽつりと浩平がそう言う。
「オレ達って、似ているのかもな」
「……否定はしません」
 どちらかと言えばひとりで居ることを望むこと。核心を突かれた質問には、ついはぐらかしてしまうこと。枚挙をあげれば暇がない。
「だとすると、オレ達は出会うべくして出会ったのかもな」
「それも、否定しません」
 と、茜。
「しっかしみんな、こんなに暑いのに元気だなぁ……」
「照れ隠し、見え見えですよ」
「良いだろ。あまりの暑さについ口が滑って恥ずかしいんだよ。オレ達が似ているのを否定しないのなら、わかるだろ」
「わかります。ですから――」
 ゆっくりと茜は立ち上がって、浩平の方へと振り向く。
「私と浩平が似ているのなら、私がこれから何をしようと考えているのか、わかるんじゃないですか?」
「……ふむ?」
 グラウンドから、歓声が上がった。おそらく、今やっている競技の決着が付いたのだろう。
「――そうだな。クラス対抗綱引きには出ないといけないなと思っているだろ?」
 と、ニヤリとした笑顔で浩平。
 正解である。
 正解であるから、そうであると言う必要はない。
「行きましょう、浩平」
 そう言って、茜は手を指し伸ばす。すると浩平は、その手をしっかりと握って、立ち上がったのであった。



Fin.







あとがき



 お久しぶりのONEな、最萌トーナメント支援再び編でした。
 そう言えば、ONEではまだ運動会の話を書いていないなと思い、次いでもう少ししたらそれの季節だよなと思ってこの話が生まれました。最近とてつもなく忙しいため、またもや即興気味であります;
 さて次回は……なんというか、未定です。


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