超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「ぷち演劇シリーズ、今日は……ちょっとネタ切れ気味だから、おとーさん達男性陣のリクエストで――」
「ストライクウィッチーズ!」
「ストライクウィッチーズ!!」
「ストライクウィッチーズ!!!」
「……ストライクウィッチーズ!」
「うん。おとーさんも春原のおじさまもあっきーも芳野さんも、ちょっとそこに座ろうか……」
「っていうかあたしらの年齢考えなさいよ、割とマジで」
「そうだぞ。あの黄色い衣装がぎりぎりのところだというのに」
「それに私だとスタイル的に大変なことになっちゃうの……」
「ちぇっ」
「ちぇっ!」
「ちぇっ!!」
「……無念っ」
「――仕方ないですねぇ」
「ぶ、ブラボーだぜ早苗えええええ!」
「ブラボー!」
「……ブラボー!」
「ブシドー!」
「ちょ! 早苗さん! 着なくて良いですから! 着なくて良いですからっ! あとおとーさん、それなんか変っ!」




























































































  

  


「ただいまー」
 夏の熱気がなかなか消えない、ある夕暮れのこと。
「おかえりなさい、パパ」
 仕事場から商店街を経由して俺達の住む家に戻ってきた俺を出迎えたのは、ノースリーブの白いワンピースが良く似合う、今年で六歳の我が娘であった。
「おう。今日も暑かったけど、大人しくしていたか?」
「うん」
 夏休みととはいえ、ずっと家にいたわけではない。少なくとも午前中は古河家にいたはずの汐は、いつものと違う細長い買い物袋に気付くと、
「それ、どうしたの?」
 首を傾げて、そう訊く。
「ああ、今日は丑の日だからな」
「うしおのひ?」
「うん、それだったらもっと良かったんだがなぁ」
 いつか作ってみたい日だ。ついでに言うと祝日にして欲しい。出来れば世界規模でな! うわはははははは……。
「パパ?」
 ――おっと。
「今日は、土用の丑の日なんだ」
「パパ。きょう、げつようび――」
「そっちの土曜じゃないんだ。昔の季節の呼び方なんだよ」
 それ以上詳しくは、俺にも言えない。だからそれ以上の追求を内心恐れていた俺であったが……、
「そうなんだ」
 汐はあっさりと納得してくれた。
「ああ、それではこういう日には、鰻を食べるんだ」
 そういって、先ほどの細長い買い物袋を掲げて、俺。実はちょっと奮発してそれなりに高い鰻を買ってきている。これで鰻丼を作ったら――うん、想像しただけで涎が出そうだった。
 だが――、
「……そうなんだ」
 その瞬間、汐の貌が曇ったのを俺は見逃さなかった。



『岡崎家の、丑の日』



『鰻をさっぱり食べる方法?』
 電話口で、学生時代からのつきあいであり、かつて汐が通っていた幼稚園の担任であった杏は怪訝な声でそう言った。
『なによ、そんなに飽きるまで鰻を食べちゃったの?』
「んなわけないだろ」
『じゃあ、何でまた』
 不思議そうにそう訊いてくる杏に、俺は側にいる汐に聞こえないよう声を潜めて、
「いや、汐がちょっと苦手みたいでな」
『ああ――』
 と、納得したかのように杏。
『子供のうちはどうしててもねぇ……。やっぱり小骨が駄目なの?』
「いや、そっちは平気だ。鰯も鰺も秋刀魚もばりばり行けるぞ」
 早苗さんの食育の賜物であろうか。そこら辺は全く問題のない汐であった。
『それじゃ何が駄目なのよ?』
「脂っこさみたいなんだ」
『……あー、なるほどねぇ』
 ちょっと珍しいけど、無い訳じゃない話ね、と杏は続ける。
『時々忘れちゃうのよね。大人と子供の味覚って結構違うことに』
「そうだな。俺達だって子供だった頃があるはずなのにな」
『ま、昔の味の好みを覚えている方が珍しいと思うけどね』
「そうかもしれないけどな。とにかく、知恵を貸して欲しいんだ」
『そうねぇ……それじゃ、うざくなんてどう?』
「イザーク? どっちかというとグラハムの方が上司に良いと思うんだが」
『イザークじゃなくてう・ざ・く! 蒲焼きの鰻を細かく切って、斜め切りにしたキュウリと一緒に土佐酢と和えるのっ』
「土佐酢……? 生憎うちには坂本竜馬を漬け込んだ酢なんてないんだが」
『何が悲しゅうて坂本竜馬をお酢に漬けなきゃいけないのよっ! 今の季節だと素麺作るでしょ! ってことはめんつゆ常備しているでしょ!?』
「そりゃまああるにはあるが。それがどうしたんだ?」
『土佐酢ってのは鰹出汁とお酢をあわせたものなの。本格的に作ると大変だけど即席で良ければ今言っためんつゆとお酢、それにお砂糖を少し加えれば完成よ。配分は自分で味見しつつやってみなさい』
「ああ、わかった。んで、その土佐酢でキュウリと鰻を和えればいいんだな」
『そうよ。ちょっと手の込んだおつまみとしてもいいし、もう一品として小鉢に……小鉢に……』
 言っていて気付いたのだろう。杏の声が徐々にしぼんでいく。
「杏、確かにそれ良さ気だけどさ、メインのおかずとしてはちょっと……」
『うん、ちょっと弱いわよね……』
 お互い、黙り込んでしまう。
「それじゃしょうがないな。それじゃ杏――」
『……え? そう? ちょっと待って朋也、椋に良いアイデアがあるって』
「え? ああ――」
『あの、お久しぶりです。岡崎さん』
「ああ、久しぶり」
 その声は間違いない。杏の双子の妹で俺のクラスの委員長だった、藤林椋だった。
『鰻の白焼きはいかがでしょう? 山葵醤油でいただけば結構さっぱりと――』
「うん、確かに美味そうだが、汐はまだ山葵が駄目なんだ」
 っていうかそもそも蒲焼きがすでにあるじゃないっ! と、杏の突っ込みが受話器越しに響く。どうも、オンフックか何かを使って姉妹で一緒に聞いているらしかった。
『ご、ごめんなさいお役に立てなくて――』
「いや、いいよ。ちょっと悪いが杏に代わってくれるか?」
『あ、はい……お姉ちゃん、岡崎さんが――』
『もしもし、ごめんね役に立てなくて』
「いやいいよ。俺はちょっと他の連中にも聞いてみるわ」
『うん、そうしてみて。結果だけ教えてね』
「ああ。それじゃ――」
 そう言って受話器を置く俺。
 さて、他の連中と言ったがあてはひとりしかいない。俺は再び受話器を取ると、押し慣れた電話番号をプッシュする。
『あいよ。古河パンだコパンダ』
「わかりにくいネタを誰だかわからない相手に投げつけるなよ、オッサン」
『んだよ、こんな時間に電話っつうたら、てめーくらいじゃねーか、小僧』
 一理あるオッサンの一言だった。
「って漫才している場合じゃなかったんだ。オッサン、早苗さんいるか?」
『早苗か? 生憎近所の奥さん達とママさんバレーに出かけているが……見たいのか? 早苗のブルマ。俺は見たいぞてめー』
「あのなオッサン……」
 見たいとも見たくないとも言えない、ある意味凶悪な質問だった。
「それじゃあ、ちょっと訊きたいことがあるんだが」
『あ、何にだ』
「いや、料理のことなんだが」
『料理か……パン以外だとあんま自信ねえんだが、――なにかあったか』
 鋭い。そう思いながら俺は事情を簡単に説明する。
『ふぅん、なるほどな。それなら手があるかもしれねぇぜ』
「本当か?」
『ああ。汐が家にいた頃なんだけどよ、前の晩に残った天ぷらをな――』
 ……え?
 それで、いいのか?



■ ■ ■



『上手く行ったの?』
「ああ……」
 夕食後、結果を教えて欲しいと言っていた杏の言葉を思い出し、俺は再び電話をかけていた。
『それで、いったいどんなレシピを使ったの?』
「ああ――えっとな、お茶漬け」
『……はい?』
「だから、鰻のお茶漬け。ひつまぶしのラストバッターをトップに持ってきたんだ」
 大きめの茶碗にご飯を少な目に盛り、そこに刻んだ鰻を乗せる。その上に細かく刻んだ海苔を多めに散らして、まだ駄目な山葵の代わりに生姜をほんの少し。そして最後に熱い焙じ茶を上からたっぷりとかけて、鰻茶漬けの完成だった。
 オッサンの時は、所謂天茶(天ぷら茶漬け)だったらしい。それを隣で見ていた汐も同じものを欲しがって――喜んで食べたということだったのだ。
 その汐はというと、幸せそうに湯呑みで余った焙じ茶を飲んでいる。
『それはまた……』
 電話口で、絶句する杏。
「ああ、言いたいことはわかる」
 なんというか、その。
 小学生にして、実に渋い我が娘であった。



Fin.




あとがきはこちら








































「……さて、上の方でぽろっと言っていましたし、実際にやってもらいましょーか」
「な、なんだと……!?」
「そうよねー。今が旬なんだから、やらなきゃ損よね」
「い、いや、しかし……」
「ぎりぎり、やれるんですよね?」
「そ、そうは言ったが」
「やれるんですよね?」
「……」
「師匠」
「――そうだな。確かに一度吐き出した言葉を飲み込むわけには行かないな。……見ていてくれ、私の変身!『プリキュア! オープンマイハート!』」
「いよっ! 流石師匠!」
「いいぞこの千両役者!」
「『――日の光浴びる一輪の花! キュアサンシャイン!』」
「……おおー」
「やっぱり本物はひと味違うわねぇ、かーなーり可愛いし。ってどうしたのよ智代」
「さ、さ、流石に恥ずかしい――っ!」
「(あ。こういうときの師匠って、結構可愛いかも……)」











































あとがき



 ○十七歳外伝、丑の日編でした。
 元はと言うと携帯電話にとって置いたメモ、
#ここから
丑の日。
丑おの日。
○の日。
うしししし。
#ここまで
 だったりします。なんというか、色々とあれですね、はい。
 それはそうとして、実は私も、子供の頃は劇中の○の様に鰻が苦手でした。
 今となっては土用の丑の日となると懐に無理を言わせてでも食べてしまうんですけど、美味しく感じられるようになった時期の記憶がどこかあやふやだったりします^^。
 さて、次回は成長記録編で。



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