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このお話は、AngelBeats!10話まで視聴されていること前提で書いてあります。
(それを忘れて読むと滅茶苦茶後悔します。多分)

それでも読む方は方はここをクリックするか、
ガンガンスクロールさせてください。






































「ユイのゲリララジオ、略してゲリララ! 今日のゲストは――」
「って、待てよ! お前、確かにじょうぶ――」
「そぉい!」
「そげぶっ!」
「どうした音無――ってお前――」
「どっせい!」
「ゆずるっ!」(どさくさに紛れている)
「どうしたのよ、あなたたち。今日からあたしでゆりのゆりゆりラジオやるんでしょ――って」
「ちょいさー!」
「ぶるよろっ!」(あたしが大活躍のブルーレイ1巻をよろしくっ! の略)



「っていうかゆずるってなんだー! そこは好きな女の名前を言えーっ!」
「(言えるかよっ!)」




























































































  

  


 夕闇が迫るグラウンドの片隅で、日向はひとり立ち尽くしていた。
 少し離れたところでは彼の友人である音無がばらばらに飛んでいた野球の球を回収しており、彼の足下には野球に使うヘルメットが静かに佇んでいた。日向は、そのヘルメットを静かに見つめている。
 もし今拾えば、残っているはずであった。
 ついさっきまで、それを被っていた少女の温もりが残っているはずであったのだ。
 だが、日向はそれを拾い上げず、ただただ見つめている。
 その目は、ヘルメットを通り越して消えゆく温もりそのものを見ているようであった。



『ひなたに響く歌』



 あれは、何時頃のことであったろうか。
 岩沢が欠けて、陽動部隊であるガールズバンド『ガルデモ』が動けなくなってすぐ、SSSのリーダーであるゆりは要員の補充を命じていた。推薦、及び立候補ということでかなり広い範囲で情報が収集され、候補が何人もあがったはずである。
 だが、結局対天使用作戦本部に楽器を抱えて殴り込んできたのはたったひとりだけであった。
 当時、ガルデモの追っかけであったユイである。
 彼女は、その持ち前の明るさにありったけの元気を乗せて、思い切り歌ってみせたのであった。
 技巧もへったくれもない、ただただがむしゃらに突き進んでいくような、歌。当然、岩沢のそれとは何もかもが違っている。
 だが、結果として彼女はガルデモのボーカルという大役の座を射止めたのである。ゆりから告げられ、次いで残っていたメンバー――ひさ子、入江、関根――と挨拶を交わしたとき、彼女は文字通り喜びを爆発させていた。憧れの場所に辿り着けたのだ、当然のことだろうと日向は思う。
 だから、それから数日後。練習を覗く前に一服しようとした日向は、自動販売機と自動販売機の間に体育座りのユイが挟まっているのを見て心底驚いたのであった。
「……何やってんのお前、こんなとこで」
 内心ではともかく、外見ではちょっと意外そうな感じを醸し出す程度に留めながら日向は問う。するとユイはちらっとこちらを見上げて、
「先輩こそ。こんなところでコーヒー休憩ですか?」
「こんなところって、元々そういうところだろ。一体なんだよ、もう燃え尽き症候群か?」
「なんですかそれ、人体発火の一種ですか?」
「なんでだよ。燃え尽き症候群ってのはあれだ。進学とか就職が決まって、それまでやってきた勉強とか就職活動していたのをやめて、ずっとごろごろしていることだよ」
 正確には、目標を見失って途方に暮れてしまう状況を言う。
 希にあるものなのだ。若いうちには。
「そんなんじゃないです」
 だが、目の前で自動販売機に挟まっている少女はそうでなかったらしい。ユイは小さく鼻を鳴らすと、
「今になってじわじわと来ちゃったんですよ。重さが」
「重さって、何の?」
 ポケットに両手を突っ込んで日向がそう訊くと、
「だ、だってだってだって、受かっちゃったんですよ! 受かっちゃったんですよボーカルに!」
 自動販売機の隙間から飛び出て、ユイはそう力説する。だが日向はそれに同調することなく、ひとりで普通に缶コーヒーを買うと、
「なんだ、んなことか」
 プルタブを開けてコーヒーを喉に流し込んだのであった。
「んなことってなんだあぁ! 滅っ茶苦茶重要な案件だろうがー!」
 どっちが素なのかわからないが、随分と柄の悪い口調になって、ユイがそう叫ぶ。
「……あのな、お前」
 そしてそのまま両腕を肩でぐるぐる回して突っ込んでくるユイのおでこを、伸ばした片腕で押さえながらあしらい日向は言ってやった。
「誰だって、岩沢の代わりにはなれない。ゆりっぺでも、天使でもな。そして仮に岩沢より歌の上手い奴が居たとしても、岩沢の代わりにはならない。わかるか?」
 空いている方の手で一気に飲み終わった空き缶を、見事なコントロールでゴミ箱に投げ捨て、日向。
「わかりませんよそんなの。岩沢さんより歌が上手い人なんて想像できませんけど、仮にいればいけるんじゃないですか?」
 うなり声混じりに、ユイがそう答える。
「だから、それは岩沢より上手い奴の歌ってだけだろ。岩沢本人じゃない。そしてそいつが唄う歌だって、岩沢が作った曲かもしれないけど岩沢の歌ってわけじゃあ、ない」
「そんなの当たり前じゃないですか。岩沢さんが作った歌を岩沢さんが唄って、はじめて岩沢さんの歌になるんだから」
 届かないとわかっているはずのなのに、両腕をぐるぐると回し続けながらユイはそう言う。
「そうだ、そんなの当たり前だろ。なのにお前、岩沢になろうとしてんじゃん」
「――っ!」
 ぐるぐる回っていた腕が、ぴたりと止まった。日向はおでこを押さえていた手を離し、一歩踏み込んで今度は頭を撫でる。
「いいんだよ。お前なりの歌で。岩沢に弟子入りして同じ釜の飯を食ってきたってんならともかく、憧れてずっと後を追っかけていたとはいえ、いきなりぽんと引き継いだんだ。戸惑って当たり前だろ。観客も、ひさ子達も。もちろん、お前もな」
「……そうですけど」
「いいから自分なりに歌ってみろよ。イノシシだってミニ四駆だってあそこまでまっすぐは走れないっていうくらいの、お前の歌をさ」
「なんですかそれ、あたしの歌ってイノシシとか車の玩具なんですか?」
「曲がらないだろ? どこまでも真っ直ぐだろ? それがお前の歌じゃないのか?」
 日向がそう訊いても、ユイはすぐには答えなかった。しかし、幾分の間を置いてからぽつりと、
「なんで、わかるの?」
「――へ?」
 今まで聞いたことがないユイの口調に、日向は思わず聞き返してしまう。だがそんな日向に構わず、ユイは大きく胸を張って、
「なんでもないですっ! いいですか先輩、みててくださいよっ! 岩沢さんもびっくりするくらいの唄、歌ってみせますからっ!」
「……そうか」
「そうですっ!」
「よーし、その意気だ。頑張れ!」
 前へと送り出すように、その背中を強めに叩いてやる。
「痛ー! なにさらすんじゃあ!」
「ぐふっ。お、お前なぁ、そういうときは笑って走り出せよっ」



■ ■ ■



「日向? おい、日向?」
「……ああ、悪ぃ悪ぃ」
 ボールを拾い終えた音無にそう話しかけられ、日向は我に返った。
 傍らにそのままでいたヘルメットを拾い上げる。そこにはもはや、体温はひとかけらも残っていなかった。
「大丈夫か? お前」
「ああ、もちろん大丈夫だ。ここに来てから長いからな。これくらい平気だよ」
 そう言いながら、ふたりで日向の手の中にあるヘルメットを見つめる。
「……なぁ音無。見つけられたんだよな、あいつ」
「え?」
「あいつなりの、歌い方だよ」
「……ああ、それはそうだと思う」
 結果として、岩沢の後を引き継いでボーカルとなったユイを含む新生ガルデモは、かつてのガルデモとはひと味違ったものとなった。
 だがそれでも、ライブ会場となる食堂に集まる生徒の数は減らなかった。
 むしろ、増えていたのである。
 ならば、それは――。
「よし! ならいいかっ」
 ヘルメットを空高く放り投げ、落ちてきたそれを片手でキャッチし、日向はそう言った。
「帰ろうぜ、音無」
「……ああ」
 もはや夕闇でほとんど見えなくなった、ふたり分の影が長く延びていく。
 その影を打ち消すように濃くなっていく夜空には、早くも星が瞬きはじめていた。
 どこまでも響く、眩しい日向の中での歌のように。



Fin.




あとがきはこちら








































「……歌ならあたしも得意よ(こころなしか、どや顔で)。持ち歌? もちろんあるわ。♪せーのっ――」
「ストップ! かなでストップ!」











































あとがき



 AngelBeats!、日向とユイ編でした。本当は今度こそゆりで一本やろうかと思っていたのですが、その前にあの衝撃的なふたりの話を観て、これはもう書かなきゃいけないな、と^^。
 アニメ本編ではちょっと唐突に見えたふたりの関係ですが、実際には今回の話のようなやりとりがあったんじゃないかなと思います。もっとも、あくまで私の想像するだけなんですが……。
 さて次回は――今度こそ、ゆりっぺかな?

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