超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「ぷち演劇シリーズ。今回はちょっと趣向を変えて最終回間近のAngelBeats!、男縛りで」
「男縛りって、すげえ名称だな……。で、俺が日向か」
「見た目良く似ているもんね」
「……そうか?」
「で、俺がギルド長か。まぁ、銃器一般は取り扱えるから妥当っちゃ、妥当だわな」
「どこでそういうこと覚えてくるのあっきー……」
「久々の出番だからって張り切ったら――大山! せめて神とか言ってる副生徒会長にして欲しかった……」
「ええと……12話で大活躍だったらしいですよ? 柊のおじさま……」
「あー汐ちゃん? 僕コンピュータ苦手なんだけどいいの?」
「TK役か悩んだんですけどね。竹山君役でお願いします」

「それであの、芳野さん。その釣り竿は一体」
「……俺に出来る役は、これだけだからな」




























































































  

  


「何、この展開」
 目の前で繰り広げられている光景に瞬きをして、春原陽平はそう呟いた。
 いつものように、休暇を利用して夜行に飛び乗り、学生時代からのつきあいである岡崎朋也と、その愛娘である汐に逢いにきたはずであった。程度の差はあれ、歓迎されるか、からかわれるかのどっちかであったはずなのだ。
 なのに……。
「おとーさんのわからず屋っ!」
「汐の頑固者っ!」
 汐がいつもよりも年相応に頬を膨らませて怒っており、相対する朋也は年甲斐もなくムキになっている。
 こんなことは、初めてであった。
「「むう〜〜〜〜〜っ!」」
 開いている玄関から入ってきた陽平を完全に無視して、岡崎父娘はふくれっ面のまま睨みあっている。後数センチ近づけば、キスしてしまいかねない至近距離であった。
「「むむむむむむむむう〜っ!」」
「待ちたまえ君達!」
 そこで初めて、岡崎父娘が陽平を見る。いや、睨む。
「……えーとね」
 自分で考えうる限りの格好良いポーズを取ったまま、黙る陽平。
 岡崎父娘の眼力に圧されたわけではない。
 ただ単純に、言ってみたかっただけなのであった。



『夫婦喧嘩より、犬が喰わないもの』



「……とりあえず聞こうか。なにやってんの? ふたりとも」
 以降要領を得ない主張が相次いだので、要約したもののみ記す。
 元々は部屋の模様替えであったらしい。最初は――というか最初から最後の直前まで、すべては順調であった。
 だが最後のひとつ、たったひとつの写真立てがいざこざの原因になったのである。
 その写真立てとは言うまでもない。朋也の妻であり、汐の母である渚が写っているポートレートである。
「いつもは素直なのにな、これだけは譲らないんだ」
 腕組みをして、朋也がそう言う。
「おとーさんこそ、いくら説明しても納得しないじゃない」
 同じようなポーズで汐がそうふてくされた。
「なにを――」
「なによ――」
「あのねぇ……」
 このやりとりが、合計七回も繰り返されると流石に陽平も嫌になってくる。
「ほんとにもう、くっだらないことで喧嘩してんなぁ……」
「くだらなくないっ!」
「くだらなくないっ!」
 よほど根が深い確執なのであろう。タイミングがずれていた。これは、なかなかに珍しいことである。
「いや、くだらないね」
 いい加減飽きてきたのでびしっと陽平は断言する。
「そんなの、渚ちゃんに決めてもらえばいいじゃん」
「「どうやって?」」
 そんなところだけは、いつも通り息がぴったりな岡崎父娘だった。
「ま、見ててごらんよ」
 そう言いながら、陽平は尻ポケットに入っていた小銭入れを引っ張り出すと、その中から一枚の十円玉をつまみ出した。そして天井を見上げると、
「渚ちゃーん、聞こえてる? 今からコイン投げるから、表なら汐ちゃん、裏なら岡崎に賛成ってことで良い? 良いね? それじゃいくよー」
 そう言って、絶句した朋也と汐に構わず陽平は無造作に十円玉を投げた。所謂コイントスである。だが思ったより勢いがついてしまったその銅貨は高く舞い上がり――そのまま、突き刺さった。
 天井の板と板のとの僅かな隙間に、挟まったのである。
 汐の目が点になった。
 朋也の目も点になる。
 陽平の目も、同様であった。
「これは、どうなるんだ」
 と、少し涸れた声で朋也。続いて汐が、
「えっと……表でも裏でもないってことだよね。つまり――」
「どっちの案にも賛成しないってこと。っていうかそんなことで争うんじゃないって意味じゃないの?」
 と、陽平。
「っていうか、僕の十円玉がああああっ!? 渚ちゃーん、それ僕の大事な現金だから返してえええええっ!」
 かなり悲愴な貌で、陽平がそう吠えた。
「お前なぁ……」
 先ほどまでの頑固さを引っ込めて、朋也が苦笑する。
「ほら、おじさま」
 同じように矛を収めた汐がしなやかに跳躍し、天井に突き刺さった十円玉を回収して陽平に手渡す。
「サンキュー汐ちゃん、助かったよ」
「お前ぐらいのもんだぞ、その歳で十円玉に大騒ぎってのは」
「うるさいな。安月給で働くサラリーマンにとっては、十円でも馬鹿に出来ないのっ」
 受け取った十円玉を慎重に小銭入れにしまいながら、陽平。
 もちろんそれは、演技である。
 昔なら素でやってしまったであろうが、今ではある程度の腹芸は出来るようになっていた。伊達に歳をとっているわけではないのだ。
「しかしまぁ、岡崎達も喧嘩することあるんだねぇ。ちょっと安心しちゃったよ」
「意味がわからないですよ、春原のおじさま」
「そうだそうだ。それにお前、芽衣ちゃんにやりこめっぱなしだろうが」
「うるさいな、僕のことはどうだっていいだろ」
 表向きでは拗ねてみせながらも、内心では安堵のため息をついて、陽平。
 前々から気にしていたのだ。この父娘、が本音で話し合っているかどうかと言うことに。
「でもまぁ、仲が良いことに越したことはないよ。いつだってさ」
 元々の位置――箪笥の上に置かれている写真立てに目を向けて、陽平は胸中でそう呟く。
「そうだよね? 渚ちゃん」
 答えはなかったが、写真の中の渚はいつものように笑顔であった。



Fin.




あとがきはこちら








































「ところでもう夏なんだから写真変えてみたら? 渚ちゃんの水着姿とかさ」
「おっ、それいいな」
「どこの世界に妻の水着姿を飾る旦那さんがいるのよ……まぁいいけど」
「そこは止めてくださいしおちゃんっ!」











































あとがき



 ○十七歳父娘喧嘩? 編でした。
 BBSの方であったリクエストを元に、多少急ぎ気味ながら仕上げました。個人的にあの父娘はまず言い争わないだろうとは思うのですが、たまにはこういうことをすると文字通りガス抜きになるのかもしれませんね^^。
 さて次回は……回想編かな?



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