超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「パパ、いちねんせいになったら」
「うん?」
「だんご(大家族)ひゃくにんふえるかな?」
「――うん、残念ながら増えない」
「……ちょっとざんねん」
「でもな、友達は百人できるぞ?」




























































































  

  


 その光景を目にしたとき、汐は明らかに驚いていた。
 小学校の、校庭。
 小学生から見れば日常のありふれた光景だろうし、俺くらいの世代になるとある種の郷愁の念に駆られるが、驚きはしない。
 だが、初めて見るとなると話は別になる。
「ひろい!」
 汐の感想は単純明快であり、その分気持ちがたっぷりと籠もっていた。
「そうか……そうだな」
 今まで汐が見てきた幼稚園の園庭とは、広さが全く違う。幼稚園児三学年分と、小学生六学年分の人数差と体格を考えれば、当然のことなのだが、今の汐にはそんな理屈は無用だった。
「すごい、すごいっ」
 背中のランドセルをかたかたと鳴らして、汐が小さく飛び跳ねる。
 よそ行きの服に背負われた赤いランドセルは、まだまだ大きかったが、いずれ釣り合うようになるだろう。
「にしても、遅いな……」
 目を輝かせている汐がどこかに行かないよう注意しつつ小学校の校門から外を振り返り、俺はそう呟いた。
 ここで待ち合わせをしているのだが……。
「パパ、あれ!」
「ん?」
 校庭を観察していた汐が何かを発見したらしい。一生懸命袖を引っ張るので俺は汐の指さす方向に目をやり――、
「いよう、岡崎。汐ちゃんもお待たせ!」
 ある意味絶妙なタイミングだった。
「お前な、もうちょっと時間に余裕を――!?」
 待ち合わせの相手を見て、思わず息が詰まる。
 それを疑問に思ったのか、汐も振り返り――次いで、ぎょっとした貌で声の主を見る。
 ああもう、この馬鹿は……。



『袴と、赤いランドセル』



 汐がびくっと一歩、身を引いた。
 それはそうだろう。待ち合わせの相手――学生時代からの腐れ縁である春原の奴――は紋付き袴姿で現れたのだから。
「ははは、おかしいなぁ……格好良いって、言われるはずだったんだけどなぁ……」
 汐の様子を見て、困った様子で春原。
「時と場所を弁えないからだ」
「なんでさ。おめでたいでしょ」
「――馬子にも衣装と言うが、お前、大幅にそれを逸脱しているからな」
「ひどっ!」
 仮にそうでなかったとしても、大昔ならともかく今では浮いて仕方がない。現に、俺たちと同じように小学校の入学式に望む親子連れが、例外無く俺たちに奇異の視線を向けていた。
「こう言うときは普通にスーツでいいんだよ」
 俺だって今日は背広にネクタイだというのに。
「え、だってそれじゃ普段の仕事着と一緒でしょ」
「なんでスーツが仕事着に――あ、そうか。お前営業だもんな」
「そうそう。だからこういう日はこっちの方が良いと思ってさ」
「カジュアルなスーツは無いのかよ……」
 かく言う俺は冠婚葬祭用の一張羅とは別の多少ラフなデザインのものにしている。そしてその選択はほかの親御さんを見る限り、間違いではないようだった。
「まぁいい。ここで議論しても仕方ないからな。行くぞ、汐」
「うん」
「春原の奴、変な格好してるだろ?」
「何ナチュラルに失礼なこと聞いているんですかねぇ!? しかも吹き込むみたいに!」
 羽織の袖をばさっとたなびかせて、突っ込みを入れる春原。そんな春原の様子を見て遠慮したのか、あるいは単純にそう思ったのか汐はぽつっと、
「おとのさまみたい」
 なるほど、わかりやすい例えだった。
「どっちかというと馬鹿殿だろ?」
「ひどっ!」
 春原が再び、袖をばさっと鳴らす。
 そんなことをしているうちに、俺達三人は校舎へと到着しつつあった。
「はーい、新一年生のみなさん〜」
 昇降口と思わしき場所に向かうと、まだ若い女性の教師が一生懸命誘導していた。
「新一年生のみなさんは、こっちですよ〜校舎の中に入ってください〜。保護者の方は、そのまま式場となる体育館にお越しください〜」
 見た感じ、杏よりも若く見える。新任だろうか。
「美人さんだねぇ」
 鼻の下を伸ばして、春原。
「目線が胸元に向かっているぞ」
 汐に聞かれると情操教育に悪いため声を控えて、俺。
「……パパ」
 それまで俺と手をつないでいた汐が、こちらを見上げてそう言う。
「おう、行ってこい」
「うん、いってきます」
 汐が俺の手を離れ、校舎に向かって歩きだした。
 その後ろ姿を、春原とふたりで見送る。
 紺色の晴れ着に、背中の赤いランドセルが良く映えていた。
「やっと、っていう感じかねぇ」
 春原がぽつりとそう言った。
「あぁ、そうだな」
 ため息をひとつついて、俺も同意する。
 ここまで来るのに、長い道のりがあった。
 ここまで来るために、いくつもの分かれ道と、いくつもの峠を越えてきたのだ。
「汐ちゃん、もうひとりで歩けるんだなぁ……」
 再び、春原がぽつりと呟いた。。
「当たり前だろ、今日から小学生なんだぞ」
 と、俺。
「いや、そうじゃなくてさ……なんていうのかな。汐ちゃんが、自分の意志で歩きだしているってことさ。それがさ、なんていうかさ――」
「春原、お前……」
 妙に言葉を区切る春原の顔を見て、俺は息を飲んだ。
「何でお前が泣くんだよ」
「……いや、汐ちゃん背中を見ていたらさ、つい……」
 そう言って、春原は手を顔を拭う。
「なぁ、春原」
 そんな春原の肩を、ほぼ無意識に俺は叩いていた。
「ああ、悪い。こんなところでみっともないよね」
 羽織の袖で顔を拭いて、春原。
「そんなことは、気にしなくていい。それよりな、今夜飲もう。古河家でさ」
「ああ……いいねぇ。汐ちゃんの門出に乾杯ってやつだね」
「そうだな。だがまずは、入学式だ。だから妙なこと、するなよ?」
「わかってるよ。それが元で汐ちゃんがからかわれたら洒落にならないし。しかし、不思議だねぇ。僕らの時は退屈で仕方なかったのに、汐ちゃんのはすごく楽しみだよ」
「あぁ、俺もそう思うよ」
 そこで何かを感じ取ったのか、ふと汐が振り返った。
 俺と春原は大丈夫だとばかりに大きく手を拭る。
 それで安心したらしい。汐は小さく手を拭ると、校舎の中に入っていった。
 俺は思わず空を仰ぐ。
 見ろ、渚。
 俺達の娘は、あそこまで大きくなって、こんなに多くの人間に愛され、見守られるようになったぞ……。
「それじゃ行こうか、岡崎」
「あぁ」
 俺達は体育館へと足を向ける。
 青く澄んだ空の下、渚とはじめて出会ったときのように咲き誇る桜の下で。



Fin.



あとがきはこちら









































「おめでとうです、しおちゃんっ」











































あとがき



 ○十七歳外伝、小学校入学編兼、第三回最萌トーナメント支援編でした。
 前から書いてみたかった小学校の入学編、いつ頃発表しようか迷いましたが、このタイミングならいいんじゃないかな……と。
 さて次回は……未定です;

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