超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。
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「今回のコスプレシリーズは巷で有名なボーカロイドで攻めてみました。ってことでわたしはミクで」
「ちょっと! いくら双子の設定だからってあたしがレンで椋がリンってどういうことよ!? っていうかミク役ねらってたのにっ」
「まぁまぁ、お姉ちゃん折角一緒に出られたんだから(女の子役でよかった……)」
「そして、私が巡音役か。巷ではタコがどうのと言われているようだが熊の方がいいな……」
「というか汐、俺としてはこの格好ちょっと恥ずかしいんだが」
「何言ってるのおとーさん、カイト役はまってるじゃない。ねー?」
「「「ねー?」」」
「……えー」
『岡崎家の、耳掃除』
……む。
耳掻きを繰る手を止めて、俺岡崎朋也は小さく唸った。
耳の奥に、何かが張り付いている。
今日の仕事は多少油埃の多いところだったから多少覚悟していたのだが、帰宅してからどうにも耳の奥がごそごそとうるさくなってきた。なので耳掃除を始めたのだが……。
「どうしたの?」
洗濯物を干していた娘の汐がそう訊く。
「いや、耳の中に何か入っているみたいでな」
耳掻きをちゃぶ台の上に置きながら、俺。
「そういうときってひとりで頑張ってもなかなか取れないのよね」
「まったくだな」
「じゃあ、見てあげようか?」
「いいのか?」
「いいよ。今丁度洗濯物干し終わったし」
両手を軽く打ち合わせながら、汐。
「じゃあ、頼む」
「ん」
そう頷くと、汐はまず勉強机の上にあるスタンドをちゃぶ台の上に移設した。ついでそこにあった耳掻きを手に取ると、
「準備完了。来て、おとーさん」
そう言って座り、自分の太腿をぱんぱんと叩いた。
「ひ、膝枕か?」
「他の体勢だとしづらいでしょ」
確かにその通りだ。
「ほら、おとーさん」
そう言ってこいこいと手招きをするので、俺は汐の膝枕に甘えることにした。
スパッツ越しに、汐の体温が伝わってくる。
渚もそうだったが、なんで女の子って男より体温が高いんだろう。おそらくそれは、ただの錯覚なんだろうが……。
そんなことを考えているうちに、汐はちゃぶ台のスタンドをいじってその光量、角度を調整すると、俺の耳たぶを適度に引っ張り――、
「わ」
ちょっと驚いた感じで、そんな声を上げた。
「そんなに入っていたのか?」
一応外側は風呂で毎日綺麗にしているが、少し心配になってそう訊く俺。
「っていうより、奥の方に押し込んでいるっぽいよ?」
「まじか」
「まじまじ」
そう言って、汐は耳掻きをそっと俺の耳に差し込む。やがて、こちっと耳掻きが何かにぶつかる音が頭に響いた。
「ほら、わかる?」
「ああ、よくわかる……」
そう言えば、耳の中はここ最近入り口付近をタオルでで適当に拭っているだけであったことを思い出す俺。つまり、今日に限らず随分前から溜まっていたと言うことになる。
「取りきれないのは放って置いて良いぞ。耳鼻科に取って貰うから」
「うん、わかった。でも取れそうなのは取っちゃうね」
「ああ、頼む」
汐が再び俺の耳たぶを引っ張った。続いて、耳掻きがそろそろと慎重に、それでいて大胆にも奥の方に入ってくる。
「そういえば、昔は良く耳掃除して貰ったよね。わたし」
ぱりぱりさりさりと耳掻きで俺の耳を鳴らしながら、汐。
「そういや、そうだったな」
音そのものは不快だったが、耳掻きの動きが加わるだけで随分と快感に変わる。そんな相乗効果に内心驚きながらそう答える俺。
「いつだったっけ、耳ががさがさして鳴ったときにすごい丁寧にして貰ったけど」
「そうだったっけか?」
そうとぼけたが、俺はその時のことをちゃんと覚えていた。
■ ■ ■
何の前触れもなく、汐が頭を横に振った。
幼稚園に迎えに行ってから帰宅してから、これで五回目になる。
俺が見ているとわかると、汐は何でもないようにそっぽを向いた。だが、少ししてから自分の耳を弄くっている。
そしてまた、頭を横に振った。どうも、耳の中に何かが入っているらしい。
「どうした?」
「えっと……」
話すべきかどうか迷っているのだろう。汐は困った様子で、
「みみが、からからって」
「音がするのか」
「うん……」
「なんでまた。今日急にだろ?」
三日ほど前に、風呂上がりに綿棒で汚れを取っている。それから音がするほど耳垢が溜まることはあまり考えにくい。
「えっと……」
汐は言いにくそうだった。そこからどうにか聞き出すと、どうも耳に砂が入ってしまったらしい。
「何でまた耳に砂が入ったんだ?」
「おとこのこのいたずらでかけられた。あたまから」
「OK、そいつ連れてこい」
女の子に砂をぶっかけるとは良い度胸だ。砂の恐怖をたっぷりと教育してやろう。主に、コンクリート的な意味で。
「どうするの?」
少し心配そうな貌で、汐。
「無論お仕置き」
俺が断言すると、汐は困ったような貌のまま少し間を置いて、
「いらないとおもう」
そんなことを言った。
「なんで?」
「おんなのこたちにおしおきされちゃったから」
「ほう、どんな」
「ゆりちゃんがいってた。えっと……なんだっけ……えっと……『さばくのいぬがみけ』」
――うわぁ。
その光景を想像して、思わず胸中でそんな声を上げてしまう俺。
そのゆりちゃんというのはおそらく汐と同じ組の子だと思われるが、将来とんでもない女傑になりそうだった。
「まぁとりあえず、耳を見せてくれ」
「でも……」
「頭を振っても音がするだけで出ないだろ? ほら、こっちに来な」
「うん……」
俺の説得に応じて、汐はそっと俺に頭を預けてくれた。
汐の桜の花びらのように小さい耳たぶを、そっと引っ張る。
……なるほど。小さな砂利が幾つか、耳の奥に入っている。これが耳の中で動くのもそうだが、砂利同士がぶつかる音はさぞ不快だろう。
運が良かったのは、その砂利が砂場の砂粒よりかは一回りほど大きいことだった。これだったら、耳掻きで掻き出すことが出来る。
しかし……。
本当に汐の耳は小さかった。
簡単に奥の方まで見えるし、なにより狭い。これは慎重に耳掻きを動かさないと、耳の皮膚を傷つけてしまいそうだった。
「耳の中で大きな音がしても動くなよ。不用意に耳掻きが当たって余計痛くなるからな。後、普通に掃除していて痛かったらすぐに言えよ」
「……うん」
「んじゃ、行くぞ」
おっかなびっくりそろりそろりと耳掻きを奥の方に入れていく俺。汐は目を閉じて身体を固くしぴくりとも動かない。
「よっと――お」
上手く砂利を耳掻きの匙部分に乗せることが出来た。今度はそのままそろそろと外側に引っ張りあげ――、
「――!」
「すまん、吃驚したか?」
途中で取りこぼしてしまい、鼓膜に落としてしまった。おそらく、汐にはすごい音が聞こえてしまっただろう。
「だ、だいじょうぶ……」
目をきつく瞑ってさらに身体を固くし、汐。
「ごめんな、今度は上手くやるから」
「……うん」
削る前の鰹節もかくやと言った様子で身体を硬くし、頷きもせずにそう答える汐。
「……今なら少し動いても良いぞ」
「いいの?」
「ああ、ずっとそんなだと肩がこるだろ」
そもそも、五歳児で肩こり持ちになるほど苦労して欲しく無い。
「ありがとう、パパ」
そう言って、汐は俺の膝に頭を預けたまま、ぐねぐねを身をよじり始めた。
「そんなにすごい音がしたのか」
「ううん、でもとてもくすぐったかった」
「なるほどな。それじゃ、続きをやるからしばらく動くなよ」
「――うんっ」
再び目を瞑り、身体を固くさせる汐。ただ、先ほどよりかはリラックスできているようだ。
俺は再び、耳掻きをそっと差し入れる。うるさくないように、くすぐったくないように、そして痛くないように慎重に耳掻きを動かす。
そんなこんなで格闘すること、三十分。
「――よし、取り終わったぞ」
額の汗を拭って、俺はそう言った。耳の中に入って砂利を全て取り除いたのだ。
「もう動いて良いぞ、汐」
汐は、返事をしなかった。
「……汐?」
もう一度俺が声をかけると、汐は閉じていた目を開いて、何故かやや潤んだ瞳で俺を見上げる。
「パパ……」
「ど、どうした。痛かったか?」
まさか、今まで痛いのを我慢していたのだろうか。だとしたら可哀想なことをしたが――というよりそれに気付けないとは何たる不覚か。そう思ったわけだが、汐は小さく首を横に振ると、
「あのね……」
「あ、ああ」
「……もっと」
「……は?」
く、癖になってる!?
途中で黙りこくっていたのは、少なくとも我慢していたわけではなかったようだ。だがしかし……。
「おねがい、パパ」
そんな俺をさておいて、汐は潤んだ瞳のままうっとりとした様子で、
「もっと……して」
心なしか声に艶がある。五歳でも女の子っは女の子と言ったところか。
「いやまて、その発言はやめておけ」
「なん――で?」
「こう言うときはな、決まって」
俺の言葉で途中で止まらざるを得なかった。
何故なら、派手な音を立てて玄関の戸が開いたからだ。
「と〜も〜や〜?」
ああ、やっぱり……。
■ ■ ■
「それで杏から綺麗な一発を貰ってな」
「思い出した。あの後誤解解くの大変だったっけ」
耳掻きの手を止めずに、汐は笑いながらそう言った。
「まったくだ」
耳掻きが割合奥の方でかりかりと音を立てていたため、微動だにせず、俺。
「あのときは危なかった。後一歩でこうして耳掃除してもらえなくなるところだったからな」
ついでに言えば、背景を読み切れなかった俺が誤解を解くつもりで杏にも同じ様なことをしてやると言った途端、もう一発いいのを貰ったりした。
「今、わたしがされていて同じことを言っちゃったら、また誤解しちゃうかな」
「大丈夫だろ。俺が枯れたからな」
「またまた、まだまだ大丈夫だって。それに藤林先生はますます誤解すると思うけど?」
「そうか?」
「そうそう」
そうは思っていなかったが、同じ女性で今では俺より杏とつきあう機会の多い汐の言うことだ、信頼してもいいだろう。
「あ、大きいの取れそう。すごい音がしたらごめんね」
「いや、構わないからやってくれ」
「ん」
汐の返事と共に、こりっと何かがこそげ落ちる感覚。そして耳掻きがそろそろと引き上げられていった。
「はい、終わったよ。これで全部取れたから安心して」
「ん、そうか……」
耳鼻科に行かなくて済んだというのは、主に仕事が忙しい身としては有り難い。
「どうしたの、おとーさん。耳掃除、もう終わったよ?」
……いや。
「いや、まだだ」
「え、もう綺麗だってば。それともまだ何か入っている感じがするの?」
それなら耳鼻科に看て貰った方がいいけど……と心配そうに汐。だが、そうではない。そうではないのだ。
「あのね、汐」
「うん……」
暖かい汐の膝枕の上から、俺はニヒルに笑ってみせながら言う。
「耳に、ふーっがない!」
「えー」
わかって貰えるだろうか。耳掃除の締めと言えばあれが無いとどうしても物足りなくなるのだ。
「どうせあれでしょ。してくれるまではわたしの膝枕を堪能し続けてくれるわ、ふはははは……とかでしょ」
「よくわかったな。その通りだ」
「もう十七年おとーさんの娘をやっているからね」
そう言って汐は呆れたかのように肩をすくめ、
「しょうがないなぁ、もう」
そうぼやいて、静かに屈み……。
はみっ。
「のおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
予想外の感覚に悶える俺。
まさか……今のは――今のはっ!?
「お、おおお、お前……」
思わず飛び起きて、部屋の隅まで後ずさりながら、俺。そんな俺に対し、
「ごめん、ちょっとやりすぎた」
少し顔を赤くして、汐はそう言ったのであった。
……知らないぞ、渚に怒られても。
Fin.
あとがきはこちら
「しおちゃん、此処に座りましょう」
「はい……」
「何をお話するのか、わかりますね?」
「はい……ごめんなさい」
「やりすぎです。わたしだって、あれ以上のことと言えば数えるくらいしか……」
「……え?」
「……え?」
「――あれ以上?」
「――あ゛。いえ、その」
■ ■ ■
「お仕置きしたクラスの女の子って、もしや……」
「順応性を高めなさい。あるがままを受け入れるの――じゃなくて、ただ同じ名前なだけじゃない?」
あとがき
○十七歳外伝、耳掃除編でした。
念のため。耳に異物が入って上手く取れない場合は、無理して取ろうとせず耳鼻科に取って貰いましょう。無理をすると十中八九耳の中を傷めることになりますので。
ただ、耳掻きそのものはどうしてもやめられませんねぇ……。
さて次回は、回想編で。