超警告。リトルバスターズをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「偉大なるケット・シーの使い、キュアキティ!」
「繰り返す運命の踏破者、キュアリッキー! ってちょっと待ってよ、またこのネタ? またなの? ねぇ!?」

















































  

  


 それは朝、予鈴前のこと。
「なんじゃこりゃー!」
 自分の机を覗き込んで、鈴はそう叫んだ。
 あまりにも大きな声だったので、教室中の皆(クラスメイトと、例によって遊びに来ていた恭介)が、一斉に鈴を見る。
 そんな状態の中、鈴は驚愕の表情を浮かべたまま机の中をがさがさと探りはじめ(無理な姿勢でするものだから、スカートの中が見えそうだった。見えなかったけど)、中から白い包みに赤いリボンで包装された小さな包みを取り出す。
 そして皆の注目などまったく眼中がないようにその包みを上下左右と見回して、
「なんじゃこりゃー!」
 再び、叫ぶ。
「ど、どうしたの。鈴」
 完全に予想外の雄叫びだったので、思わずそう訊いてみる僕。すると鈴は珍しい花か、あるいは見慣れない毛並みの猫を見つけたかのような貌で手に持っているものを突きつけて、
「あたしの机の中に、プレゼントの包みが入ってる!」
 ――うん、それはそうだろう。



『白の仕掛人』



「鈴、今日は何月何日だっけ」
 一限後、話があると言わんばかりに包みを持って迫り来る鈴を先制するように、僕はそう言った。
「3月14日だな」
 カレンダーなどを見ることなく、即答する鈴。
「その日って何の日だっけ?」
「理樹なおかしなことを訊くな」
 と、意外なことに余裕の笑みを浮かべて、鈴は答える。
「耳の日は3月3日だ。11日ほど遅いぞ」
「うん。確かにそうだけど、普通その日はひな祭りだよね」
「バカ兄貴が『それじゃ俺が楽しめないだろ!』ってうるさくて、以降耳の日を祝うようになったんだ」
「どうやって祝うんだかすごく気になるんだけど……ってそうじゃなくて。3月14日が、何の日だか知ってる?」
「む……」
 腕を組みながら鈴は首を傾げ――そのまま固まった。
「み、みいよの日?」
「誰それ」
「歌手だ」
「どんな歌手さ」
「寒い国から暖かい国に逃げようって皆を導いてくれるんだ」
「それを言うならミイヤね」
 妙にチョイスが渋いけど、たぶん恭介の影響だろう。
「♪東に〜猫の国があるって〜本当かい? 本当かい?」
「いや、ミイヤはもういいから」
 そろそろついていけない人が出てくるんじゃかと思う。後、恭介曰く猫の国は未来の火星には存在するらしい。
「それじゃあ理樹、3月14日は何なんだ?」
 降参らしい。鈴は少し逆ギレ気味にそう訊いてきた。
 ……まぁ、そうだろう。この日が何なのか知っていたら、こういうことは起こらなかったのだろうから。
「3月14日は、全国的にホワイトデーだよ」
 だから、僕はできるだけ丁寧かつ簡潔にそう答える。
「ほわいとでー? 何もかもを白く塗りたくるのか?」
「それ、何処の悪の組織さ……」
 思わずため息を付いてしまう。
「いい? 鈴。ホワイトデーって言うのはバレンタインにチョコレートを貰った男の人が、そのお礼に女性にお返しをする日なんだよ」
「なにぃ……そうだったのか」
 知らなかった――と、鈴。
「だからそれは、そのホワイトデーのお返しじゃない?」
「なるほど……」
 自分が持つプレゼントの包みを持って、鈴は納得したかのように頷き――、
「理樹、犯人探しだ!」
 すぐに顔をあげて、そう言った。
「犯人って……悪いことしたわけじゃないだろうに」
「じゃあ、容疑者探しだ!」
「いやそれ、あんまり変わらないからね」
 被告でないだけましかもしれないけど。
「でも鈴、なんだって贈り主をさがそうとするの?」
「だってこの包みには、誰が贈ったのか書いて無いだろう」
「……あ。そういえば、そうだね」
「だから、もやもやする」
「え?」
「あたし自身が、もやもやするんだ」
 そのときの鈴の顔には、初めて見る表情が浮かんでいた。照れているような、恥ずかしいような、それでいてちょっと怒っているような。
「そのままでいいんじゃない?」
 そんな何ともいえない貌の鈴に、僕はそう提案してみる。
「いや」
 けれど鈴はすぐさま首を横に振って、
「このまま放っておくと、いつか後悔するような気がする」
 はっきりと、そう言った。
「……わかったよ。それなら僕も手伝う」
「そうか、理樹が居れば百人理樹だな」
「百人も居ないからね」
 それに今回は、僕が居ても決定的な要因にはならないと思う。例え、百人居たとしても。
「後は……真人、謙吾、それに馬鹿兄貴、お前らも手伝え」
「いきなりなんだよ」
「同感だ」
「っていうか何でその他扱いなんだよ。トリオ・ザ・アミーゴかよ」
 と、真人と謙吾と恭介。けれど、鈴が僕の机に来てからそれとなく近くにいてくれているのが、とても真人達らしかった。
「で、理樹よ。オレ達は何を手伝うんだ?」
 と、真人が三人を代表して訊いてきたので、僕は簡単に鈴が何をしたいのかを伝える。
「一応訊いておく。お前達じゃないんだな?」
 とても人に訊くとはいえない態度で、鈴。
「鈴にプレゼントだぁ? そんなもんオレが贈るわけないだろうが。筋肉つけたいって言うんなら、話は別だけどよ」
 と、呆れ顔で真人。
「同じく、俺にも理由は無いな」
 続いて、謙吾もそう受け流す。
「俺もだ。理樹が説明しなかったようだが、ホワイトデーはあくまでバレンタインデーのお返しだからな。チョコレートを貰っていない男が贈るっていうのは、まず無い」
「そうなのか……」
 今、恭介がかなり重要なヒントを言ったのだけど、鈴はそれを意に介していないようだった。
「よし、それじゃ早速捜査開始だ――」
「悪いが、オレは降りるぜ」
 と、真人。
「俺もだ」
 ほぼ同時に、謙吾もそう言う。
「なにぃ……」
 いきなりそう来るとは思っていなかったのだろう。半ば威嚇する感じで、鈴がそう抗議した。すると真人は何もいわずただ肩をすくめ、それの意味を諭すように謙吾が、
「鈴よ、無粋という言葉を知っているか?」
 と訊く。
「名乗らない方が無粋だ。あたしはそう思う」
 その凜とした返答に、謙吾はちょっと驚いた表情を浮かべた。多分僕も同じような顔をしていたと思う。
「……ふむ。言われてみると、そうだな」
 そして意外にも、謙吾はあっさりと引き下がった。
「まぁ、渡した相手が多少優柔不断であったのかもしれないが……だが俺としてはそれ以上関わりたくない。わかるか?」
「……わかった。つまり残るのは理樹と馬鹿兄貴だけか」
「ああ、俺も手伝う気はない」
 ぴしっと挙手して、恭介。
「なにぃ!?」
「よく考えてみろ。渡した相手がリトルバスターズの誰かだったらどうする。お前は仲間を疑うことになるんだぞ?」
「う……」
「さらに、それを俺たちに手伝わせるってことは、お互いがお互いをさぐり合うってことだ。違うか?」
「うう……」
 うまく想像できたらしい。想像できたからこそ、鈴は反論しなかったのだろう。そして、恭介も僕と同じ結論に達したらしい。
「そういうことだ」
 時折見せる、鈴にだけ見せる兄らしい貌で、恭介。
「それでも……」
「ん?」
「それでもあたしは、真実が知りたい」
「そうか……」
「だから、あたしひとりでもやる。――いや、あたしひとりでやる」
「わかった。それなら俺は止めない」
 と、真顔で恭介。
「だが理樹、お前は手伝ってやってくれ」
「……うん、わかったよ」
 おそらく謙吾も恭介も、そして何も言わなかったけど真人も誰が贈ったのか感づいているのだろう。ならば、真人達の分だけ、その気持ちの分だけ、僕が頑張らなくてはならなかった。



「で、まずはどうするの?」
 お昼休み。昼食を手早く片づけた僕と鈴は作戦会議に取りかかる。
 正確には、鈴の方針を僕が訊くだけなんだけど。
「昨日一番遅くまで教室に居た生徒か今日一番早く入った生徒を捕まえる」
「なるほど。でもどうやって?」
 着眼点は良いと思う。でも鈴には目標だけでなくて手段も考えていって欲しかった。
「簡単だ。まずあたし達の周りから教室を出るときに誰が残っていたのかを訊く。次にその残っていた生徒に同じことを訊く。それを続けていけば最後に残っていたのが誰かわかる。朝一番の場合はその逆だな」
「な、なるほど」
 ……すごい、ちゃんと理にかなっている。
「それで残ったどっちかが犯人だ!」
「だから犯人じゃないからね」
 お・く・り・ぬ・し。犯人でも容疑者でもないよ、と注釈を入れておく。
「どっちだっていい。捜査開始だ」
「どっちでも良くないってば」
「なんか今日の理樹はやけにこだわるな――あ、こまりちゃんだ。おーい、こまりちゃーん!」
「どうしたの?」
 鈴のオーバーアクション気味の手招きでこちらに来たのは、昼食を済ませたと思われる小毬さんだった。
「こまりちゃん、昨日こまりちゃんが帰るときに教室に残っていた生徒と、今日の朝来たときに教室にいた生徒、誰がいたかわかるか?」
「……えと、どういうこと?」
 質問の真意を計りかねたのだろう。首を傾げて動きを止めてしまう小毬さんに、僕は鈴が昨日最後まで教室にいた生徒か今日一番朝早く来た生徒を探していることを説明する。
「ん? 昨日最後まで居た生徒か今日朝一番に来た生徒ってこと?」
 突拍子もない質問だったからだろう。小毬さんは首を傾げてそう言った。
「うん、そうだ」
「今朝一番だったら、私だねぇ」
「「なんだって!?」」
 思わず、鈴とふたりでそう叫んでしまう。。
「こ、こまりちゃんが犯人か!?」
「ふぇ!? ははは犯人!?」
「違う違う。小毬さんじゃない絶対小毬さんじゃないから」
 でもこれで、ややこしくなってしまった。僕は内心、頭をかきむしる。
「じゃあ、昨日帰るときに残っていたのは……」
「それもある意味、私かなぁ?」
 ええー、そんなはずは……。
「じゃあやっぱり犯人はこまりちゃんか!?」
「ふぇぇ!? 何だか知らないけどごめんなさい〜っ」
 すっかり怯えてしまう小毬さんだった。
「待って小毬さん、ある意味って何?」
 その言葉に引っかかった僕がそう質問する。
「えっと、忘れ物を取りに女子寮から教室にまで行ったんだけど、廊下の角を曲がるときに、教室から出てくる人を見かけたから」
 ……!
「それは一体、誰なんだ?」
「えっと……」
 僕の顔を、小毬さんが上目遣いで見る。多分、僕に気を遣っているのだろう。
 だから、僕は軽く頷いて見せた。それに安心したのか、小毬さんはぽつりと、
「……理樹君だったよ?」
 そう言った。
「……他には居なかったのか? 理樹だけしか教室から出てこなかったのか?」
 鈴が確認するようにそう訊く。
「他……? うーん、理樹君だけだったよ?」
 その小毬さんの言葉に鈴が凍り付く。
「――理樹君、りんちゃん一体どうしたの?」
「ええと……」
 此処まで来て無関係というわけにもいかないだろう。僕は今朝からのあらましを小毬さんにしっかりと伝えた。
「……そういうことなんだ」
 やっと納得できたよ。と小毬さんは笑顔を浮かべて、
「りんちゃんりんちゃん、私からも質問です」
「な、何だこまりちゃん?」
 その小毬さんの声で、鈴が我に返る。
「恭介さんは、ホワイトデーのこと何て言ったんだっけ?」
「えっと、バレンタインのお返しに、プレゼントする日だと言っていた」
「うん、そうだね。それで、りんちゃんは先月のバレンタインで誰と誰にチョコレートをあげたのかな?」
「誰と誰って――こまりちゃんは変なことを聞くな。一緒に作ったときに言ったはずだぞ。このチョコレートは理樹にだけ……あーっ!」
「――そういうことです」
 人差し指を立てて妹に何かを教えるお姉さんのように、小毬さんはそう言った。
「そ、それじゃこのプレゼントは……」
 ここら辺だろう。これ以上は誤魔化しても意味がない。
「……そう、僕だよ」
 だから、僕は鈴の目を見てはっきりとそう言った。
「理樹だったのか……」
 手にしたプレゼント――中身はクッキーの詰め合わせ――と僕を交互に見ながら、鈴。
「じゃあ『理樹君』、あとは頑張ってねー」
 私に出来ることは此処までと言外に匂わせて、小毬さんは自分の席に戻っていった。鈴でなく僕に頑張ってと言ったのが、その証拠だろう。
「……ごめん理樹、あたしが鈍かった」
 消え入りそうな声で、鈴がそう言う。
「いいんだよ、鈴。名前を書かなかった僕が悪いんだから」
「それでもあたしが悪かった。その、理樹の気持ちに気付かなくて」
「だからいいんだってば、僕自身がわかりにくくしたんだから」
 俯いてしまう鈴の頭に手を乗せて、僕はそう言う。元々喜んでもらうために用意したのだ。落ち込んでもらう為じゃない。
「それと……」
「うん?」
「ありがとう」
 僕の顔を見上げて、鈴はそう言った。
「うん。そう言ってもらえると嬉しいよ、鈴」
 鈴の頬を撫でて、僕はそう答える。
「……来年はもっとすごいのを贈ってやる。理樹が思わず飛び上がりそうなのをだ」
「それは……楽しみにしておくよ」
「絶対だからな!」
 そう言って鈴は僕の胸に顔を埋めた。多分、直前で顔が赤くなったからそれを隠すためだろう。
 それでも、こうして僕の側にいてれるのだから。
 それでも、僕を頼ってくれたのだから。
 だから、それでいいのだろう。僕は、そっと鈴の背中を撫でる。
 来年のバレンタインが、今から楽しみだった。



Fin.




あとがきはこちら













































「姉御! しっかりして下さいよ姉御!」
「カンフル打ちますか? トランキライザーもありますけど」
「ど、どうしちゃったの? ゆいちゃん」
「わふー……終盤のあまいあまーいお話の展開についていけなかったそうです……」
「うーん、そんなに甘かったかな?」
「――小毬君、世の中にはある程度の甘い物語で砂を吐く人間もいるんだ。それを覚えておいて欲しい……」
「姉御、まだ起きあがっちゃ――!」
「モルヒネ打ちますか?」
「いや、いい……っていうかそこまで重篤に見えるのかね?」
「『AIR』だったら『青空』が流れています」
「――そうか。なんかあちらの人とは性格的に真逆のような気がするが」
「それで、りんちゃんは?」
「そこだ」
「そこって――」
「おほほほほほほほほ! 快感ですわっ!」
「うにゃー!」
「うわぁ、りんちゃんがさーちゃんの巨大猫じゃらしにじゃらされてる……」
「淑女協定違反だからな、仕方あるまい」
「初めて聞いたよ?」
「暗黙の了解だからな」
「滅茶苦茶だねぇ……」
「まぁ当初は全員に匿名で返すという設定が、気がついたら鈴さんだけになってしまいましたから」
「わふー、確かにちょっとだけずるいのですー」
「ほほぅ、ワンコがそういうのカナ?」
「はい?」
「『クドわふたー』……」
「え、だってそれは制作者側のお話なんですからその」
「なおさら悪いなぁ」
「ですよネー」
「というわけで顎の下高速撫でだ! ふははははは!」
「わふー! あああああ頭がゆゆゆゆゆ揺れますすすすす!?」
「……何かみんな、照れちゃっているのを隠しているみたいだねぇ」
「このツケはそのうち、作者に払ってもらいましょう」





































あとがき



 だいぶ遅れてしまいましたが、リトルバスターズのホワイトデー編でした。
 なんか端書きの方で美魚がぼそっと言っていましたが、当初の予定から鈴と理樹だけのらぶらぶっぷりになってしまい、書いている私も気恥ずかしかったですw。
 あ、ちなみに鈴が唄った謎の歌は『キングゲイナー』で検索してみてください。多分引っかかると思います。
 さて次回は……んー、未定で;。

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