超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。
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「幽玄たる光の一粒種、キュアウシオ!」
「深遠なるヒトデの恵み、キュアフーコ!」
「博識にそびえる豊かなる双丘、キュアコトミ!」(台詞は暗記できたが、意味がわかっていない)
「咲き乱れる陽平の血玉! キュアキョウ!」
「弾ける春原の頭蓋! キュアトモヨ!」
「「「「「五人揃って、ファイト! プリキュアD!」」」」」(D=だんご)
「後半のふたりちょっと待てよ! 名乗りが物騒な上に何僕を名指ししてるんですかねぇ!」
「えー、だって」
「いつものことじゃないか」
「……否定できないな」
「してくれよ岡崎っ!」
「っていうかおとーさんもおじさまも、そのファンシーな獣耳とヴィジュアル系なメイクと、不気味な全身タイツは一体何」
「……お、お供のトッピーだっぴ〜」
「おなじくヨッピーだっぴ〜」
「怪人でしょ」
「怪人です」
「怪人なの」
「怪人よね」
「怪人だな」
「あはははははは! かかってらっしゃい、プリキュアD! まとめてダークギャラクティックウィップ(暗黒の銀河っぽい鞭)の餌にしてあげるわぁ……」
「……お〜い早苗、悪役にはまるのも良いが帰ってこーい」(ただしそのボンデージファッションはそのままで頼む)
「いいのかこれ」
俺はオッサンにそう言った。
「良いも悪いも、うちじゃもう必要がないからな。もってけ」
と、そっけなくオッサン。続けて早苗さんが、
「朋也さんが持って帰れば、喜ぶと思いますよ」
と。誰がとは言わずににっこりと微笑む。もしここで俺がそれは誰ですと訊いたとしても、おそらく笑顔のままだろう。
だってそれは、たったひとりしいか居ないのだから
『岡崎家の、雛祭り』
「すごい……」
と、幼稚園卒園間近の汐は目をまん丸にしてそう呟いた。
後は無言で両手をちゃぶ台に付いて、喰い入るようにそれを見つめる娘に、俺は思わず口元を緩めてしまう。よっぽど、雛人形が気に入ったのだろう。
そう、ちゃぶ台の上には俺が古河家から譲ってもらったお雛様とお内裏様が、澄まし顔で座っていた。古河家から急な電話で呼び出された俺は、そこでこの雛人形を手渡されたのだ。
「すごい、すごいっ」
両手を付いたまま、ぴょんぴょんと飛び上がる汐。勢い余って逆立ちでもしそうな勢いだった。
「気に入ったか」
「うん、とってもきれい」
この年頃の女の子(汐を含む)は、どういう訳かなんでもかんでも可愛いと形容しがちだが、汐は珍しく綺麗と言う言葉を使った。それはおそらく、少しずつ伸びてくる背丈とともに、汐の内面が成長している証なのだろう。故に、俺の頬はさらに緩んでしまうのであった。
にしても、女の子のお祭りに参加するのはこれが初めてだったため、俺は新鮮な気持ちでいっぱいだった。妹も姉もいなかったから、余計そう感じてしまうのだろう。
「さて汐。お雛様達、どこに飾ろうか?」
「えっと……ここがいい」
そう言って、渚の写真立てがある箪笥の上を指さす汐。
「ふむ……いいところを選んだな」
写真立てがお雛様の隣に位置するよう調整しながら、俺。
渚が他の男に靡かないことはこの俺が一番よく知っているが、その渚だって隣に俺以外の男――お内裏様のことだが――が居ることを善しとはしないだろう。
「こんなもんか?」
「うん、ばんじおっけー」
どっかで憶えたんだろう、そんなことを言いながら親指をぐっと立てる汐。
そのまま、ふたりで雛人形を眺める。
「きれい……」
汐が再びそう呟いた。
「……フルメンバーに出来ればいいんだけどな」
「ふるめんばー?」
思わずぼそっと呟いてしまった俺に対し、汐が首を傾げて聞き返す
「ああ、お雛様とお内裏様以外にもいるんだよ、色々」
「えっと……おひなさまの――かいだんみたいな……?」
「雛壇か」
「そうそれ」
どうやら、汐も雛人形がたくさん居ることを知っているようだった。「――!」
急に、汐が手を打ち合わせた。どうも、何かを思いついたらしい。
「パパ、そのひなだん、できる?」
「出来るって、作るってことか?」
それそのものを作ろうとするなら、それは相当手間のかかることだが……待てよ?
「ちょっとまってな……」
そう答えてから、俺は箪笥の引き出しを下から引っ張り出し始めたた。そして各段を階段上に調整した上に、ちゃぶ台の上にかけようと思って買ってそのままにしていたテーブルクロス(早苗さんによる指導の賜だろう、汐は滅多に食べ物をこぼさなかった)をかける。
これで、即席の雛壇が完成した。
「それで、どうするんだ?」
「えっと……」
そう言いながら、奥へと引っ込む汐。やがて何かをひっくり返したかのような騒音が鳴り響き、
「これ」
それは……。
「だんご大家族じゃないか」
「うんっ」
嬉しそうな声で、汐。なぜ声だけかというと、上半身全部を使って大量のだんご大家族を抱えてしまっているため、その表情を見ることが出来なかったからだ。
それにしても、こんなにあったのか……。
「渚も頑張ったんだなぁ……」
思わず、そんな想いが口に出てしまう。
だが、その頑張りが今こうやって汐のアイデアの元になり、花を咲かせようとしている。
まるで、渚が時を越えて汐を助けている……そんな風に感じてしまう、俺だった。
「ママ?」
床に大半を降ろし、そのうちのひとつを両手で抱えたまま、汐が不思議そうに首を傾げて訊く。
「ああ、ママだ。ママがこういうときのために、だんごをたくさん集めたんじゃないかってな」
すると汐は手を止めて、
「うーん……」
少し――いや、かなり悩んでから、
「ちがうとおもう」
と、答えた。
「どうしてだ?」
俺がそう問うと、
「えっと……」
汐は再び少し考えて、
「ママは、だんごがすきだから」
「ああ、それはパパも知っているぞ」
「うん」
それも知っているとばかりに頷く、汐。
「ママはだんごがすきだから、だからこんなにいるんだとおもう」
「それって、集めることに理由はないってことか?」
「うーん……?」
まだ適切な言葉が思い浮かばないのだろう。汐は首を傾げるばかりだった。
「……たぶん、そう」
「そうか。多分、汐の言う通りなんだろうな」
例えるならば、負うた子に教えられて浅瀬を渡る。これだろう。まだまだ余裕でおんぶができる汐であったが、こうやってだんごを雛壇に乗せている光景を見ていると、もう単純に教える、教わるという立場ではないのかもなと思ってしまう俺であった。
おっと、しみじみと感動してる場合じゃない。
「俺も手伝うよ、汐」
「ありがとう、パパ」
そもそも汐の手伝いをするのが俺の役目であるだろうし、それ以前にただずっと見ているのは何となく落ち着かなかった。
「えっと、官女には……何色が良いかな」
「これ」
汐に、黄緑色のだんごを手渡される。
「こっちは、おんなのこだから」
「そ、そうなのか? よくわかったな。すごいぞ、汐」
照れたように笑う汐。確かめる術はないが、多分そうなのだろう。
……いや。この色には見覚えがある。
『こっちのだんごは女の子です』
渚もある時、そんなことを言っていた憶えがある。
そういう意味で、渚と汐は良い母娘だった。
そうなると、家族の一員として俺も頑張らなくてはならない。
俺は薄黄色のだんごを手に取る。
これはなんとなく、先ほどの女の子なだんごより目つきが悪いような気がする。
だとすれば……。
「こっちは男の子か?」
「うん、そう」
そしてそれは、どうも正解であったようだ。
「よっしゃ!」
「パパも、すごい」
小さく拍手して、汐。
「ああ、なんたってお前のパパだからな」
それだけは、自信を持って言える俺だった。
こうして半時間ほどかけて、俺達は作業を終えた。
再び箪笥の前に立ち、ふたりで雛人形達を見る。
「揃ったな」
「うん」
かくして、我が家のお雛様は一気に賑やかになった。なにせ三人官女も五人囃子も右大臣も左大臣も仕丁もみんなだんご大家族。賑やかでない訳がない。
「おひなさまっ、おひさなまっ」
嬉しそうに、汐。
「お雛様大家族、だな」
「うんっ」
もちろん箪笥をまるまる占有するのだから、だんご達だけはずっと出しっぱなしと言うわけには行かない。だが、その日の夜に片付ける旨を伝えると、汐は反対することもなく、そして残念そうな貌も見せずに頷き、俺はまたひとつ汐の成長を見つけることが出来たのであった
汐は、成長している。成長を続けている。
これからも、そのひとつひとつ見つけていこうと思う。俺の、俺と渚の娘の、心の成長の証を。
Fin.
あとがきはこちら
「しおちゃんすごいです。これはわたしも思いつきませんでした」
「え、そうだったの?」
「はい。さすが朋也くんと――わたしの子です」
「なんか、照れるなぁ……」
あとがき
○十七歳外伝、雛祭り編でした。
私の場合雛祭りというとひなあられを食べる日と、些か身も蓋もない感想しか沸かないのですが、そもそもは女の子の成長を祝うお祭りですから、家庭によっては色々なことがあるのかもしれませんね。
さて次回は……何にしようかな?