超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「そういえば、アニメのおかげで体操服がああなったんだよな。スタッフには本当感謝しないといけないな」
「? 何でですか、朋也くん」


































































































  

  


 それをはいて、わたし岡崎汐は姿見の前に立った。
 見た目は、いつも着ている学校の制服。ただし、いつもよりスカートを心持ちウエストの方にずらして、裾を意図的に少し短くしている。
 さて――、
 床を鳴らさないよう極力注意しながらステップを踏む。
 ……うん、クリア。
 次に軽く反復横飛び。
 ……これも、問題ない。
 鏡に当たらないよう注意しながら中断回し蹴り。
 ――ふむ、ちらっと見えたけどセーフだろう。
 そして最後に師匠――坂上智代。おとーさんの旧友でもある――直伝のハイキック。
 ……うん、こっちはやっぱりもろに見えた。現役時代の師匠は、さぞかし苦労したことだろう。
 さらにいくつかの運動や体操をして、わたしは息をついた。同時に、スカートの上から腰に手を当ててみる。うん、元々運動用だったためか、脱げかけたりしていないし、脚も腰も痛くない。
 姿見の前に仁王立ちになり、今着ている制服のスカートを徐々にまくりあげてみる。オーライ、オーライ――あ、見えた。でもここはまぁ、形状上仕方ないとことだろう。
 うん、形が似ているから恥ずかしがる子も出てくるだろうけど、色合いは問題ないかな――。
「うん、これならいいかな」
 スカートをまくりあげながら、そう宣言するわたし。
「……何がなんだ?」
 そしてそこを、仕事帰りのおとーさんに思いっきり見られていた。




『岡崎家での、衣装あわせ』



■ ■ ■



 汐を男手ひとつで育て上げてきて、不安に思ったことが何度かある。 敢えて言ってしまうとそれは女の子特有の問題で、汐が成長するにつれ加速度的に増えてきたものの、俺には全く手が出せない領域だった。 幸いにして俺の側には早苗さんや杏、それに(それほどあてにならない)風子が居てくれたので、致命的な問題になることは避けられていた。
 でも時々、無理してでも介入すれば良かったんじゃないかと思うこともある。
 例えば、姿見の前で仁王立ちになり、スカートをめくってその中身を見ている汐を見たときとか、だ。
「ごめんな、渚。俺、汐に羞恥心を教えられなかったみたいだ……」
 それに答えるかのように、箪笥の上にある渚の写真立てがぱたりと倒れた。
「そうだよな……娘がえろえろになっちゃったら顔も見たくないよな……」
 俺だって、出来ることならすぐに墓の前で謝りたい。自分でスカートの中を覗き込むなんて――覗き込むなんてっ!
「ちーがーうーっ!」
 そこで、俺が声をかけてからずっと畳の上でごろごろ転がっていた汐が跳ね起きてそう叫んだ。同時に渚の写真立てを速攻で元の位置に戻している。
「今のはおとーさんの勘違いにお母さんがこけただけであって、別に起こっているわけじゃないし、そもそもわたしは別に露出狂になったわけでもないのっ!」
 ま、まじでか。
 なんということだ……。
「自覚症状がないのが一番大変なんだぞ……。っていうか人前でだけはやめような……」
「だからその前提条件がおかしいのっ」
 そういって汐は、あろうことか俺の目の前でスカートを捲り上げた。
「よくみてよ、ほら、ほらっ!」
「やめろ! 目がつぶれる!」
 そして渚が化けて出る! ――よく考えたら、そっちは大歓迎だが。
「つぶれないっ! っていうか例えが古い! ほらみて、下着じゃないからこれっ」
「オッサンが持ってるビデオで学習済みだ。『パンツじゃないから恥ずかしくないもんっ』だろ。だがあれはどうみてもパンツだ」
「妙に迫真に迫った演技をしないのっ。それにこれは――」
「ブルマだろ、知っているよ」
 急に素に戻った俺に、汐は今まで見たことがない派手さでこけた。
「お、お、おおおおとーさん!?」
 ちゃんと見ていたのね……、横着をした腕立て伏せのように上半身だけ起きあがり、身も心もぼろぼろですと言った感じで汐がそう呟く。
「中に何かはいていなけりゃそんなことしないだろ。常識的に考えて」「それはそうだけど、こういう形をした下着だとは思わなかったわけ?」
「お前は知らないだろうが、俺の時代ではそれが当たり前だったんだ。見間違えるもんか」
 定位置であるちゃぶ台の側に座りながら、俺。
「むう、所謂ジェネレーションギャップね……」
 と、あぐらをかいて座った汐がぼやく。
「そういうもんだ。俺だって親父達の学生時代の話を聞けばそう思うさ」
「じゃあ、わたしに子供が出来た場合――」
「なにぃ!?」
「……仮定の話よ。いちいち過剰反応しないの」
「それは、渚がお前を妊娠したときのオッサンを知らないからそう言えるんだからな」
 あのときのオッサンの貌を表現するとしたら、『後一歩で殺るとこでした』。これに尽きる。
「それは今度本人に聞いてみるとして……わたしの子供が今のわたしくらいになったら、やっぱり世代差を感じちゃうのかな」
「そりゃ、感じるだろうな」
 お茶をふたり分淹れながら、俺はそう答える。
「俺と春原の最近の挨拶は、最近の若いもんは――だし、親父と早苗さんは言わないけど、オッサンも同じことを言ったことがある。そして、大昔のエッセイとか読んでいてもその筆者が同じことを言うしな。要するに、人ってそういうものなんだろう」
 そして世代差というものそういうものなのだ。少しずつ、それでいて確実に、どこかが変わっていく。
 ――なにもかも、変わらずにはいられないです。
 ふと、そんな渚の言葉を思い出した。
「そういうもの、なのかもね」
「そういうものなんだよ。お前が今はいているブルマが良い例だ」
「ふむ……?」
 スカートをぴらっと、汐がやる。
「……汐、それはもうやめろ」
「え? 何で?」
「その仕草そのものが、俺に背徳的な感情を催させるからだよ……」
 そう。中身がなんであろうと、スカートを目の前でめくる行為そのものが、何というか俺の心臓に悪いのだ。
「うーん、わたしはそう思わないけど、これもギャップなのかな」
「それは流石にそうでないと思いたいがな。それで、なんでまたブルマをはくことになったんだ?」
 いつかの時のように、ママさんバレーに参加するのならわかるが、意図的に制服の下にはいているのが、今一理解できない。
「ああそれはね、演劇部の衣装――」
「な、なんだと……!?」
「――に使う、スカートの下に着けるもの。最後まで聞こうね。女子の衣装の下に採用しようと思ったのよ」
 と、あっけらかんとした様子で汐。
「……その経緯が、よくわからないんだが」
 首を傾げて俺が訊くと、
「元はね、スパッツだったの」
 汐はそう明朗に答えてくれた。
「お前のお気に入りな。でもあれだとスカートの裾が短いと目立つだろ?」
「そう、おとーさんの言う通り。だからそういう場合は見えないように裾を降り曲げるんだけど、そうすると太腿が圧迫されちゃうのよ」
 演技が終わった後脱いでみると、後がくっきり残っているのよね、と両手で頬杖をつきながら、汐
「そうやって我慢して使っていたんだけど、長時間練習していると脚を痛めちゃうし、実際結構痛くなる子が続出してね……」
「ちなみに、その前までは?」
「アンダースコート。だけれどあれだと下着に見えて嫌だって意見が多かったから、わたしが部長に就任したときに廃止したの」
 それはまた……。
「何と勿体無い」
「……いま、なんて?」
 表情は一切変わっていないのに、まるで般若の面を被ったかのような我が娘だった。
「いやなんでも……しかしまぁよくブルマなんて見つけられたな」
 無理矢理な話題転換だったが、それでも汐は般若の気配を消してくれて、
「陸上部の部長が教えてくれたのよ。今あっちの方では見直されつつあるんだって」
 そう教えてくれた。
「……へぇ」
「それで、わたしが自分で試したみたわけ」
「だから、『これならよい』ってことか」
 俺がそう指摘すると、汐は大きく頷いて、
「そういうこと。形が下着に近いけど色は全然違うし、動きやすいし。……何で廃れたの?」
「何でだろうなぁ」
 詳細はわからない。どうも俺達のすぐ後の世代で廃止されたそうだが、その際春原の奴が泡を食った様子でわざわざ電話をかけてきたのが印象的だった。……実を言うと、俺もちょっと驚いたのだが。
「そういえば、一部の男子部員が喜んでいたわよ。古代のアーティファクトが復活したって」
「古代ねぇ」
 確かに、彼らが生まれる前に廃れたものが復活したら、そう思うのかもしれない。
「まぁ、何はともあれ。わが演劇部にとっては一石二鳥の新兵器よ」
 スカートをばさばさと動かしながら――おそらく意図的に――汐。
「あ、一石三鳥かも。脱げにくいしね」
「そのことなんだけどな」
 そして、その時点で俺は気付いてしまった。故に、きちんと汐に伝えなければならない。父親として、娘に。
「股下が少しずれて、パンツがちょっと見えているぞ」
 う゛ぃきり。例えるならそんな感じの音を立てて、汐が凍り付いた。「……嘘、だよね?」
 きりきりと、まるで壊れたがらくたの寄せ集めみたいな口調でそう言うので、俺はため息をついてから指摘してやった。
「自分で見てみろ。さっきみたいに俺が見てるままで」
 だが、汐はそうしなかった。ものすごい勢いでこちらに背中を向けると、そっとスカートをめくって何やら確かめている。おそらく、ついでにずれも直すのだろう。
 そして、たっぷり十秒後、
「うわあああ……」
 帰宅直後と同じように、汐は床の上を転げ回ったのだった。
「どうしたよう、おとーさんにすごく恥ずかしいポーズとっちゃった……」
「そうなるな」
 自分で淹れたお茶を飲みながら、俺。
「うう、もうお嫁にいけない……」
「どーぞどーぞ」
「ちょっと、そこは否定するものでしょっ」
「笑止! この俺を世間一般のパパと一緒にされては困る」
 娘を手元に置いておきたい父親連盟、会員ナンバー0000001は伊達ではない。今作った、俺しかいない連盟ではあるが。
「……と、どうでもいいことを自慢げに言うおとーさんだった」
「妙なナレーションはつけなくていいぞ」
「つけたくなるようなことを言うからよ」
 と、拗ねた貌で汐は言う。
「みんなに教えなくちゃ。脱げることは滅多にないけど、ずれることは時々あるって」
「そうだな、そうしてやれ」
 こうして、汐の世代で徐々に扱い方が伝搬されていくのだろう。それがその次の世代でさらに広がっていくのか、それとも再び廃れていくのか、それは俺にも汐にもわからない。けれども、わからなくていいのだと思う。それが世代のギャップであるし、その中で変化が起きることが、人というものなのだから。
「っていうか、他のを探すという選択肢も一応あるぞ?」
 意地悪く、俺は訊いてみる。すると汐はちょっと考えてから、
「駄目よ。わ、わたしの不注意なんだから」
 顔が少し赤くしながらも、責任だけはちゃんと負う立派な返事を返したのだった。



Fin.





あとがきはこちら









































「前のママさんバレーの時も思ったけど、汐ちゃんその格好似合うわねー」
「ありがとうござます。まあ、ブルマクイーンの藤林先生には負けますけど」
「なによそれ」
「アニメ第一期……(ぼそり)」
「なっ……あ、あれは、一回こっきりって条件でね、その、なんていうか……(あうあうあう)」
「(こう言うときの藤林先生って、なんか可愛いなぁ……)」









































あとがき



 ○十七歳外伝、ブルマ編でした。
なんか今回は舞台と設定とついでに朋也自身に私の趣味を押しつけちゃったような気がします。それにしてもまぁなんというか、昭和は遠くなっちゃったなぁ、と。
 さて次回は……回想編、かな?

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