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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「あれ? なんか掲載位置がいつもより上じゃないですか姉御?」
「うむ、今回は緊急動議という奴だ。何せ今回はあれだ、バレンタインだからな」
「ちなみに今年――2010年のバレンタインは日曜日。チョコレートを貰えなくても休日を理由にスコアがゼロであることを正当化出来ますね。……作者とか」
「そんなことを言っていると作中で競泳水着+黒タイツとか訳のわからない格好にされてしまうぞ、西園女史」
「直枝さんが着るのなら、『ばっちこーい!』なんですが」
「みおちゃん、なんかはみ出てる……」
「……失礼しました」
「何を出し入れしたんだ、何を。藪をつついて蛇を出してはたまらないからこれ以上は突っ込む気はないが」
「――その方がよろしいかと」
「流石にふたり掛かりでは敵わないから助かるよ。さて、今回集まってもらったのは他でもない、バレンタイン直前と言うことで所謂淑女同盟の締結を行いたいと思う」
「しゅくじょどうめい? それは何なんだ、こまりちゃん」
「んと、皆仲良くしましょう〜ってことだよ。多分」
「まぁ、お互い禁じ手は使用禁止ということですネ。姉御が本気になったら洒落にならないし」
「なんだ、人を反則技の塊のように」
「……事実かと」
「まぁその論議は後に譲るとしよう。まずはひとつ目、『チョコじゃなくて私を食べて(はぁと)』は禁止だ」
「ゆいちゃん質問!」
「何だね小毬君」
「チョコ『と』一緒なら、おっけーい?」
「だ め だ ぞ ?(はぁと)」
「わふー、笑顔なのに声が震えてます……」
「神北さんならやりかねないと判断したのでしょう」
「……続けるぞ。次に、これがチョコレートに入れてはいけないものリストだ」
「えーと、ヤンデレ演出用青酸カリ、ドリフ用ニトログリセリン、エトセトラエトハタイガー……って、媚薬って何なんですか姉御ぉ!」
「文字通りの代物だが?」
「チョコレートも昔は媚薬扱いだったとか。後何故か爬虫類を粉末上にしたものが精が付くと推奨されています。スッポンとか、ハブとか、トカゲとか」
「あとは月夜の晩の丑三つ時にヤモリと薔薇と蝋燭を焼いて潰して粉にしたものを使用することも禁ずる。何せ強力だからな」
「薔薇と蝋燭はともかくヤモリは色々ときついですね。絵的に考えて」
「……いや、何も生きたヤモリとは言っていないんだが」
「どっちにしても、どれもチョコレートには入れたくないねぇ……」
「マタタビはどうだろう」
「猫にあげたいんですか?」
「む。そう言う訳じゃないが……でも万一理樹が興奮したら大変だもんな」
「(言ったァー! 直球ど真ん中ストレートォ!)」
「(これだから鈴君は侮れん……)」
「(わふー……ある意味羨ましいです……)」
「(これで鈴さんが男性だったら最高だったんですが)」
「やっぱり、りんちゃんは理樹君にあげるんだねー」
「うん。こまりちゃんは誰にあげるんだ?」
「私? ひ・み・つ〜」
「そうか。受け取って貰えると良いなっ」
「ああそうだ、最後に言っておこう。人間チョコレートフォンデュは禁止だ」
「なんなんですかソレ……」
「おや、葉留佳君は知らなかったか。チョコレートを(筋肉筋肉ぅ)に塗りたくって(うまうー!)させたり、気合いが入ったのになると(まーん!)に注入して(猫の行進、にゃんにゃんっ)とかさせたりする訳だが」
「できるかッ!」
「むしろホワイトデーでして欲しいです」
「理樹くんでもいやだよそれッ!」
「飴で出来た理樹君ならおっけーだけどねぇ」
「そんな少年の彫像が手に入ったら床の間に飾ってしまうじゃないか
「私も欲しいですけど、ベルカとストレルカに食べられちゃいそうです……」
「(皆さんさらっと渡す相手を公開していますね……)」
「……ところで、笹瀬川女史と二木女史は?」
「今回は、単独行動だそうです」
「ふむ、そうか……それでは諸君、健闘を祈る!」
「うん!」
「……プロージット」
「イエスマム!」
「ぐっどはんてぃんぐ・すたるかあ! なのです!」
「ノリノリだねぇ……」

















































  

  


「そうか、もうそんな季節か」
 僕の隣で謙吾がそう呟いたのは、2月14日、聖バレンタインデーの朝だった。
 この日、いつもそろって行動する僕ら――僕、真人、謙吾、恭介、鈴の五人――のうち、朝食から一緒だったのは謙吾だけという珍しい状況で、ふたりしてどうしたのだろうと話しながら校舎に移動していたのだけれど……その女子の行列を見たときにその疑問は一気に氷解した。そして、先程の謙吾の言葉と続くことになる。
 その行列は、リトルバスターズの女性陣だけで構成されていた。
「ちょっこれいとっ、ちょっこれいと♪」
 先頭で、小毬さんが歌っている。
「食べ過ぎたら〜、はーなぢー♪」
 そのすぐ後ろに居るクドの歌は何というか、間違っている。
「ちょっこれいとっ、ちょっこれいと♪」
 さらに後ろに、鈴。
「食べ過ぎたら〜、は・な・ぢ!」
 その隣に居る葉留佳さんも間違っていた。というかクドが間違っている原因は、葉留佳さんが吹き込んだからなんだろう。
 そして、最後尾を西園さんと来ヶ谷さんが固めている。
 皆、手に包みかそれが入りそうな手提げ袋を手にしていた。
「姉御もとい隊長、理樹君を発見しましたァ!」
「よろしい、身柄を確保しろ」
「了解ッ! というわけで鼻血を噴くんですヨ! 理樹君!」
「えーっ……」
 そんな理不尽な。



『戦慄のバレンタイン』



 たちまちバスターズの女性陣に囲まれてしまう僕だった。
「ちょおっとまったー!」
「うまうー!」
 為す術がない僕、呆れながらも助けてくれようとした謙吾、そしてどこか目が怖いまま僕に近づいていた小毬さん達が一斉に声のした方を振り返る。
 視線の先には、変な二人組が居た。
「くれっくれっくれ! ちょこれいとぉお〜」
「うっまっう〜!」
「くれっくれっくれ! ちょこれいとぉお〜」
「はらほれうっまっう〜!」
 ……訂正。僕がよく知っている、いつもより変な二人組が意味不明な踊りを踊って居た。
「何してるのさ。真人、恭介」
 お揃いの覆面レスラーが被るようなマスク(おでこの部分に真人は1号、恭介には2号と書いてあって、目の周囲にはファイアーパターンが施されているかなり凝ったもの)を被っているけど、それ以外は普段の格好だったのですぐにわかる。
 で、その真人と恭介はというと、先程の勢いは何処へやら、すごすごと(マスク越しに)頭の裏を掻いて、
「「いや、チョコが欲しくてな」」
 そんな、真顔で言われても。
 いやでも、真人はともかく恭介までのっているのは珍しい。テーマでみるとそれが逆――真人がチョコレートを欲しがっている!――になるのも。
「……恭介は黙っていても貰えるでしょ」
 うぉぉ、なんだか傷ついた! と叫ぶ真人をとりあえず意識の外に押しやりながら、僕がそう指摘する。すると恭介はあらぬ方向を向いてぽつりと、
「だが、俺からくれと言って貰えた試しがないんだ」
 そりゃ、うまう〜とか言っていれば、貰えるものも貰えないと思う
「で、真人はどうしたの? もしかして遅咲きの恋?」
 あまりにもあり得ないけど、できれば起きて欲しいことを訊いてみる。
「いや、オレは謙吾に負けたくないだけだからな」
「それはそれで相手に失礼だと思うよ……」
 というか予想通りだった。
「何というか、虚しくないのか。お前達は……」
 呆れたかのように、謙吾。
「悪いが、先に行かせて貰うぞ。理樹、女性陣からの救出はそこの二人に依頼してくれ」
「え、あ……うん」
 全員が立ち尽くす中、謙吾は悠々と教室に向かって歩いていく。
 ――ややあって。
「くれっくれっくれ! ちょこれいとぉお〜」
「うっまっう〜!」
「くれっくれっくれ! ちょこれいとぉお〜」
「うっまっう〜!」
 真人と恭介が、そうがなり始めた。
「……ご心配なく」
 女性陣を代表して、西園さんがそう答える。
「おふたりの分も用意してあります。決してうぜぇ筋肉男、とか変態仮面野郎、とは思っておりませんから」
「何でだろう、僕の心がすごく痛いよ西園さん」
「疑いすぎはよくありませんよ、直枝さん」
 うん、それはそうなんだけどね。
「とりあえず、こちらをどうぞ」
 今とりあえずって言ったよね――という言葉を飲み込む僕を余所に、西園さんは紙で出来た小さな小箱をそっと開けた。
「……なぁ西園よ」
 奇妙な踊りをぴたりと止めた真人が、そう訊く。
「なんでしょうか」
「何でこのチョコ、微妙に赤いんだ?」
 そう真人に問われると、西園さんは小首を傾げて、
「おそらく唐辛子のせいかと」
「なんで唐辛子をチョコレートに入れるのっ」
 思わず突っ込んでしまう僕だった。
「味覚的革命を目指してみました。それに、義理チョコだけですから」
「それ、ある意味酷いよねっ?」
「唐辛子に含まれているカプサイシンは筋肉増量の効果があるようですよ?」
「マジか!?」
 ないないないない。
「お前のその気持ち、オレの大胸筋がしっかりと受け止めたっ!」
 けれど筋肉が増えると聞いた真人が僕の忠告を受け入れるはずもなく、
「筋肉を、革命する力をっ!」
 そう言って、真人は西園さんの妙に赤いチョコレートを一気に食べた――箱の中身を、丸ごと。
「……辛れええええええええっ!」
 大きくなった唇を押さえて、真っ赤な顔になった真人は廊下を転げ回る。
「……排除、完了」
「えー」
 それはちょっと黒すぎるよ、西園さん……。
「そして、恭介氏にはこちらだ」
 そう言って西園さんのものと同じ造りの小箱を開けたのは、来ヶ谷さんだった。
「こっちのは何か微妙に光っているんだが……」
 ふたりでのぞき込んだ後、恭介がそんなことを呟く。
「ああ、それは」
 と、淀み無く答える来ヶ谷さん。
「学校の裏山に生えていた光るキノコを粉末状にして混ぜたんだ」
「……色々とすげぇな」
「でもこれ、意外と流行るかも」
 光るチョコレートとして売り出せば、ちょっとした流行にはなると思う。
「ああ。食べて問題が無ければな」
 ……はい?
「来ヶ谷さん、まさかと思うけど……」
「――来ヶ谷」
 僕を遮って、冷や汗をかきながら恭介が訊く。……既に、一口食べてしまっていたのだ。
「毒キノコかどうかの判定は、していないということか?」
「その通りだっ!」
 無駄に偉そうに、来ヶ谷さん。
「チョコレートには科学する心があれば十分であり、それに実験は不可欠なのだ。そうは思わないかね? 恭介氏」
「要するに、乙女心は微塵も入っていないんだね……」
 と、僕。
「大丈夫? 恭介」
「ひ、冷や汗が止まらん……」
 ……え?
 僕は、来ヶ谷さんと顔を見合わせる。
 その間にも恭介はどんどんと蒼くなっていき――、
 ついに、微かに発光しはじめたのだった。
「……ふむ、『このキノコには発汗作用を促す効果があります』――と」
「いやいや、最初の症状をいかにも健康食品の効果ですって感じで書いちゃ駄目でしょ、来ヶ谷さん……」
「次の課題は被検者の発光を抑止する事だな」
「他にも改良するところ、あるよね!?」
 床にうずくまる恭介の背中をさすりながら、思わず叫んでしまう。
「まぁ、何はともあれ障害の排除完了と言ったところですか」
「えー」
 今日は何処までも黒い西園さんだった。
「そんなわけ――」
「あるかぁぁぁぁ!」
 真っ赤になった真人と、ついに常灯状態になった恭介が叫ぶ。
「ふん、弱体化した両氏はもはや敵ではない。鈴君、葉留佳君、蹴散らしたまえ!」
「あああ、もう知らない……」
 なんというかもう、見ていられない。
 その刹那、ついと袖を引かれて、僕は呆気なく騒ぎから離脱することができた。
 袖を引いていたのは、クドだった。



 ついていった先は、家庭科部の部室。僕とクドが昼食を食べるときによく利用する場所だった。
「……ふぅ」
 なんというか、朝から続く大騒ぎの中やっと腰を落ち着けられた気がする。
「助かったよ、クド」
「いえ……皆さん殺気立ってましたから」
 流石にあそこまでやると、ついていけなくなってしまいます……と苦笑しているクドに、僕も思わず微笑みを浮かべてしまう。
「ところで、リキ……」
「うん、なに?」
 僕が返事をすると、クドは何度か深呼吸してから、
「その、お渡ししたい物があるんです……」
 多少語尾が掻き消え気味だったけど、そう言った。
「えっと、それって……」
「はい。ちょこれーと、です」
「いいの、僕だけ先に貰って」
「はい。井ノ原さん達には後で渡しますから」
「そっか……」
「だって、リキには先に渡したかったんです」
「え……?」
 思わず僕が聞き返すと、クドは被っていた帽子で顔の下半分を隠して、
「だって……本命ですから」
 それでもはっきりと、そう言った。
「ありがとう、クド」
「リキ……」
 顔を赤らめながら、クドがチョコの包みを差し出す。僕はそれを丁寧に受け取ったのだった。
 始業までまだ時間がある。先にちょっとだけ食べちゃっても大丈夫だろう。
「折角だから、ここで少し食べていくよ」
「あ、それじゃあお茶淹れますね」
 僕は丁寧に、クドから貰ったチョコレートの包みを解いた。中から出てきたのは……。
「抹茶チョコレートなんだ」
「はい。来ヶ谷さんに教えてもらいましたっ」
 すごく嬉しそうに、クド。
「ありがとうクド。嬉しいよ」
「私もです。リキ」
 急須から立ち上る細い湯気が、紅潮したクドの頬を少しだけ和らげる。



 一緒に帰るとちょっと気まずいので、先にクドを帰して少し時間をつぶしてから、僕は教室に戻った。
 さっきあれほど騒いでいたんだから教室も酷いことになっていないかと心配していたけど、ドアを開けてみるば中はいつも通りだった。
「本日一発目だな、理樹」
 僕の持っている包みを見て、早くも元通りになった真人がにやりと笑う。
「それを言うなら一個目ね」
 真人のことだから意図的ではないと思うけど、そう訂正する僕。
「んで、他はどうだったんだ?」
「え? 他って?」
「それ以外でもいろんな女子からたんまりもらえたんだろ? なんたって理樹はヘビーフェイスだからな!」
「それを言うならベビーフェイスでしょ」
 むしろ顔面の筋肉の量を考えると、真人の方がヘビーだと思う。
「今年も頼むぜ、俺のために!」
「なんでお前のためなんだ……」
 ハッスルする真人に対し、謙吾がそう指摘する。
「そりゃまぁあれだ」
「食べきれない分、真人がこっそり食べちゃうんだよね……」
「浅ましいな……」
 呆れたかのように、謙吾。
「んだよ。理樹が食べきれない食べきれないってため息つくから片付けてやっただけだぜ?」
 う……そう言われると、そうなんだけど。
「だとしても他に解決方法があるはずだ。それと理樹、もらって後悔するのなら、先に断るのが筋と言うものだぞ?」
 それは、確かに謙吾の言う通りだと思う。
「そもそも、複数の本命を受け取ることそのものが、火種にならないとも限らん。努々、忘れないことだ」
「そう言う手前ぇはどうなんだよ謙吾、ちゃんと断ってんのか?」
「あぁ」
「ほら見ろ、手前ぇだって――『あぁ』……?!」
「そうだ、すべて断っているが?」
「す、全てだとぉ!?」
「お前は仙人かよっ!?」
 唖然とした様子で、真人と恭介。
 っていうか恭介……。
「もう、具合はいいの?」
 ため息をつきながら、僕。
「ああ、むしろいつもよりすっきりしているぜ!」
 親指をぐっと立てて、恭介が爽やかな貌で言う。
 ……顔を、点滅させたままで。
「――恭介よ、悪いことは言わん。保健室へ行こう」
「いや、だから俺は大丈夫ぶぶぶぶぶ?」
 見事にバグっている、恭介だった。
「――理樹、済まないが恭介を保健室に連れて行ってくる。教師が来たらその旨を伝えてくれ」
 ため息をつきながら、謙吾。
「了解。保険の先生によろしくね」
「ああ。それじゃ行くぞ? 恭介」
「だだだだから俺は、大丈夫だっだっだ……」
 点滅が続いているせいでもはや恭介と言うよりラッパー恭介、あるいはロボ恭介と言った方が良いような気がする。そんなメカメカしい恭介の肩を担いで、謙吾は保健室へを向かうべく教室を後にしたのだった
「……メカ化したら筋力上がらねぇかな」
「素早さが落ちて雷に弱くなるけど、いい?」
 真人とふたり、そんな他愛もない話をする。
 まもなく一限開始、そうなれば特に騒ぎになることは起きないだろう。
 そう思った次の瞬間、窓からふと影が差した。
 恭介が上から降ってきたのだろう――ってちょっと待って。恭介なら今さっき保健室に運ばれたはず。なら今上から降ってきたのは誰――葉留佳さん!?
 そう、葉留佳さんだ。
 葉留佳さんが、恭介のように上の階から窓から僕らの教室に――、
 びたーん。
 文字に表すとしたら、そんな音がした。
 ……非常に言い辛いことだけど、ここのところ寒い日が続いていたので、窓は閉まっていたのだ。それ故、葉留佳さんはど根性ガエルと思わず呟きたくなるポーズで窓と正面衝突し、そのままずるりと――、
 って葉留佳さんが落ちるっ!
 僕が行動を起こした刹那、事情を察した真人が素早く窓を開け、僕は葉留佳さんの手をぎりぎりで掴むことができた。
「引き上げるぞー」
「お願いっ」
 ただ、僕の体力では葉留佳さんを引き上げられないので、真人に僕の腰とベルトを掴んで、引っ張ってもらう。
「大丈夫? 葉留佳さん」
 よほど勢い良くガラスに衝突したのか、少しぼんやりしていた葉留佳さんだったけど、徐々に意識がはっきりしてきたみたいで、
「理樹くん?」
 ぼそりと、小さな声でそう訊いてくる。
「うん、そうだけど……大丈夫? どこか痛くしてない?」
「うん、大丈夫ダイジョウブ……あはは、恥ずかしいところ見せちゃったネ」
 そういって葉留佳さんは恥ずかしそうに笑い、
「って介抱されている場合じゃなかった!」
 慌てて腰の後に括り着けたウェストポーチを開く。
「良かった。ここにしまって大正解だった……理樹くん、これ」
 そう言って葉留佳さんが手渡したのは、可愛らしく包装された小さな包みだった。
「そのために、わざわざ上から?」
 受け取った僕がそう訊くと、葉留佳さんは自分のお下げを触りながら、
「いや、私の地味だからさ。あげる演出だけ派手派手に行こうと思ったんデスヨ」
 少し顔を赤くして、そんなことを言う。
「それ、バレンタインのチョコレートね。あ、出来は期待しないで。あまり練習できなかったから……でも一応、本命だよ?」
「ありがとう葉留佳さん。嬉しいよ」
「そ、そうかな? ……理樹くんが喜んでくれるなら、いいかな」
 なんだか、普段よりずっと素直な感じの葉留佳さんだった。
「ところで葉留佳さん」
「うん、なに?」
「スカートで飛び降りるの、やめようね」
 葉留佳さんの顔が、さらに赤くなる。
「……もしかして、見えちゃった?」
「……うん。割と、はっきり」
「うわあああああああっ、りきくんのえっちいいいいいいいッ!」
 そんなことを言われても、不可抗力だった気がする。
「うううぅ、心底恥ずかしい……。まぁ理樹くんだけだから――いっか」
「オレにもしっかり見えたけどな」
 親指をぐっと突き立てて、真人が余計なことを言う。
「さっさと忘れろこの筋肉ダルマー!」
 だから、不可抗力だったと思う。
 なにはともあれ、その薄いブルーの鋭角が、しばらく頭から離れそうになかった。
 そう。水色の、嫌味にならない程度に装飾されたレースの……
 って僕ガン見してた!?



「理樹君理樹君。ハッピーバレンタイン、ですよ〜」
 あれだけの大騒ぎだったのにもかかわらず、授業は平常通り行われ、そして無事に迎えた昼休み。食堂から教室に戻ってきた僕を出迎えたのは、そんな小毬さんの元気いっぱいな声と、彼女が担いでいるサンタクロースのものと誤解しそうな程巨大な布袋だった。
「ど、どうしたのそれ……」
 ずしんといった感じで、机の上に乗っけられたそれを見つめながら、席に着いた僕はそう小毬さんに訊く。
 あまりに大きいおかげで、前が全く見えない。まさに弾薬庫。そんな感じだった。
 教室中のどころか、全校生徒に配っても余りそうなチョコレートの山を作り上げて、小毬さんは何をしようというのだろう。配るのを手伝うぐらいだったらやってもいいかなとか考えていると、小毬さんはきょとんとした貌で、
「どうしたもなにも、今日はバレンタインだよ?」
「うん、それはわかっているけど」
 僕がそう言うと、小毬さんはほっとした様子で、
「よかった、バレンタインを知らなかったらどうしようかと思ったよ」「いやまぁ、このご時世でそれはないんじゃないかな」
「それもそうだねぇ。それでは改めて……ハッピーバレンタインですよ、理樹君」
「あ、ありがとう……」
 どうにもこういうやりとりは、照れくさい。
「えっと、それで……その袋の中の、どれを貰えばいいのかな?」
「どれって、全部だよ?」
「ああ、全部僕に……えええええ!?」
 思わず席を立ってしまう。そんな僕を袋の中身が知るべく立ち上がったと誤解したのか、小毬さんは袋を開けて中から可愛らしくラッピングされたチョコの包みを次々と並べていく。
「ホワイト、ストロベリー、メロン、夕張メロン、ビターにミルク! 他にもコーヒー、ヨーグルト、黄粉、小豆、カボチャと何でも揃ってるよ〜」
「ちょ、ちょっと待て小毬君!」
 何か思うところがあったらしい。葉留佳さんの時には黙って見ていた来ヶ谷さんが乱入する。
「これ全部を少年にあげる気かね?」
「うん? そうだよ?」
 小首を傾げて、そう答える小毬さん。
「質もいいけど、数も大事。贈り物は、数ですよ〜」
 あぁ、まぁお歳暮とかはそうみたいだけど……何か違うような気もする。
「しかしだな――」
「ゆいちゃんゆいちゃん」
「うむ?」
「みんなにひとつずつあげてもいいんだから、ひとりにたくさんあげちゃ駄目ってことも、ないよね?」
「た、確かにそうだが……」
「製菓会社が聞いたら、泣いて喜びそうな理論ですね」
 と、こちらも乱入している西園さん。でも確かに、僕もそう思う。
「それに去年あたりから『自分チョコ』で販売個数を増やしましたから、下手をすると来年のバレンタインから意図的にそういう広告を流すかもしれません……」
「いや、いくら何でもそんなことをしないんじゃないかな……」
 多分、いやきっとそう、そうだといいな……。
「っていうか自分チョコってなに?」
「いつも素敵な筋肉でいてくれてありがとうって意味じゃね?」
 それは真人限定だと思う。
「あながち間違っていません。要は自分用のチョコレートです」
 そして西園さんの解説に淀みはなかった。
「どこかの集計によると、義理チョコより自分チョコにかけるコストの方が高いようです。義理チョコの重さがよくわかるデータですね」
「うん……そうだね……」
 でもそれは、あんまり聞きたくなかった情報のような気がする。
「色々大変なんだねぇ……」
「いや、今回一番大変だったのは小毬さんだと思うよ?」
「うん? そうかな?」
 自覚のないところが、小毬さんらしいと言えば小毬さんらしい。
 そしてこれも悪気があってやったことじゃないのだろうけど、このままだと午後の授業は出来ない。何せ、黒板が全く見えないのだから。
「真人」
「ん?」
「あとで運搬、お願い……」
「ああ、任せときな!」
 情けない話だけど、僕ひとりではとても持てる量には見えない。それを持ってきている小毬さんは一体どうやって運んできたのか、謎だと言えば謎だった。
「あ、でも午後の授業が始まる前に持っていった方が良いかも……」
「小毬の言う通りだな。どれ、食後のひと働きと行くか」
 軽々と小毬さんがくれたチョコレートの袋を担いで、真人。その姿はちょっとマッチョなサンタクロースに見えなくもない。
「運ぶ途中で食べちゃ駄目だよ、真人」
「心配すんな。顔見知りのチョコレートは食べねぇよ」
 そういうところは妙に律儀な真人だった。
「んじゃ理樹よ、ちょっくら行ってくるから万一間に合わなかったら適当に誤魔化しておいてくれや」
「うん、わかったよ」
「頼んだぜ?」
 本人もそれっぽいと思ったのだろう、ほぅほぅほぅと掛け声を上げならら、真人は教室を後にした。もっともそれはサンタクロースと言うよりグリーンジャイアントっぽかったけど。



「ところで、ゆいちゃん、みおちゃん」
 そして真人が居なくなった後で、小毬さんがぽつりとそんなことをいう。
「うむ?」
「なんでしょうか」
「ゆいちゃんも、みおちゃんも今の内にあげちゃったら?」
 意外と大人っぽい様子で、小毬さん。
 けれど来ヶ谷さんはさらに上手だったらしい。狼狽えることなく静かに笑うと、
「ん? 私の分なら、『もう少年に渡してある』ぞ」
「……え?」
 そんな記憶は一切無い。
 ただそれは来ヶ谷さんには想定内だったようで、唖然としている僕を見ながら人差し指を左右に振ると、
「内ポケットだよ、少年」
「え、あ――本当だ。何時の間に……」
 朝制服に着替えてから今の時間まで、僕は一度も上着を脱いではいない。でも間違いなく、その素朴な包装の包みは僕の上着の内ポケットに入っていた。
「当然のことだが、既に受け取ったものと判断する」
「えー……」
 相変わらずな様子で、来ヶ谷さん。けれど、
「返品はなんだ、その……困る」
 その後は微妙に、来ヶ谷さんの本音が混じっている気がした。



「では次は、わたしですね」
 西園さんが、静かに席を立つ。
 ややあって――、
『西園君、あぶなーい!』
『ああっ、西園さんが! 西園さんが我々科学部が作った蒸留水8ガロンにっ』
『なんということだ、西園君、その様子では下着まで濡れてしまっただろう。だがこんなこともあろうかと我が科学部は君の為にサイキックスーツを開発済みだ。耐寒耐熱対衝撃対塵そして耐水と完璧だからそこの空き教室で着替えていきたまえ!』
『濡れた服は我々科学部が責任もって洗って乾かしますのでご心配なく! え、必要ない?』
 ……聞かなかったことにしよう。そう思う。
 それからさらにややあって、
「お待たせしました」
「いっ――!」
 その西園さんの格好に、驚いてしまう。見れば、小毬さんは頬に汗をかきながら固まっていて、来ヶ谷さんはそっぽを向いて地団太を踏んでいた。どうも、来ヶ谷さんの琴線に触れる何かがあったらしい。
「どうかしましたか?」
「いやまぁ……」
 小首を傾げられても、こっちが困る。
「まぁそれはともかく、これを……」
 手渡されたのは、革のブックカバーに包まれた新書版サイズの本だった。
「さすが西園さんだね。チョコレートじゃなくて本だとは――」
 違った。
 ページをめくろうとして、気付いた。
 本田と思っていたそれは本の形をしたケースで、その中にはチョコレートが入っていたのだ。
「いくら本好きでも、こういうときぐらいは空気を読みます」
 と、西園さん。
「でないと、あの子に怒られますから」
「それはいいんだけどさ……」
 ついに我慢が出来無くなって、僕はそう訊いてしまう。
「なんで競泳水着、着ているの?」
 おまけに水着の下は黒タイツ。
「サービスカットです」
「誰へのさ」
「それは、直枝さんのご想像にお任せします」
 ちょっとふくれっ面になっているってことは、僕向けなのではないだろう。多分。



 そんなこんなで、放課後になった。
 僕はひとりで、バスターズの部室へとグラウンドを歩く。少しだけ、考えたいことがあったからだ。
『もらって後悔するのなら、先に断るのが筋と言うものだぞ?』
 朝方の謙吾の言葉を、思い返す。
 結局、僕は贈られたチョコレートを全て受け取っていた。
 謙吾の言葉を無視した訳じゃない。ただ……僕は……。
「ここにいたのか、理樹」
 不意に後からそう声をかけられて、僕は慌てて振り向いた。
「鈴――どうしたのさ、台車なんか押しちゃって」
「うん、これか? これはだな……」
 台車の上には、猫を一回りか二回り大きくしたような正方形の包みがふたつあった。それをそれぞれ指さしながら、鈴は得意げに、
「バレンタインのチョコレートだ」
「なるほどね。ふたつってことだふたりにあげるんだ」
 まさか、小毬さんみたいに複数個を渡しはしないだろう。そう思いながら僕がそう訊くと、鈴はきょとんとした様子で、
「いや、ふたりもあげるつもりはない。理樹だけだ」
「僕だけなんだ!」
 もしかしてもう流行っちゃっているんだろうか、複数個チョコ――なんて僕が思っていると、鈴は大きく胸を張って、
「ふたつあるのは、ちゃんと理由がある。なんと、これで理樹とあたしの絆がわかる! らしい」
「受け売りなんだ!」
 せめて僕だけには伏せて欲しかった。
「どっちかにチョコレートが入っていて、どっちかに別のものが入っている。そして、理樹は必ずチョコレートの入っている方を選ぶ。それが、あたしと理樹の絆だ」
「そんなこと言っても……」
 その大きなふたつの包みは、どちらも同じように見える。
 ……絆、か。
 それは、確かに欲しいものではある。でも僕にそれを引き寄せる力があるというのだろうか。そんなことを考えながら、僕はふたつの包みに近づいて――。

 ぬおおおおおぉぉぉぉ……。

 ――今、確かに聞こえた。片方の包みから、微かに響くドルジの鳴き声が。
 包みの大きさから推測するに、ドルジはほぼ、がんじがらめの状態で包みの中にいることになる。つまり――
「こっち、かな?」
 僕は鳴かなかった方の包みを選んだ。
「すごいぞ、理樹っ。あたりだ!」
 瞳を輝かせて、鈴。
「こまりちゃんの言う通りだったな……流石こまりちゃんだ!」
 ……え? 小毬さん? 来ヶ谷さんではなくて?
 ……え? ……え? ……ええー。
「そんな……馬鹿な……」
 思考停止を起こしそうになる僕を置いて、鈴は続ける。
「でもやっぱりすごいのは理樹だ。どっちがあたしのチョコかわかったんだからな」
 選んだ側の包みを胸に抱いて、鈴は嬉しそうにそういう。
「ほら理樹、あたしからのチョコレートだ」
「うん、ありがとう。……ところで鈴」
「なんだ?」
 ものすごく上機嫌だとばかりに髪留めをちりんと鳴らし、鈴。
「猫をを箱の中に閉じこめちゃ、いけないよ」
「なにぃ!?」
 たちまち鈴の柳眉がつんと上向きになる。
「猫をとじこめたやつがいるのか、ゆるせん!」
 いやまぁ、今目の前に居るんですけど。
 僕はため息をつきつつ、台車に置かれっぱなしの包みを指さして言う。
「こっちの包み、ドルジが入っているんでしょ」
 すると鈴は驚いたように目を見開いて、
「うん、そうだ。理樹はすごいな」
 絆が倍率ドンで二倍だな、と頷く。
「えっと……ドルジって何だっけ?」
 僕がそう訊くと、
「理樹は変なことを聞くな」
 当然のように鈴は笑って言う。
「ドルジは、ドルジだ」
「……ああうん、そうかもしれないね」
 鈴にこの話を吹き込んだ人は、相当頭がいい。仮にそうでなかったとしても、鈴のことをよく知る人物のようだった。……本当に小毬さんなんだろうか。
「とりあえず、その台車と――ドルジを片づけて来なよ。僕は部室で待ってるから」
「そうだな、そうするか」
 にばいにばーいと機嫌良さそうに歌いながら、鈴は台車をがらがらと鳴らしつつ校舎の方へ戻って行った。
 そんな鈴を見送ってから、僕は部室へと足を向け直す。
「……ふぅ」
 鈴から貰ったチョコレートも、大きさに見合う重さだった。とりあえず僕のロッカーにかろうじて入りそうなので慎重に格納する。
 ――これで、僕はバスターズの女性陣全員から貰ったことになる。
 それは、より謙吾の言葉が重くなって、より僕の考えていることが深くなったということでもあった。
 そこへ、控えめなノックの音が響く。
「はーい」
 ノックをすると言うことは、バスターズ以外の人で、なおかつバスターズの誰かに用がある人だろう。果たして、ドアを開けてみると訪問者は僕らが良く知る人物だった。
「あ、笹瀬川さん」
 そう、訪問者はソフトボール部のエースで鈴のライバルで、小毬さんの元ルームメイトの笹瀬川佐々美さんだった。今日は部活じゃないのか、制服姿で、しかも手に小さな紙袋を提げている。
「あら、練習の準備中だったかしら」
「いや、まだ何もしてなかったから」
「そう……宮沢さん、いらっしゃいます?」
「謙吾? まだ来ていないけど」
「そうですの……」
 たちまち意気消沈してしまう笹瀬川さん。理由はまぁ……その手の紙袋絡みだろう。
「困りましたわ。出直してすれ違いになってもあれですし……」
「ここで待っていればいいんじゃないかな」
 笹瀬川さんが律儀にも部室に入らないので、代わりに僕が外に出て、そう提案してみる。
「それだと棗鈴と先に遭遇してしまいますわ――何かしら?」
 そこで、笹瀬川さんが校舎の方を見つめた。
「うん?」
 続けて僕も気付き、校舎の方を見る。微かに伝わってくる地響きの源へと……。
「ドルジーっ!」
 今度は間違えようもない。鈴の叫び声だった。
 そして徐々に近づいてくる地響きと共に、とうとう我慢できなくなったのだろう、ドルジが涙を滝のように流しながら意外にも俊敏な動きで爆走している。
「待て! お前は一体何処に行くんだドルジ――っ!」
 さらにその後を、綺麗なフォームで鈴が追いかけていた。
「なにをしていますの、棗鈴は……」
 呆れたかのように、笹瀬川さん。
「ちょっとした、行き違いかな」
 って、ドルジが爆走している方向は――もしや、
「避けろ、ささなっぱささみ!」
「誰がナッパだ!」
「って本当に避けて笹瀬川さん!」
 そう、ドルジはまっすぐこっちに向かっている!
「え――きゃあ!」
 暴走するドルジが、笹瀬川さんをはねた。
 けれど流石はソフトボール部のエース、空中で姿勢を整えて華麗に着地する。
 けれども問題は別にあった。
 笹瀬川さんが持っていた紙袋から、チョコレートの包みが飛んだのだ。
「ああッ!」
 誰かが叫ぶ。
 僕も、笹瀬川さんも、鈴ですら動けない。
「むんっ!」
 そこへ飛び出したのは、謙吾だった。
 地面を蹴って横っ飛びなりながらも、見事にキャッチし、空中と地面でそれぞれ一回転しながらも、むくりと起き上がる。
「だ、大丈夫ですの!?」
 慌てて駆け寄る笹瀬川さんに、謙吾は安心してくれとばかりに大きく頷き、
「ああ、大丈夫だ。割れていないぞ。笹瀬川」
「……ありがとうございます、宮沢さん」
「なに、捨ておけなかっただけだ。気にするな」
 そう言ってチョコレートの包みを渡そうとする謙吾。
 だけど、笹瀬川さんは受け取らなかった。
「笹瀬川――?」
「宮沢さん……」
 そこで笹瀬川さんは小さく深呼吸をすると、
「……お、お願いです。そのチョコレート、預かっていただけませんか?」
 謙吾は手にしているチョコレートの包みと、立ったまま黙って俯く――そして顔が赤い――笹瀬川さんを交互に見た後、
「――ああ。わかった」
 そう言って、チョコを胴着の懐に入れた。
「ありがとうございます。それでは、失礼いたしますわ」
 深々と、本当に深々と一礼して、笹瀬川さんは急ぎ足で校舎へと戻って行った。
「謙吾」
 一部始終をグラウンドで見ていた恭介――かろうじて快復していた――が、真人を伴ってそう声をかける。
「何だ?」
「貰うのか、そのチョコレート」
「ああ」
「なんでまた……」
 恭介の後を継いで、僕がそう聞く。すると謙吾は口の端を少しだけ笑みの形にして、
「そこまで俺も、朴念仁ではないと言うことだ」
「……また奥ゆかしい名言が生まれちまったな」
「っておい! 恭介!」
 そのノートは何だと謙吾が叫ぶ。




――そこまで俺も、朴念仁ではないと言うことだ――
宮沢謙吾(生まれてはじめて貰ったチョコレートを抱きしめながら)



 うわぁ。
 ……なんというか、色々とひどい脚色が付いていた。
「いよっ、このロマンティック大統領!」
「ちゃんと神棚に飾れよ!」
「お、お前らー!」
 謙吾がキレた。でもこれは仕方がないと思う。
「……まぁいい」
 青筋を立てながらも、逃げた恭介と真人を追わずに謙吾。
「それで理樹。朝方の俺の言葉は、ちゃんと届いたか?」
「そのことなんだけどさ」
 何というか、今の謙吾を見ていて答えが見つかったような気がする。「決めるのは、まだ先でも良いと思うんだ。今はただ、みんなと一緒に居たいんだ」
 僕の独りよがりになってしまうけど、みんなのチョコレートは、一緒にいたいという意思表示なんじゃないかと思う。そして僕としても、
みんなと一緒にいたかった。
 たとえ、将来だれかひとりを選ぶのだとしても。
「それじゃ……駄目かな」
「いや、お前らしいと思う」
 と、謙吾。
「だが……」
「うん?」
「ホワイトデーまでには、ちゃんと決めておくことだな」
 ……あ  ゛。
「今から覚悟を決めておけよ、理樹」
 息子を見守る父親のような貌で、謙吾がそう言う。
 でもね、謙吾。
 一ヶ月後って、あまりにも時間が足りないよ……。



Fin.




あとがきはこちら













































「……あら、二木さん。貴方は表にでなくてよろしいの?」
「私のはいいのよ。でないと貴方達の奇行、『見逃せなくなる』でしょ」
「それって、損な性格ですわよ」
「損で結構。その方が、私に合うのよ」





































あとがき



 久しぶりのリトバスはバレンタインでお送り致しました。
今回はちょっと実験気味に色々とやってみました。バスターズの女性陣を全員だそうとすると、どうしても書きたいことが山盛りになってしまい、一週間も遅れてしまいました;;。
さて次回は……誰にしようかな?

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