超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「ああっ、お屠蘇飲み損ねちゃった! 折角堂々と飲めるチャンスだったのにっ」
「お前は何を言っているんだ……。ちなみに、作者はお屠蘇の代わりにウィスキーを正月に飲んでいたらしいぞ(ラフロイグ10年、ザ・マッカラン12年、オールド・パー12年)」
「りーふーじーんーだー! こうなったら作者に交渉して○二十歳編を……」
「だからお前は何を言っているんだ……」






















































































  

  


「あけまして、おめでとうございます」
「今年もよろしくお願いいたします」
 汐と一緒に暮らすようになってから、俺達の元旦の挨拶はいつもこんな感じだった。まぁ、ここら辺はどこの家庭でも同じだと思う。
「それにしても、すごいな」
 ちゃぶ台の上に並べられたお節料理をつつきながら、驚嘆する俺。
「早苗さんに教えて貰ったの」
 と、今年十七歳、もう少しで十八歳の汐が、少し誇らしげにそう言う。
「作るの大変だったろ。部活忙しかったんじゃないのか? 主演女優二回もやったんだし」
「うん。だから蒲鉾とか伊達巻はお店で買ったものなの。わたしが作ったのは、栗きんとんとか、紅白の酢の物とか、煮物くらいだよ」
 それでも作り方がさっぱりわからない俺にとっては、すごいことだった。
「さて――」
 あらかた食事が終わった頃を見計らって、俺。
「汐、いつものやつなんだが、初詣の後で良いか?」
「んーっ。この栗きんとん、ちょうど良い甘さですっ」
 そんな脳天気な声を汐は出さない。断じて、出さない。
「……正月早々、脈絡がないぞ」
 そこには、もとから此処に居ましたとでも言いそうな感じで、風子が座っていたのだ。
 で、直前まで栗きんとんを口に運んだ姿勢のまま別の世界に旅立っていた訳だが、急に目の焦点が合うと、
「はっ。風子、当初の任務をすっかり忘れていました」
 そう言った途端、汐が履いているジーンズの裾をはっしと掴み、
「汐ちゃん居ましたっ!」
「OK、そのまま確保してっ!」
 階下から、聞き慣れた声が響く。
「あけましておめでとう。朋也、汐ちゃん」
 果たして玄関口に現れたのは、昔からの奇妙な縁でなおかつ色々と世話になった杏だった。その手にはなにやら大荷物を抱えている。
「衣装袋?」
 杏が持っているものに目をやって、首を傾げる汐。そんな汐にぼそっと、鋭いわねと杏は小さく呟いてから、俺に向かってにっこりと笑い、
「朋也〜。悪いんだけど、ちょっと外に出てて貰える?」
 ……は?
「あのな。この寒いときに何が悲しくて外に出なけりゃ――」
「乙女三人がこれから着替えるんだから、文句言うんじゃないっ!」
 元旦早々、問答無用で外に放り出される俺だった。



『岡崎家のお年玉、改め――』



 やはりと言うか何と言うか、寒い。
 俺は何か悪い事したのだろうかと、思わず渚の眠る墓地の方向に向かって胸中で呟いていると、
「もう入ってきていいわよー」
 極めて軽い調子で杏が声をかけてきた。
「お前な、何に着替えるのか知らんが、正月早々人の家を更衣室代わりに――」
「どうっ?」
「……お、おおっ」
 思わず感嘆の声が漏れる。
 そこには、髪をしっかりと結い上げた振り袖姿の汐の姿があったのだ。
 それ以上言葉が続かず、娘の晴れ姿にちょっと感動してしまう俺。七五三以来の振り袖――赤と橙を上手に配した夕鶴の模様――は、汐によく似合っていた。
「似合うぞ、汐」
 当の本人はというと、黙って照れている。
「あたしの見立てに間違いはなかったようね」
 と、こちらはラベンダー色の着物に袖を通した杏。
「どっから持ってきたんだ、これ」
「あたしのは自前。汐ちゃんのは、椋のを借りてきたのよ。サイズ的に汐ちゃんに合うからね」
 ……なるほど。
「お前も結構似合ってるぞ、杏」
「ありがとう、まだまだいけるでしょ?」
「ああ」
 俺も大概見た目が若いと言われているが、杏はそれ以上な気がする
「でも一番似合っているのは、風子よね」
「そうだな」
 こちらはどうも自前らしい、淡い蝋梅色の着物姿の風子。髪を上げた汐や杏と違い、こちらは下ろしたままにしている。
「どうせ風子はそこら辺が平坦です」
 ……いや、確かにそういうのもあるんだが、この場にいる女性陣三人のうち、一番髪の色が濃いのは風子だったし、その髪型が映えているのも風子であったのだ。
「お前が一番、らしく見えるってことだよ」
「風子らしさですか……アイデンティティであるタイツをちゃんと履いているせいでしょうか」
「それがお前の個性なのか」
 今、タイツは個性のひとつらしい。
「さてと……思ったより時間が余っちゃったわね」
 汐ちゃんが着付けできるとは思っていなかったから、時間が予想より余っちゃったわ、と杏。着物を日常で着ない汐が何で着付けできるのかは――言うまでもなく汐が演劇に励んでいる賜物であろう。
「皆が来るまでお茶でも飲んでいけって」
「あ、じゃあわたしが」
「振り袖姿のお前にさせるわけには行かないだろ」
 汐を制しつつ、ゆっくりと立ち上がりながら俺。
「そこで待っていてくれ。すぐ淹れてくるから」



「ほ、本当ですかっ?」
 と驚き気味の貌で風子はそう言った。
「汐ちゃん、今までお年玉貰ったこと無かったんですかっ」
「正確には、一回だけね」
 と汐が答える。
「なるほど、一回は貰っているんですね」
「貰ったと言っても、この子だけどね」
 そう言って汐が持ち出しのは、手作りのだんご人形だった。
「懐かしいわね」
 杏がそんなことを言う。
 そう、かつて杏の指導で俺はだんご大家族のぬいぐるみを作り、お年玉として汐にプレゼントしたことがあったのだ。
「なるほど、この可愛いぬいぐるみにはそんな生い立ちがあったのですか。風子ちょっと感動してしまいました」
 簡単なあらましを俺から伝えると、風子は感慨深げにそう呟いた。
「というわけで岡崎さん、お年玉下さい」
「今までの話を聞いてどこからそう言う言葉が飛び出てくるのか、俺はそっちの方を知りたいんだが」
「いえ、風子が欲しいのはヒトデです」
「……そのうちな」
 ここでふと気付いてしまったのだが、風子の部屋にヒトデグッズはどれくらいあるのだろう。渚でさえかなりの数を集めていたのだから――すごいことになっていそうだった。
「ところで、一回だけというのはどういう意味ですか?」
 先ほどと違い、真っ当な質問をする風子。
「それはあれだよ。子供のうちから現金を持つってのが、ちょっとな」
「あー、なんとなくわかるような気がするわ」
 と、杏。
「あれ? でもお小遣いとかどうしていたのよ?」
「中学に入ってから卒業するまではあげていたぞ」
「今は?」
「必要なときにアルバイトです。古河パンとかで」
 もっとも、最近は部活が忙しくてあんまりしていませんけど、と汐。「働かざるもの食うべからずですか、シビアですっ!」
 と、真顔で風子。
「おそらく岡崎さんの処では風子一月も持ちません……」
「そりゃ言い過ぎだろ。お前意外とタフだし」
「いえ。去年までは風子、自由の戦士でしたので」
 そう言えば、そうだった。でもそれが今では汐の学校で美術の講師をしているのだから、たいしたものだと思う。
「それじゃあ、服は?」
 と、杏が興味深げに訊いた。
 そう。服に関しては、何故か女の子のそれは俺達男みたいに安上がりでいかないところがある。だが……。
「中学までは、お母さんのを借りてました」
 けろっとした貌で、汐。
「中学まではってことは、今は違うのね」
「そうですね。丈はまだ大丈夫だったんですけど、横方向にきつくなっちゃって……」
「ウェストサイズですねわかります!」
 何故か張り切った様子で風子が口を挟む。
「残念、バストサイズ」
「それはそれで吃驚ですっ!」
 初めて聞いたときは俺も驚いた。
 だって汐は、中学時代の終わりには渚のサイズを達してしまったということになるのだから。
「そういえば、あたしのサイズ超えているんだもんね……末恐ろしいわ……」
 微妙にニュアンスは違うが、俺もそう思う。
「つまり服が必要なときはアルバイトで、それもあんまりしないってことか」
「そうですね。中学までの貯金が結構貯まっていましたし」
「その歳で貯金があったって……なんていうか、無欲よね」
「うーん、そう言うわけではないと思いますけど……」
「少なくとも、あたし達の世代と比べたら無欲と言っていいわよ」
「いまいち、想像が……」
 困ったように汐。
「ま、あたしは今のままで言いと思うけどね」
 俺も、今のままでも良いと思う。
「でも正直に言うと、もうちょっとパパにおねだりしても、いいんじゃない?」
「お、おねだりって」
「っていうかパパは無いだろ、パパは」
「ふふっ、ふたりとも照れちゃって。そう言うところは父娘ねぇ」
 そう言われると、有効な反撃を思いつけない。それは、隣に座っている汐も同じな様であった。
「風子、いいことを思いつきました」
 そこで、唐突に挙手をする風子。俺達への援護であろうか。
「岡崎さんの家ではお年玉は貰えません。でもお小遣いが欲しければアルバイトすると貰えるわけです。ですから――お年玉を労働の対価としてもらえれば良いということでしょうか」
 援護とは全く関係の無い話だった。
「それただのお駄賃じゃん」
「そうとも言います」
 そうとしか言わない。
「つまり、風子が言いたいのは――」
 と、そこで風子は珍しく言葉を選んで、
「一回だけのプレゼントというのが何処か寂しいということです」
 ……なるほど、そういうことか。
「汐」
「うん?」
 湯呑みをおいて声をかけると、汐は即座に反応した。
「朝言っていたあれな、今やろう」
「ん、了解」
 ほぼ同時に立ち上がって、きょとんした貌の杏と風子を待たせ、俺は箪笥の私物が入って引き出しから、汐は勉強机のそれからそれぞれ包装された小さな包みを取り出す。
「確かに汐の言う通りお年玉は一回だけだ」
 先に着座する俺。続いて少しだけ遅れて戻ってきた汐が、裾を押さえて丁寧に座る。
「まぁその代わりと言っては何だが……」
 そう言って、包みを汐の前に置く俺。汐も同じように、俺の前にラッピングされた包みを置いてくれる。
「今はな、正月にプレゼントの交換みたいなことをやっているんだよ」 それは、あのだんごをあげた次の正月。汐から日頃のお礼として贈り物をもらったのが最初だった。
 それで、俺も貰いっぱなしは悪い――そんなこときにしないで――いやいや、こういうのはな――などのやりとりの末、こうしてプレゼント交換会みたいになって現在に至っている。
「変わった風習ね」
 と、ちょっと驚いた貌で杏。
「ほっとけ」
「でも、あたしはそういうの良いと思うわよ」
「……風子もです」
 と、こちらはどこか羨望の色を浮かべて、風子。
「というか、風子も来年参加して良いですかっ?」
 断る理由は、俺達には無い。
「ふぅさんで良ければ――」
「構わないぞ?」
「わかりましたっ! 風子来年から全力でお年玉を用意しますっ!」
 なんかクリスマスのプレゼント交換みたいね、と杏が笑顔を浮かべて混ぜっ返す。
 ともあれ、こうして正月にプレゼントを交換するという俺達の家だけっぽい風習は、少しだけその版図を広げることになった。これにより、プレゼントの中に木彫りのヒトデが加わるようにあるのだが――それはまた、来年の話。



Fin.




あとがきはこちら










































「すっかり忘れていました。おねぇちゃん、お年玉下さい」
「あのねふぅちゃん……」










































あとがき



○十七歳外伝、お年玉改め……編でした。
リクエストで十七歳のお年玉というリクエストを戴き、それをストレートにやってみました。結果ちょっと変わった風習が生まれたような気がしますが……まぁいいかな? と。
さて次回は、シリアスなお話で。

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