超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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「公子、何も言わずにここに書かれているものを読んでみてくれ」
「どうしたの祐君急に……ええと、『貴方のこと好きだから……いつも、一緒に居たいの』――?」
「くぅぅっ! やはり生は違うっ! 決定的に違うっ!」
「ど、どうしたの祐君、急に泣いちゃって……」
「ヒトデ……(風子的にズボンのポケットからはみ出てる携帯ゲーム機は、見なかったことにしておきます)」






















































































  

  


 正月休みを利用して、春原が家に泊まりに来た。
 昔は近くに宿を取っていたのだが、つい最近その宿が火災に遭った際に家に泊めることになってから、なし崩し的にそれが慣習化してしまっていたりする。
 さて、そうなるとひとつだけ問題が発生する。
 それは、風呂。
 俺達の家のそれはお世辞にも広いとは言えないし、色々な都合上ひとりずつ交代というのもなんだか効率が悪い。
「だったら、銭湯なんてどう?」
 そんな提案をしたのは、娘の汐だった。
 すぐさまその案に春原自身が賛同し、俺には特に反対意見がない。
 という訳で、そうなった。



『男女六人銭湯物語』



「あら、朋也に汐ちゃん、それに陽平じゃないの」
 後もう一歩で銭湯というところで、俺達三人はそう声をかけれていた。よく見てみれば俺達が来た方の反対側から杏、智代、そしてことみがこちらに歩いてくる。
「初詣の後で、こんなに早く会えるなんて思わなかったわ」
「ああ、俺も吃驚だが……あの後も三人一緒に居たのか?」
 俺がそう訊くと、杏は肩をすくめて、
「年頃の女性っていうのはね、結構つるむものなのよ。それでなくてもことみとかひとりでお正月を過ごすっていうしね」
「……なるほどな。それじゃあ、いつかの時みたいにか?」
「そ。ことみの家でお泊まり会よ」
 片目を瞑って杏はそう言う。
「それでお風呂は三人で喋られるようにって銭湯を選んだんだけど、大正解だったみたいね。知らない顔だらけだと、汐ちゃん寂しいでしょ?」
 言われてみれば、そうだった。
 俺は慌てて後ろにいた汐の方に振り返る。が、当の本人はそれを察していたのか、振り向いた俺の背中をすり抜けるように前に出て、智代とことみに話しかけていた。
 ……俺と春原に気を使ったな、こいつめ。
 思わず胸中で、そう呟いてしまう。
「ほら岡崎、さっさと入ろうよ」
 と、春原が俺を先導した。
「そうそう、折角汐ちゃんが気を使ってくれたんだから、ね」
 どこまでもお見通しよと言わんばかりに悪戯っぽい眼で、杏がそう言う。



 銭湯へは、俺達が一番乗りだった。番頭さん曰く、最近この季節にはあまりお客さんが来なくなったとのこと。だから、実質俺達の貸し切り状態になるだろうとも言っていた。
 正直、この広い銭湯を俺達で独占できるのは嬉しいことだった。
「時々入りに来るけどさ、広いお風呂っていいよね〜」
 頭に手ぬぐいを乗せて、湯船でまったりとしながら春原がそう言う。
「あぁ、そうだな」
 同じように手ぬぐいを頭に乗せて、俺。
「今年一年、どうなるんだろうねぇ」
「前半が波瀾万丈なのは、もう目に見えているな」
 俺がそう答えると、春原は首を傾げて、
「なんだってそんなこと――ああ、汐ちゃんの受験か」
 どうにか自力で、それに思い当たってくれたのだった。
「そういうことだ。こうやって気が抜けるのも、汐ならではってところなんだろうな」
 つい最近、仕事帰りに近所の予備校からどっと受験生が出てきたところと鉢合わせた事がある。そのとき、どの受験生にも厳しい緊張の色が見えていたのだが、少なくとも汐にそんな様子はない。
「高校受験の時も、そうだったもんねぇ」
 昔を懐かしむように、春原がそう言う。そう、あの時も相当量の勉強をしていたはずのなのに、汐の貌には緊張の色がまったく浮かんでこなかった。
 余裕というわけではない。ただ、緊張しているがそれを俺達にすら悟らせないよう努力しているだけなのだ。
 昔から、周囲に心配させないよう努力する。そんな我が娘が、汐なのだった。
「ま、今更僕らがばたばたしていてもしょうがないよ」
 と、湯船の水をすくって春原はそう言う。
「確かにのっけから大変だと思うけどさ、岡崎はどっしりと構えてなきゃね」
「ああ、そうだな」
 口の中に水が入らないぎりぎりのところまで湯に浸かりながら、俺はそう答える。その返答に満足したのか、春原は口許を笑みの形に変えた後、
「あーあ、それにしても――」
 話題を大きく変えてきた。おそらく、さっきまでの話題はもうよしとしたのだろう。
「――そろそろ僕にもお嫁さん見つからないかねぇ」
「見つけようとする努力、してないだろ」
 こちらも割と真面目に、俺。
「そりゃまぁ、そうなんだけどさ。あーあ……ん?」
 ぐっと身体を弓反りに伸ばしていた春原が、ふとその動きを止める。
「岡崎、ちょっと背中の壁に頭の後ろ付けてみて」
「何?」
 背中の壁とは、すなわち男湯と女湯を分け隔てる壁のことだ。そこに頭を付けていったい何をしろと――、
『ふむ……確かに育ったな、汐』
『あ、ありがとうございます……』
『でしょでしょ、今じゃあたしよりバスト大きいんだから』
 思わず湯船に沈み込みそうになるところを、かろうじて春原に支えてもらう、俺。
「春原、てめぇ――」
「おっと、先にひとつだけ言わせてもらうよ、岡崎」
 びしっと人差し指を俺に突きつけて、春原。
「興味がないとは、言わせない!」
 ……言葉も無かった。
『みんな、お待たせなの〜』
 元の位置に座り直ったところで、身体と頭を洗い終えたらしいことみが、湯船に入ったようだった。
『うわっ、改めて見ると、ことみってすごいわねぇ!』
『み、見ないでほしいの〜』
 普段からそれとわかるものが、今、目の前で展開されている――そんな様子を想像し、俺と春原は一斉に口許を押さえる。
『この町の、巨乳の双璧が揃った訳ね……いや〜、何で重力に負けてないのか不思議だわ……』
『なんだ、その双璧というのは』
『ことみちゃんと、師匠のことだと思います』
 そうだった。智代だってことみとほぼ同じ大きさで……それも目の前で展開されているというのか、あっちでは!?
『って、あれ? なんかものすごく納得いかないんだけど、この中で一番バストが小さいの、あたし?』
『えっと……そうなりますね』
 何ともハイレベルなランキングだった。杏で小さいとかいうのなら、渚はどうなってしまうのだろうかと言いたい。
『っていうかことみ、タオル取りなさい。マナーでしょ?』
 なにぃ、まだタオル一枚のベールがあっただと? 俺と春原は思わず顔を見合わせる。
『そ、そそそそうだけどっ』
『ほら、ちょうどあたし達しかしないんだからどーんと行っちゃいなさい。汐ちゃんですらさっきから出し惜しみなしよ?』
 なんだその桃源郷。
『それが逆に恥ずかしいのっ』
 ある意味納得できることみの弁だった。
 だが、やっぱりマナーは大事だと思う。
『ほーら、はやく』
『うぅ……』
 少しばかりの沈黙。ややあってから、数人が小さく息を飲む音がこちらに聞こえてくる。。
 おそらく、信じ難い光景があちらで繰り広げられているに違いない。
『……すっごいわね。大きいのにバランスがとれているからそれが自然に見えるなんて』
『大きくなってから羨ましいって思ったこと無かったんですけど、これは――すごいです』
 小さかった頃、汐が母親の胸に憧れていた時期があった。その後汐が成長してからその兆候は完全になりを潜めていたのだが……再び目が覚めてしまったのだろうか。
『ねぇ、ことみ。触ってもいい?』
『駄目に決まっているの!』
『ま、そう言われても実行しちゃうけどね。ていっ』
『ひゃう!?』
 春原が頭を抱えて悶絶した。その柔らかさを知らない分、ダメージがでかいのだろう。……え? 俺? ノーコメントで。
『なにこの柔らかさ――それでいて適度に押し返してくる弾力!』
『杏ちゃんっ……だめぇっ……!』
 なんだろう、この深夜にテレビのチャンネルを変えていたらお色気番組に当たってしまったような感情は(そしてしばらくそのチャンネルが変えられない自分の業の深さに気付かされてしまう一瞬は)。
『藤林先生、もうそれくらいにしておいた方が』
 向こうもそう思ったのだろう、汐がそう止めに入っている。
『え、だってこんな機会でもないと、ことみのなんてそう触れた――ひゃあん!?』
『……杏ちゃんばっかりずるいのっ』
 ついにことみの我慢が限界に達し、逆襲に打って出たようだった。
『ちょ、ことみ、やめっ、あたしこういうの弱――うひゃあ!?』
 ここに、杏の思わぬ弱点が露呈された。もちろん実行なんてとてもできるものじゃないが。
『ことみちゃん、湯船で暴れるとのぼせちゃうからやるなら洗い場でね』
 呆れ果てた様子で、汐。
『わかったの!』
 いつになくきりっとした声で、ことみがそう答える。
『汐ちゃん、智代っ、見てないで止め――んあっ!?』
『残念ながら自業自得だ、藤林。諦めて快楽に身を委ねろ』
『何よその卑猥な言い回しっ! んもう、こうなったら負けないわよっ』
 以降、奥の方でなにやらピンク色の悲鳴の応酬が響いてきた。
 なんだろう、このレンタルビデオショップでうっかり暖簾で区切られた一角に踏み込んでしまったときのなんとも言えない後ろ暗い気持ちは。
『……いいんですか師匠、放っておいて』
『良い年してやることではないが、自己責任だ。放っておこう』
 俺達としては、どうにかしてほしい話だった。
『まぁ、今のところ実害がないからいいですね。ちょっと藤林先生の悪戯が過ぎてましたし』
 と、意外と冷静に汐が言う。
『そういうことだ、な』
 長い溜息をついて、智代がそう答えた。
『それにしても師匠』
『うん?』
『時々入りに来るんですけど、広いお風呂って良いですよね』
『ああ、そうだな』
 俺達と全く同じやりとりに、俺と春原は思わず苦笑してしまう。
『――師匠』
『ん?』
『わたし、頑張ります』
 その汐の言葉に、俺の顔から笑みが消えた。見れば春原も真面目な貌をして聞き入っている。
『うん、頑張れ。今年はお前にとって決して平坦なものではないだろうが、絶対に乗り越えられると、私は信じている』
『……ありがとうございます、師匠』
『……ふふ。本当なら藤林あたりにこの役目を任せようかと思ったんだがな。今あんな有様では――すごいな』
 杏とことみの危ない戦いは、どうもエスカレーションしているようだった
『全身を駆使すればああ言ったことが出来るのか――もはや関節技の域だな……些か艶めかしいが』
 え、なにそれ。どんな状態? 俺達は顔を見合わせながらそんなことを考える。
『というかそろそろ見ているわたし達の方が恥ずかしくなってくる絵面になってきているような――ん?』
『どうした? 汐』
 こつんと壁にあたる小さな音。まさか――。
『いえ、ここに頭当ててもらいます?』
『ん? どれどれ』
 不味い、俺たちと同じ方法で向こうもこっちの様子が聞こえるってことか!
『……水音が聞こえるな』
『たぶん男湯のだと思うんです』
『つまり、男湯の様子がわかるってことだな。だが妙に静かだぞ?』
『そうなんですよ。で、ここからは想像なんですけど、もしかしたら男湯の方で既にわたし達の様子をこうやって探っているんじゃないかと――』
『何!?』
 やばい、ばれた!
 俺達は一瞬視線を交錯させる。
 やむを得ない、即興でひと芝居を打つしか!
「うおっ。春原、お前良い大腿筋持ってるなぁ……」
「元サッカー部で現営業だからね、足が命なのさっ! そう言う岡崎も良い腹筋してんじゃん? うひょー! 指でつついても全然へこまないや、岡崎最高ー!」
「ありがとよっ! お前の腕も意外と太いな、その逞しい上腕筋で抱かれたいぜ!」
「岡崎ほどでもないよっ! でもお礼に僕の大胸筋も見ていってくれ!」
「おおっとちょっと待った、大胸筋ならまず俺のを見てもらおうか!」
「おおっ、朋也君胸板広ーい!」
「そんなこと言う陽平君もひっろーい!」
 今ここに、俺と春原の合体技が誕生した。
 名付けて、『筋肉キャッキャウフフ』。
 ……名付けなきゃ良かったと三秒で思い直すのは、これが初めてだった。
「そうだ! 今僕とんでもないことに気付いちゃったよ! 岡崎と上半身と僕の下半身の筋肉を合体させたら無敵じゃない!?」
「全身筋肉だな! いやっほーう! 筋肉最高!」
「筋肉いぇいいぇい! 筋肉いぇいいぇい!」
「筋肉わっしょい! 筋肉わっしょい!」
 そんなことを喚きながら全力で壁の向こうの気配を探る。未だに杏とことみがピンク色の絡みを展開している中、絶句したような吐息が響き、
『男同士のつきあいとは……』
『わからないものですね……』
 思い切り呆れた声が確かに伝わってきた。
 それを確認して、俺達は即席の馬鹿騒ぎを即座に撤収させる。
「……どうにかばれずに、済んだかな?」
「ああ、多分な……」
 即興とはいえ嫌な展開に突入したことに自己嫌悪しつつ、俺。おそらく、春原も似たような状況だろう。
 とりあえず、いつでもさっきのキャッキャウフフが出来るよう準備しながら、そっと様子を伺う。
『汐ちゃぁん、智代ぉ……』
『はいはい、終わりましたかって藤林先生!?』
『お前が負けたか。これは少しばかり興味深いところだな』
 どうやら、杏とことみの(別の意味で)仁義無き戦いは収束したようであった。
『――もうあたし、お嫁にいけない……』
『大丈夫、杏ちゃんは私がお嫁さんにするのっ』
 少し涙声の杏と打って変わり、なんか妙にはきはきした様子のことみ。なんだろう、目覚めちゃいけないものに目覚めてなきゃ良いが……。
『お嫁さんで思い出したの。この前アメリカで買い物していたとき、すごく綺麗な教会が――』
 そこからは、お色気一切なしの女性トークが始まった。やややつれていた様子の杏も徐々に普通に話に参加していく。
 そして汐も汐で、先ほど智代に語っていた時の重みのある雰囲気は一切無く話題の花を咲かせていた。やはりそれも、周囲を心配させたくないという気持ちからなのだろう。
 だが、逆に言えば。
 そういう周囲に恵まれているからこそ、汐はそういう風に振る舞えるのではないか。まるで卵と鶏のようだが、そうとも思う俺だった。
「――もういいかな?」
 壁際から頭をどけて、春原がそう言う。
「……そうだな」
 同じく壁際に付けていた頭をそっと離して、俺。
「なんていうかさ、いいよね。ああいう関係」
「そうだな」
「汐ちゃんも、ああやって分け隔てなく話せて、それでいて意見をやりとり出来る相手が居て良かったと思うよ」
「ああ、俺もそう思うよ」
「でしょでしょ。それにしてもさ――」
「あぁ」
 ふたり揃って溜息をつき、
「「混ざりてぇ……!」」
 渾身の呟きを、ほぼ同時に発したのだった。
 春までのごたごたが片付いたら、皆で混浴の温泉にでも行こうか。そう思う。



Fin.




あとがきはこちら










































「今回のお話、DVD版及びブルーレイ版だと湯気が無いんだって」
「な、なんだってー! っていうかなんだそりゃ」









































あとがき



○十七歳外伝、初笑い編でした。
結構お笑い中心で行こうと思っていたんですが、どっちかというとお色気に偏ってしまったような気がします。
まぁでもこれくらいなら良いか――な?

さて次回はリクエスト分か、シリアスで。

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