超警告。CLANNADの隠しシナリオをクリアしていない人は
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このお話は、史上希にみるすさまじいまでのネタバレ前提で書いてあります。

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ガンガンスクロールさせてください。







































「おとーさんは覚えてる? 昔のクリスマス」
「昔って?」
「ん、それはね……」






















































































  

  


 クリスマスシーズンが近くなると、俺のように街頭で仕事する人間が、着させられる服がある。
 白い縁取りの真っ赤な服、場合のよっては同じ色の帽子に真っ白の付け髭もついてくる。
 言うまでもない、サンタの服だ。
 同僚――というほど強い結びつきがあるわけじゃないが、一緒に仕事をしている連中の中には、この服を着るのを嫌がる奴も居たが、俺自身はというとまんざらでもなかった。もっとも、寒さが凌げるのでありがたいという、ただそれだけの理由だったが。
 そんなわけで俺は今、サンタの格好で看板を担ぎ、街角に立っている。
 道行く人は忙しいのだろう、俺の持つ看板には誰も目をくれずただひたすら前を向いて歩いていく。だから、そこにぽつんとひとり立っている女の子に気付いていない。おそらく、その女の子がそこからふっと消えても誰も気付きやしないのだろう。
 つくづく、俺がロリコンでなくて良かったと思う。



『街角のサンタクロース、街角のクリスマス』



「よう、お嬢ちゃん。こんなとこでどうした?」
 看板の内容が女の子にはいささか不適切だったんで、持つ角度を微妙に変えながら、俺はそう声をかけていた。
 女の子はこっちを見上げ――すぐに視線を元に戻す。
「パパと、はぐれたの」
 けどかろうじて、俺の質問は答えてくれた。なんというか、これだけでもありがたい。
「パパとかい。ママはどうした?」
「ママは――あっち」
 女の子は人差し指を真上に立て、真上を向いた。俺も見上げると、冬の特有の高い高い空がある。
 ――って、そういうことか。うーわー。
「ごめんな、言いにくいこと訊いちまって」
「ううん」
 首をぶんぶんと横に振って、女の子はそう言った。
「ママのこと、きいてくれるとうれしいから」
「……そうかい」
 その年で相手の心理を読んで当たり障りの無いことを言う――なんてことはないだろう。つまりは、言葉の額面通りに受け取って良いことだ。
 ……あー、やだやだ。大人ってやつぁ本当に嫌だ。
「んじゃ、とりあえず警察に行こう。そうすりゃ、後は向こうさんが何とかしてくれるよ」
「だめ」
 女の子は見上げて、つまり俺の顔を見てはっきりとそう言う。
「なんで?」
 その、年の割には強い光にちょっとだけ気圧されながら、俺は訊いてみた。
「パパが、しらない人についていっちゃだめって」
 なるほど、そりゃ正論だわ。なら……、
「それじゃ、俺のことは知っているから大丈夫だな」
「え?」
 案の定、女の子が訊き返すので、俺はわざとオーバーアクション気味になって、。
「この格好を見て気付かなかったかい? 俺はな、こう見えてもサンタクロースの息子なんだ。親父が超有名なんだから、息子の俺もそこそこ名が知られているだろ?」
 どうにか照れなしで、そう言い切ってやった。
「ううん」
 あちゃー、随分とはっきりものを言う子だわこりゃ。
「それに、おじさんが――」
「お兄さんな」
「ごめんなさい、お兄さんがしっている人でもいけないから」
「そりゃまたなんで?」
「パパが言ってた。まいごになったらそのばしょからうごいちゃいけないって」
「なるほどねぇ、正論だわそれ」
 知らない人についていかない、これはまぁ必要最低限の対処だとして、その場を動かないってのはなかなか子供に教え込めるものじゃないと思う。そして、それを忠実に実行することも。
 けれども、徹底的に間違っていることがひとつだけある。
 それは子供が寂しがるってことが完全無欠に鉄壁絶壁完璧に忘れているってことだ。
 こんな人混みの中、知らない人だらけのところでひとりで突っ立って居るのがどんだけ辛いのか、そいつを失念していやがる。
 ――もっとも、俺にそれを埋める方法を提案できることなんて、これっぽっちも出来なかったのだが。
「んじゃ、お嬢ちゃんのパパが来るまで、ここでお話でもしてようか」 だから、俺に出来るのはせいぜいこれくらい。文字通りの今はこれが精一杯、だ
「いいの?」
 不安半分、嬉しさ半分と言った様子で、女の子はこっちを見上げる。この年頃ならもうちょっと遠慮が足りなくてもいいと思うんだが、この女の子、もしかすると箱入りのお嬢様のなのかもしれない。
「いいのいいの。困っている子供を助けなきゃ、サンタ・クロースの名折れでしょ?」
 実際には呼び込みもせずにだべっていれば怒られる。けどこんな忙しい時にこんな人混みの現場に雇い主や上役が現れることがないだろう。実際には希にありうるからある意味賭なんだが、逆に見つかればそいつらと一緒に女の子のパパを捜せるわけだから、最悪でも俺の賃金がちょっとばかりカットされるだけでそれ以上状況が悪くなることはない。
「ねぇ」
「んー?」
 向こうからの質問、こいつはありがたい。なんやかんや言って、こっちから振れる話題は限られているからだ。
「サンタさんなのに、なんでここにいるの?」
 はい来ましたよ、突かれると痛い的確な質問。
「修行だよ。修行。俺は人見知りする性格だったんだね、こうやって特訓しているわけさ」
 女の子は目を丸くしている。信じてくれたのだろうか。信じてくれると良いなぁ。
「じゃあ、おなまえは?」
 名前かい、これもまた痛いところを突かれたもんだ。
「俺のかい? サンタだよ。サンタ・クロースは代々同じ名前を引き継ぐんだ。どうせ家では親父と息子で通っているから心配ないんだぜ?
「おうちって?」
「ん、そりゃフィンランドの……あれ? ノルウェーだっけ?」
「どっちなの?」
 あ、あからさまに疑われている。うぐぅ、サンタちんぴんち。
「どっちだっていいの。そもそもサンタは子供たちのことを常に第一で考えているんだから。自分達のことなんて二の次なんだから」
 我ながら、言っていることが苦しい。苦しいけれど、女の子は一応納得してくれたみたいだった。
「じゃあ……」
 女の子は考えながら言う。
「サンタさんは、サンタさんのパパからプレゼント貰えないの?」
 おおう、なんたる核心。
「そうだなぁ……」
 クリスマスにプレゼントなんて、もう随分前からもらっていない。恋人や女房は居ないし、親元を離れてもう随分経つ。だけど、無いという答えだけは言うつもりは無かった。
「俺にとって、毎年毎年のクリスマスがプレゼントそのものかな?」
「どうして?」
 予想外の答えだったのか、女の子が小首を傾げる。
「がきんちょの頃はさ、親父のそり――トナカイが牽くあのそりだぜ?――に一緒に乗ってプレゼントを一緒に配るんだよ。その、親父と一緒に仕事をするって感覚? それが楽しくてさ」
 本当のことを言えば、それは初めて親父のバイクに乗せてもらったときのことなんだが、別に言葉にすることじゃない。
「いまは?」
 今か。今は――、そりゃ決まっいる。
「お嬢ちゃんと、こうして話をしていること」
「え?」
「それが、俺にとってのクリスマスプレゼントさ」
 聞きようによっちゃロリコン宣言にとられかねない俺の発言は、特に曲解されずに女の子に伝わったようだった。
「あ、ありがとう……」
 お、年の割にはそういうのはちょっとませている。
 ふむ、何というか、あれだ。十ん年後がすげえ楽しみというか何というか――。
「あ!」
 女の子が何かを見つけて棒立ちになった。
「パパ!」
 なるほど、遠くから必死になって爆走している、俺と同じかちょっと下っぽい男が居る。
 だがその姿も、すぐさま人混みに消えた。けれど間違いない、こちらに向かっているのは確実で、後数分もしないうちに女の子と合流できるだろう。
「それじゃ、ここでお別れかな」
「え……?」
 こちらの予想以上に、不安げな貌になる女の子。だけど俺はその不安を取り除きつつこの場を離れなければならない。
 やっぱりついた嘘は最後まで貫き通す、それが筋ってもんだ。
「いいかいお嬢ちゃん、お嬢ちゃんは此処でひとり待っていた風にするんだ」
 だから俺はできるだけ優しい声でそう諭す。
「どうして?」
「どうしてって、俺みたいな色男と一緒でしたってわかったら、お嬢ちゃんのパパが要らない心配をするからさ。それに――」
 人差し指を口許にあてて、俺は続ける。
「サンタ・クロースは大人には知られないようにする不文律があるの、知ってた?」
「……しらなかった」
「だろ。でもほんとなんだぜ? だから俺達は、夜こっそりプレゼントを配っているわけさ」
「……そうなんだ」
 ものすごく納得したように、女の子は深く何度も頷く。間違った知識を植え付けちまった気がするけど、きっと誰かがちゃんと教えてくれるだろう。
「それじゃな、お嬢ちゃん。メリー・クリスマス」
「……うん、メリークリスマス」
 ホウホウホウというのは明らかに似合わないので省略し、俺はその場を立ち去った。
 実際にはちょっと離れただけなんだが、女の子の視界からは離れているので俺が居ないように思うだろう。
 そこでしばし、様子を見る。
 やがて、道行く人混みをかいくぐって、先ほどの男が飛び出てきた。 途端、女の子がそいつの胸に飛び込んでいく。
 ――ほら見ろ、寂しがっていたじゃないか。
 俺はそう思いながら、今度こそ完全にその場を立ち去った。だってもう、俺は必要ないのだから。
 ……まぁ、なんというか。
 俺は歩きながら、想う。
 俺達大人はクリスマスに休めない。
 けれど、こうやって子供に夢を与えることが出来た。
 なら、とんとんってとこなんじゃないだろうか。
「さて、お仕事お仕事」
 俺は看板を持ち直し、街角に立つ。
 あいもかわらず行き交う人混みの風景が、何故か少し暖かかった。



Fin.




あとがきはこちら










































「あれから十年か――元気してるかな」
「誰がだ?」
「サンタ・クロースの息子さん」
「……なに?」









































あとがき



○十七歳外伝、とあるクリスマス編でした。
かなり大急ぎで書いたんですがなんか意外とうまくまとまったような気がします。
さて次回は――シリアスか、○中学生編で。




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